表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/49

25.ルナリーの家へ

ブクマ41件、ありがとうございます!

 ウィンスロー家を出ると、ルナリーの家へと向かう。

 いつも家まで送ってくれているので、もちろんエヴァンダーはルナリーの両親を知っている。

 けれど一般庶民である両親は、侯爵令息であるエヴァンダーを引き止めたり、家に招待することはなかった。知り合い以上ではあるけれども、親しい間柄ではない。


「ただいま。お父さんお母さん、エヴァン様にも入ってもらいたいんだけど、いい?」


 今まで一度も家に上げなかったので、油断していたのだろう。ルナリーの両親は「少々お待ちを」と言ってバタバタしながら、数分してようやく迎え入れてくれた。


「突然の訪問、申し訳ありません。本日はルナリー様のご両親にお話があって参りました」


 普段のエヴァンダーとは違う衣装を見て、両親はなにを言われるのかとごくりと唾を飲み込んでいる。


「……なにか重大なことのようだが……」

「はい。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。実は」

「まさか、ルナリーの寿命が近いというんではないでしょうな!!?」


 父親であるグスタフの言葉に、ルナリーの心臓がドクンと波打つ。

 ルナリーが聖女に選ばれた時、両親は……特に父グスタフは泣いて悲しんでいた。

 休みなく旅を続けなければいけないことを憂い、聖女の短命さを嘆いてくれた。

 地位は上がり、潤沢なお金が入ってくるのだと言っても、まったく喜ばなかった。

 そんなものはいらない、ルナリーの命が一番なのに……と。


 娘が聖女であることを喜ばないのは、この両親くらいなのではないかとルナリーは思っている。

 そしてそんな優しい両親を持って、この上ない幸せを感じていた。


 しかし、である。


 寿命が短いことを言いにきたのではないのに、勘違いされてしまった。しかも残り寿命が少ないのは当たっている。

 エヴァンダーがチラリとルナリーの方を見てくれた。ルナリーがこっそりと首を横に振ると、エヴァンダーはすぐに察してくれたようだ。


「私が伺いましたのは、ルナリー様とのお付き合いのご報告と、ご両親に承諾をいただくためです」

「……え??」


 これも想定外だったようで、グスタフも母親のヘレンも、目を丸めている。


「そ、そうか……ルナリーと、エヴァンダー様が……」

「まぁ……そうだったの。驚いたけれど、ルナリーが幸せなら、私たちはそれでいいのよ。ねぇ?」

「あ、ああ、そうだな。ルナリーも、いやいや付き合ってるんじゃ……ないんだよな?」

「もちろんよ!」

「そうか、それならいい」


 父親がホッと息を吐いていて、ルナリーもホッとした。


「じゃあ今日はお祝いだ! 大したものはないが、ぜひ夕飯を食べて行ってください」

「ありがとうございます。しかしその前にお伝えしておきたいことが」

「なんだね?」

「昨夜のルナリー様の外泊の件です」

「ああ、アルトゥール様に聞いて知っていますよ。隣町で公爵様が怪我をされたとかで、急遽治療に行くことになったんでしょう? 連絡漏れがあったようで申し訳ないと謝られてしまったよ」


 どうやらアルトゥールはそんな風に誤魔化してくれていたらしい。

 もうわざわざ言わなくてもいいのではないかとルナリーは思ったが、エヴァンダーは持ち前の誠実さで口を開いた。


「それは事実ではありません」

「へ?」

「事実じゃない?」


 眉を顰めるグスタフと、首を傾げるヘレン。エヴァンダーは息を吸い込むと、真っ直ぐに言い放った。


「昨夜、私とルナリー様は王都の外れの宿で、一晩中一緒にいました。申し訳ございません」

「……一晩中」


 父親がそう呟いて絶句してしまった。ルナリーは慌てて父親とエヴァンダーの間に入る。


「違うの、私の体調がちょっと悪くて、それで……」

「……なにもしてないんだな?」

「えっと、それは……」

「しました。順番を間違ってしまったことを、お詫びいたします」

「……」


 エヴァンダーの衝撃の言葉に、父親はまた絶句してしまった。ルナリーはどうしようと思いながらも、これ以上はなにもできずに状況を見守る。


「ま、まぁいいじゃないの、あなた。ルナリーが好きな人と結ばれたんだもの」

「い、いいわけあるか……!! 大事な娘を、お前は……!!」


 父親はエヴァンダーのことをお前呼ばわりし、だけど言葉にならないようで泣きそうになりながら口をパクパクさせている。

 どうやらよほどショックだったようだ。さすがにルナリーも申し訳なくなってきた。


「ごめんなさい、お父さん……でも、エヴァン様は悪くないの」

「うう……ルナリー……いつかこんな日が来るとは思っていたが……」


 あまりの父親の落ち込みっぷりに、さすがのエヴァンダーも二の句を継げないようだ。


「ごめんなさいね、エヴァンダー様。一人娘で溺愛しているものだから……ほら、しっかりして、あなた」

「ううう……」


 まさか、ここまで傷付けるとは思っていなかった。

 正直に言わず、黙っておいた方がよかったかもしれないと思ったが、後の祭りだ。


「申し訳ありません……」

「……なぜ、謝っているのだね。娘と契ったことを後悔でもしているのか……?」

「いいえ、それはありません」

「ちゃんと責任はとってくれるんだろうな?!」

「はい、もちろんそのつもりです」


 その言葉に、ルナリーは迂闊にもドキリとする。

 責任なんて取る必要はない。子どもができていてもいなくても……ルナリーは残り数ヶ月の命なのだから。

 エヴァンダーは父親を安心させるために言っただけだろう。だから喜ぶわけにはいかないと、ルナリーはぐっと気持ちを抑えた。


「ルナリーを生涯愛せるか?!」

「愛せます。愛します」

「幸せにしろとは言わん……ただ、不幸にはしてくれるな……約束できるか」

「……はい」


 グスタフの言葉にも、エヴァンダーの誓いにも、胸が詰まる。

 父親の愛情が嬉しくて。恋人の誓いの言葉が切なくて。

 もうすぐ死んでしまうルナリーを前に、どんな気持ちでグスタフと約束をしたというのか。


「呑むか! 付き合ってくれ、エヴァンダー君!」

「はい」


 なにやら打ち解けたのか、グスタフはエヴァンダーのことを“エヴァンダー君”と呼び始めた。気軽に呼んでくれと言われたエヴァンダーも“グスタフさん”と呼び始める。

 お酒が入るとさらに態度は親密になっていくようで、ルナリーは微笑みながら二人の姿を眺めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
[良い点] 本当に彼は彼らしく、誠実ですね。益々好感度上がりました! ルナリーのご両親も愛情深く素敵。 お父さん、〜君呼び(笑) ルナリー、良かったね。胸にジーンと来ました。 愛に溢れたお話が続いて、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