表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/49

32.決戦前夜

ブクマ61件、ありがとうございます!

「おはようございます、ルナリー様」


 起き抜けでぽうっとしているルナリーに、エヴァンダーが甘いキスをしてくれる。

 何度も繰り返しされたキスは、夢だったのか現実だったのか……。


「おはよう……エヴァン様、夢は見た?」

「見ましたよ。ぼんやりと覚えている程度ですが……ルナリー様と何度もキスをしていました」

「ふふ、私も」


 そう言いながら、もう一度唇を重ね合う。

 もう少しハッキリと見たかった気もするが、ふわふわした感じが心地良くもあった夢だった。


「クズ石じゃなければ、もっとハッキリ見られたのかしら」

「かもしれませんね。でも中級以上は貴重ですし、下級も今後のために必要なので、魔女を倒すまではお預けです」

「わ、わかってるわ」

「そのかわり、起きている間にたくさんしますから」


 その言葉通り、朝からたくさんのキスの雨を降らせてくれる。

 もうずっとこうしていたい、魔女のいる町になんか行きたくないという怠惰な自分が出てきてしまいそうだ。


「ルナリー様……愛しています」

「エヴァン様……私も好き……ん」

「あー、ゴホンッ!」


 お互い夢中になってキスしていると、扉の向こうから咳払いが聞こえてきた。


「アル?」

「ああ、飯の用意ができてる。先行っとくからな」

「わかりました、すぐ行きます」


 足音が遠ざかるのを確認してから、エヴァンダーはルナリーに目を戻した。


「続きはまた夜に」

「う、うん」


 それでも名残惜しくてエヴァンダーを見上げると、もう一度だけ唇にちゅっと音を立ててくれた。

 服を着替えてレストランに向かうと、すでに料理は運ばれていてアルトゥールが手をつけずに座っている。


「来たか。食べようぜ、腹減っちまった」

「ごめんなさい、待たせちゃって……」

「仲が良いならそれでいい。俺に気ぃ遣うな」


 当然のようにそう言ってくれて、ルナリーとエヴァンダーは顔を見合わせると『やっぱりね』と少し笑う。


「ところで、昨日は魔石を使ったんですか?」


 エヴァンダーが食事をとりながらアルトゥールに問いかける。

 するとアルトゥール周りの空気が途端に重くなった。


「……使った……はずなんだがな……」

「もしかして、効果がなかったの?」

「ああ、またゼアが出てきた。しかも今度はずっと泣いてんだ。参ったぜ」

「アルは聖女ゼアを泣かせるようなことを」

「してねー! 俺の方が泣きてぇよ。寝た気はしねぇし」


 はぁっと勢いのいいため息を吐き出し、さらにまた小さなため息を吐いている。

 こちらは魔石を使ってラブラブな夢を見ていただなんて、口が裂けても言えそうにない。


「クズ石よりも高価な魔石か聖女の力で、アルの夢に介入しているとしか思えませんね……」

「誰がそんなことすんだよ?」

「私もルナリー様もそんなことしていませんから、やはり……聖女ゼアの可能性が高いでしょうか」


 普通なら、魔石を使えば望んだ夢を見られるはずだ。それができないとなると、それ以上の力で夢を見させられているということになる。アルに夢を見させているのは、ゼアである可能性が一気に高まった。

