異人の性
「急ぐよ春!ここで一攫千金して、回らない寿司でも食べに行こう!」
「これ仕事ですけど」
軽い足取りで、怜が春の手を引く。それもそのはず、今から行くのは彼女が大好きなお金の溜まり場、カジノである。
「休日にわざわざ駆り出されたんだし、少しぐらいご褒美があってもいいと思うんだけど」
「同感だが、この案件には散々悩まされてきただろ。今やらなきゃ、来週も休みが消えるぞ」
「それは部長が悪いよ。さっきだって学生のくせにカジノに行きたいって駄々こねてたし、絶対普通じゃないよあの人」
ーなどとなんだかんだ楽しげに話す二人だったが、その会話は飛び込んできた演説の声にかき消された。
「憎き"異人"に制裁を。人ならざる異形どもにかける慈悲はありません」
「野郎…」
小さく舌打ちをしつつ、物陰に身を潜める。
「知っての通り、異人とは、姿形は人でありながら、その内に異魔のような異能を秘めた、いわば怪物…」
「まずいな、駅が占拠されてやがる。私達"異人"が近寄るわけにもいかないし、次の駅まで歩くか…」
「いっそ突っ切って仕舞えばいいじゃない。そもそも"異人"の区別なんて奴らにつくの?」
「どういうわけか気づかれるんだよな…それで暴動でも起きたら異魔どころじゃない」
"異人"を貶め、潔白な人間のみを尊ぶことを目的として作られた、"排異教"一度近寄ると洗脳されるなど、黒い噂の絶えない団体である。
「私達異人の天敵ね…この体のおかげで異魔とも戦えているけど、複雑な気分だわ…」
苦い表情で、二人はその場を立ち去っていった…