第2章 運命の真実
日が傾き、空が赤く染まる頃。旅の道中、私は何も言わずただ足を進めていた。アルトとルナは変わらず私についてくる。
アルトはときおり明るい声で話しかけてくるが、私はそっけない返事を繰り返すだけだった。
「君って本当に無口だよね。でも、猫には優しいんだな」
「ルナは私の家族だから」
短く答えたその瞬間、胸の奥にわずかな痛みを覚えた。それは失われた記憶、あるいは失いたくない未来への不安から来るものだった。
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1. アルトの告白
その夜、私たちは山の麓の小さな洞窟で休むことにした。焚き火の明かりが壁に影を映し、ルナは静かに眠っている。アルトはいつものように笑顔だったが、その瞳にはどこか決意が宿っているようだった。
「君に話さなければいけないことがあるんだ」
彼の真剣な口調に、私は警戒心を覚えた。
「なんの話?」
「君は、この世界を壊す運命にある。破壊者として生まれたんだ」
一瞬、時間が止まったように感じた。焚き火の音が遠くに聞こえる中、アルトの言葉が脳内で何度も反響する。
「……何を言ってるの?」
「僕の役目は、そんな君を止めること。僕は調律者として、未来を守る使命を負っているんだ」
アルトの声は震えていなかった。それが彼の本当の姿だとしたら、私は今まで彼に心を許しかけていた自分を恥じた。
「冗談でしょ? 私はただの旅人よ」
「君自身が気づいてるはずだよ。君が行く先々で、不思議な現象が起きていることを」
アルトの言葉に反論する気力もなく、私はただ焚き火を見つめた。頭の中では過去の記憶が甦り始めていた。私が子どもの頃、周囲の人々を傷つけてしまったあの事件。避けようとしても避けられない、壊す力の存在。
「君を排除するのが僕の使命。でも……」
アルトが言葉を止める。私は彼を睨むように見た。
「でも?」
「僕は、君を傷つけたくない」
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2. 逃避と孤独
翌朝、私はルナを連れてアルトの元を去った。彼の言葉が事実だとすれば、これ以上誰かと関わるわけにはいかない。私は一人でいなければならない。
「ごめんね、ルナ。私のせいでこんな旅を続けさせて……」
ルナは静かに喉を鳴らし、私の頬に顔を擦りつけてくれた。その仕草が、私を少しだけ救ってくれる。
しかし、歩き続ける中で、また力が暴走しそうになる瞬間があった。目の前の木々が枯れ、空気が不穏に震える。私がこの世界にいる限り、破壊は避けられないのだと改めて実感する。
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3. 再会
数日後、森の中でアルトが私を見つけた。
「やっぱり君を放っておけない」
「なんで追いかけてくるの? 私がどれだけ危険かわかってるはずでしょ」
アルトは少し困ったような笑みを浮かべた。
「わかってる。でも、君は一人で背負うべきじゃない。僕がいるよ」
「……」
言葉が見つからない。アルトの優しさが嬉しくて、でもそれを拒絶しなければいけない自分がもどかしかった。
「僕たちで方法を探そう。君がこの世界を壊さないで済む方法を」
アルトの瞳の中には確かな決意があった。私は彼の提案を完全には受け入れられないまま、静かにうなずいた。