魔法少女になれと?
「私と契約して、魔法少女になる気はないか?」
そう僕に胡散臭い感じでぬいぐるみが話しかけてくる。
このぬいぐるみは確か魔法少女と言っていた。
魔法少女、昔はアニメや漫画の世界でしかありえない空想のものだとされてきた。
しかし、8年前に魔法少女を名乗る少女達が現れたのだ。
魔法少女はともに現れた人に害を与える化け物を退治する役目を担っており、一躍人々のヒーローとなった。
そんな魔法少女になりたくはないかとこのぬいぐるみは言っていた。
「えっと……、僕は男だし18歳以上なんだけど……」
そう、魔法少女というからには幼い女子、つまり18歳未満の女の子にしかなれないのだ。
実際18歳になった魔法少女が魔法が全く使えなくなるというわけではないにしろ、ほとんど使えなくなったという実例がでている。
「それについては問題ない、私にもわからないことなのだが、なぜが君には魔法少女になれる才能を持っている、それに君の容姿ならば問題あるまい。」
「ちょっ、僕にとってこの容姿はコンプレックスなんだよ!」
「それはすまないことをしたな。だが、自覚はあるのだろう?」
「うっ、たしかに僕は女顔で低身長だけど……」
僕の見た目は一見すると中学生ぐらいの女の子にしか見えないというのは本当のことなので否定はできない。
でもさ、なんか認めたくないじゃん?
だって僕はれっきとした成人男性なんだから。
「さて、話を戻そう、君は魔法少女になる気はあるかい?」
「う〜ん……、魔法少女になって得はあるの?」
「そうだな……、中学生ぐらいの若い女の子と仲良くなれるぞ。」
「犯罪みたいでなんかやなんだけど。」
成人男性が中学生の女の子と仲良く……
どう考えても犯罪の匂いしかしないな。
「じゃあ、人々にちやほやされるぞ。」
「別に興味ないな。」
他人にちやほやされてもあんまり嬉しくない、というかちやほやされるのは魔法少女の僕であって、自分がちやほやされてる気がしないし。
「う〜む……、そうだ、自衛手段が増えるぞ。」
「お願いします。」
「え?これで納得するのか?」
自衛手段、これほどまでにいい言葉はない、自衛手段は大事、自衛手段最高!!
「変なやつだな……、まぁいい、じゃあ早速契約をしよう。」
「わかった、僕は何をすればいいの?」
「僕と握手をする、それだけで契約は完了さ。」
握手か……随分と簡単だね。
僕とぬいぐるみが握手をする。
「よろしくね、え〜と……」
「おっと、申し遅れていたようだね、私の名前はユーカリ、君のパートナーさ、君の名前は?」
「僕の名前は桃草 かすみ(ももくさ かすみ)これからよろしくね、ユーカリ!」
そうして僕、桃草 かすみとユーカリの長い魔法少女人生が始まった。
「あっ、もうこんな時間!早く仕事に行かなきゃ!」
このままユーカリとのんびりしてたら遅れちゃう!
「おや?君には仕事があるのか、では私も君に付いていこう。」
「え!?職場にペットはちょっと……」
そういうとユーカリがジト目で僕を見た。
「……私はペットではない、それに君以外からは僕の姿が見えないように魔法を使っているから問題ない。」
へぇ〜、そんな都合のいい魔法もあるんだな〜
「後でその魔法教えてね。」
「……まぁ、いいだろう。」
「やった!じゃあ話も終わったし仕事に行くよ!」
そう言って、僕は玄関を勢いよく飛び出した。
「っ、ぐぇっ!」
そして勢いよく何もない場所で足を滑らせ転ぶのであった。
「……やれやれ、この先大丈夫なのか?」
そうユーカリが呟いた。
「う〜……、さすがにこんなことは滅多にないんだけどなぁ……」
そう言って僕はふと僕の足に引っかかったであろうものを見た。
「!」
僕は反射的にポケットへ手を入れてしまった。
僕の足に引っかかった杖のようなものの側に妙に可愛らしい服装をしているまだ中学生ほどの少女だったからだ。
僕は倒れている少女を見てすぐさま緊急事態だと察した。
それにこの顔はどこか見覚えがある。
確かテレビの魔法少女特集で若手のスーパーヒーラーとか言われていた魔法少女アキレアだ。
「……ということは……っ!」
背後から妙な感じがしたため、反射的に身をかがめる。
その瞬間、頭上をレーザーのようなものが通った。
そのレーザーはその後壁に当たり、壁を砕いたあと消滅した。
「あ、危なかった……」
一体何なんだ?
