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ユートピアの記憶

怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜

作者: ナザイ



ハウネリーエ王国の第一王女セイティネシアは深い森の中で自分をここまで送り届けた馬車を見送っていた。

見送るのは彼女一人。王女、それも現国王の第一子であるにも関わらず周りには誰も居ない。

彼女の後ろに聳える朽ちかけた古城にも誰も居なかった。


これが婚約破棄の、身に覚えの無い偽りの罪を着せられた彼女有責での婚約破棄、それに伴う断罪の結果だった。


王国の最果て、魔の森と呼ばれる王国屈指の危険地帯、その入り口に当たるエドゥルガンド渓谷への追放。

実質的な極刑に等しい処罰。


古城もかつては王国の力を結集させた大要塞だが、今は穴だらけで蔦だらけ、容易く魔獣の群れに陥落させられている。

王国最強の武人であろうとも、古城への滞在を極刑と捉えるだろう。


だが、彼女は怯える事も嘆く事もない。


彼女にとって、ここは危険地帯では無かったから。


彼女には力があった。

固有スキル〈魔獣忌避〉、先天的に彼女に与えられたその力は魔獣にセイティネシアに対する強烈な忌避感を与えて遠ざける。


常時就寝中も発動されているこの力で、彼女に魔獣は近付こうとはしない。

効果範囲も非常に広く、ここまで馬車で来れたのも、彼女をここに送り届けた者達が帰れるのもこの力の効果だ。


この力がセイティネシアがエドゥルガンド渓谷に追放された理由であった。

魔の森の入り口が塞がり、王国での魔獣の被害が減るから。


そして、婚約破棄され冤罪により断罪されたのも、元を辿ればこの力が原因であった。


ハウネリーエ王国は従魔の国。

国民の誰もが〈テイム〉や〈調教〉スキルを有し、魔獣を従えさせ魔獣と共に生活している。

従魔が存在しなければ成り立たない国、それがハウネリーエだった。


だからこそ、彼女は婚約破棄という名目で城から、実質王国から追放された。


彼女の力は従魔にも及ぶ。

時に主人の命令よりも強く忌避感を与える。


国の中枢、王城では彼女がいるだけで国を支える力を持つ従魔も使い物にならなくなる。

よって、幼少から王城より離れた場所で育てられたが、セイティネシアが成長すると共に固有スキルの力も増大。

現在では王都郊外の離宮で暮らしていても王都全体に影響を及ぼす程に力は増していた。


それが追放の真の理由。


本来は彼女がいるだけで一国の首都に魔獣が近寄らない、天から与えられた絶大なる恩恵に他ならない力であったが、ハウネリーエ王国、そしてその周辺諸国では呪いに等しい力であった。


(この歳まで生かされていた事に感謝ね)


エドゥルガンド渓谷に一人残され、一番初めにそう思うくらいには望まれない力だった。


「これで、自由だわ」


そして、存在しているだけで周囲に多大なる迷惑をかけると理解しているセイティネシアは、この追放を誰よりも喜んでいた。



「思ったよりも崩れて無いわね」


役割りを遠の昔に放棄した開きっぱなしの城門から古城に入ったセイティネシアは、遠足にでも行っているかのような足取りで散策を始めた。


追放される以前はまともに部屋の外に出る事も出来なかったからだ。


彼女の固有スキル〈魔獣忌避〉は、彼女の存在を感じる程に忌避感が強くなる。

例えば、同じ距離でも姿が見えない時よりも姿が見える時、声が聞こえない時よりも声が聞こえる時と与える忌避感は大きくなり、足音一つですら魔獣を狂乱させる程の忌避感を与える事がある。


