スイーツをバズらせよう(3)
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最近、光月は村祭りの準備のためにあれこれと忙しい。今日も日曜日だというのに、屋台で使うオーブンの予約もしなきゃいけなかったし、チラシに載せてもらう油揚げシューの写真も撮らなければいけなかった。
これが難しい。どうやって月湧村らしさを出したらいいか、悩んだ。
「ふむ。月湧を宣伝するなら大豆であろう」
弧之善だ。今日は弧之善たちと久子の店で油揚げシューのデコレーションを考えていた。三人には光月からアイスクリームを献上している。
「大豆……。今時期だと花が咲いてるけど、普通の人は大豆の花って見たことないと思うから、アピールするには役不足かなあ……。そうすると、実……。あっ、大豆の鞘とか? うーん、インゲン豆とかのイメージになっちゃうかなあ……。それに映えない……」
「『映えない』ってなんだ」
光月の言葉に反応するのは、煌。久子と同じく、SNS用語には疎いらしい。
「ええとですね、シューの写真……、あっ、写真も通じない? そっくりそのままの絵、って思って貰ったらいいです、それをSNS……この機械の中で表示させて、みんなに『このお菓子はきれいだな、美味しそうだな』って思って欲しいんです」
光月はスマホを操作してSNSの画面を表示した。スイーツタグで検索すれば、色鮮やかなケーキたちが画面にたくさん表示される。三人が画面を覗き込み、瑛が、まるで宝玉のようだね、と評した。
「そう! これらの宝玉の中に、私たちが作るシューの絵も仲間入りするんです! その時に、見栄えおとりしない為の、シューの装飾をしたいんです!」
きつね色の揚げのなかに、果物で色付けしたカスタードクリームを絞り込めば、それだけでかわいいとは思うけど、それだけでは人目は引けない。もうちょっと飾りややデコレーションを工夫したいし、写真の撮り方も考えなければならない。
「このアイスクリームもそうなんですけど、だいたいスイーツの上に載せるんだったら、普通はミントなんですよね……。緑がきれいだし、清涼感で目を引きやすいし……。でもミントは月湧のイメージじゃないんだよなあ……」
「この葉のことか。確かにつめたい菓子に清涼感をもたらしているな」
弧之善がちょいと指の先にミントをつまみ、くるくるとまわしている。大豆の双葉のようだ、と弧之善は形容した。
「そうやって、少しだけスイーツに添えることで、絵的に綺麗に見えるんですよね。勿論ミントやパセリが食べ物に添えられ始めた当初は防腐剤効果とかの理由で添えられ始めたんですけど、今では食品衛生も行き渡ってるので、添えることの意味合いは綺麗だから添える、っていう方が強いみたい」
「ふむ、見た目の為か。見栄えもよい防腐の添え物であればシソの花を知っておるが、シソは月湧の名物ではないしなあ……」
「それにシソの花って、カスタードクリームに合わないと思うんですよね。味的に」
なるほどなあ、と煌と瑛が呻く。弧之善がさらに意見を出してくれる。
「あとは月湧の名物、というわけではないが、私が好きな月湧は、やはり収穫期の景色だがなあ……。みなが生き生きしていて、秋は特に私の好きな季節だ」
「光月さんも、小さい頃、よくもみじの落ち葉で遊びましたよね」
瑛が、幼かったころの光月が神社で落ち葉を集めておままごとをしていたことを引き合いに出した。そもそも自然の中で遊ぶ光月にとって、落ち葉は魅力的な遊び道具だった。船に見立てて水路に流したり、おままごとの器にしたりした。弧之善が特に好きな季節だという理由に、光月と一緒に遊んだ記憶があってくれたら嬉しい。
「じゃあ、秋を全面に出したデコレーションにしましょうか。うーん、和食なら、もみじの天ぷらが風流なんだけどな~」
久子の手料理は圧倒的に和食だ。光月が子供の頃は、子供が好むようなハンバーグやから揚げなども作ってはくれたが、祖父の好みも考えると、どうしても和食に傾きがちだった。『月湧村』という山すその田舎、というキーワードで、和食からイメージが広がらない光月が、ううん、と唸ると、弧之善が提案を出す。
「良いではないか、もみじの天ぷら。私も月湧山の紅葉は四季の中で一番好きだ。もみじを添えるのは風流だと思うぞ、私は」
