表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/49

04.魔女との対峙

 結局ルナリーたちは、七月十日より先に進むしかなくなってしまった。

 しかし、このまま王都に行ったところで結果は同じだ。

 時間はかかるが、近隣の町や村で魔石を買い占めようという話になった。

 魔石は鉱山から採掘される便利なのもので、火を念じれば火を生み出し、水を念じれば水を生み出してくれるものだ。発想によって使い方は無限に広がる。

 ただし一般に出回っているのはクズ石ばかりで、大した威力はない。火にしたところで火種程度のものだ。

 それでも聖女の力を増幅させるように念じれば、クズ石でも量があればどうにかなるかもしれない。


 そうして魔石を集める中、暇を見つけてアルトゥールとエヴァンダーは剣の手合わせをしていた。

 特に、エヴァンダーの切り替えしの際に見せる隙を、徹底的になくすようにアルトゥールは告げている。彼も、あの時のエヴァンダーの死には(こた)えたのだろう。

 今度は絶対に誰も死なせたくないと、ルナリーは赤いネックレスをギュッと握りしめていた。


 三人はクズ石と下級石、それに中級以上の高価な石も、あるだけ魔石を買い占めた。

 人気(ひとけ)のなくなる夜に瘴気を浄化し、朝までには王都中の瘴気を消し去るのが目標だ。

 そしてなるべく早く結界を張ること。

 瘴気がなくなれば、魔術師の能力は通常に戻る。さらに結界を張れば、魔術師の能力は落ちるのだ。そうすれば勝ち目は見えてくるはずである。


 瘴気の影響を受けないように、エヴァンダーとアルトゥールに加護を施すと、一行は王都にやってきた。

 静かに目と目で合図すると、二人は魔石を取り出して聖女の力の増幅を願ってくれる。

 力が溢れ出てきたルナリーは、瘴気を浄化していった。

 魔石のおかげで浄化スピードは前回よりはるかに早い。どす黒かった瘴気がどんどん全体的に薄くなっていくのが見てとれた。これならば朝までに浄化は終わりそうだ。

 しかし空が白みかけた時、瘴気の渦が唐突に現れた。


「いやねぇ……聖女が帰って来ていたなんて」


 聞き覚えのある声。ゾクッとして声の方を見ると、魔女が悩ましい姿で立っている。

 エヴァンダーとアルトゥールが、即座に剣を抜いて構えた。


「あいつが魔女だ、イーヴァ」

「そのようですね。ルナリー様は気になさらず、このまま浄化をお続けください」

「気をつけて……!」


 もう少しで町を浄化し終える。

 浄化を終えれば、あんなでたらめな強さは発揮できないはずなのだ。


「いきなり剣を抜くなんて、物騒だこと。殺されても文句は言えないわよ……?」

「こっちのセリフだ。臭い瘴気を纏わせやがって」

「これ以上、ルナリー様の命を削らせるわけにはいかない。覚悟してもらいましょう」


 二人の言葉に魔女はむっと口を下げている。

 全体の瘴気が薄まっているとはいえ、まだ魔女が有利な状況には変わりない。

 魔女がパチンと指を鳴らすと、ぞろぞろと騎士たちが現れた。


「魅了済みだ。容赦はするな、イーヴァ」

「わかってます」

「アル様……エヴァン様……」


 ダメだとわかっていても、不安な声をあげてしまう。

 ルナリーは一刻も早く瘴気を浄化しようと魔力を込めたが、魔女の背中からドス黒い湯気のようなものがゆらめき始めた。聖女によって薄められた瘴気を補充して、元に戻すつもりだ。

 こんなことをされてはいつまで経っても浄化は終わらない。


「俺は魔女の瘴気を止める。騎士はお前がどうにかしろ!」

「了解」


 エヴァンダーが了承の言葉を放った途端、二人は同時に飛び出した。

 エヴァンダーが騎士を一刀のもとに切り伏せると同時に、アルトゥールは魔女へと斬りかかる。

 ひらりと躱した魔女はしかし瘴気を出せず、アルトゥールの応戦にかかりきりになっている。

 濃い瘴気でない分、能力は前回のように飛び抜けてはいないようだ。


「今のうちに……!」


 ルナリーは最大の力を放ちながら瘴気を浄化する。

 いくら二人でも長くは持たない。一刻も早く瘴気を浄化し、結界を張る必要がある。

 そうすれば必ず勝てる──


「うぐあああ!!」


 そう思った瞬間、アルトゥールの心臓に、黒く鋭いものが突き刺さって背中を貫いていた。


「アル様!!」

「なんだあれは……爪……?!」


 シュルッと音がして、伸びていた爪が魔女の指に戻る。

 アルトゥールはドサリとその場に倒れて、もうピクリとも動いていない。


「あ……あ、アル様……!」

「っく……」


 ルナリーは泣き叫びたい気持ちに駆られながら、キッと魔女を睨みつけた。


「どうしてこんな酷いことを……!!」

「いやだわぁ、先にあなたたちが斬りかかってきたのだから、正当防衛よ?」

「瘴気を解除しなさい! なにが目的なの!!」

「国を乗っ取るって、魅力的よねぇ……うふ」

「な……」


 ルナリーが絶句すると、魔女はニタァと口が裂けるように笑った。


「私ねぇ……もう二百年も、この国を乗っ取ろうとしているのよねぇ……でも何故か、途中で頓挫しちゃうのよ……」

「二百年……? 人がそんなに生きられるわけがないでしょう!」

「ふふ、そこが魔女の不思議なところ。秘薬なんかがあったりしてね……? あら、喋りすぎちゃったわ」


 魔女はそう言って、ジリッとルナリーににじり寄ってくる。

 それに気づいたエヴァンダーが騎士を斬り伏せ急いで戻り、ルナリーを庇うように立ってくれた。


「エヴァン様……時を、戻します」

「……わかりました」


 こそこそと会話し、エヴァンダーの腕を掴んで聖女の力を引き出そうとする。しかし──


「……できない……」


 ネックレスが光らない。時間を、巻き戻せない。


「どう、して……!!」


 アルトゥールは動いていない。確実に息を引き取っているというのに、なぜか巻き戻りの力は発動しない。

 にじり寄ってくる魔女。

 ぶるりと体を振るわせるとエヴァンダーは振り向き、ルナリーに笑みを見せてくれた。

 こんな時になぜ……と思った瞬間、エヴァンダーの唇から言葉が放たれる。


「トリガーは、私のようです」

「そん……」

「私が死んだら、発動してください」

「ま……っ」


 止める間もなく、エヴァンダーは魔女に向かって斬りかかっていく。

 アルトゥールの時と同じく、しばらくは応戦できていたものの、最終的には──


「ぐあああああッ!!」


 魔女から伸ばされた爪が、エヴァンダーの体を真っ二つに引き裂いた。


「いやあああああああああーーーーーーッ!!!!」


 その瞬間、ネックレスから閃光が放たれ。

 ルナリーはまた、まばゆい光の中で時を巻き戻した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[一言] 今回はいいところまで来たのに、魔女に邪魔されましたね。でも意外に魔女もお喋りで、上手く誘導すれば情報を引き出させそうにも。(←リスクが高すぎますけど) 時間巻き戻しの引き金がエヴァンダーとい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