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狐に嫁入り~恋愛成就を願ったら、神さまに求婚されました~  作者: 遠野まさみ


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スイーツをバズらせよう(5)



8月に入った。光月は週末ごとに、せっせと油揚げシュークリームの試作を繰り返している。勿論弧之善たちも一緒だ。今日はカスタードに色を付ける作業。抹茶やフリーズドライの苺、ブルーベリー、インスタンコーヒーで色付けをする。

カスタードを作る作業は何度もやっているのでエプロン姿の弧之善たちも慣れてきて、粉を振るう時に顔を背けて、被害を被らないようにしているのが面白い。

「はい、粉は終わり。そしてダマにならないよう混ぜる~」

「こう、このへらをすべらかに動かしてかき回すのだったな」

「そうですそうです。そのうちに色が変わってくるから……」

「うむ。くるくるしてると変わっていくのが楽しいぞ!」

目をきらきらさせて鍋をかき回す弧之善は完全に子供のままごとのそれだった。それでいいと思う。小さな頃の光月が弧之善相手にままごとを楽しませてもらったから、弧之善も楽しんでくれて嬉しいし、弧之善が楽しそうだと光月も嬉しい。

そんな光月と弧之善の横で、煌と瑛が色付けする食材を興味深げに見ている。

「これも食えるのか」

煌がブルーベリーを摘まんでしげしげと眺めている。弧之善たちが活発に生きていた頃はこんな色の実はなかったんだろうな、と思い、食べられますよ~、と返すと、煌がそれを一粒口に含んだ。

「うわっ! 酸っぱ! ……? んん? でも甘い……?」

耳と尻尾の毛をビンビンに立たせつつ、最初に感じる酸味に果実を吐き出しそうになるも、その後じゅわっと舌に広がる甘さに眉間にしわを寄せた。もぐもぐもぐ、と片眉を上げたまま真剣に咀嚼する姿が、初対面の時からの横暴な言動からはうかがえなかった子供じみた態度で光月の笑いを誘う。すかさずぺしっと頭を叩かれた。

「痛いです、煌さん」

「俺のことを笑うからだ。俺たちはお前の何百倍も生きてんだぞ。敬え。笑うな」

ふん、と顔を逸らす煌に、しかし瑛はゆったりと微笑んだ。

「いやいや、しかし煌も染まりましたね」

「染まる?」

何のことだろうと思っていると、何でもねえ、と煌がそっぽを向いた。瑛にその答えを求めると、瑛は微笑んだまま、

「今の暮らしように慣れてきたな、という事です」

と言った。今の暮らしようとは現代の、っていう事だろうか。まあ、弧之善たちが元気だったころにはシュークリームだってブルーベリーだってなかったわけだから、それはそうなのだろう。だったら、瑛もではないか?

「……瑛さんは違うんですか?」

「そうですねえ、僕は弧之善様にお仕えする意識が強いので」

? ますますわからない。

疑問顔だっただろうか、人である光月さんには分からないこともありますよ、とだけ返され、瑛は笑みを浮かべたまま黙る。そうされると再度質問するという事も出来なくて、光月も黙るしかなかった。

(まー、そりゃあそうだよなあ……。弧之善様についてだって、信じてもらえないと消えちゃう、くらいしか分かってないんだから……)

在りようが違うことを理解することは難しい。でも、弧之善たちと一緒に過ごしてみて、そこを超えても仲良くなれるという事は知った。それで良いじゃないか。

「さて! じゃあカスタードの色付けに入ります! クリームを四つに分けて、それぞれ色を付けますね」

まず抹茶をクリームにふるい入れる。そして弧之善に混ぜる係をやってもらうと、目の前で鮮やかな新緑色になるクリームに、弧之善は目を見開いて興奮していた。

「抹茶を入れると香りが変わりますよ。舐めてみます?」

そう言ってスプーンに掬ってやれば、弧之善はスプーンを手に取って動物がするようにふんふん、と匂いを嗅いだ。

「……ほのかな茶のにおいがする……。ほう、これはまた小技が効いておるな」

「綺麗な緑色も、目に訴えるのに良いんですよ。写真映えするので」

さもありなん、と頷く弧之善。次はイチゴ味だ。

「これもぱらぱら~……っと混ぜて……、ほら! こーんなに鮮やかなピンク色!」

「ほう! 紅梅色の着物の色にも似ておるな? 着物の色が食べ物の色になるというのは、実に不思議な感覚だ! 成程、食べ物はつまり植物。着物の色とも相容れるのだな、ふむむ」

