第3章 共鳴する心
空が雨雲に覆われ、森全体が暗く沈んでいた。私とアルト、そしてルナは黙々と歩いていた。アルトが私に追いついてから数日が経つ。彼は決して私を責めたり、力を使うことを強制したりしなかった。ただ、一緒に旅を続けることで、私の心に少しずつ変化が訪れているのを感じていた。
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1. 力の暴走
雨が降り出す中、小さな村に辿り着いた。アルトは「雨宿りしよう」と提案し、私たちは村の端にある古びた納屋に入った。ルナが先に駆け込み、濡れた体を震わせていた。
「ここで少し休もう。君も疲れてるだろう?」
アルトの言葉に頷き、私は壁にもたれかかった。だがその時、体の奥で何かがざわめく感覚に襲われた。
「……危ない、離れて」
そう言った瞬間、私の手から放たれた黒いエネルギーが納屋の壁を貫いた。激しい轟音が響き、ルナが怯えたように飛び上がった。
「落ち着いて!」
アルトが私の肩を掴む。だが力は止まらない。床に亀裂が走り、周囲が崩れていく。
「私は……止められない!」
その時、ルナが私の腕に飛び乗り、小さな爪を優しく押し付けた。その感触が、不思議と私を現実に引き戻してくれた。力の暴走が静まり、私の体から黒い光が消える。
「……ありがとう、ルナ」
アルトは深い息をつきながら微笑んだ。
「やっぱり君一人じゃ危険だ。僕とルナがいれば、きっと乗り越えられるよ」
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2. 調律者としての力
暴走が収まった後、アルトは焚き火を囲んで自分の過去を語り始めた。
「僕も最初は調律者としての力を受け入れられなかったんだ。未来を守るために選ばれたとか言われても、ただの人間だった僕には重すぎてさ」
彼の話に、私は自然と耳を傾けていた。
「でも、僕は一人じゃなかった。仲間や家族が支えてくれた。君には僕とルナがいる。それだけじゃ不十分かもしれないけど、一緒にいればきっと道は見えるはずだよ」
「……私の力は壊すだけ。調律者の力とは違う」
「そんなことない。壊す力だって、使い方次第で世界を救うことができる」
彼の言葉には確信があった。それがどうしてなのか、私は理解できなかったが、アルトとルナがいることで少しだけ希望を感じたのは事実だった。
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3. 共鳴の瞬間
翌日、私たちは高台に登った。そこから見える景色は荒廃した森だった。かつては美しい緑に包まれていたはずの場所が、私と同じ「破壊者」によって滅ぼされていた。
「ここを元に戻せるなら、君はどうする?」
アルトが静かに問いかけてくる。
「それができるなら……やってみたい。でも、私には……」
その時、ルナが私の足元に歩み寄り、私を見上げた。その金色の瞳に映る自分の姿が、少しずつ変わっていくように感じた。
アルトはそっと私の手を取った。
「君の力は壊すだけじゃない。新しい何かを作り出す可能性だってある。僕が調律するから、一緒にやろう」
アルトと手をつなぎ、私は力を解放した。黒いエネルギーが再び広がり始めるが、それをアルトの青い光が包み込む。二つの力が混ざり合い、荒廃した森に少しずつ緑が戻っていく。
「……こんなことができるなんて」
「君の力だよ。そして、君の選択だ」
ルナは静かに私の足元で座り、景色を見つめていた。その瞳には確かな信頼が宿っているように見えた。
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4. 別れの決意
夜になり、私はアルトとルナに決意を告げた。
「私はこの力を完全に抑える方法を探さなければならない。そのためには、この世界を離れるしかない」
アルトは驚いたように私を見つめたが、すぐに微笑んだ。
「君が決めたなら、僕はそれを止めない。でも、必ずまた会いに行く。約束するよ」
ルナは私の膝に飛び乗り、私の顔にそっと顔を寄せた。
「ルナ……君もアルトと一緒にいてほしい。彼を支えてあげて」
ルナはしばらく動かなかったが、最後には静かに頷くような仕草を見せた。