表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/49

39.決着

ブクマ77件、ありがとうございます!

 魔女が宙に浮いた状態で伸ばした爪が、アルトゥールの腹部とエヴァンダーの肺を貫いていく。

 シュルッと爪が戻り抜かれた瞬間、二人からバッと血が噴き出した。

 その場によろめいて倒れた騎士たちの手から、ガランと剣が離れていく。


「エヴァン様……アル、様……!」


 もう二度と見たくないと思っていた光景が、また目の前に広がる。

 ドサリと落ちた魔女は苦悶の表情を浮かべていた。そして体を再生しながら立ちあがろうとしている。

 瞬間、アルトゥールが必死の形相で立ち上がり、魔女を後ろからはがいじめにした。


「アル様……?!」


 アルトゥールは腹部の痛みを堪えているのか、顔を歪めながら魔女を押さえつける。


「っく、なにを……離しなさい……!」

「離してたまるか……っ!」


 エヴァンダーはその姿を見て、剣を拾うとよろめきながら立ち上がる。


「いけ、イーヴァ!! 俺ごと魔女の心臓を突き刺せ!!」


 ゾッと顔をこわばらせたのは、魔女だけではなくルナリーも同じだったことだろう。

 しかしエヴァンダーはいつものように顔色ひとつ変えずに剣を構えた。

 きっと、そういう覚悟(・・・・・・)もしていたのだ。

 ルナリーの瞳から、勝手に涙が滑り落ちる。


「やめなさ……っ」


 リリスが言葉を終える前に、エヴァンダーの水平の突きが魔女の左胸に吸い込まれ──


「あぁぁぁああああああ!!」

「がはぁっ」


 二人分の悲鳴が山に響く。

 剣は魔女を貫き、アルトゥールをも貫いて、彼の背中から血みどろの剣が突き抜ける。


「あ……ああ……っ」


 言葉が出てこなかった。

 一緒に串刺しにされたアルトゥールの顔は、倒れる寸前にニッと笑っていて。

 魔女と共にどうっと仰向けに倒れる。

 そして剣から手が離れたエヴァンダーも──


「かふっ」


 喀血と同時に膝をつき、そのままうつ伏せに倒れた。


「エヴァ……あ、ああ……っ」


 急いで二人に駆け寄ろうとした時、魔女の体がピクリと動く。

 ルナリーは目を疑った。


 剣を心臓に刺したまま、魔女はぎこちない操り人形のように起き上がる。


「う……そ……」

「うぐぐぅ……よくも、私を……こんな……ごふっ」


 アルトゥールとエヴァンダーが命を懸けたというのに、魔女は超再生でまだ生きながらえていた。


「こんな……もの……」


 魔女はよろめきながら、胸に刺さった剣を抜こうと手を添えている。

 抜かせてはダメだ。再生して、元に戻ってしまう。すべてが無駄に終わってしまう。


「させない……!!」


 ルナリーは即座に炎の力を展開した。

 掌から放出された赤い炎は、真っ直ぐに魔女へと向かっていく。


「きゃああああ!! 火……火がぁあ!!」


 焼け焦げる肉の匂い。

 のたうち回る魔女。

 しかし超再生のせいで死に至らしめない。


「いやあああ、あああああああ!!」


 こだまする魔女の絶叫。

 魔女の討伐はルナリーの悲願だ。しかしこんな苦痛を与え続けたかったわけじゃない。

 リリスはなおも(もが)き苦しみ、叫び続けている。


「今、楽に……して、あげる……」


 ぜぇぜぇとルナリーも息を吐き出しながら、複数個ある下級の魔石を手に取った。

 そして願う。赤いネックレスの出力解放を。


「っくぅ!!」


 魔力が渦巻くように現れ、すぐさま力を変換する。

 ごうごうと燃える青い炎に姿を変えた魔力を、ルナリーは魔女に向かって衝突させた。


「ぎゃああああああぁああああああああああああっっ!!!!」


 魔女を燃やす赤い炎を、青い炎が飲み込んでいく。

 リリスはその絶叫を最後に、黒い灰へと消えていった。


「はぁ、はぁ………はぁ……」


 青い炎は消えている。魔女は、もうどこにもいない。


「や……った……」


 その瞬間、胸のネックレスがパァンと砕け散った。

 まるで、魔女と共に逝こうとするように。

 キラキラ、キラキラと赤い空へと舞い上がっていく。

 夕方の風はザァァと音を立てて、すべてを彼方へと追いやっていった。


「う、くふ……っ」


 ルナリーは立っていられなくなり、ガクンと膝をつく。

 魔女の討伐は完了した。

 最後の炎で、またガクンと寿命を持っていかれたが。

 残り、二日。命のリミットは、もうすぐそこ。

 しかし、もういい。

 アルトゥールとエヴァンダーは、もう……


「……ルー……」

「ル、ナ……さ……」


 微かに声が聞こえて、ルナリーはハッと顔を上げる。

 二人には、まだ微かに息がある!


「アル様……エヴァ、様……」


 立ち上がることは叶わず、ルナリーは這うようにして二人のそばへと急ぐ。

 今ならば、治癒でどうにかなるかもしれない。

 気力でなんとか二人のそばに近寄ると、アルトゥールは口の端を上げた。


「よく……やった……ルー……」


 エヴァンダーもまた、翡翠の瞳を細めてくれる。


「さす、が……です……」

「二人が、あそこまで追い詰めて、くれた、から……」


 アルトゥールの傷は、心臓から少しずれていた。

 魔女との身長差で助かったのだろう。

 はぁ、はぁと息を上げながら、ルナリーはまずエヴァンダーの胸に手を置いた。


「治癒、を……」


 エヴァンダーへの治癒で一日分、アルトゥールへの治癒でもう一日分、寿命を使ってしまうだろう。

 その時点で、ルナリーの寿命は切れる。

 どちらにしろ、残り二日の命だったのだ。

 二人を助けて死ねるなら、こんなに誇らしいことはない。

 魔女は討伐できているのだし、弔い合戦などする危険もなく、二人は残りの人生を幸せに歩んでいける。

 一緒に歩めないことが、寂しくもあるが……


「エヴァン様……愛、してる……」


 ルナリーはそう言いながら、掌に魔力を込めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[良い点] 【エヴァンダーはいつものように顔色ひとつ変えずに剣を構えた。】 【アルトゥールの顔は、倒れる寸前にニッと笑っていて。】 【二人を助けて死ねるなら、こんなに誇らしいことはない】 三人らしさ…
[一言] 気になって、昼も夜も寝られない!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