(龍の穴編)第七話:堂満吉兆太
蓬莱「それでは、対局を始める。先鋒、次鋒、卓へ迎え! 責任ある見届け人として、私が親の抽選をする。南蛮製の特大賽子だ!」蓬莱は、いかにもイカサマ臭い仔猫ほどの大きさのある賽子を取り出し、大袈裟に転がした。
蓬莱「出目は、三である。道満家の起家および西家で勝負を始める。」
一同「(出目と、親の関係を聞いていないが・・・)」口を出すものは居なかった。
東:羽向
南:疋田
西:天沼
北:貞丸
蓬莱「掟は、撃破戦一本勝負。雀武帝特別手役は全て有効。防御無効。満貫未満の直撃や自摸和了は、流局親流れと同じとする。諸流派で見られる、跳満以上の直撃でも他家の巻き込まれは無いものとする。」
伝宝「異存はないな! 口答えも質問も許さん。」
一同「御意!(ひでぇ・・・)
鎌田「ここは、大陸だべか?」と、場を弁えない質問して蓬莱にぶっ飛ばされていた。
卓のある櫓へ向かう途中で、貞丸が、疋田に話しかけた。
貞丸「疋田、俺たちの役目は分かっているな?」
疋田「あぁ、アイツらの一人か二人を脱落させるんだ。」
貞丸「お前の打ち筋は攻撃的だ。いつも通りで構わない。攻撃できる方が、積極的に立ち向かえ。手にならなければ、守りに徹しろ。」
疋田「あぁ、分かったぜ。副主将!」
【東一局】 親:羽向 ドラ⑤
<七巡目> 二三四55①②③④⑤⑥⑧⑨東東東 一気通貫、W東(親:満貫確定)
南家:疋田 四伍六23⑤⑤⑥⑥⑦⑦⑦⑦ 1・4待ち 4で平和、断么九、一盃口、ドラ2
西家:天沼 三四六七八233344②③
北家:貞丸 一二六八九45678⑨⑨白 自摸:三
貞丸は、左手の人差し指を鼻にあて、4を切った。
疋田は喰いつきたいそぶりも見せずに、無表情で見逃した。土方がよくやっていた「能面・現物・高め無視」だった。なぜ、急に土方を思い出したのかは分からなかった。お坊ちゃま育ちで入所当時は、紐の切れた草鞋をずっと履いていたが、直し方を教えると、すぐに一人で直せるようになっていった。門弟たちに「健常者介護」だと揶揄されたが、自分は全く気にしなかった。疋田は、土方の世話を焼くのが嫌いではなかった。同時に貞丸の癖を思い出した。貞丸が左手の人差し指を鼻にあてるのは、一か八かの賭けの時だった。癖の少ない貞丸の決定的な「悪癖」の一つだった。
羽向は、④を自摸切った。天沼が、かすかに反応したが、和了は出来なかった。
疋田も二を自摸切った。天沼が僅かに反応したが、和了は出来なかった。
天沼が待望の二を引いて、4を切った。
疋田「ロン、マンガン!」というと、
天沼「山越しか・・・。山越しだ!」と、天沼が砕け散った。貞丸は安堵した。
貞丸「(いつ敵になるか分からないから、積極的に協力は出来ない・・・。蓬莱と伝宝の手前、通しは使えない。よく俺の癖を見破ってくれたが、俺もまだ未熟だ・・・)」
疋田の和了形を見て、羽向は絶句した。
羽向「完全な死に目だ・・・。」
陣営に戻った天沼は、堂満に窘められた。
堂満「配牌で既に、233344の形があっただ。自分の手の中の塊は、他の人が欲しいはずだ。三色を確定させたいなら、速めに処理しなければダメだ。」
天沼「御意!」
蓬莱が、合図をした。
「ごわごわわ~~ん!」対局の区切れを知らせる銅鑼だった。
【東二局】
玄武流派は、丸亀が出てきた。
東:疋田
南:天沼→丸亀
西:貞丸
北:羽向
丸亀が卓に向かうとき、
道満「羽向は、調子が悪そうで期待出来ないだ。この勝負、ヌシとワシで決めるだ。」
丸亀「うぃ。」
貞丸「ロン、満貫!」成す術もなく、羽向は砕け散った。
蓬莱が、合図をした。
「ごわごわわ~~ん!」
【第三局】
東:丸亀
南:貞丸
西:羽向→道満
北:疋田
疋田「でっけぇな! コイツが道満家の大将か!」
貞丸「道満吉兆太。道満家のお館だ。」
疋田「お館?」疋田は、入所初日の満貫組手を思い出した。振り込んで『錬心の滝』へ行く途中に天沼に話しかけられたことを思い出した。