従魔がそこら中にいる国で、まともに歩ける訳が無い。

見えず聞こえずの時ですら広範囲の魔獣に忌避感を与えるのだから、もし仮に王城のテラスで演説でもしようものなら亡国の危機ですらある。


だから、彼女は全てを控える生活を送ってきていた。


そんな生活から解放された今、遠足程度の足取りで抑えられているのが不思議なくらいだ。

(国王の)長女で無かったら一人ミュージカルでも始めていたかも知れない。

長女だから我慢できたけど長女じゃなかったら我慢できなかっただろう。


「部屋はどこにしようかしら?」


古城は小さな町なら入ってしまうほど広かった。と言うよりも小さな町。

城館も一つではなく複数。

魔獣による破壊と数百年分の経年劣化で崩れていない部屋を探すのは大変だが、部屋や建物自体は無数にある。


「籠城出来る様に畑も有ったって聞いたけれど、予想以上の広さだわ。水も流れているし、自給自足が出来そうね」


水は地下水を組み上げる魔法道具が生きており、小さな噴水のように水が湧き出し続けていた。

その水が石作の古城の窪みに溜まり小さな池まで作られている。


池の近くには数百年前に誰かが植えたのか巨大な林檎の樹。

水と果実を求めて多くの魔獣が訪れていたのか、周囲の建造物は僅かに痕跡を遺すのみ。

しかし、寧ろそれが不思議と風情のある景色を作り出していた。


「素敵ね。この近くが良いわ」


セイティネシアはそんな風景を気に入り周辺を探すと、殆ど崩れていない大きな煙突のある建物を見付けた。


「ここは、鍛冶場だったのかしら」


中を覗き目に入ったのは大きな炉と金床。

壁にはフライパンや鍋などの日用品や農具、太い鉄釘などが吊るされている。

流石に金属製品は形を辛うじて遺すのみで錆だらけであったが、建物自体の被害は見たところ確認出来ない。


「建築強化魔法も残っている。火を扱うから頑丈に造ってあったようね。気に入ったわ。ここにしましょう」


世の姫君達が住もうとは思わない廃墟、それも鍛冶場の遺跡を一目で気に入ったセイティネシアは鼻歌を歌いながら掃除を始める。


風属性魔法で埃を建物から追い出し、軽い瓦礫も小さな竜巻で持ち上げ外に運び出す。

セイティネシアは魔法が得意だった。特段才能が有ると言う訳でもなかったが、どうにか従魔を手懐けたかった彼女は様々な事を可能とする魔法を愚直に学ぶ秀才であったのだ。


だが、掃除に関しては素人だった。

風属性魔法を掃除に使うのは今回が始めて、本格的な掃除自体もした事が無い。

そして、古びた遺物の危険性を分かっていなかった。


風による揺れで金属製品が吊るされていた壁の留め具が時間を思い出したかのように崩れ、吊るされていたものが彼女に倒れかかる。


「きゃっ!?」


しかし、セイティネシアにそれらが当たることはなかった。


「ご無事ですか姫っ!?」


一人の騎士が、セイティネシアを掻っ攫う様にして抱き上げ、建物の外に退避したからだ。


だが、セイティネシアは助けられた事よりも騎士がこの場にいる事に対して声をあげた。


「クラウス、何故貴方がここに!? ついて来るなと命じた筈よ!?」

「お許しを、姫殿下。私は貴方様の騎士です。貴方様がお命じになれば、私はこの命を喜んで捧げましょう。忠誠をお誓いしたあの日から、この命は貴方様に捧げております」

「忠誠を誓ったと言うのなら、何故命令に反するの!?」

「忠誠、忠義は主君の為に、盲目的に従う事は忠義ではありません。姫様が傷付くのであれば、国王陛下の、例え神の命であっても背きます」

「守られなくても私は安全よ! 私に魔獣は近付かない! でも貴方達は別、ここがどこだか分かっているの!? 私の為に命を捨てるなんて許さないわ!」


エドゥルガンド渓谷に追放されて来たのはセイティネシアただ一人。

しかし、当初は付き従うと言う侍女や騎士がいた。クラウスもその内の一人。


だがセイティネシアはその全てを断った。ついて来るなと厳命して。


魔の森は自殺志願者しか来ない様な危険地帯。

精鋭たる騎士であろうとただの自殺志願者に成り下がる。


セイティネシアの周囲は彼女の力で安全だが、ふと離れた瞬間にどうなるかは分からない。

セイティネシアに魔獣は忌避感を抱いても、その他の人間には食欲や殺意を抱き忌避感を上回るかも知れない。

そうなれば侍女は勿論、騎士であっても命は保証出来ない。


付き従わせる事は、死地に飛び込めと命じるのと何も変わり無かった。

故に、セイティネシアはついて来るなと厳命していた。


しかし、クラウスは曲がらない。


「簡単に命を捨てる気はありません。姫様を守れなくなりますから。その為の力を培ってきたつもりです。王国最強は、セイティネシア様の為に」


剣を大地に突き刺し、改めて騎士はセイティネシアに誓う。


「……世俗からも、切り離される事になるのよ」

「セイティネシア様から切り離される事の方が耐えられません」


クラウスの瞳は微塵もブレる事は無い。

揺らぐセイティネシアの心とは対象的に。


「……私は追放された罪人、貴方も共犯の誹りを受けるかも知れないわ」

「セイティネシア様は王国を魔獣の脅威から守る尊い御方です。どの様な声もセイティネシア様と御一緒出来るのであれば、私にとってそれは英雄への称賛と変わりありません」


微笑みながら、しかし揺るがぬ意志でクラウスは真っ直ぐ告げる。

セイティネシアには彼の姿が歪んで見え始めた。


「……私は従魔も従えられないのよ。私の近くにいれば、貴方も従えられなくなる。誹りはただの声だけじゃないわ」

「お忘れですか、私も元々従魔を従えられません。何も変わりません。この心と共に」

「私と貴方じゃ意味が違う。貴方は強過ぎて魔獣が逃げるだけ。強大な魔獣ならいつかは従えられる。従魔がいなくても王国最強、貴方には輝かしい未来が約束されているのよ」

「セイティネシア様のいない未来に、光などございません」


歪むセイティネシアの視界にも、そのクラウスの姿はハッキリと見えた。


「どうか、セイティネシア様の幸せを私に守らせてください」


クラウスはセイティネシアの手を取る。


「守るだけじゃない。一緒に築いてくれるのなら」

「お任せを」


クラウスの唇がセイティネシアの手の甲では無く、唇に触れた。


この日、二人の主従の誓いは、別の誓いへと変わった。



暫し抱き合っていた二人であったが、古城はロマンスの舞台では無くサバイバルの舞台に相応しい有様。


職業柄、どんな状況下でも冷静な判断が出来る二人は、こんな時にもその能力を発揮してしまい、生活環境の構築を始めた。


セイティネシアは引き続き建物内の清掃を、クラウスは重い家具などを外に運び出す。


「中の物は全て外に出しますか?」

「ええ、家具は収納袋に入れて持って来ているから、全部無くて大丈夫。古過ぎて危ないと分かった事だし、取っておくにしても後でちゃんと調べてからにしましょう」


古いを通り越して遺跡な建物を掃除するのは重労働であったが、初めての共同作業、そう意識していた訳ではないが二人は楽しそうに片付けてゆく。

セイティネシアは踊るように魔法を使い、真面目に騎士として従者の顔を保っているクラウスも数百キロの鉄製品を担ぎながらも飛び跳ねる様に軽やかに肉体労働をしていた。


「クラウス、婚約者はどうしたの? もし黙って来てしまったのなら、謝罪して賠償金や新しい婚約者の斡旋をしないと」

「元よりおりません」

「引く手数多なのに?」

「セイティネシア様、私を高く買っていただけているのは有り難いですが、その様な話が舞い込んだ事はございません」

「なら良かったわ。従魔が絶対的な価値観なのも、この時ばかりは感謝ね」

「心より感謝しております」


話も職業病か、政治的な話が混ざるがそれも二人は楽しそうに言葉を交わす。


「近衛騎士の引き継ぎは?」

「元々セイティネシア様の専属騎士ですので、大きな支障は無いかと。従魔が私に恐怖を感じる事から、騎士団の指揮や集団戦法での役割を担っていた訳でもありませんし、大きな穴は無い筈です」

「家の方は大丈夫なの?」

「優秀な弟がいますから」

「そうだったわね。御家族には伝えてあるの?」

「はい、行けと言ってくれました。姉には伝える暇があったらさっさと行きなさいと蹴飛ばされました」

「ふふ、あの方らしいわ。家が片付いたら、早速お手紙を書きましょう」


やはり追放され地位を返上しても、どこか前職が抜けない会話になるが、二人にとっては楽しく話が弾む。

掃除中でなければ踊っていたかも知れない。


「お手紙はどうお届けいたしましょうか? 私はセイティネシア様から離れたくないのですが」

「小物転送の魔法道具を持って来たから問題ないわ。それに、この古城には王国最大規模の転送魔法陣があるらしいの」

「エドゥルガンド大要塞陥落時に、多くの人員を退避させる事に成功したと伝わる転送魔法陣ですか?」

「ええ、宮廷魔導師に確認したら、瓦礫か何かで塞がっているけどまだ動いているらしいの。片付ければ色々と送れる様になるわ」

「それは素晴らしい。セイティネシア様への贈り物を用意出来そうです」

「あら、楽しみにしているわ」


会話は弾ませつつも、二人はテキパキと片付けを続ける。

そして日が傾く前に、掃除は終わった。


「暗くなって来た事だし、先に灯りを付けましょう。魔力灯を持って来たから、クラウスが取り付けてくれる」

「お任せください」

「あっ、でも、どうやって魔力灯を上に届かせましょう。梯子は持って来ていないわ」

「それでしたら、先程外に出した物の中に鉄の梯子がありました。お持ちします」

「大昔の梯子なんか、危険よ?」

「ご安心を、修理する事は出来ませんが、魔力で強化する事なら出来ます」

「その手が有ったわね」


クラウスは鉄梯子を軽々と持ってくると魔力を流しながら登り、セイティネシアは梯子を支えながらシャンデリア型の照明器具をクラウスに渡す。

クラウスは手早くシャンデリアの吊り下げ鎖を手早く梁に通すと止め金を固定する。


「ありがとう。じゃあ、――光よ(リーエ)――」


セイティネシアが光を意味する呪文を唱えるとシャンデリアに白い灯が灯る。

魔力の流れも確認するとセイティネシアは微笑んだ。


「大丈夫そうね。ちゃんと周囲から魔力を吸っているわ。これなら他の魔法道具も置けるわね」

「私も色々と歴史書を読み漁ってきましたが、この大要塞は魔力が豊富な地脈の上に造られたそうです。私達二人が必要な分であれば、幾らでも魔力を使えると思います」

「それなら、良い畑も作れそうね」

「転送魔法陣が無事でしたら、苗を取り寄せましょう。力仕事でしたら、お任せを」

「ふふ、期待しているわ」


自給自足のサバイバルではなく、静かで穏やかな生活を望んでいる二人は照明器具と同様に協力しながら次々と魔法道具を設置する。


大小様々な照明の魔法道具、気温調整の魔法道具、水を生成する魔法道具、トイレの魔法道具、収納袋とほぼ同質の効果を持つ保管庫の魔法道具、コンロやオーブンなど調理系の魔法道具などなど。

魔法道具は全般的に非常に希少で、作製出来ずダンジョンなどでしか発見されていないものも多い為、デザインは統一されていないが、それでも二人で相談しながら実用性のみならず過ごし易い雰囲気の空間になるよう配置してゆく。


そして日没前には装飾という点を省けば、下手をすれば王宮を上回る質と快適さの空間がある程度完成した。

これだけ魔法道具が置かれた場所は王国中を探しても無いかも知れない。


「改めて見ると、凄い価値の家になったわね。ゴールデンスミスの金庫の中よりも豪華かも知れないわね」

「ええ、これも従魔がいない恩恵ですね」

「あら、またこの力に感謝しなくちゃ」

「正しく、セイティネシア様のお力は祝福です」


セイティネシアが王宮からそれ程の魔法道具を持ち出せたのは、クラウスの言う通り従魔のいない恩恵だった。

と言うよりも、従魔がいる者は魔法道具を十全に使い熟せない為、希少で便利であっても簡単に下げ渡されていた。


従魔を従えるにはペットを飼うのと同じく餌を必要とする。

その餌となるのは、基本的に使役者の魔力。地脈の魔力も吸うが、住民とほぼ同数の従魔に対しては雀の涙程でしか無く、通常の食料も食べれるがそこまでの食料供給は無かった。


加えて、テイマーや調教師、召喚士らはただ従魔を従えているだけでは無く、従魔との繋がりで従魔を強化する事が出来る。

その繋がりとは基本的に魔力を通したものであり、日頃からそのやり取りをする程に繋がりは強まる。

故に、金銭に余裕のある者も含めて、従魔の餌は魔力を常に与え続けるのが主流であった。


発動に魔力を必要とする、特に継続的に魔力を必要とする魔法道具は希少であっても王国では不用品でしかない。

魔法道具にしか出来ない機能を備えたものであれば重宝されているが、セイティネシアが持参してきた日用品として使える、日用品でしかない魔法道具の需要は皆無だ。


一方で、セイティネシアとクラウスには魔力の制限など一切無い。

また、エドゥルガンド渓谷は魔獣が跋扈する危険地帯であり、その餌となる魔力も豊富、古城はその中でも魔力が多い地脈の上にある。

セイティネシアは当初、自分の魔力で魔法道具を使おうとしていたが、その必要すら皆無であった。


結果として、今の二人の住居は王国一の快適かつ便利なの空間と言っても間違いではないだろう。



「もうこんな時間だし、夕食を作りましょう」

「セイティネシア様、お任せを」

「あらクラウス、貴方って料理が出来たの?」

「いえ、ですがセイティネシア様のお手を煩わせる事など出来ません」

「もう私は王女じゃないのよ。そんなに畏まらないで。私が作るわ」

「あの、セイティネシア様はお料理の経験は?」

「……無いわ」

「二人で作りましょう」

「そうね……」


実のところ、クラウスに手料理を振る舞いたかったセイティネシアであったが、クラウスに指摘され結局二人で料理を始めた。


「斬るのでしたらお任せください」

「じゃあシチューを作るから人参と玉ねぎ、じゃがいもをお願い」


そう言ってセイティネシアは収納袋からまな板と野菜を取り出した。


「畏まりました。ハァッ!」


クラウスは洗いもしていない野菜に剣を振り下ろす。

野菜はまな板ごとバラバラに斬られる。


恐ろしい事に、セイティネシアはそれに何も疑問を抱かずホワイトソース作製に取り掛かる。

鍋に牛乳をジャボジャボと入れ、最大火力、そこに小麦粉をドバっと入れた。

舞った小麦粉の一部が小規模な粉塵爆発を起こす。


「お料理も御上手だとは」

「あら、貴方は御世辞が上手だわ。私なんてまだまだよ。それに貴方の方こそ斬るのが上手だわ」


二人共、入り口にすら到達していないがこんな所でやっと恋は盲目を発揮して、ナニカを作ってゆく。


その後も何故か焦げかけの牛乳に浮かぶ小麦に油を注ぎ、ワインを注ぎ当然のように発火、にも関わらずこれまた何故かそこに斬った野菜をまな板ごと加えて更にファイヤー。

更に思い出したように形がまだ分かるほぼ解体前の魔獣肉を投入、しようとして当然入らず鍋の上に。


料理と主張すればどこからか訴えられそうな、邪悪な儀式的なナニカが進行してゆく。


そして炎が収まると、二人はこれまた何故か料理の成功を確信した。


肉塊を退かして鍋を除くと中には焦げた謎の物体。

しかしそんな些細な事を二人は気にせず、炎に呑まれていた肉塊を切り分け、皿に盛る。


シチューを作っていた事は記憶の彼方らしい。


「いただきましょう。これからの幸福に」

「これからの幸福に」


ワインを注いだグラスで乾杯し、新生活初めての食事は始まった。


まな板や野菜、ワインのスモーク等が効いたのか奇跡的に及第点の味になった肉塊を、味や焼き加減はどうにかなっても切り分けただけの肉塊を二人は上品にフォークとナイフで食べ進む。