などと今度は色について考察してみたりする。ブルーベリーで着色すれば、

「あけびのような色だな!? 味も同じなのか!?」

と、昔ながらの果実に例えて驚くし、コーヒーで着色したら、

「土色だ……。田に水が張られた土のようではないか……」

などと耳を垂れてしょんぼりと残念がっていた。

このくるくると変わる表情はあれだ、蓮の様子に似ている。蓮も光月に対して大人っぽいことを言ったと思ったら新しいことに興味津々で、だから弧之善たちの髪の色に食いついていたし。

「ふふふ。かわいいです、弧之善様」

子供に対する気持ちを弧之善に対して持っているわけではないが、これはそう、ギャップにやられている。今までぐいぐいと光月に対して愛情を説いていた恋愛上位者の弧之善が、ここへきての幼児化。更にはケモミミ尻尾付き。もふもふも相まって、蓮には感じたことのない母性がキュンキュンする。

「母性本能を刺激されました。これから調理の際は、お母さんと呼んでください」

光月の言葉に煌がぺしっと頭を叩いて、弧之善は母性か、としゅんする。

「誰がお母さんだ!」

「だって仕方なくないですか!? 大好きなもふもふが付いてる上に、そんな子供っぽところ見せられたら、女子は誰でもそうなります!」

「弧之善様はお前の子供でもねーし、愛玩動物でもねえ!」

「分かってますよ! 分かってますけど、現についてるものについて感想を持つのは仕方ないじゃないですか!」

ぎゃあぎゃあと言い始めた光月と煌を、弧之善が良い良い、と宥める。

「母性は女性が男児に抱く最初の愛情だからな。私は光月殿を諦めないし、千里の道も一歩より、だよ、煌。見てなさい、私は必ず光月殿を惚れさせてみせる」

真面目な顔で言うけど、エプロン姿では全然説得力がないから……。

内心そう思ったけど、これほどまでに好きだ好きだと言われた続けたことのない光月にとっては、弧之善の真っすぐな愛情は初めてのことだらけで、心臓が走るのを止められなくなってきている。光月も弧之善に誠意を見せると決めたことだし、ちゃんと向き合う行動をしなきゃ。出来た揚げシューを試食しながら、光月は弧之善に聞いてみる。

「……弧之善様は、赤と青、どっちが好きですか?」

「もっ?」

口にシューが入ってるから、変な発音になってる。それに笑って、話を続けた。

「ゆ、……浴衣をどっちの色にしようかなあと思ってて……。一緒に行くなら弧之善様が好きな色にしてみようかと……。椿の赤と、朝顔の青。……どっちが好きですか?」

うわあ、恥ずかしい! 自ら気に入られようとするような行為がめちゃくちゃ恥ずかしい!

悶えるような羞恥で弧之善の顔を見ることなく、テーブルを見つめたまま返事を待った。ほうらな(そうだな)、とか口の中をいっぱいにした弧之善は口の中のシューを食べきってから、赤だ、ときっぱり言い切った。

「椿は冬寒く過ごすものたちに希望の花を咲かせる。そういう椿の赤が、私は好きだ」

光月が詣でるまで、ずっと社で閉じこもって凍っていた土地神様。その希望に一瞬でもなれるのなら、赤の椿を身に着けようか。光月はにこりとわらって、分かりました、と応えた。

「おばあちゃんに用意してもらわなきゃ。楽しみですね」

「楽しみだ」

本当に楽しみそうに、弧之善は尻尾をぶんぶんと振った。ああかわいい。そんなことをまた思われてるとも知らず、弧之善はその後ずーっと上機嫌に尻尾を振っていた。



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