(天沼「よぉ、おめえ、体力選抜で二位だった奴だな。合格オメデトウ。大将は元気か? 殿のご様子はどうだ?」といって、こちらの返事を待っていた。)
「(大将って、誰だよ。 殿って、政宗公か? あのタイミングで、天沼が政宗公のことを口に出すのはおかしい。あれは、俺を間者だと思い探りを入れていたのだ! それでは、青龍派には天沼や丸亀以外にも間者がいるということか?)」
蓬莱が、合図をした。
「ごわごわわ~~ん!」
疋田「(気のせいか?『正~解~!』と聞こえたぞ!)」
ドラ:東
【道満】二二三三四4488東東白中 三 → 中 〔七対子:一向聴〕
貞丸「ドラでござる、失礼仕る」
道満「碰だ」
丸亀「!(お館様が動いた)」
疋田「役牌ドラ三かよ!」
二二三三三四4488東東白 東 (碰) → 白〔対々和:一向聴〕
二二三三三四4488 (碰)東東東
貞丸「(ニヤリ、動かない男を動かした!)」今度は、貞丸の仕掛ける番だった。
【貞丸】六六七七567⑤⑥⑦⑦⓻東 伍 → 東(碰で鳴かれる)
伍六六七七567⑤⑥⑦⑦⓻ 〔平和・一盃口・三色同順・断么九:聴牌〕
貞丸「(完成した! 出せ! 振れ! 掴め!)」
堂満は、そこに最悪の伍を自摸ってしまった。
堂満「ぐっ!」
【道満】二二三三三四4488 (碰)東東東 伍 → 二 〔聴牌崩し〕
蓬莱は、待ってましたとばかりに、
蓬莱「罰を与えーい。」と、部下に村民を棒でシバかせた。
村民「ぐわ~!」村民の悲鳴に堪えかねた道満は、
堂満「! や~め~でだー! ワシを打でだ~!」
蓬莱「対局に差し支えるが、構わないのか?」
堂満「村民は、止~め~でだー! お願いだ~~っ!」
蓬莱「了解した。」と、手を上げ合図をすると、堂満に向かって三本の矢が飛んできた。
「ズブズブズブッ」矢は、堂満の背中に三本突き刺さった。
堂満「ぐわ~っ!」
蓬莱「掟を変更したからな。おまけだ。」
堂満「前に出だも・・・、手詰まりだのも・・・、ワシの責任だ。はぁはぁ、はぁ・・・。」
【道満】二三三三四伍4488 (碰)東東東 六 → 二 〔聴牌〕
貞丸「8でござる。」
堂満「ロン! 役牌ドラ三!」
貞丸「振り込み、御免!」貞丸は、脱落した。
疋田「このオッサン、すげぇぜ! 命を掛けている。」
一馬「立派だ。師範代にしておくのは勿体ないな。見事な施政者だ。」
蓬莱「道満には、最小限の手当てをいたせ! 直ぐに対局を始める!」
疋田「惨いな。」
蓬莱「青龍派の者が卓についたら、すぐに対局を再開する。」
雀悟は、ワザとゆっくり卓に向かった。
蓬莱「青龍派! 急げ! 時間が迫っておる!」
雀悟「(惨いな。)」
蓬莱が、嬉々としてドラを叩いた。
「ごわごわん、ごわごわわ~~ん!」
【第四局】
東:貞丸→雀悟
南:道満
西:疋田
北:丸亀
手が入ったのは、疋田と道満だった。
ドラ二
【疋田】二二三四223344②③④
【道満】②③③④④⑤⑤⑥⑦⑧白白白 〔面前混一色・白・一盃口: ②⑤⑧待ち〕
②③③④④⑤⑤⑥⑦⑧白白白 ⑥ → ⑤ 〔聴牌: ③⑥⑨待ち〕
②③③④④⑤⑥⑥⑦⑧白白白 ⑦ → ⑥ 〔聴牌: ⑦待ち〕
②③③④④⑤⑥⑦⑦⑧白白白 ⑧ → ③ 〔聴牌: ⑦⑧待ち〕
②③④④⑤⑥⑦⑦⑧⑧白白白
疋田から、堂満の河はこう見えた。
〔捨て牌〕一8北六⑤⑥③
疋田は、⑧を自摸って、
「(ドラは、切れない。一六の切りは、二伍待ちの典型的な間四軒だ。オッサンは、筒子に嫌われている。)」と、⑧を自摸切った。
堂満「ロン! 満貫だ。」
疋田「何!? 筒子待ちがあるのか?」振り込むとゴネる疋田の悪癖を見て、
雀悟「よく見ろ。筒子は、全て手出しだ。この掟で、自摸和了には意味がない。放銃させるための、必死の大工事だ。」疋田は、力無く項垂れた。
雀悟「(あの頃と、変わってないか・・・。)」
疋田「振り込み御免! おいらじゃ、まだ役不足だ。」
雀悟「そうでもないさ、頑張ったよ。俺でも行くね。」
疋田「ありがとう。あとは任せるよ。」