作った肉塊よりもデザートに出したケーキの方が何十倍も美味しかったのは二人だけの秘密だ。


後片付けは魔法でも出来るが一緒に食器を洗いたかった二人は洗濯板のような道具でガッチャンガッチャンと洗い、最後は結局魔法で洗い、それでも二人は終始楽しそうに寝る時間を迎えた。


「さあ、クラウス、こっちへ」

「わ、私は扉の外の床で結構です!」

「寝具は一つしか持って来ていないの。風邪をひいてしまうわ。その状態で私を守ってくれるの?」


その先、どうなったかは、朝にクラウスが産まれたての子鹿のようだったとだけ言っておこう。


兎も角、その日から二人のかけがえのない日々は再び初まった。




干涸ら…、疲れが出たらしいクラウスよりも一足早く目覚めたセイティネシアは、水を飲みにベットを出た。


辺りはまだ暗く、太陽は無いが空の端は微かに明け始めている。

曙よりも少し早い時間。


水を飲み、まだ冷たい風で目覚めた彼女は外に出た。

星はまだその存在を主張しているが、目が慣れなくとも周りの景色が分かる。


色々な事があった。


たった一日、それだけで。


人生は一転し、また一転した。


全てを失い、全てを手に入れた。


彼女はまだ見ぬ太陽の方向を眺めながら思い返す。


前に、人生が一変した、そう感じたのはいつだっただろうか。


それは未だ忘れもしないあの日だ。

初めて、召喚魔法を使った日。


幼い時、生まれた時から魔獣からも従魔からも避けられて来た。

でも、召喚魔法の才能もあった。

だからその日までは信じていた。

召喚魔法を使えるようになれば、自分にも従えられる魔獣が現れると。


でも、初めて召喚した小鳥の魔獣は恐怖を顕にして逃げて行った。

その時の顔は忘れられない。


何より、周りの、父や母の悲しそうな顔は忘れようとしても忘れられなかった。


「ふふ、やっぱり駄目ね。今は幸せなのに、未練は消えないわ」


おもむろに人差し指を突き出すと、緻密な幾何学模様と文字を宙に刻んでゆく。

毎日欠かせず、時間が有れば練習してきた、しかし何時からか実際に発動する事は無くなった、それでも学び続けていた召喚魔法。


「でしたら、晴らしましょう。その未練を」


そっと上着をセイティネシアにかけたのはクラウス。


「何も終わってはいません。今日からまた、始まったのです。全てはセイティネシア様の御心のままに」

「そうね、何も終わってはいないのよね」


人生は一変した。

一度全てを失った。


過去は全て捨てなければいけないと思っていた。

人生だけじゃない、自分も変わらなければと。


でも、何も終わってはいない。

途切れた訳でもない。


人生は何度変化したとしても続いている。


失ったのなら、また手に入れれば良いだけ。


「――我は魔を従えるもの 我は善に従うもの 我が求めに応じ 異界を通じ我が前に参じ 魔よ善に転じよ――“サモン”」


詠唱により画かれた魔法陣は発光し広域に展開、光の中から赤いドラゴンが現れる。


そしてそのまま、魔の森の方向へ飛んで行く。


「お見事です。ドラゴンを召喚した方など、ここ百年周辺諸国も含めて居られません。卓越した召喚魔法です」

「でもやっぱり逃げられたわ。それじゃ意味ないわ」


そう言うセイティネシアの顔に悲壮感は一切無い。

寧ろどこか楽しそうにそう言う。


「それでもドラゴンを確かに召喚出来ました。何れはセイティネシア様のお力にも動じない強大な従魔を召喚出来る筈です」

「そうね。貴方も、いつかきっと」


二人は前を見続けようと誓った。


これはそんな二人の穏やかで平和な日常譚


《経験値を獲得しました。

ステータスを更新します》


、では無く数多の世界で語り継がれる事になる偉大かつ強大な大英雄の英雄譚。


後に【怠惰な召喚士】と呼ばれる大英雄の物語。


《“召喚士”のレベルが12から30に上昇しました》


「あら?」

「どうなさいましたか?」

「今、職業レベルがレベルアップしたみたいなの」

「おめでとうございます。強大なドラゴンを召喚しましたので、それが大きな経験値となったのでしょう」

「なるほど、そう言う事ね」


穏やかに笑い合う二人はまだこの時には気が付かなかった。


セイティネシアは、レベルアップについてそこまで詳しくない。

ジョブはそのジョブの行為、例えば召喚士であれば召喚魔法を使う事でレベルアップするが、それは基本的に緩慢で歳を重ねるくらいの感覚であったりする。

ジョブのレベルアップで身体能力が上がったりするが、従魔が力仕事をする彼の国では身体能力の上昇を実感できる事が少ない。

スキルの方が分かりやすく出来る事が変化する為、あまりハウネリーエ王国では意識されていなかった。


例外は戦闘従事者。

職業レベルは魔獣を倒す事で、日常生活と比較すれば劇的にレベルアップする事が出来る。

クラウスはレベルの上がり幅を聞けば異常だと分かっただろう。しかし祝福する気持ちが先行し、そもそも良識的に1レベル上がったのだろうと無意識下で判断した彼は聞かなかった。


故に二人は気が付かなかった。


レベルの上昇は、召喚されたドラゴンが引き起こした事に。

それも召喚に成功した事に対する経験値によってレベルアップしたのではなく、ドラゴンが魔獣を狩った事によってレベルアップしたとは気が付かなかった。


いや、二人が偶然気が付かなかった訳では無い。

他の人物が聞いてもその答えには辿り着かないだろう。


これは史上初の現象であった。


使役もしていない魔獣が得た経験値を召喚者も得られるとは誰も想像した事も無かった。


そもそも召喚魔法とは魔法に近い存在であり物理法則の拘束が緩い魔物を距離を無視して引き寄せる魔法。

しかしそれ故に制約もある。

召喚魔法には魔物との縁が、繫がりが必要だ。

魔法としての性質を最大限に利用する為、概念的な面が強く作用してしまう。

そして魔物の最も大きな概念的な要素とは人類の敵。人類という要素と反発してしまい、その反発は術式に対しても反発として現れる。

その反発を抑える為に、召喚者と魔物は少しでも近い存在である必要があった。


故に、使役に失敗すると召喚された魔物は直ちに元の座へと送還される。

失敗した時点で、引き寄せた縁は反発に傾く為に。


だから、そもそも従魔契約に失敗した魔物が付近で暴れる事など通常はあり得ない。


しかし、セイティネシアが与える忌避感は逃走という念を魔物に植え付け、結果的に送還の効果を有する術式からも逃げると言う結果を生んだ。

そして魔物が暴れるのはセイティネシアが引き起こした攻撃魔法に近い状態となり、彼女に経験値が入るようになっていた。


《経験値を獲得しました。

ステータスを更新します。

“召喚士”のレベルが30から33に上昇しました》


加えて召喚されたのは強大なドラゴン。

魔の森の基準においても強者であるドラゴンは、人間からしたら十分に強者な魔獣を忌避感による恐怖や恐怖を感じた事による怒りで狩り取り、セイティネシアは通常ではあり得ない速度でレベルを上げてゆく。


