(龍の穴編)第二話:撃破戦
もう昼過ぎではあるが、朝稽古はまだ続いていた。
禿師範代「これより『撃破戦』を行う。先陣は、天組より、天承雀悟、二ツ橋征二(天組三番手)、地組より丸亀三亀王(地組一番手)、天沼十三郎(地組二番手)を指名する。この順で、卓につきなさい」
一同「御意! ソウロ~ウ」それぞれが席について対局が始まった。
【『撃破戦(放銃限定)』ルール】
・自摸和了無効。場を進めるだけ。
・点数の高低に関わらず、振り込み和了のみ有効。
・相手に振り込ませたら撃破記録である「勲章」を得る。
・自分が振り込んだ相手からは撃破記録である「傷」を受ける。
・「傷」を消すには、「傷」を受けた相手からの直撃和了しかない。
その場合、相手の「勲章」は消えず、自分の「勲章」にするためには、もう一度振り込ませるしかない。
・同じ相手からの和了は有効。
・合計三つの「勲章」を得たら勝ち抜け(三人撃破が最も素晴らしいとされる)。
・誰かが勝ち抜けた場合、交代前の「勲章」と「傷」は有効。
※勝ち抜けた相手からの「傷」は無効とする流派もある。
・「傷」が累計五つ溜まると脱落。
※ 流派により、「傷」が五つ以上たまると、和了に制約がつく「屍掟」がある。
・向聴数を下げることは、許されない。(青龍派独自ルール)
※他流派は、流局時に聴牌していない場合、ペナルティが課されることが多い。
萬子: 一二三四伍六七八九
筒子: ①②③④⑤⑥⑦⑧⑨
索子: 123456789
字牌: 東南西北白發中
※ 雀武帝の定めた「雀武帝特別十二手役」は有効で、全国統一の掟。
親 :天承雀悟
南家:二ツ橋征二
西家:丸亀三亀王
北家:天沼十三郎
ドラ:⑨
東家(親)雀悟:一伍六八67②⑤⑨⑨東南北白〔5向聴〕
「参る。北」
〔二巡目〕一四伍六八67②⑤⑨⑨東白 四→南〔4向聴〕
〔三巡目〕一三四伍六八67②⑤⑨⑨東 三→白〔3向聴〕
〔四巡目〕一二三四伍六八67②⑤⑨⑨ 二→東〔2向聴〕
〔五巡目〕一二三四伍六七八67②⑨⑨ 七→⑤〔1向聴〕
〔六巡目〕一二三四伍六七八九67⑨⑨ 九→②〔聴牌〕
理想的な、聴牌までの速度であった。
南家・征二:四七八378②③⑦⑨南北白 ⑨→北〔5向聴〕
四七八378②③⑦⑨⑨南白
「同じく、北」
〔二巡目〕四七八378②③⑦⑨⑨南白 北→北〔4向聴〕
〔三巡目〕三四七八378②③⑦⑨⑨南 三→白〔3向聴〕
〔四巡目〕三四七八378②③⑦⑨⑨南 一→一〔3向聴〕
〔五巡目〕三四五七八378②③⑦⑨⑨ 五→南〔2向聴〕
〔六巡目〕三四五七八78②③⑥⑦⑨⑨ ⑥→3〔2向聴〕
征二も、負けていなかった。
西家・丸亀:一四九1699①②④西白中 ①→九〔5向聴〕
一四1699①①②④西白中
「しからば、九ですた。」
〔二巡目〕一四1699①①②④西白中 東→東〔5向聴〕
〔三巡目〕四1699①①①②④西白中 ①→一〔4向聴〕
〔四巡目〕四4699①①①②④西白中 4→1〔3向聴〕
〔五巡目〕二四4699①①①②④西中 二→白〔2向聴〕
〔六巡目〕二四4699①①①②④西中 ⑦→⑦〔2向聴〕