雀悟「あぁ・・・。」
蓬莱が、銅鑼を叩いた。
「ごわごわわ~~ん! ごわん、ごわわん、ごわわ~~ん!」
疋田は、蓬莱がこの上なく機嫌がいいのが腹立たしかった。
【第五局】
東:道満
南:疋田→一馬
西:丸亀
北:雀悟
一馬「蓬莱殿に、確認いたす。」
蓬莱「なんだね。カズマくん。」
一馬「誰かが放銃して、卓割れになれば、それで終わりですかな?」
蓬莱「決着の様子を見て決める。早く始めてくれ。」
一同「(勝負がついてからも、戦わせる気か? 何かしらの条件を付けて、彼らの提案を飲ませる気だ。)」卓は、嫌悪感に包まれた。
特に守りの固い、堂満、丸亀相手に、雀悟、一馬も守りを固くして対峙した。一流どころの勝負は、向聴数を下げて罰を受けても、振り込みは期待できなかった。十二局過ぎた頃、堂満九本、丸亀十二本、雀悟三本、一馬六本の槍を体で受けていた。
痺れを切らした蓬莱は、
蓬莱「え~い! いつまで、グダグダと続けておるのだ! これより、掟を『撃破戦』から、『脱落戦』に変える。流局時のノー聴牌、錯和も満貫以上の自摸和了親被りも「傷」一つとし、親カブリは二つとする。「傷」三つで自動脱落とする。倍満以上の自摸和了は、傷二つ、親は傷三つとする。異存はないな。質問は許さん! 俺と伝宝は、今晩会議がある。速やかに勝負を決せよ!」
一同「(誰が接待するんだ?)」
【第十三局】『脱落戦』 ドラ:發
東:堂満
南:一馬
西:丸亀
北:雀悟
雀悟「(好機!)」
一馬「(好機!)」二人とも親カブリで、堂満に「傷」を二つ負わせるのが目的だった。
〔七巡目〕
雀悟:三四234②②③③④④⑤⑥ 二 → ⑥
二三四234②②③③④④⑤ 〔聴牌:②⑤待ち 断么九・三色同順・一盃口・平和〕
一馬:三四伍伍345567③④⑤ ⑤ → 伍
三四伍345567③④⑤⑤ 〔聴牌:②⑤待ち 断么九・三色同順・平和〕
堂満「ぐっ!」堂満は、雀悟の⑥切りと、一馬の伍切りに寒気がした。お互いから出ても和了しない。自摸和了で満貫以上が確定している自信を感じた。
十二巡目にこの薄い②を、雀悟が自摸和了した。
雀悟「自摸和了、御免!」
堂満と丸亀は、甚大な被害を受けたが、雀悟と一馬は安堵した。
一馬「(あと、一つ)」
雀悟「(あと、一つ)」
【第十四局】『脱落戦』ドラ:南
東:一馬「傷」
南:丸亀「傷」
西:雀悟
北:堂満「傷」「傷」
四人とも勝負手が入らず、向聴数を下げないノー聴牌は、丸亀だけだった。
丸亀「ノー聴、御免!」
堂満「『脱落戦』ルールは、キツイのぉ・・・。」
【第十五局】『脱落戦』ドラ:二
東:丸亀「傷」「傷」
南:雀悟
西:堂満「傷」「傷」
北:一馬「傷」
〔十巡目〕
一馬:一一二二三三456777⑨ ⑧ → 7
一一二二三三45677⑧⑨ 〔聴牌:⑦待ち 三色一気通貫・一盃口・ドラ2〕
自摸和了すれば、堂満と丸亀は脱落だったが、振り込んだのは、丸亀だった。
一馬「ロン、満貫御免!」
歪む丸亀と堂満を尻目に
一馬「形の上では、勝たせてもらう。」と小さく付け加えた。
堂満「・・・。」
丸亀「・・・。」
蓬莱が、銅鑼を叩いた。
蓬莱「終~了~~~っ!」
「ごわごわわ~~ん! ごわん、ごわわん、ごわわ~~ん!」
蓬莱「堂満家の今後の処分を検討する。参考人として柳田と雀悟の二名に同行を命ずる。残りの貴様らは、指示のあるまでそこで待機せよ!」櫓に集まって、そこここで休憩している青龍派と玄武流派の面々を尻目に、雀武帝親衛隊の使いがやって来て、
使いの者「指示のあるまで、手を触れないようにお願いします。」櫓のそばに巨大賽子を置いて行ってしまった。
暫くすると、
氷月「何か、臭わない?」
一馬「火薬の臭いだ! みんな櫓から離れろ!」それぞれに一目散に逃げた。
『どっか~~~~ン』櫓を粉々に破壊するほどの爆発だった。
一馬「全員、怪我はないか? これは、向こうからの宣戦布告だ! 全員戦闘態勢に入れ!」
「御意!」
「(龍の穴編)第八話:救出戦 in 旅籠」に続く