「さて、早いけれど二人共起きた事だし朝ご飯にしましょうか。それとも、ベットに戻る?」

「あ、朝ご飯に致しましょう! 朝日を見ながらの朝食は格別です!」


実は起きた時から産まれたての小鹿のようだったクラウスは即座にそう応え、ぷるぷる震えつつも薪を集めに行った。

魔導コンロの存在には思い至らなかったらしい。


薪を使った朝食は、クラウスが野営の訓練を騎士として行っていた事により夕飯とは異なり上手くいった。


後世の歴史家が紐解けば英雄譚が始まった歴史的な時間。


「綺麗な朝日ね」

「ええ、新たな始まりに」

「新たな始まりに」


しかし、二人にとっては穏やかな日常の始まりだった。






魔の森、そこは魔力的特異点。

汚染された莫大な魔力が集まる呪われた地。

かつて魔物の王、魔王の軍勢と人類王の軍勢がぶつかり合い相討ちとなった神話の土地。

もはや当時の話など歴史ではなく神話の中にしか存在しない。


故に人類は知らない。


魔の森の先には何があるのかを。


だが魔の森の先の存在は忘れもしない。

その先に人類が存在していると。


『進捗状況はどうだ』

『問題なく進んでおります』


何故ならそこにいるのは人魔大戦の生き残り。

人類の当事者が息絶え、神話に記憶が埋もれても魔族には生き残りがいた。

当事者が人類の存在を忘れる訳もなければ、悪意を捨てる事も無かった。


『十万年前の恨みを晴らす先陣を任されたのだ。失敗は許さない』

『ガリプルデスの支配に抜かりはありません。ご安心を』


魔族の見る際には怪しく輝く黒い魔法陣と、その中央に眠る溶岩の様な身体を持つ巨大な蜘蛛の様な、蟹のような、蠍のような化け物。

ガリプルデスと名付けられた魔の森でも広い縄張りを支配していた凶悪な魔獣だ。


魔族が十万年もの間、動かなかったのにも理由がある。

それは人類よりも増えるのが遅い魔族は立て直しに時間がかかったと言うのもあるが、一番大きな要因は魔の森の存在だ。

魔族も自分達に従わない、強大な魔獣が跋扈する魔の森を進軍するのは不可能だった。


しかし密偵がもたらした人類側の状況より、魔獣を蹂躙するまで力を高めるのでは無く、魔獣を利用しようという策を見出した。


その結果、その先陣が魔法陣の中で眠るガリプルデスだ。


『十数年前、突如支配していた魔獣の術が解け暴れ狂ったが、今度こそ問題ない様だな。まあ、あれだけ魔力を用意すれば失敗する方が難しいか。よし、ガリプルデスを目覚めさせろ』

『ガリプルデス、”覚醒せよ“!』


魔法陣が吸い込まれるようにガリプルデスへと消え、無数の目が開き、地響きを立てて小山のような巨体が起き上がる。


『手始めにその力を見せてもらおう。粉砕せよ』


魔将モルドリッゼは偶々目に入った赤い鳥を指して命じた。


ガリプルデスは全身から鋭い岩を生やすと、ミサイルのように射出。

赤い鳥、にモルドリッゼからは見えた赤いドラゴンに岩が飛来する。


それを見たドラゴンは怒りの咆哮を上げた。

魔力の籠もった叫びは熱と暴風を帯び、飛来した岩は全て焼かれ消し飛ぶ。


ここでモルドリッゼは初めてとんでもない事態に気が付くが、もう遅かった。

モルドリッゼには空が紅く染まったように感じた。次の瞬間には轟音と熱波。

吹き飛ばされながら見た光景は、次々と焼き払われてゆく木々。


そして、半分以上が消失したガリプルデス。

置物のように倒れ、マグマになった大地に沈んでゆく。


『ば、馬鹿な…、ランク9のガリプルデスが一撃で……、かつての魔王城に匹敵する守りが、一瞬で……』


ガリプルデスは魔将が放心してしまったように、人魔大戦時に存在していた魔王の本拠地、魔王城並みの堅牢さを有していた。


元々ガリプルデスは無理矢理通常の生物に当てはめるとヤドカリの魔獣、その殻は非常に硬い。

それに加えて使役時に殻を纏う習性を応用して硬い外装を用意し纏わせていた。

その結果が難攻不落の要塞並みの防御力だ。


そもそも魔獣のステータスにあるランク、それが9と言う時点で都市国家を滅ぼす脅威とされている。

他の脅威の指標で示すと、下から9番目、震度6強相当の脅威だろうか。

このレベルの脅威となると広範囲に甚大な被害をもたらす、正しく天災だ。


ガリプルデスはそんな天災級の魔獣の中でも守りに比重が偏った存在だった。

しかし、単に敗れるどころか一撃で半身以上が消失させられた。

直撃していない場所も地形が変わってしまっている。


『明らかな格上、ランク10…、いや、ランク11以上……、何故、そんな存在が、何故、気が付かなかったのだ……』


ランク11とは、もはや推し量れる脅威では無い。

震度7の地震と同等の天災級の脅威ですら無い。

地方どころか国家の枠に収まらない世界規模の破滅をもたらす存在だ。


十万年近く生きる魔将モルドリッゼにもその力は推し量れなかった。

赤いドラゴンはランク11かも知れないし、それ以上に強大な存在かも知れない。魔王に匹敵している可能性すらも否定は出来ない。


だからこそ、驚愕するのみならず理解できなかった。

これだけ強大な存在が近くにいれば分からない筈がない。その痕跡は見逃す方が何十倍も難しい筈だ。

数十年以上、この一帯で活動していたにも関わらず、その存在に気が付かないなどあり得ない。


モルドリッゼは赤きドラゴンが彼方に姿を消しても、立ち尽くしたままであった。


こうしてセイティネシアによって王国の危機、いや人類の危機が一つ排除されていたのだが、当の本人は何も気が付いてはいなかった。






一方その頃、セイティネシアを追放した王城では、彼女の妹、現王位継承第一位ミラティネア王女が公務に追われていた。


処理しても処理しても書類は積み上がり、山が一つ二つと増えてゆく。

ミラティネアのみならず、文官達も走り回っていた。

元々はこんな事にはなっていなかった。

それに対してミラティネアは怒りをぶつける。


「何で認めないの!? お姉様を追放したのは間違いだって! お姉様がいなければ国は回らないのよ! 従魔がいないってだけで何よ! お姉様は誰よりも努力して、国を回していたのよ!」

「そ、それは……」

「セイティネシア様も、お認めになった事でして……」

「そんな訳無いじゃない! きっと泣いていらっしゃるわ!」


オロオロと認めない文官達にミラティネアは更に声を張り上げた。


姉が大好きなミラティネアであったが、彼女の言う事は客観的で正しかった。

セイティネシアがいなければ国は回らない。

いや、一部正しくは無い。

セイティネシアがいなければこれまで程の発展は見込めない。


別にミラティネアと文官達が無能な訳では無い。

優秀な方と誰もが認める実力はある。

でなければ国政にセイティネシアの二つ下、十三の少女が関われる筈がない。

しかしセイティネシアは彼女達よりもこの国の為政者として遥かに優秀であった。


この国が従魔の国であったから。


従魔を従えられないセイティネシアは誰よりも従魔について調査し、誰よりも従魔に関して熟知していた。

従魔を従えたテイマーには分からない視点で。

それはどれもセイティネシアが従魔を従える結果には繋がらなかったが、テイマーと従魔達にとってはより力を発揮できる環境造りに繋がった。


そして固有スキルのせいで出歩く事も難しい彼女はする事がないと、進んで公務を引き受けていた。

近年の改革などではその大部分にセイティネシアが関わっている。


そのセイティネシアが抜けた穴は大き過ぎた。


「特に許せないのはリゼルトアリス公爵公子よ! お姉様と婚約破棄するなんて! しかも無い事を捏造して、お姉様に冤罪を被せて! 断罪よ断罪! 必ず断罪して最近流行りのざまぁとやらをしてやるわ!」

「お、落ち着いてください」

「落ち着いているわ! まずは法改正よ! 不倫男には罰則として去勢! クズ男の不倫の証拠を見つけて必ずちょん切るわよ!」

「殿下、お気を確かに!」

「そ、その様なお言葉、お控えを」

「誰よりも正気よ! 少なくとも、お姉様が冤罪で追放されても平気な貴方達よりはね!」

「「「うっ………」」」


思わず内股になりつつ、文官は反論できない。

文官達も知っていた。セイティネシアは冤罪で追放されたと。本当の理由は固有スキルが従魔に影響を与えてしまうからだと。

そして文官達は、セイティネシアを追放した共犯側だった。冤罪だと初めから知っていたから。それを認めてしまったから。

文官達は優秀な故に、セイティネシアが居なくなる利益を優先してしまっていた。


「それにこれはお姉様の慈悲よ! お姉様はクズ男であってもその死を悲しむわ! だから公開処刑じゃなくて公開去勢で許してあげるの!」

「「「こ、公開、去勢…………」」」


しかし、予想外の断罪プランに思わずフリーズしてしまった。


「流石にそれは国の品性が!」

「世界史に残ってしまいます!」

「どうかご再考を!」


そしてフリーズしている場合では無いと無理矢理動いて必死に訴える。

これも国政が大きく滞る原因の一つであったが、兎も角総じてセイティネシアが居なくなった穴は大きなものだった。



そして、国王の執務室では更に大きな混乱が起きていた。

執務室の前には長蛇の列。

全て、セイティネシアが追放された事により生じた事案や、セイティネシアが追放された事そのものに抗議しに来た者達だった。


「陛下、レルトゥアン王国のサキュラ第二王女殿下より書状です。書状によりますとサキュラ第二王女殿下はセイティネシア様の名誉の即時回復と追放の取り消しを求めております。連盟でレルトゥアン王国の貴族令嬢達の署名もあります。つきましては調査団を派遣したいとの事です」