 エヴァンダーに〝ゼアが記憶を持っているかもしれない〟と教えられたアルトゥールは、眉間に皺を寄せている。


「しかしそうだとして、近くにいない相手に夢を見させられたりできんのか?」

「中級以上の魔石か聖女の力があれば、そう難しいことではないと思いますよ。ゼアといえば、数多の技を持つ聖女で有名ですし」

「へぇ、そうだったのか」


 ステルスを教えてくれたのもゼアだったし、彼女は器用にいろんな力を見せてくれたことを思い出す。

 ゼアならば、人の夢に干渉する力を持っていても不思議ではない。


「でもなんで俺の夢に出てくるんだ? ルーの方に出ればいいじゃねぇか」


 やはりアルトゥールも当然の疑問に行き着いたようだ。


「そこがわからないのよね。どうしてアル様にばかり夢を見させるのかしら」

「なにか恨まれることでもしたんじゃないですか、アル」

「してねぇ!」


 アルトゥールは片方だけ頬を膨らまして怒っていて、なんだかかわいい。

 結局この疑問が解けることはなく、ルナリー達は朝食を食べ終えると次の町へと向かった。



 いつものように移動を終えると、この日は魔女のいる町のひとつ手前の、小さな村で宿泊することになった。

 明日の朝一番に出れば、昼過ぎには目的のモーングレンの町に着く距離だ。

 夕食を終わらせると、アルトゥールが部屋に戻る前に、ルナリーは二人を外へと連れ出した。

 月は細くてあたりは暗い。ルナリーは魔石を黄色く光らせて外テーブルの上に置くと、護衛騎士たちに向かって話し始めた。


「エヴァンダー様、アルトゥール様。聞いてほしいことがあります」

「どうしたんだ、ルー……改まって」


 不審なものを見るかのように眉をひそめるアルトゥール。そんな彼にルナリーはにっこりと笑ってみせる。


「今までの五年間……エヴァン様にとっては四年間だけど、ずっと一緒にいられて嬉しかった。二人が私の護衛騎士で、本当に良かったと思ってるの」

「ルー、やめろ。そんな──」

「アル」


 話を中断させようとしたアルトゥールを、エヴァンダーが聞けというように止めてくれた。

 アルトゥールは言葉を飲み込むようにして、今度はまっすぐな蒼い瞳を向けてくれる。


「私はもう巻き戻りの力を使えない。だから、これだけは約束して。絶対に、死なないって」


 ルナリーの言葉に、先にエヴァンダーが「わかっています」と答え、一拍置いてアルトゥールも「ああ」と答えてくれた。

 そうは言っても、ルナリーの危機とあれば、二人は迷いなく命を賭けることはわかっているのだが。


「でも、魔女はなにがあっても討伐する。それは肝に銘じておいて」

「「はっ」」


 ルナリーが強い眼差しで宣言すると、二人はピシリと胸に手を当てて敬礼してくれた。


 イシリア王国の聖女の短命は、自分で終わりにしなければいけない。こんな呪われたループを、何度も繰り返してはいけないのだ。

 その決意を胸に、ルナリーは再び声を上げる。


「そして、私の指示には必ず従いなさい。否は許さないわ」

「……はっ」

「御意」


 こんなきつい物言いをするのは初めてだった。

 だが、言わないわけにはいかないのだ。

 愛する、大切な二人の命を──守るためには。


「ありがとう……」


 ビシッと決めようと思っていたのに、お礼を言うと胸がいっぱいになってきてしまった。

 それでもしっかりせねばと、ルナリーは黒髪に蒼い瞳のアルトゥールに体を向ける。

 目が合うと、ルナリーはそっと目を細めた。


「アル様……私、アル様のことが大好きよ。いつも見守っていてくれてありがとう」

「ルー……」


 アルトゥールの前まで行くと、ぎゅっと彼を抱きしめる。

 誰よりも大切な兄。その明るさと優しさで、どれだけ救われたかしれない。

 アルトゥールもルナリーを優しく包み、背中をぽんぽんと叩いてくれる。


「ルー……お前だけが無理をする必要はないんだからな。覚えといてくれ」

「うん……」


 抱擁を解くと、アルトゥールはニッと笑って前髪をくしゃと撫でてくれた。

 いつも通りの兄の行動が心地いい。


「エヴァン様」


 今度は恋人に瞳を向ける。端正で真面目な顔は、出会った頃のまま変わらない。


「どんな時も、私を一番に考えてくれるエヴァン様が大好きよ。でも、自分も大切にしてね?」

「……はい」


 肯定してくれたエヴァンダーに向かって一歩進む。

 しかしルナリーが抱きしめる前に、エヴァンダーに苦しいくらい抱きしめられた。


「エヴァ……」

「少しでも長く生きてほしい……それが私の願いです……っ」

「……ええ」


 ルナリーも抱きしめ返すと、つつぅと涙がこぼれゆく。

 誰一人欠けることなく魔女を討伐し、残りの時間をエヴァンダーとアルトゥールで笑って過ごしたい。

 命の終わりが来る、その時まで。


 ゆっくりと体が離れると、ルナリーは二人の護衛騎士に微笑んだ。


「ありがとう、二人とも。本当に愛してる」


 笑って言ったはずなのに、なぜか目からは大量の涙が溢れていて。

 アルトゥールの手がルナリーの髪をくしゃと撫で、エヴァンダーにはこめかみに触れるだけのキスをされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[良い点] 前半のイチャイチャ♡からの、後半……。 改めて自分の想い、覚悟、決意をふたりに告げるルナリーに感動です。 汐の音さまがおっしゃる通り、まさに神回でした! お話を引き締めるテクニック、さすが…
[良い点] 頭に……決戦前夜のあのBGMが勝手に(泣) 神回かよって呟いてしまいました。 [一言] (神回かよッッッ!!!!!!)※想像してください。こう、コントローラー片手に目頭おさえるあの夜です……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