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09.聖女たち

ブクマ23件、ありがとうございます!

 女帝ソラティアとの交渉を終えて、アルトゥールの待つ部屋へと案内されたルナリーは絶句した。


「やだ本当、男前だわぁ!」

「ちょっと押さないでよ、順番よ!」

「お兄さん、男娼館で働かない? 私、指名しちゃう」


 部屋いっぱいに女性が詰めかけていたのだ。

 アルトゥールは辟易して今にも切れそうな顔で、それでも限界のところで我慢しているようだった。


「アル様」

「ルー!」


 助かったとばかりに声を上げるアルトゥール。なんだかかわいい。


「なにをしておるのじゃ。さっさと持ち場に戻らぬか!」


 女帝の一喝ですごすごと退散していく女性たち。それでも去り際にアルトゥールへウィンクしていったり、連絡先を渡そうとする人が後を立たなかった。

 ようやく人がいなくなると、アルトゥールは心底ホッとしたように息を吐いている。


「すまぬの。我が女帝国は、七割が女で占められた女の国じゃ。よい男がいれば、皆でシェアすることになっておる」

「……シェア……」


 女帝の言葉に、アルトゥールは悪かった顔色をさらに悪くしていた。

 ルナリーはソラティアに疑問を向ける。


「結婚という概念はないんですか?」

「あるが、独り占めを良しとしない者が多いからのう。結婚する者は、一割にも満たぬわ」


 価値観の違いを知ったアルトゥールは、「俺は独り占めされたい」と呟いていた。

 もし彼がこの国に生まれていたら、たくさんの人にシェアされて大変だったに違いない。


「アルトゥール、そなたもシェアされてみぬか? わらわ自ら可愛がってやろうぞ」

「……恐れながら、俺の身は我が(あるじ)ルナリー様のものですので、辞退させていただきます」

「ではルナリーが良いと言えば良いのじゃな?」


 アルトゥールがビクッと震えて、子犬のような目でルナリーに訴えかけてくる。ルナリーは少し笑いそうになるのを(こら)えて、女帝に目を向けた。


「ソラティア様。交渉内容にアルトゥールは関係なかったはずです。本人も拒絶しておりますので、私も彼の気持ちを尊重します」

「そうか、それは残念じゃ」


 またもアルトゥールはホッと息を吐いていて、ルナリーはクスリと笑った。


「くそ、イーヴァのやつ……こうなることがわかってて来なかったんじゃないだろうな」

「どうかしら」

「それよりルー、交渉はどうなった?」


 中級以上の魔石を百年間譲渡し続けるという内容を告げると、アルトゥールは『よくやった』というように首肯してくれた。

 その後は、女帝と三人の聖女を含めて、どう魔女に立ち向かっていくかの作戦を練る。

 今すぐに軍は動かせず、入念な準備が必要とされた。

 その間、アルトゥールは剣の腕を磨き、ルナリーは聖女の力の精度を上げることになる。


 アズリンという若い聖女と一緒に、リストとゼアの先輩聖女たちから、ルナリーは多くのことを学んだ。

 聖女の力というのは魔石のようなもので、向き不向きはあれど、いろんな力を使えるらしい。

 リストは治癒を、ゼアは風を、アズリンは水を得意としているようだった。

 女帝国には常に二人以上の聖女がいるそうで、結界を張る作業も分担して行えるため、旅する期間も使用する寿命も、イシリア王国の聖女とは比べものにならないほど少なかった。