「……こんなにも早く情報が伝わっておるとは。かの国にはセイティネシアが数週間短期留学しておったが、まさかそこまで関係を深めておったのだな」

「ウルガニア公国からも同様の書状が。差出人はエルマ公太子妃殿下です。こちらは既に調査団を出立させたと」

「リュシュアガン帝国のセルシア皇太后陛下からはセイティネシア様を引き取るとの強い要望と、陛下へのお強いお言葉が数十枚の書状にびっしりと書かれております」

「御祖母様からもか……。こちらから出した手紙は?」

「まだ届いていないでしょう。各国とも、緊急用の魔法道具で連絡してきました。情報源も、おそらく各国大使館から緊急用魔法道具で伝えたのでしょう」

「くっ、セイティネシアの影響力をあまく見ていた。後から手紙が届いては時間稼ぎにしか受け取られないであろう。調査団は、受け入れるしかあるまいか…」


セイティネシアの追放は、国内の事業等が滞るのみならず、国際問題に発展しかけていた。

彼女はその身に宿す力から、頻繁に外に出る事は無いが各所から慕われていたのだ。


何故なら、周辺諸国も従魔を国の基礎としていたから。

セイティネシアは従魔が近付きもしないからこそ、誰よりも従魔の扱いに関して研究していた。どうすれば懐いてくれるのか、どうすれば力を発揮できるのか。

従魔を手に入れられないからこそ、従魔が懐かないなどの悩みに真摯に向き合い、解決策を教え、自分達よりも深刻な状況下でも前を向き努力し続ける。


そんなセイティネシアは触れ合った人々の多くから非常に慕われていた。

一部では崇拝に近い感情すら抱かれていた。

国際問題に発展する程に。


当然、国内からもそんな声が大量に届いている。

そして別の問題も。


「報告いたします! 王国最強と名高い近衛騎士クラウス様が出奔いたしました! 辞表からセイティネシア様を追いかけ魔の森に向ったのかと!」

「リゼルトアリス公爵嫡子リオン様がクラウス様の抜けた穴を塞ぐと申し出ておりますが、如何なさいますか?」

「リゼルトアリス公爵嫡子リオン? これも折り込み済みか。まあ良かろう」


ハウネリーエ国王ロトテルム八世はもはや笑い出してしまいそうだった。

かつて、ここまでの激務に、いや大事に遭遇した事はあっただろうか。王太子時代からそんな経験は無い。

それがまさか、セイティネシアによって引き起こされるとは。


しかし、その国王の想定していた激務を遥かに超えて、日を幾つか跨いでもこの騒動が収まる事は無かった。


そして真の国難は、すぐそこまで近付いていた。

だがこの時はまだ、その予兆すら誰も感じ取ってはいなかった。





セイティネシアとクラウスが魔の森の古城で暮らして早一月、古城は様変わりしていた。


南面では崩れかけていても高く厚かった城壁が完全に崩れ、いや消し飛びその外には湖が広がっている。

これはセイティネシアとクラウスが造った、造ってしまった湖だった。


毎日召喚魔法の練習をしていたセイティネシア。

時にその時召喚された魔物が逃亡ついでに城壁をぶち抜き、城壁が壊れて外が丸見えだから万が一にも建物を壊さないそこで普通の魔術の練習をしようとレベルと共に出力が上がった魔術で地形をぶち抜き、クラウスもそこで鍛錬しようと更に地形をぶち抜いて、いつの間にか立派な湖が出来ていた。

尚、水源は馬鹿みたいに魔力を振りまかれる環境になった事で馬鹿みたいに出力が上がった水生成の魔法道具であり、クラウスが飛ばした斬撃で湖は川まで繫がっているので排水も完璧である。


そしてその周りには無事に起動した転送魔法陣から送られて来た野菜や果物の苗が植えられていた。

農業など当然のように経験の無い二人、魔術で何とかしようとした結果、土地の魔力の影響、そして莫大に増えたセイティネシアの魔力による力技な魔術、更にクラウスがセイティネシアの為に近場で狩って来た異様に強いお肉の骨等を砕いてまいたおかげで何故か上手く行き、一月で既に収穫間近の状態で湖を囲っている。


そして古城の各所に咲き誇る花々。

クラウスが取り寄せて植えたものだ。


湖岸に花々が咲き誇る中にあるこれまた花に包まれた古城、実際は地面をぶち抜いた穴に溜まっただけの水であったり、花の事は詳しく知らないけれど愛する人の為に取り敢えず植えまくっただけの花、そして単に打ち捨てられていたオンボロ古城であったが、奇跡的に観光客が集まるくらいの景観になっていた。


だが、奇跡はそう頻繁に起こることでは無い。

初日の夕飯の奇跡、あれは紛れもない奇跡であった。


次の日にはセイティネシアは国への届け出が必要になるレベルの危険物体を合成していた。

その結果、クラウスは死の縁を何度も彷徨った。


セイティネシアの前で吐き出す訳にはいかず魔の森へ全力ダッシュ、そこでも結局セイティネシアの手料理を吐き出すなど恐れ多いと、苦しみを武として暴れまくる事で解放した。それで何とか気絶せずに現在のところは生き延びている。

また、料理が不味いとは言えず、更にセイティネシア本人に食べさせる訳にもいかず何度も平らげた。

その結果、セイティネシアの目の届かない森の奥地では飛び散った魔獣で悲惨な光景が作られている。


尚、その反作用としてクラウスがセイティネシアの分の食事を作っており、一月でクラウスの料理スキルがメキメキと向上していた。

セイティネシアと比べるまでも無い。


二人共メキメキと向上しているものもある。

それは物理的な強さ。

セイティネシアは毎日の日課となった召喚魔法により現れ逃げた魔物の全自動経験値稼ぎによって、クラウスは食事の度に魔獣を轢き逃げしている為に元々王国最強と言われていた実力を更に上げていた。


だが、二人同時に強くなっている事で、それも豊富な経験値で急速に強くなった事でどれ程の力を得たのか二人は気が付いていない。

のほほんと過激な筈なのに優雅に、新生活を謳歌していた。

寧ろ、王国にいた時よりも二人共穏やかな日々を過ごしている。


ただ、良い変化ばかりでは無い。


メリバキと湖の奥の木が倒れる。

そこに居たのは熊の様な魔獣。象程の巨体で毛皮の代わりに岩のような肌。ヒュージロックベアと言う魔獣だ。

ただ直進するだけで城塞都市の城門をこじ開ける怪力と、攻城兵器を跳ね返す防御力を有するランク6の魔獣である。

人里に現れたら騎士団が出動するレベルの魔獣で、国内屈指の実力者で無ければ一人では対処出来ない脅威とされる。


それが古城の近くに現れていた。

魔獣が棲息する魔境の奥地やダンジョン内ならば兎も角、人里付近であれば少なくとも地方で大ニュースになるレベルの非常事態。


しかし、二人はとても喜んでいた。


「またお力の制御に成功しましたね」

「何かしているつもりは無いのだけれど、召喚魔法の練習が効いたみたいね」


セイティネシアの魔獣を遠ざける力が制御可能となり、従魔を得るのに一歩近付いたと考えた為、町を壊滅させる様な魔獣が来ても大喜びだった。


「それっ!」


加えて、二人はヒュージロックベアを全く脅威に思っていなかった。


セイティネシアの投げた石が音を置き去りにヒュージロックベアに激突する。

速度に耐え切れなかった石は当たる前に砕け、散弾のように撃ち込まれ、ヒュージロックベアは吹き飛んだ。

木を幾つも薙ぎ倒し、幾つかの礫は貫通し、ヒュージロックベアは一撃で沈黙した。


石を投げつけるだけでランク6の魔獣を倒すなどどう考えても異常な事であったが、二人はそれに気が付いていない。

セイティネシアは戦士でないから、クラウスは魔の森に来るまでヒュージロックベアとは戦った事が無く、レベルアップしてから簡単に討伐出来た為、ヒュージロックベアを巨体なだけの弱い魔獣であると勘違いしていた。


そして何より二人は、魔獣が現れ始めた理由を勘違いしていた。

魔獣が現れたのは、セイティネシアが魔獣忌避の力を抑えたからでも、反対に魔獣との親和性が上がった訳でもない。


魔族の影響だ。


赤竜や突如現れるようになった高位魔獣による被害、加えて突如魔獣が魔の森の奥へ、魔族達が拠点とする方向へ大移動し始めた事によって魔族は確実に人類を滅ぼせる戦力を集める前に設備や魔族に被害が出始め、計画の変更を余儀なくされた。

具体的には余力がある内に使役術式の起動確認等を飛ばして魔獣の使役を開始した。

それによって魔族の捕獲の手から逃げ出した魔獣が、セイティネシアの魔獣忌避を越えて王国近辺に現れ始めたのだ。


十万年ぶりの人類存亡の危機、神話の大戦の再来を告げる狼煙。

しかし、それを知らぬ二人にとっては祝福の花火でしか無かった。



しかし、ハウネリーエ王国では違った。


国王ロトテルム八世はセイティネシア追放から一月が経過しても相変わらず激務に追われていた。

そして一部臣下はその事態もセイティネシアが居なくなった影響と考え、国王に訴えに来ていた。


「陛下! レンブルク伯爵領都レンブルクをランク7の魔獣ワイバーンが襲撃! レンブルク伯爵領軍が交戦中! 第ニ西方騎士団が援軍に出立したとのこと! 各地でも魔獣による被害が頻発しております! 国軍の八割が各所で応戦中です!」