丸亀も、速かった。
北家・天沼:二三九468③⑤⑦⑧東發中 ⑥→東〔5向聴〕
二三九468③⑤⑥⑦⑧發中
「しからば、東。」
〔二巡目〕二三九468③⑤⑥⑦⑧發中 東→東〔4向聴〕
〔三巡目〕二二三468③⑤⑥⑦⑧發中 二→九〔4向聴〕
〔四巡目〕二二三4468③⑤⑥⑦⑧發 4→中〔3向聴〕
〔五巡目〕二二三44688③⑤⑥⑦⑧ 8→發〔2向聴〕
〔六巡目〕二三44688①③⑤⑥⑦⑧ ①→二〔2向聴〕
天沼も、速かった。
開局早々、場が動いた。
雀悟「ロン満貫、征二撃破!」
一二三四伍六七八九67⑨⑨ 征二→8(和了)
南家「振り込み御免!」振り込んだ征二は、退席することなく勝負は続いた。雀悟は、卓の傍らに「勲章」を晒した。征二は「傷」を晒した。
禿師範代「(全員、手作りの速度が速い。速いが故の悲運とでも言うかのぉ・・・。速いが故に、前に出るしかない。撃破戦は、先手を取らねば精神的に不利じゃ。)」
東一局一本場
親 :天承雀悟 「勲章」
南家:二ツ橋征二 「傷」
西家:丸亀三亀王
北家:天沼十三郎
雀悟「参る。一」
南家「②」
西家「北」
北家「發」
八巡目、征二が雀悟の牌に食いついた。
征二「ロン、断么九」久し振りの振り込みで、雀悟に緊張が走った。
雀悟「振り込み御免!」
禿師範代「(雀悟から和了出来るのは、天組の連中だけか・・・)。東二局に入る。」
一同「合点承知!」
丸亀「(雀悟の振り込みか・・・初めて見たぜ・・・)」
天沼「やるなぁ」
東二局:征二の「傷」は無くなったが、雀悟の「勲章」は無くならない。
親 :二ツ橋征二
南家:丸亀三亀王
西家:天沼十三郎
北家:天承雀悟 「勲章」
しかし、雀悟の快進撃は止まらない。
雀悟「ロン満貫、三亀王撃破!」
丸亀「振り込み御免」
東三局
親 :丸亀三亀王 「傷」
南家:天沼十三郎
西家:天承雀悟 「勲章」「勲章」
北家:二ツ橋征二
雀悟「ロン跳満、十三郎撃破! 一抜け御免‼」と、雀悟が一抜けを決めた。征二と三亀王は、雀悟から受けた「傷」を仕舞った。雀悟に続いて貞丸時次(天組二番手)が入ったが、誰も「傷」を受けていない平場で開始した。
貞丸時次は、天沼から二度和了り、征二を下して二抜けを決めた。三抜け征二、四抜け十三郎、五抜けで青野潤吾(天組四番手)が続いた。三亀王は、八抜けだった。
丸亀「ぎりぎりの勝ち抜けですた。冷や汗でますた。」太っているためか、滑舌が悪く「し」の発音が出来ない。相撲取りを彷彿とさせる巨体を揺らしながら、天沼に近寄った。
天沼「ったく。もう少し早く勝ち抜けられるだろ。」
丸亀「メンツが強すぎですた・・・無理ですた。」
そのやり取りに、雀悟は、違和感を感じた。
雀悟「おかしいな。丸亀の奴は、まるで前に出る気配がない。出和了を二回は見逃している。八抜けを狙っていた訳でもあるまいに・・・ まさか・・・?」
夕刻になり、遅めの昼飯のあと、「撃破戦」組は、基礎体力訓練を行い、
「憐心の滝」組は、対局訓練を行った。
こうして、月に一度の『満貫組手』と『撃破戦』の修行は終わった。
「(龍の穴編)第三話:龍の穴・入所選抜試験」に続く