弧之善が言うと、会話が漏れ聞こえたのか、厨房から久子も、それ、賛成だわ、と声を掛けてきた。
「天ぷらだと思うからイメージが合わないんだと思うわ、光月ちゃん。もみじの素揚げだったら、ポテトチップスと基本的には一緒でしょ」
そうか、衣をつけずに素揚げなら、もみじの色も綺麗に出るし、シュー皮にした油揚げとの相性もいいかもしれない。しかし食用にするもみじが、今、手元にない。
「ここら辺の紅葉がちょうど村祭りの時期なんだよな~……。色づいたもみじを採取して使うには、材料として時期が祭りとかぶりすぎて、採取できない危険性があるよね……。うーん……」
光月が頭を悩ませてると、またしても久子からナイスパスが。
「それなら、お野菜で作っちゃいなさいな。ほら、お弁当に入れてあげてたもみじ型の人参の煮物。あの型で薄く切った人参を型抜けば、朱色のもみじが出来上がるわ。人参もグラッセにしたらどう?」
「うわ、ホントだわ、おばあちゃん! むしろそっちの方が、食用として安心して提供できるよね! 色どりも華やかだし、綺麗な写真が取れそうだよ! 小物ももみじで縛ろうかな!?」
アイディアがパチパチパチッとはまっていく。こういう瞬間が、献立を考えるときに楽しいと思う。弧之善がさらに続けた。
「もみじの採取が間に合えば、敷物として使ってはどうだ、光月殿。もみじを下敷きに、油揚げのシューを載せて、そのシューの上に人参のもみじ。頃合いとしても道沿いに紅葉が広がっているだろうし、樹々を見上げながら食べ歩くのに、とても風流だと思うが」
「イイネ! それ!」
グッと親指を立てて弧之善に示して見せる。シューの上に載せるもみじを人参で作るなら、チラシに掲載する写真も間に合いそうだ。テイクアウトの器には、もみじを載せることをイメージしておいて、商品だけ写真を撮ろう。
弧之善の提案にうきうきしている光月を、煌と瑛が見守っている。
「弧之善様が積極的に物事をなさろうとしているお姿をまた拝見できて、嬉しいですよ、まったく。こんな小娘の所為でなければ、もっと良かったですのに」
「煌のひと言余分なのは置いておいて、本当に前向きになってくださって、僕も嬉しいです、弧之善様。光月殿は、よく前向きに決意してくださった」
前向き、とは、交際についてのことだろうか。あの時は弧之善の勢いに押されたけど、結果として今、楽しく過ごせているので、あの時断ってしまわなくて良かったんだと思う。
「私もですね、弧之善様がおだててくれるので、失恋続きだった過去を塗り替えることが出来てきている、現在進行形なんですよ、瑛さん。だから、その分は弧之善様に感謝しなきゃなって思うんです」
今度は光月の番だと決めた。だから、弧之善のことを、もっと分かりたいと思う。月湧の秋の景色が好きだと知れたのは、光月が弧之善を理解するためのパーツのひとつになった。
「でも、春より秋の方が好きっていうのは、ちょっと意外。桜にはいい思い出がないとかではないですよね?」
光月の問いに弧之善が笑う。
「はは。桜も良いがな、春は生み出す力が溢れているだろう。今の私にはそれがないのでな、鮮やかに色づいた後は散りゆき、凍える冬に備える秋が、一番合っている」
視線をやや下げ、寂しそうに笑みを口許に作る様子が胸に痛い。ずっとずっと、見向きもされてこなかった神さま。思う人が居なくなったら、凍って動けなくなってしまう存在。動けなくなる前に、今、鮮やかに色づいておこうってこと……? そう思ったら、ぱっと弧之善の手を握っていた。
「そんな風に、言わないでください! なにも月湧がこのままなくなるって決まったわけじゃないし、村の皆も弧之善様をまるきり忘れたわけじゃないっていうのは、弧之善様が生きていることで証明してるじゃないですか!」
弧之善の目をしっかり見て訴える。少し……、弧之善が居なくなった月湧を想像して怖くなった。都市でありがちな、隣近所に無関心な、寂しい村になって欲しくない。実りが良くたって、人間関係が悪くなって住みにくくなったら、人々は月湧から出ていく。そんなことになって欲しくない。仲が良くて、みんなで助け合えるから、実りだって沢山享受できる。村に一番大事なのは『人』。そんな『人』を見守り続けてきた弧之善が居なくなって良いわけない。実りなんて二の次だよ!
などと息巻いていたら、横から視線が突き刺さった。




