スイーツをバズらせよう(4)
「ふ――――ん」
「ほ――――」
煌と瑛が、どさくさに紛れて光月が弧之善の手を握ったのをにやにやと見ていた。うわっ、と恥ずかしくなって、ぱっと手を離すと大袈裟に頭上まで手を上げた。
「ご……っ、ごめんなさい! つい、興奮しちゃって……っ!」
「いや。光月殿の気持ち、嬉しく思う」
微笑む弧之善も、やや頬を朱に染めている。うわわわわ! 決して! 決してやましい気持ちがあったわけじゃないんだけど、もし弧之善にそう捉えられてたら恥ずかしすぎる! 話を戻そう!
「い、いやあ、それにしても、みんなのおかげでだんだんお祭り当日のイメージが固まって来たよ。クリームの色合いも考えないといけないよね!」
強引に話を戻したが、今のところの候補は、抹茶味の緑とイチゴ味のピンクだけだ。出来ればスティックシューのお店で売られていた四色くらい揃えたい気持ちがある。あのパステルカラーは着色料によるものだと思うから、出来れば天然素材が良い。蒼依にメッセージを送ると、少しして返事が届く。
「ほ~、レモンクリームで黄色と、ブルーベリーで紫色か~。コーヒー味の茶色も渋くて良いな~。カスタードクリームの上から生クリームを型絞りしたら綺麗だろうな~。その上に人参のもみじをちょんと添えたら絶対かわいい!」
蒼依からのメッセージには、着色したクリームだけを見本でココット皿に盛って、ディスプレイしたらどうかと書いてあった。確かに味も分かるし、それも店頭ディスプレイの内だ。成程~。
などと感心していたら、向かいで弧之善が眉間にしわを寄せていた。
「……光月殿が言っていることが、まるで分からん……」
あっ、カタカナ入っちゃったのがまずかったかな。そう理解して、光月は説明を試みる。
「えーと、色を付けるのは全部食べ物ですね。西洋の果物だったり、飲み物のことですね」
「そうなのか……。それらは今度シューを作る時に、見ることが出来るのだろうか?」
「あっ、はい。また試作しようと思うので!」
光月がそう言うと、弧之善は嬉しそうだった。
「……楽しいですか? お菓子作り」
弧之善にとっては初めてのことだから、苦手意識が出るかなと危惧していたけど、調理していた時の様子を思い返すと、子供のままごとみたいに楽しんでいたように思う。それを確認したくて問うと、楽しい、と明解な返事が返って来た。
「光月殿との共同作業、まことに楽しい。光月殿の手で月湧の為に作られる品々も、いとおしい」
これほどきっぱりと光月がすることが楽しい嬉しいと言ってくれると、本当に照れくさくなってしまう。弧之善には最初っから押されっぱなしだけど、光月も自身の気持ちを見つめてみなきゃなあ。
そう思いながら光月は弧之善の顔をじっと見る。
イケメン。銀髪イケメン尊い。そしてこの人の口から繰り出される、光月を肯定する言葉の数々に、今まで度々胸中に去来してきた自身を卑下する気持ちが薄らいでいた。いいんだ、私は私のままで良いんだ、って、そう自信を持たせてくれる弧之善の言動が嬉しいと思う。嬉しいから、弧之善にも喜んでもらいたい。光月も、弧之善との共同作業を楽しいと思うし。
「あっ、そうだ。シューに名前を付けないといけないよね。なんかキャッチーな名前、考えられないかな。弧之善様も一緒に考えてくださいよ、商品の名前!」
光月がそう言うと、弧之善はきょとんとして、
「な……、名を付ける、だと……?」
と、急におろおろしだした。何かいけなかっただろうか?
「そうです! 出来れば月湧村のことを連想してもらいやすそうな名前が良いですね。村祭りで買ってもらうんだから、名前も思い出の一部になって欲しいです。……難しいですか?」
光月には文才がない。文庫の彼を好きだったのは、光月が親しまない文庫を熱心に読む姿に憧れの気持ちを持ったことも関係している。勿論、イケメンだったことが最大要因ではあるけど。
自慢じゃないが、光月が考える名前なんて、弧之善の狐の姿に『コンちゃん』と付けたくらいにひねりがない。SNSでバズるには見栄えが大事だが、販売時に商品名を連呼することで、お客さんにも月湧らしいと馴染んでもらえるような名前を付けたい。
その点、弧之善は昔から生きている神様だから、昔の人の教養的な、和歌や詩歌に通じているのではないかと思ったのだ。その期待を持って依頼したのだが、まさかの空振り?
思わぬ座礁に光月が身動き取れないでいると、煌が「ばーか」と光月を罵った。
「な……っ、なにが馬鹿なんですか! 私は私なりに月湧村が盛り上がる為の作戦を……」
光月が煌に反論すると、おでこをピンっと弾かれて、すがめた目で見られた。
「ちげーだろ、お前。なんで神さまに名づけなんて頼むんだ。いいか、人ならざる存在にとって、『名』は『縛るもの』なんだよ。しらねーのか、お前」
「縛るもの……?」
どういう事だろう? 光月が首を捻っていると、今度は瑛が説明を引き継いでくれる。
「人間と違って、僕たちには『実体』はないんだよね。僕たちはこの世ではそう(・・)いう(・・)もの(・・)だという『役目』を授かることによって存在している。弧之善様が竹村家に祀られた時は、家内安全、商売繁盛を願われて祀られたでしょう? そして土地神様として祀り直された後、僕たちは狛狐としてお役目を頂いた。それらのお役目と僕たちの存在自体を繋ぐ……繋いで縛るものというのが『名』というわけ。……分かるかな?」
ちんぷんかんぷんである。でも、弧之善たちにとって名前が大事なのだという事は、少し理解できた。
「つまり我々は、名付けられる側であって、名付ける側ではない。名づけるにはその存在を縛る力が要るから、おいそれとは出来ないのだ」
そして弧之善が、そうこの話を締めた。つまり、弧之善にネーミングを頼むことが出来ない、ってこと?
「ううううん……、神さま由来のネーミングなら、ご利益ありそうだなあって思ったのにぃ……」
残念そうに肩を落とす光月に、弧之善は出来ぬとは言ってないよ、と微笑んだ。
「むやみやたらと縛ることは出来ぬが、渾身の一撃で縛らせてもらおう」
「弧之善様!」
「弧之善様、それは……!」
何やら慌てる煌と瑛に対して、弧之善は首を振った。
「私は今、出来ることを出来る限りしたい。あの時、光月殿は私たちを見てくれたではないか。その光月殿の為なら、努力もしよう」
弧之善の言葉に、きゅーん、と耳と尻尾を垂れていそうな煌と瑛。なんだろう、無理な事なら頼まないけど。
「あ、あの、弧之善様。なにか、すっごく頑張らないといけないことだったら、別にいいですよ? 蒼依にも相談できるし、おばあちゃんにアイディア貰ってもいいし……」
そう言う光月に、いや、やらせてくれ、と弧之善が言った。
「私の付けた名が、月湧の名物となり、末永く伝えられることを望んでいる。是非やらせてくれ、光月殿」
真剣なまなざしでそこまで言われると、要らないです、なんて言えない。もともと神さまパワーとかないかなー、なんて考えてたことだし。
「うーん、じゃあ、絶対無理しないこと。これだけは約束してください」
ゆびきり。
小指を差し出すと、弧之善は笑って小指を絡めてくれた。