「早急にセイティネシア様をお戻しください! これ以上、魔獣が現れれば防衛戦力が足りず対処出来なくなります!」


その内容は間違いなく国難を告げるもの。

それも多くはセイティネシアが王国を去った影響、魔獣忌避の祝福が無くなった結果だと多くの人々は考えていた。


「……ならぬ、今ここでセイティネシアが戻れば従魔の統制が乱れる。対処できているのはセイティネシアが居なくなり、従魔の力を十全に発揮できるからでもあるのだ」

「それは…、ですが!」

「加えてセイティネシアが戻っても魔獣は去らぬであろう。セイティネシアの力はセイティネシアから遠ざかる程に減衰する。元々、西部国境付近のレンブルクにセイティネシアの力は殆ど届いていなかった。ワイバーンに効果はあるまい」


幸い、一月近くもセイティネシア関連の激務を続けていたロトテルム八世の頭はフル回転しており、冷静に判断した。


「となれば、魔獣の被害拡大は別に理由がある。早急に調査が必要だ。幸い、各国の調査団が押しかけて来ている。協力を要請し早急に調査せよ」

「はっ! 急ぎ各大使館に要請いたします!」

「出動中の騎士団に追加命令を下します! 第三から第五調査団は既に調査中です!」

「魔法師部隊も既に動いております! 中央学院にも調査協力を!」


だが、動きは魔族の方が迅速であった。

本来は完全な戦力を揃えてから奇襲を仕掛けようとしていた魔族からしたら、迅速どころか鈍足も甚だしいが。


「報告いたします! 西部最大都市グルームベルトに魔族が出現いたしました!」

「「「魔族だと!?」」」


王の御前であるにも関わらず、ロトテルム八世も含めて伝令以外の全員言葉が揃った。


「魔族とは、あの神話に登場する人類の天敵か!?」

「はっ、その魔族に間違いないとの事です! 神殿に収められていた宝珠が反応いたしました! 魔族自体に鑑定は通用しませんでしたが、宝珠の鑑定は成功しており正常動作が確認されております!」

「魔獣のみならず、伝説の魔族までもが……魔族に生き残りがおったとは、その魔族がこの一連の黒幕か? 念の為、各国に援軍を要請! 最低限の戦力を残し、動ける軍はグルームベルトに迎え!」

「「「はっ!」」」


だが、国家存亡の危機は、人類の危機は始まったばかり。


「ほ、報告いたします! グルームベルト公爵軍、壊滅状態! グルームベルト公爵は都市の破棄を決定し、領民へ退避を命じました! グルームベルト公爵自ら殿を務め、時間稼ぎをしております!」

「何!? グルームベルト公爵軍がか!?」


グルームベルト公爵軍、それはハウネリーエ王国でも指折りの戦力を有し、王国騎士団でも一騎士団では敵わないとされる程に精強な軍であった。

そもそも従魔が力であるハウネリーエ王国において、より上位の爵位を持つ者ほどテイマーや召喚師の才能を持つ傾向にあり、王国の貴族の最高位であるグルームベルト公爵家には戦力として王国屈指の者が何人もいる。

公爵家の分家やその血を低く臣下を主力として構成されたグルームベルト公爵軍は王国有数の戦力だ。


加えてグルームベルト公爵家は反王族派、最近では反セイティネシア派の筆頭、派閥の長として多くの貴族達も率いている。

グルームベルトが襲撃されたとなれば、当然派閥の貴族軍も駆け付けた筈。それにも関わらず完全敗北寸前。

実質、王国軍に次ぐ、王国第二位の戦力が圧倒されたのだ。


「グルームベルト公爵はランク9のファイアドラゴンを召喚出来る王国で五指に入る実力者。世界でも屈指の実力者の一人だ。何とか持ち堪えられる筈。全軍を招集せよ! 余が率いて向かう!」

「「「はっ!」」」


ロトテルム八世は自ら率い、ハウネリーエ王国の総力で対処すると即断した。


しかし、それすらも遅かった。


「き、緊急連絡!! グルームベルト公爵は一体の魔族を討伐する事に成功するも新たに現れた魔族の軍勢を前にファイアドラゴンは撃沈!! 魔族と魔獣の軍勢は凄まじい速度でこちらに向かっているとの事です!!」

「何だとっ!? 魔族は一体では無かったのか!?」

「グルームベルト公爵は!?」

「魔族の総数は確認出来ておりません!! その数、少なくとも百以上!! グルームベルト公爵は従魔へのダメージ転移が間に合い御無事です!! ファイアドラゴンの再召喚を試みているとの事!!」


そう報告がなされる最中に、外から爆音が轟き、王城が揺れた。

窓の外を見ると、空に人間型の異形が無数に現れ、王城に向かい魔術を放っていた。


「――王国の守護神よ 災禍を振り祓い 威光を轟かせよ――“国威召喚”!!」


ロトテルム八世は即座に王笏を両手持ち祝詞を唱えた。


王冠から白金の光が王都中に広がると、王都近郊に聳え立つ霊峰レビスハウネが白金に輝いた。

そして光から白銀の竜が現れる。


プラチナムドラゴンロード、代々の王が契約を継いでいるハウネリーエ王国の切り札。

神に等しき力を有する王龍リーエテルム、その龍と人の子とされる始祖レビスハウネに父が遣わしたとされる守護者だ。

レビスハウネがこの世を去り、リーエテルムが魔王軍との戦いで没した後もレビスハウネの子らを守護し続けているとされる。


セイティネシアが王族失格とされる理由の大きな一つは、価値観以外にこのプラチナムドラゴンロードと契約出来ないと考えられているからでもある。

尚、従魔の国となった始まりもこの契約と、龍の血による竜を配下に治める力、テイマーへの適正からだったりする。


姿を現した王国の守護竜は大きく羽ばたくと風で魔術を吹き飛ばし、一瞬で王城の前に降臨した。


その稼がれた時間で城の騎士や兵士、そして王侯貴族達も従魔を喚び出す。


そして十万年振りに、再び人類と魔族の戦争が始まった。

魔族の魔術や魔族が使役した魔獣、ドラゴンのブレス等と人類の魔術、そして従魔の攻撃が次々とぶつかり合う。


発生した轟音だけで王都は揺れ、流れ弾が被弾し瞬く間に街に被害が広がって行く。


高い石造りの宿屋はドラゴンのブレスで真ん中に大穴が開けられ、炎を内部から吹き出すと提灯を潰す様に崩れ落ちた。

その宿屋の裏にあった民家は直撃を免れたものの、ブレスがその下の地面を吹き飛ばし、宙に丸ごと放り出され、クーターへと落ちバラバラに砕かれる。


城壁や王城、騎士団の詰め所も例外ではなく、直撃した部分は勿論、その付近にも甚大な破壊が振りまかれていた。


当然、被害は建築物だけに留まらない。

従魔も魔族軍の攻撃を相殺しきれず、次々と倒されている。

対して、魔族側の被害は今のところ殆ど無い。

数は王国側の方が上、しかし質は魔族側の方が数段上。弱い魔獣であっても魔の森で集めたのだから王国からしたら強力な存在しかいない。

そして魔族はその魔獣の力を大半が上回っている。


プラチナムドラゴンロードすらも劣勢。

その巨体から魔族と高位魔獣の集中攻撃を浴びてもはや爆炎で姿が見えない。

姿が見えない故に、白銀のブレスは魔族の軍勢に殆ど当たっていなかった。

王城を守るので精一杯。


王城もプラチナムドラゴンロードの守りをすり抜けた攻撃により、甚大な被害が広がってゆく。

数百年前から聳え立つ高い尖塔は魔族の斬撃で斜めに切られ崩れ落ち、高度な技術力により造られた広間の広いドーム天井は暴風で剥ぎ取られ周囲の窓やステンドグラスを破壊している。

この国特有の巨大かつ頑丈な従魔館、従魔の控える宮殿の一つも各所が爆砕され、ゆっくりと崩れ始めていた。


そして、戦力である従魔の統制も、プラチナムドラゴンロードの劣勢で弱まっていた。


「やはり、間違っていたんだわ。お姉様を追放した以前に、この国の従魔至上主義は。ワイバーンをテイムしても、そのワイバーンはワイバーンロードに立ち向かわない。上位魔獣が相手では元々従魔が怯えない程の力が無ければ戦力にならない。従魔一辺倒なんて、間違っていたのよ。従魔だけじゃ、国は守れない」


滅びゆく王国を眺めながら、ミラティネアはそう呟く。


「その通りだ。ミラティネアよ。この国は自らを高める事を怠った。従魔は力だ。しかし、自らでは無い。従魔のみを頼りにしては、自らの勇気や意志の力で苦難を乗り越える事が出来る筈も無いのだ。幾ら高い志を有したとしても、従魔が逃げたければ逃亡するしかなく、従魔が勝てないと思えば勝てない。最後は従魔の意志で全てが決まってしまう。その結果がこの結末だ」


同じく滅びゆく王国を見つめる王、ロトテルム八世が同意する。


「御父様…、そう思うなら何故、お姉様を」

「余も人間、そして王、娘の意志と国益には逆らえなかった。セイティネシアは生き辛い筈のこの国でも、最後までこの国の事を思っていた。同時にこの国から解放されたいと望んでいた。父として、王として止められなかったのだ」

