表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/49

18.王都

ブクマ35件、ありがとうございます!

 一行は王都に足を踏み入れた。


 王都は壮大で美しい都市だ。

 このところ、ずっと瘴気の渦巻く王都しか見ていなかったので、余計にそう思った。


 現在の時点で王都の結界は破られておらず、当然瘴気も満ちていない。その事実に三人はほっと胸を撫で下ろす。

 人々は忙しそうに闊歩し、市場では活気に満ちた賑やかな喧騒が広がっていた。

 平和な町、そのものだ。


 予定より早すぎる帰還だったが、イシリア国王は即座に謁見を許可してくれた。ルナリーは、今まであった出来事をできる限り詳しく話した。

 王妃メルローズも同席していたが、魅了はされておらず、新しい侍女を入れる予定は今のところないとのことだ。魔女が関わってくる前に戻れたことにホッとする。

 ルナリーたちは国王に、魔女の特徴とリリスという名前を伝えて注意を促した。

 リリスという名は偽名かもしれないが、侍女として仕えていたなら、その前からリリスという名を使っていた可能性が高い。

 イシリア王国では多く使われている名前だが、ある程度は絞り込めるはずだ。

 魔女が行動を起こす前に、どうにか見つけ出して捕らえる手はずとなった。もちろんその時には、聖女が出向かなくてはいけないが。


「国王陛下、今までにもこのようなことはございましたか?」


 エヴァンダーの疑問に、イシリア国王は口を開く。


「魔女を捉え損ねた、という報告なら何度かある。そのあと聖女は、皆死んでいったが……わしにも詳しいことはわからん」

「護衛騎士には話を?」

「聖女の死後、護衛騎士は姿を消しておるのだ」


 イシリア国王の言葉に、ルナリーは首を傾げた。


「あの、護衛騎士の方は、聖女の死後は独身を貫いている方が多いと聞いたことがあるんですが……」

「そういうことになってはいるな」

「護衛騎士の方は、一体どこにいらっしゃるんですか?」

「対外的には他国で暮らしているとしておる」

「あの、意味が……」

「ルナリー様」


 言葉を遮られた方を見ると、エヴァンダーはそっと口元に人差し指を置いていた。

 これ以上は言うなということだろう。ルナリーは仕方なく口を噤む。

 エヴァンダーはそのあと護衛騎士の行方には触れず、国王に禁書堂に入る許可をもらっていた。


 謁見が終わり、王の間を出ると、どっと疲れが出てくる。

 少し休もうということになり、町へ出ると今人気のカフェだというところに入ってみた。

 イチゴのタルトはなかったが、モモのタルトがあって、ラベンダーレモネードとともにエヴァンダーが注文してくれる。

 エヴァンダーは紅茶で、アルトゥールはコーヒーだけだ。


「ねぇ……先代の護衛騎士の方は、一体どこにいるの?」


 ルナリーの疑問に、二人の騎士は目を見合わせて困った顔を始めた。

 どうやらアルトゥールも、国王が言った消えた(・・・)という意味をわかっているようだ。


「エヴァン様」


 エヴァンダーに顔を向けても口を開けようとはせず、ルナリーは次にアルトゥールの方へと目を向ける。


「アル様」

「……まぁ、あれだ。弔い合戦だ」

「弔い……?」


 まさか、とルナリーは顔を顰めた。


「聖女の仇を取るために……?」

「多分な。だが聖女の力がなければ返り討ちに遭うのは目に見えてる。それか、魔女を見つけられずに旅しているか……どっちにしろ、独身を貫いてるってところは事実だよなぁ」

「元護衛騎士の行方については、陛下も預かり知らぬところでしょうから、あれ以上の質問は()めたのですよ。申し訳ありません」


 むうっとルナリーが口を尖らせていると、給仕の男性がやってきて注文したものを置いてくれた。

  「ごゆっくりどうぞ」と去っていくのを確認してから、ルナリーは目の前に座るアルトゥールと、隣に座るエヴァンダーを交互に睨みつける。


「なんだよ、ルー。んな怖い顔して」

「だって……どうしてそんなこと、すぐわかっちゃうの?!」

「いや、まぁ……同じ護衛騎士だからな」

「じゃあ私が死んだあとは、アル様たちも同じようにするってこと?!」


 思わず声を荒げてしまったが仕方がない。二人のこわばった顔をみると、どういう行動に出るかはわかってしまう。


「だめだからね……絶対に、弔い合戦なんて……バカなことはだめ……!」

「ルー」

「ルナリー様……」

「私、言ったよね……私が死んだあとは、生きてほしいって……お願い、約束して……復讐なんてしなくていい……!」


 ルナリー必死の訴えに、アルトゥールは手を伸ばしてきたかと思うと、頭をくしゃくしゃと撫でられた。


「復讐なんてしねぇよ。だって俺らが魔女を討伐しちまうんだからな!」

「そうですよ。取り逃したりなど、絶対にしません」


 二人の言葉にホッとする。

 たしかに魔女を逃さず、討ち取ればそれで済むことなのだ。

 もちろん、簡単なことだとは思っていないが。


 二人を生かすためなら、どんなことをしてでも魔女を討ち取ってみせる──


 ルナリーの決心は、固まったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