「逆に、どうしてそんなにイシリア王国の聖女は短命なのですか?」


 最年少のアズリンが首を傾げている。

 むしろそれは、ルナリーの方が聞きたい。


「私は巻き戻りの力を使ったから短命になるけれど……」

「前の聖女も、その前の聖女も、みんな巻き戻りの力を使ってたってこと?」


 ゼアの言葉に、今度はルナリーが首を捻った。


「わかりません。先代の聖女は私が聖女を引き継ぐと同時に亡くなったので……」

「魔女の二百年以上生きているという発言を鑑みると……歴代聖女は、巻き戻りの力で魔女を阻止し続けていたのかもしれませぬの」


 リストの言葉にルナリーは彼女を見つめる。

 確かにそうかもしれない。魔女は計画がいつもなぜか頓挫していると言った。

 それは歴代の聖女が、ルナリーと同じように時間を巻き戻し続けて、魔女が国を支配するのに必要なものを奪ったから……とは考えられないだろうか。

 魔女を倒せずとも、支配するのに必要な何かを失わせることができれば、魔女はまたそれを作るのに時間を要するはず。

 それをしてみてはとルナリーは提案したが、リストは首を横に振った。


「良い案ではありまするが、すでにそれを使われているために王都が占拠されておるのでしょう」

「そ、っか……そうですよね……」


 やはり魔女と戦う以外に道はないようだと、ルナリーは肩を落とす。


「だけど、どうして一部の魔女や魔術師は、国を乗っ取ろうと考えるんでしょう……私にはわかりません」


 魔術師や魔女は、昔から忌み嫌われている。

 国を乗っ取ったり、滅ぼそうとしている者がいるからだ。

 でもなぜそうするのか、理由がルナリーにはわからなかった。


「ルナリー、イシリア帝国での魔女や魔術師の扱いは、どうなっているの?」


 ゼアの問いに、ルナリーは目を向けた。

 魔術の素養がある者を魔女や魔術師と呼ぶわけだが、イシリア王国では生まれてすぐに選別される。

 聖女が見ればすぐに判別できるのだが、赤ちゃんが産まれるたびにその場所へなど行けないので、判別方法には魔石のクズ石が利用された。


 魔術の素養があれば赤く光れと念じ、赤く光った場合、男なら魔術師、女なら魔女と断定されるのだ。


 素養のある者は聖女と同じく、遺伝ではない。突然変異的に生まれるので、一族の血を根絶やしにしても意味がないのである。

 素養があると判断された者は、国に管理される。年に何度か国から監査が入り、なにも企んでいないか、私物も交友関係も全部チェックされると聞く。なにか怪しげなものが少しでも見つかると、即座に取り締まり対象となるようだった。

 ルナリーの周りには魔女や魔術師はいなかったものの、もしかしたら魔女なのかと思うような人物が、人々から敬遠されているのを見たことはある。


「まだましな方かしらね。でもそれって、最近の話じゃない? 昔はもっと、魔女や魔術師に対して風当たりが強かったのだと思うわ」

「そう……なんですか?」


 ルナリーの問いに、今度はリストが頷いた。


「今は人道的配慮が進んでその程度で済んでおるだけで、昔はどの国も酷かったと聞いております。わたくしの曽祖母の話では、魔女や魔術師は見つけ次第火炙りをされるのが普通であったとか……」

「……なにもしていない魔女や魔術師まで……?」

「そうです……それゆえ、我らが魔女たちを敵視するように、魔女たちも我らを蔑視しているのです。瘴気を封じ、魔女たちの存在を亡きものにしようとする聖女を」


 魔石を使わなければ、素養のある者を見つけられるのは聖女だけだ。

 聖女が彼らを見つけ、誰かが火炙りにしたということなのだろうか。想像するだけで吐き気がした。


「だから奴らは自分たちの国を作りたがるのです。聖女が干渉できぬほどの瘴気に満ちた、奴らにとっての安全な地を。人々を自由に操り、快適に過ごすための支配を」

「でも……そこで暮らしている人たちは関係ないわ。意のままに操るなんてやってはいけないことよ。それに瘴気は魔物を呼ぶ……! 魔女の支配は、滅びの道しかない!」


 ルナリーの言い分に、リストは首肯した。


「卵が先か、親鳥が先か……どちらが先に悪事を働いたのかは、もうわかりませぬ。ただわたくしたちは、気の遠くなるほどの昔から争い続け、相容れぬ存在だということ。情けをかけては滅びるのはこちらなのだと、肝に銘じなければなりませぬ」


 老聖女の強い目力に、ごくりとルナリーは息をのむ。

 和解なんて生易しいことを考えてはいけないのだと、釘を刺された気がした。

 きっと、真の和解ができるのはもっと先。魔術の素養を持って生まれても、疑われることなく普通に生きられる世の中になった時だ。

 たとえそうなっても、悪事を働く魔術使いがいれば裁く必要は出てくるが。

 どちらにしても、あの魔女は片っ端から人を操っていて、許容できる範囲など超えている。

 エヴァンダーに施した結界は、あの瘴気の中ではどの程度持つのかわからない。彼を助けるためにも、王都にいる魔女の討伐は必須だ。


「大丈夫です、情けなんてかけません。私には……助けなければいけない人がいますから」


 ルナリーが決意表明をすると、三人の聖女たちが頷いてくれた。


 その後、ルナリーは一ヶ月かけて聖女の力の使い方を教わる。

 そして一番得意な聖女の力が判明した。


 ルナリーの得意な聖女の力──それは、炎、であった。


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サビーナ

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