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肝試しの記念品

カーテンの隙間から、やわらかな陽光が部屋に差し込む。

朝だ。

僕はいつものように、お気に入りのラジオに手を伸ばす。

ラジオからは、彼女の透き通った声。

今日も朝から彼女の声で目覚めることができた。


楽しい1日の始まりだ。



彼女と出会ったのは、今から半年前のこと。

中学二年生に進級したばかりの春に、海外の学校から彼女が転校してきた。

髪も瞳も、きれいな青色。

身長は高めで、同じ中学生とは思えないほど大人びて見えた。

自己紹介のときには、たどたどしい日本語で故郷のことを話していた。


一目惚れだった。

特にその透き通った声の美しさには、息を呑んだ。

それから僕は、積極的に彼女に話しかけた。

学校でも、帰り道でも話しかけ、帰った後には電話もした。


彼女が透き通った声で「近藤くん」と僕の名前を呼んでくれた時は、感動して涙が出た。


夏休みに入る前のこと。

休み時間に、クラスメイト達の会話が耳に入ってきた。

別に聞くつもりはなかったが、無意識のうちに僕の耳は彼女の声を拾ってしまう。


彼女は数人のクラスメイト達と一緒に、廃病院に肝試しに行くと言っていた。

男女のペア三組で、町はずれにある廃病院の中を探索するらしい。

肝試しか……彼女ともっと仲良くなれるチャンスかもしれない。

彼女の声ももっと聞けるかもしれない。


よし、僕も行こう。


肝試し当日。

集合場所には、僕以外に6人の男女がいた。

彼女は引っ込み思案で、断るのが苦手な性格だ。

今回の肝試しも、友人に誘われて断りきれずに来たのだろう。


僕が彼女を守らなきゃ――強くそう思った。


思わず僕は彼女の手を引き、廃病院へと入った。


「近藤くん、どうして……?」


突然手を引かれ、彼女は困惑しているようだ。

僕は、君と一緒に居たいからだと素直に打ち明けた。


彼女は泣いていた。それを見て、僕も涙が出た。

よかった。僕の思い、伝わったんだね……。


彼女の手を引きながら、僕は廃病院の中を走っていった。

後ろからは、男子たちの声。

どうやら僕らを追いかけてきたようだ。

僕は咄嗟に、彼女と一緒に近くの部屋へと飛び込んだ。


その部屋は、とても不思議な部屋だった。

畳の上に、机や椅子、テレビに本棚、スタンドライト、それにベッド……

さほど広くない部屋の中に、ところ狭しと家具が並んでいる。

昔使われていた宿直室だろうか。


奇妙なことに、家具は総じて薄いベージュに白と赤の配色のものばかりだった。

それによく見ると、黒い繊維が絡まっている。

気味が悪い。

一体誰が集めたんだろう。


そのとき――

不意にテレビがつき、画面に男性の顔が映し出された。


「た……す……け…………て……」


それを見た彼女は涙を流して絶叫し、部屋から出ようとした。

が、腰が抜けたようで、立ち上がることができないでいる。


僕もビックリして、思わず一歩後ずさった。

すると足元にあった椅子に躓いてしまい、頭を打って……そこで意識が途絶えた。



僕が意識を取り戻したときには、廊下の窓から夕日が差し込んでいた。

どうやら僕は、部屋の外で意識を失ったようだ。

そして、一緒に部屋に入った彼女のことを思い出した。

慌てて周囲を見回しても、この廊下にはいない。


彼女は大丈夫だろうか。怪我をしてはいないだろうか。

恐怖や不安を押し殺して、部屋のドアを開けた。


先ほど見た奇妙な家具たちが夕日に照らされ、赤みを帯びて不気味さが増している。

彼女の姿は……ない。


帰ったのだろうか。


そこでふと目に入ったのは、机の上にぽつんと置いてあるラジオ。

他の家具と同じような配色だが、これには青い繊維が絡まっている。

こんなところにラジオなんてあっただろうか……?


ラジオを手に取って調べていると、電源が入った。


ザザ…………ザザ………………


「……近藤……くん……たすけ……て……」


その瞬間、僕はすべてを理解した。



カーテンの隙間から、やわらかな陽光が部屋に差し込む。

朝だ。

僕はいつものように、お気に入りのラジオに手を伸ばす。

ラジオからは、彼女の透き通ったような声。

今日も朝から僕の名前を呼んでくれた。


さあ、楽しい1日の始まりだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 棲みついてしまったのでしょうか。主人公イカレてますね。 面白かったです。
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