そう思い僕は後ろを見た。
するとそこには一軒家ぐらいのサイズがある化け物が居た。
化け物の近くには戦闘中魔法少女の姿もある。
「あ〜……、これは仕事は遅刻だな。」
遅刻理由を説明するために写真を撮るか……
パシャ
……うん、よく撮れてる、魔法少女と化け物がきれいな対比を作り出している。
「なっ、近くに人がいたのね、しかもこんなに幼い、早く写真なんて取ってないで逃げなさい!」
あっ、気づかれた。
まぁ、シャッター音もなってたし、魔法少女は耳がいいらしいから当然かな。
「なにやってるのよ!早く逃げなさい!このヨウインタスは綿あめ級なのよ!?」
ヨウインタス、それはあの化け物の総称のことだ。
ヨウインタスが現れて以来、ニュースではたびたびその名が現れている。
また、綿あめ級とはヨウインタスの強さのことを表す階級で、5段階存在する。
綿あめ級は丁度真ん中で、ヨウインタスの中でもかなり強い部類である。
「……もしかして腰が抜けて逃げられないの!?」
……うん、そろそろ彼女の話にも耳を傾けよう。
彼女は確かアイリスという名前の魔法少女だ。
魔法少女特集で言われていたキャッチコピーは確か小さき体に大きな希望を宿す少女だった気がする。
随分と大げさなキャッチコピーだな。
あと僕が逃げないのは腰が抜けたわけではない、逃げるべきかどうかを考えているからだ。
『……もしかして戦ってみたいと考えてないかい?』
「うぇっ」
頭の中からいきなり声がしたためつい声を上げてしまった。
この声はユーカリだろう。
おそらく念話ができる魔法があるみたいだ。
あとで教えてもらおう。
そう考えていると背後にいたであろうユーカリが前に出てきた。
『それにしてもなぜ君は家を出たときにあの化け物に気づかなかったんだい?つい、この先大丈夫なのかと呟いてしまったじゃないか。』
え!?
あれって僕が家を出てすぐにころんだからじゃなかったの!?
『まぁいい、君はきっとこう考えているんじゃないか?魔法少女になって力試しをしてみたいと。』
……まぁ、正直そう思っていた。
だって今の僕には魔法少女の力があるのだ、今ならきっとあのヨウインタスとも戦えるだろう。
そう思い、僕は逃げずにいた。
『ふふっ、やはりそのつもりだったようだ、君にはこれをあげよう。』
そう言ってやけに白く、これといった装飾もない携帯を渡してきた。
しかし、この携帯って……
「今どきガラケー?」
そうガラケーなのだ。
因みに折りたたみ式の物だ。
もしかしてユーカリって結構おじさんだったりするのだろうか、声も見た目の割にダンディだし。
『……かなり失礼そうなことを考えてそうな顔だね。まぁいい、その携帯電話を開いてみてくれ。』
そう言われてガラケーを開く。
やはり随分とシンプルなガラケーだが、一つ妙なボタンがある。
ボタンの模様はドレスのシルエットだ。
『そのドレスのボタンを押して合図がなったらなんでもいいから一言言ってくれ』
……なんでもいいのか?
まぁいいや、押そう。
僕がドレスのボタンを押すと、ガラケーから音声が流れる。
「Are you redy?」
「……防衛開始!」