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21.ネックレスの真相

「まさか……その鉱物って……」


 ルナリーはこわごわと胸に手を当てる。

 聖女になってから、片時も離したことのない、大事なネックレス。

 いつも力を貸してくれていた、このネックレスが……


「……二百三十年より前に、ネックレスを継承する儀式などありませんでした。聖女が短命になり始めたのも、そこからです」

「……」

「大丈夫か、ルー」


 言葉を発せないルナリーに、アルトゥールが声を掛けてくれる。

 思った以上にショックだった。

 このネックレスが、魔女リリスの大事な人の血で作られた物だということが。

 炎の聖女が血を抜き取って殺した、魔術師のものであるということが。


「ごめ……なさい……大丈夫……」

「休憩、なさいますか?」

「ううん……まだあるんでしょう……続けて……」


 促すと、エヴァンダーはルナリーを気にしながらも続けてくれた。


「若い男の血が魔女リリスの魔術の源だという話を聞いて、私は考えました。いくら知識があろうとも、あれだけの術と強さを得るには、相当の血が必要だったに違いないと」


 確か、二週目の時だ。魔女がエヴァンダーの血を舐めていた姿を思い出し、ぎゅっと両腕を抱えた。

 あれだけの魔術を展開しようとすれば、自分の寿命だけでは足りない。代償となるなにかが必要になるのは当然だ。

 普通は自分の寿命を削る意外に手段はないはずなのだが、魔女の知識と禁術でなにか特別な秘薬を生み出しているに違いない。魔女自身もとんでもない強さだし、秘薬には相当多くの若い男の血が使用されているはずである。


「ですが近年、目立って若い男が行方不明……もしくは死ぬという事件は起きていません。いないわけではないですが、需要に対して供給が間に合っていないと考えます」

「じゃああの魔女は、どうやって男の血を調達したんだ?」


 アルトゥールの疑問に、「私の憶測ですが」と前置きしてからエヴァンダーは続ける。


「若い男の血が大量に必要なはずなのに、今のところ犠牲者はいない。ということは、合法的に血を得られるような職業に就いているのだと推測します」

「合法的……医者か、看護師か?」

「可能性はあるかと」


 今は昔と違って、魔女が隠れ住むような時代ではない。人里で働いている可能性は十分にあるのだ。

 今後は、医者や看護師を中心に探すことが決まった。


「とりあえず、今お話できることはこれだけです」

「イーヴァが四日もこもってて、これだけねぇ……他になんか探ってたんじゃなかったのか?」

「ええ……ですが残念ながら、身にならなかったので」

「そうか……じゃあ俺は陛下にこのことをお知らせして、医者と看護師を重点的に調べるよう騎士たちに通達してくる。お前はルーをなんとかしてやれ」


 そう言ってアルトゥールが行ってしまうと、エヴァンダーは視線をルナリーと同じ高さに落としてくれた。


「大丈夫ですか、ルナリー様」


 ひゅぅ、ひゅぅと変な音がして、うまく息ができない。苦しい。

 なにも言えずにいると、ふわっと体が浮いた。


「一気に聞かせ過ぎました……申し訳ありません。どこかで休みましょう」


 エヴァンダーに抱き上げられると、ネックレスが胸元でころりと転がった。

 魔女と魔術師はどういう関係だったのだろうかと想像し、胸が苦しくなる。


 エヴァンダーは近くの宿に入ると、ルナリーをベッドに寝かせてくれた。


「なにか、飲み物を」

「いい……ここにいて……?」

「……わかりました」


 上布団の中から手を出すと、それに気づいたエヴァンダーが手を握ってくれる。


「このネックレスは……魔女の大事な人の……命でできていたのね……」

「ルナリー様……同情は禁物です」

「うん……」


 ルナリーはネックレスにたくさん助けられたと思っている。

 誰にも教わることなく聖女の力を使えたのも、このネックレスのおかげだ。

 時間を巻き戻すことだって、自分の力だけでは不可能だっただろう。

 だが、ネックレスがたくさんの聖女の命を奪っていることも確かだった。


「歴代の聖女の寿命の短さは……このネックレスに呪われたから……?」

「呪いではありません。そんなものはありませんよ。道具は道具にすぎません」

「じゃあ、どうして……」

「歴代聖女はルナリー様と同じように、リリスをどうにかするために巻き戻しをしたのです。だから寿命が縮まった。それに自分の魔力だけではなく、ネックレスの魔力を使った分、対価の代償が大きくなったとも考えられます」

「借り物の力でも代償(寿命)は必要……当然ね……」


 ルナリーには、やはりカイロンの呪いのように思えた。カイロンが愛する人のために、聖女を呪い殺し続けているのだと。

 だけどもう、ルナリーはネックレスの力に頼りすぎてしまって手放せなかった。

 命はあと僅かで消えてしまうし、ルナリーがゼアたちから教わったように、新しい聖女に力の使い方を教えてあげられることはないだろう。時間が足りないのだ。

 死ぬ前にはネックレスを渡すしかない。そして平和を維持してもらうより仕方ない。

 呪いは未来永劫、続いていってしまうのだろうか。

 炎の聖女が、罪を犯してしまったために。


「私はちゃんと、正しい道を歩めるのかしら……」

「ルナリー様なら大丈夫です」

「私も炎の力を得意とする聖女だわ。ルワンティスに行った時の周回で、ゼアさんたちに教えてもらったの」

「同じ力を持っていても、ルナリー様と炎の聖女は違う人間です。絶対に同じようにはなりません。私が保証いたします」


 エヴァンダーが手をぎゅっと握ってくれる。

 信じてくれる人がいる……それだけでじんわり心は温かくなった。


「ありがとう、エヴァン様……」

「ご気分はどうですか?」

「うん……ましになったみたい」


 そう言いながらも、まだ胸につかえたような息苦しさを感じていた。

 これはおそらく、寿命が近いことへの弊害だということをなんとなく感じとる。動けなくなる前に魔女を見つけ出し、葬り去らなければならない。

 体を起こそうとすると、エヴァンダーが手伝ってくれた。


「今日はゆっくりなさった方が……」

「そうしたら、エヴァン様はそばにいてくれる?」

「もちろんです」

「ふふっ」


 誓いに忠実な彼に、思わず笑みが漏れる。エヴァンダーは相変わらずだ。だからこそ悔しく、悲しい。

 どこまでも優しい翡翠の瞳を見ていると、なぜだかルナリーは意地悪をしたくなってきた。


「ねぇ、エヴァン様……私のいうこと、なんでも聞いてくれる?」

「ええ、できることなら」

「じゃあ……」


 ルナリーはエヴァンダーのようにうっすらと笑うと。


「キス、して?」


 試すように欲望を言葉にした。



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