「…お姉様が、追放を望んで?」


隠していた心内をロトテルム八世は娘に明かした。

そして真実を告げる。


「ああ、全てはセイティネシアが計画した事だ。でなければ、真に国が割れていたであろう」

「大臣達王国の上層部が、お姉様が全く何も言わなかったのはそんな理由が…。でもそれなら何で私に」

「どんな理由があろうと、お前は反対するであろうからな。であれば、対外的に追放されたと言う事が発表出来なくなる可能性があった。追放とした方が、国の体面が守られると考えたセイティネシアのシナリオだ。そうでもしなければ魔の森へも行けぬからな」


そう言うロトテルム八世の唇は優しく微笑んでいた。


「今思えば、良かったと思っている。セイティネシアはこの災禍を逃れられたからな」

「そんな、良かったなんて! お姉様は、それでも悲しんでいる筈よ! お姉様は、皆と離れ離れになったのよ」

「心は繋がっておる。お前も毎日、いや毎時のように手紙を送っておろう。皆も同じだ」

「リゼルトアリス公爵公子は!? お姉様はあの人を本気で愛していたわ!」

「もうお義兄様とは呼ばぬのか? それも問題なかろう。きっと…」

「きゃっ!」


遂に魔族の攻撃がロトテルム八世達のいる王城の中枢にも届き始める。


「お前は皆を連れて早く逃げよ。運良くちょうど転移魔法陣がセイティネシアの元へと繋がっている。今この国で、セイティネシアの元が安全な筈だ」

「御父様は!?」

「余はこの国の国王、この国の最期を見届ける必要がある。行け!」

「御父様!!」


近衛にミラティネアは連れられて行く。



しかし、一歩遅かった。



壁が爆散し、魔族がそこに現れた。

魔族の背後では、プラチナムドラゴンロードが光となって消えて逝くところであった。


「貴様がこの国の王か?」

「如何にも、余がこの国の王、ロトテルム八世である!」


ロトテルム八世は王笏を構え、ミラティネア達の前へと出る。


「光栄に思うが良い。貴様の死とこの国の滅亡が、人類滅亡の狼煙となる」

「余の死如きで、人類は揺るがぬ。滅びるのは汝ら魔族だ!」

「ふん、死ね」


魔族は掌から破滅の光線を放った。

ロトテルム八世は王笏に魔力を込め、白銀の結界を展開する。

だが、すぐに結界には亀裂が広がる。


「よもや、ここまでか…」


その時、魔族に横から斬撃が飛んで来た。


「何っ!? ぐっ!!」


魔族は咄嗟に結界を展開するも、一瞬で破られ激しく吹き飛ばされた。

それだけでは無い、背後にいた魔獣までも裂かれ斬られ吹き飛ばされている。


「…この力、貴様がこの国の最強、切り札と言われるクラウス・フォン・リゼルトアリスか?」

「いや、今はただのクラウスだ。次期当主の座も嫡男の座も弟に譲った。今はセイティネシア様お一人をお守りするただの騎士だ」

「お義兄様!」


そこに現れたのはクラウスだった。

頭には二本の角が生え、手を見れば白銀の鱗に覆われているが間違いない。


「無事? ミラティネア、御父様も」

「お姉様!!」


そしてセイティネシアもいた。


「どうしてこちらに!?」

「王都の方向から煙が上がるのが見えたのよ。レベルアップすると、目も耳も良くなるみたい」

「そんな、危険です!!」

「大丈夫よ。クラウスが居るから。それにクラウスは、私を置いては行けないと言うのよ」

「お任せください。傷一つ、お付けさせないので」


クラウスは剣に魔力、そして竜気を込めて振るう。


「“竜王の爪”」


剣から放たれた五つの斬撃は触れたものを斬るのみならず粉砕し、広範囲の敵を一太刀で殲滅した。

全長百メートルはあるランク10のマウンテンドラゴンも、数多の戦士達が挑んでも傷一つつかず百年間眠ったままだったと言う伝説が残る同じくランク10のアダマントタートルも、その他の高位魔獣も一撃で倒れ、もしくは致命傷を負った。


これが始祖返り、固有スキル【竜王】を有するクラウスの力だ。

見かけは年齢通り十五歳の少年であるが、その内に秘める力は経験値も稼いだ今、正しく竜の王だ。


しかし率いるは十万年前より生きる神話の存在、六柱の大魔将と十一柱の魔将。

大魔将は勿論、魔将もそう簡単には倒れない。


「その力は知っている。十万年前に戦った。既に対策済みだ。その力は各ステータスを大幅に向上させる。莫大な生命力と魔力も得られよう。しかし、それだけだ。“腐蝕血散”! 毒には耐えられまい」


大魔将モルドゼッグの体から赤黒い触手のようなものが伸びる。

クラウスは斬り払うが触手は霧のように広がり、クラウスを呑み込む。


だが、クラウスに変化は無かった。


「な、何故だ!? なぜ効かぬ!?」

「愛だ」

「あ、愛、だと?」

「体が内から抉られ、引き千切られそうになっても、溶けてしまいそうになっても、受け容れられ続けられる。それが愛だ」

「何を訳の分からぬことを…」


愛(セイティネシア手製の劇物、普通にそこらのカラフルなキノコとか高位魔獣の紫色のモツとかも入っている)を毎日三度、場合によってはそれ以上も受け容れ続けて来たクラウスにそんなもの(神話の化物の龍をも滅ぼす毒)が効く筈など無かった。

愛とは凄まじいものである。


「くっ…」

「今度は暗殺か」

「何故だ? 何故刺さらぬ!? 竜王とは、ここまで硬いのか!?」


暗殺を得意とする魔将ウルドベッゼに魔剣を背中から心臓に突き付けられても、それが刺さる事は無かった。


「いや、これも愛だ。如何なる苦難の元へ飛ばされても、叩きのめされたとしても、必ず戻る。それが愛だ」

「何だ、それは……」


愛(レベルアップしたばかりで力加減の出来ないセイティネシアの小突き、木々を薙ぎ倒して岩山をぶち抜いたり、魔術の練習で暴威に呑み込まれたり)を日々受けているクラウスは他者に揺るがない。

愛とは、凄まじいものである。


「なら、これはどうかしら。“精気渇淵”! 直接精気を抜かれれば、枯れ果てるしかない! 生命力とは違い、普段は生命の危機に直結しない精気は守る術が無いのよ! 古の龍でも耐えられなかったわ!」


大魔将紅一点ベルチェリッタから紫色の霧が放たれクラウスに纏わり付く。


「何かしたか?」

「あっ、何この膨大な精気!?」

「愛とは、こんなものではない。愛とは光も呑み込む黒き渦すらも呑み込む。それが、愛だ。それに比べたらこんなもの蚊ですらない。折れそうになっても、立ち上がれなくなっても無理やり立ち上げられる、それが愛だ」


愛(ナニをとは言わないが毎日枯れ木になるまで吸い取られている、最近では高度な技術で限界以上まで絞り取られている)には勝てないクラウスであったが、それ故にその程度(神話の時代の化物による吸精)効く筈が無い。

愛とは、凄まじい。


「なら、貴様の愛する女を人質に」

「無理だ。今戦って確信した。セイティネシア様を、お前達は傷付ける事は出来ない」

「何を強がりを! こちらの方が多数! 守り切れぬからと言って、我らが止まると思うな! 征け!」



クラウスの足止めをする以外の魔将達が、セイティネシアに迫る。



「“サモン”」



氷に包まれた蒼竜が魔法陣から現れ魔将達に向かう。


「何だと!? 舐めるな!! 十万年前、その程度、何度も滅ぼしてやったわ!! “破聖”!!」


大魔将バルドザッドが邪気を込めて蒼竜の頭を掴むと破滅の闇を解放した。

蒼竜は砂の彫像が崩れる様に滅びた。


「“サモン”」

「何だと!?」


だかそこに、大きく口を開けた鉄竜が新たに召喚された。


「“黒雷斬”!!」


大魔将ディアドブッゼが横から黒雷纏う大剣を振り上げ、バルドザッドが喰われる前に鉄竜の首を落とす。


「二体も高位のドラゴンを召喚するとは。しかし…」

「“サモン”」


今度は剣の鱗を生やした竜が現れる。


「「「何っ!?」」」


「“サモン”、“サモン”」


まるでお茶を口に運ぶ様な手軽さで、セイティネシアは次々とドラゴンを召喚してゆく。


「だから無理だと言っただろう。セイティネシア様は最強の調教…じゃなくて召喚士、あらゆるものを開発…ではなく未来を切り拓く御方だ」


色々と言い間違え、ちょっと何を言っているのか分からないが、もはやセイティネシアは最強の召喚士だった。


「くっ、奴は人質では無く我らの脅威だ! 召喚士など、幾ら召喚獣が強大でも術者を倒してしまえば良い! 奴を直接狙え!」


魔将達から範囲攻撃が放たれる。

セイティネシアを滅ぼそうと迫る、王都すら灰に帰す破滅の嵐。


「“多重召喚”」


対してセイティネシアは次々と連続でドラゴンを召喚した。


破滅に呑まれてドラゴンは次々と消滅してゆくが、ドラゴンは盾となり破滅はセイティネシアに近付かない。


「貴様、従魔をここまで使い捨てにして心が傷まぬのか!?」

「従魔じゃないもの。私から逃げる魔物がただ貴方達の攻撃に飛び込んでいるだけよ」

「そうか! だからこうも召喚出来るのか! 召喚するコストしか支払っていないのだな! だが良いのか!? 仮に我らを倒せたとしても、貴様が召喚した魔物がこの国を滅ぼすぞ!」

「ご心配なく」


そう言ってセイティネシアは召喚したドラゴンの一体を消して見せた。

 

「いつでも送還出来るわ。テイム出来なくても送還は出来るのよ。勉強になったかしら?」

「くっ、何としても奴を殺せ! 奴こそが我らの最大の障害だ!」


そう話している間に、気配を消した最速の大魔将ニグドヘッゼの剣がセイティネシアの首に向けて振るわれた。


「なっ、武術も極めているのか!?」


だが、その剣先はセイティネシアによってハンカチで抓まれていた。


「いえ、そんな遅い剣、簡単に止められるわ。クラウスの嫌いな食べ物をこっそり食べたフリしてアイテムボックスにしまう動きの方が速いし、力も強いわ」


伝説の大魔将の動きも、クラウスの命懸け(毎日絶対に不可能なものだけでも排除しようと全力を尽くしている、成功した試し無し)の動き方が強く速かった。

王国最強の全力に慣れている世界最強に、そんなものは通用しない。


愛とは、凄まじいものなのだ。


「退きなさい。私にそこまで近付いて良い殿方は、クラウスだけよ」


一瞬、ロトテルム八世がこの世の終わりのような顔を見せたが何のその、セイティネシアの平手打ちが大魔将に迫る。

当たる前に風圧と圧縮された空気の高熱でニグドヘッゼの顔は爆散し、その破裂音と爆風は何気にこれまでで一番の甚大な被害を城にもたらす。


ニグドヘッゼ、だったものは吹き飛ばされる中で完全に形を失い、ただの質量として九千メートル級の霊峰レビスハウネに衝突し、王都からはっきり視認できる巨大な亀裂を作った。


「「「………………」」」


魔将もクラウスも含めて、皆口を大きく開けて固まった。


「流石です! お姉様!!」


元気なのは妹だけだ。


セイティネシア取り敢えず、お淑やかに微笑んで見せる。


「…しょ、召喚士本人の方が、ドラゴンよりも強い、だと?」

「だ、大魔将様が、ただのビンタで」

「魔王様より、怪力、がっ――――」


怪力とか失礼な事を言う魔将が一瞬で消えた。


また衝撃波となって霊峰にぶち当たり、霊峰の上から3分の1がゆっくりと滑るように落ちてゆく。


「「「「「………………」」」」」

「流石です!! お姉様!!」


王都中、王国中の、何ならこの逸話を知る事となる後世の人間までもがあんぐりと口を開けたまま固まった。


「……名を聞こう。貴様の名は」

「クラウスがただのクラウスなら、私はただのセイティネシア。いえ、長いからただのセイティで良いわ。まともに召喚魔法も使えない、従えず召喚するだけの怠惰な召喚士セイティ」

「我が名は大魔将が序列一位、ぐはっ――――ッッ」

「私は聞いてないわ」


セイティネシアの平手打ちが炸裂する。


しかし流石は大魔将、現代まで生き延びた最強の魔族。

即座に何重もの結界を展開し、手甲でガードした。そして咄嗟に避けた。

その結果、片腕が肩よりも内側で大きく弾け飛ぶという重症で済んだ。


「貴様ぁーーー!! 総攻撃だ!! 召喚獣で守れるものなら守ってみせよ!! 皆殺しにしてくれる!!」

「元々そのつもりでしょうに」


再び破滅の嵐が吹き荒れる。


対してセイティネシアは再び無数のドラゴンを召喚した。

破滅の嵐に呑まれて、次々とドラゴンが消えてゆく。


「幾ら貴様の召喚術のコストが低かろうと、これだけの竜の召喚コストが負担にならぬ訳がない!! 召喚を続ければ何れ力尽きる筈だ!!」

「それはどうかしら」

「ふん、強がりは止めてさっさと死ぬが良い!! 魔力は我ら魔族が圧倒的な筈だ!!」


セイティネシアは召喚を止めなかった。

魔将に疲弊が見え、クラウスに各個撃破され始めても、セイティネシアは息も切らさない。


「な、何故だ!? 寧ろ、力が増しているだと!?」

「貴方達が、経験値を供給してくれているからね」

「ま、まさか、倒れた召喚獣の経験値自体も、得ていると言うのか!?」

「ええ、だってテイムしているんじゃ無くて、私が追い立て貴方達が討伐したのだもの。私も驚いたのだけれど、テイム出来ないのも悪い事ばかりじゃ無いみたい」


召喚獣、ドラゴンが勝っても負けてもそれは全てセイティネシアの糧となる。


「何だそのバグは、そのチートは!?」

「分かったのなら、諦めてお縄につきなさい。判決は、死刑よ」

「クソがぁ!!」


突っ込んで来た名も知らぬ大魔将序列一位に拳を振るう。

故郷を破壊され、内心では当然ブチ切れていたセイティネシアの全力の拳が。


「あ―――――――――――――――――――」


拳は大魔将を打ち砕き、破壊の嵐を滅ぼし、元大魔将だった衝撃波の通り過ぎた山々の山頂付近を消し去り、空の雲を全て吹き飛ばした。


一瞬で他の魔将の前に移動し、空をぶち抜いてゆく。

後に残るは、何処までも澄み渡る空と称賛する妹。


「「「「「「「…………………」」」」」」」

「流石です!! お姉様!!」


こうして、人類の危機は去った。


そう、これは婚約破棄され冤罪で追放された王女が幸せを掴む恋愛物語でも、追放した人々にざまぁする復讐譚でも、穏やかな土地でスローライフを送る日常譚でもなく、圧倒的な力を持つ大英雄が世界を救う英雄譚。

もしくは自主的に追放される事で全員が力を発揮出来るようになり、全員が幸せになる物語。


数多の世界で語り継がれるようになるハウネ(偉大なる)リーエ()王国の大英雄、偉大なるセイティ、【怠惰な召喚士】セイティハウネの始まりの物語。



「皆、怪我はない?」

「お姉様のおかげでありません!」

「う、うむ、何とか無事だ」


瓦礫に埋まった、魔将、では無くセイティネシアの攻撃の余波で崩れた王城から這い出た国王が、生存している答える。


「あっ……」


そこで初めて、セイティネシアは自分がやらかした事に気が付いた。


「えっと、あの、セイティネシア様、まずは人命救助を」

「そうね!」


その後、魔族襲撃直後から非戦闘員の脱出は迅速に行われており、一番大きな被害を受けた被害者ロトテルム八世だという事が判明したが、その日は家族の再開やお互いの両親との挨拶を改めて行う事も無く、逃げるように二人は帰ったのだった。


その後、セイティネシア追放の真相と英雄譚となった魔族討伐の方は国中に、そして世界に広がったが、また一月間二人は古城から出なかったと言う。

追放云々とは別の理由で。


英雄譚では無く、コメディなのかも知れない。


そして一月後、大々的に新たな英雄を称える式典、そして二人の結婚式が執り行われた。


「今更だけど、また誓ってくれる?」

「ええ勿論、何度でも愛をお誓いいたします」


二人を祝福する声は、鳴り止まなかったと言う。


復興途中の王都は、建国史上、最も大きな歓声に包まれたそうだ。



その後も二人は魔の森の古城で暮らしたが、追放直後とは異なり、転移魔法陣を通して訪れる様になった人々と交流し常に人々の囲まれて暮らすようになった。


そして脅威が人々に迫れば幾つもの英雄譚を生み出したと言うが、それはまた別の物語である。



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設定集
〈モブ達の物語〉あるいは〈真性の英雄譚〉もしくは〈世界解説〉
【ユートピアの記憶】シリーズ共通の設定集です。本作の登場人物紹介(歴史書)も存在します。

本編
〈田舎者の嫁探し〉あるいは〈超越者の創世〉~種族的に嫁が見つからなかったので産んでもらいます~
【ユートピアの記憶】シリーズ全作における本編です。他世界の物語を観測し、その舞台は全世界に及びます。基本的に本編以外の物語の主人公は本編におけるモブです。シリーズの本編とモブ達の物語は本作の未来の話です。

モブ達の物語
クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~
本編の裸体美術部部長イタルが主人公です。

モブ達の物語
孤高の世界最強~ボッチすぎて【世界最強】(称号だけ)を手に入れた俺は余計ボッチを極める~
本編の裸体美術部のボッチが主人公です。

モブ達の物語
不屈の勇者の奴隷帝国〜知らずの内に呪い返しで召喚国全体を奴隷化していた勇者は、自在に人を動かすカリスマであると自称する〜
本編の新しき不屈の勇者が主人公です。

モブ達の物語(短編)
魔女の魔女狩り〜異端者による異端審問は大虐殺〜
本編の風紀委員メービスが主人公です。

本作
怠惰な召喚士〜従魔がテイムできないからと冤罪を着せられ婚約破棄された私は騎士と追放先で無双する。恋愛? ざまぁ? いえ、英雄譚です〜
これです。シリーズにおける史実です。

― 新着の感想 ―
従魔と魔力の関係や、固有スキル〈魔獣忌避〉のデメリットとメリット、設定がしっかりと物語に落とし込まれており、話の因果関係に説得力がありました。 特に、セイティネシアの冤罪の原因ともなっていた〈魔獣忌避…
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