第八話 死闘
俺は狂戦士のスキル。狂い剣舞を発動する。このスキルは一分の間、相手を高速で切りつける事が出来る。
そうしておいて、魔法陣に横たわるガキを肩に担いだ。
――この時間、ちょっともったいねえんだよな。
子供救出に使う時間は攻撃できないのでロスになる。
少しばかり不謹慎なことを思いながらも、ガキを担いだまま、手を伸ばしてくる敵を切り付けて一直線に出口を目指す。
出口まで来るとガキを玄関の外へ放り出した。
「逃げろ! 振り向くんじゃねえぞ」
そう言ってからガキに追っ手が掛からぬよう、出口を背負う。
一匹も逃してはならない。ガキの後を追わせてはならない。
俺は手に持った二振りの剣を握りしめる。
この剣は、商人が用意したあの凶々しい剣ではない。いつもの、冒険者時代に使っていたものだ。
これを持ち出したのは、なんとなく今夜の戦いを予感していたからなのかもしれない。
この剣には右に炎、左に雷の付与が掛かっている。
掛けたのはハンスだ。
二人で封印士のところへ行って掛けたのだ。
「ブラッドの武器には僕が掛けたいから」
そんな事を言ってたな。
――頼むぞ、お前ら。
ガキに使った時間は七秒。
残りは五十三秒。
さあ、狂い剣舞の効果時間中にどこまで敵を減らせるか。
一秒に一匹倒せれば余る計算だが、そう上手くはいかない。
あまりのスピードで斬り殺していく俺に、魔族たちは距離を取り始めた。
――おいおい、人間相手に警戒するんじゃねーよ。お前ら人間の強さを越えてるはずなんだろ。かかってこいよ。
こうなると俺から敵を追わなければならなくなる。当然、攻撃のペースが徐々に鈍くなる。
斬って、斬って、斬って、斬って。
狂い剣舞が終わった時点で、約七分の一の敵が残っていた。
俺は身体に痛みを感じて下を見る。
随分と傷つけられたものだ。大小合わせて二十は下らない傷から血が溢れている。
返り血では無い。魔族の血は緑だ。
狂い剣舞の効果時間は六十秒。その間は攻撃し続けないともったいない。つまり、一切の防御は捨てている。
――パーティーの時ならハンスが防御支援で守ってくれたんだがな。
狂戦士は攻撃し続けるのがモットーだ。先ほど敵を下がらせたように、攻撃で敵を圧倒することが防御に繋がっている。
だから俺は動き続ける。
残りは七匹。
狂い剣舞中に槍持ちから倒したせいか、残りは剣持ちだけ。
武器のリーチを考えても、同時に掛かってくる相手は三人くらいだ。
――楽勝だよ。クソども。
俺は後ろからかかってきた相手の剣を屈んで避けて、振り向かずに自分の脇の下を通して剣を突き刺す。
炎の付与のお陰で、辺りを肉の焼けた臭いが充満する。
もう一方の雷の剣で正面の攻撃を受け止める。電撃のせいで相手は武器を取り落とした。
だが、相手の武器が接触したまま俺の方に落ちてきた為に、自分も多少の電撃を食らう。
――いてえな。痺れちまう。
だが、これは良い刺激だった。血を流しすぎて若干、身体の感覚が鈍くなってきたところだ。
――もっと頑張れってことかよ。厳しいな、ハンスは。
雷による痺れを叱咤と捉え、俺は立ち上がる。
正面の敵を斬り、その影に隠れて相手の落とした剣を拾うと、遠巻きに見ていた魔族の一匹に投げつける。
離れて油断していた魔族は、呆気なく投げた剣を腹に受けて倒れた。
――寒いな。もうあんまり血が残って無えのか? 凍りそうだ。
俺は床に置いた自分の剣を拾い直す。
敵の残りは四。
だが、実際に手の届くところに居るのは二匹だ。
他の二匹はボスの護衛で来たのか、生粋の魔族である。そいつらは俺と雑魚魔族の戦いを高見の見物と決め込んで、ニヤつきながら眺めていた。
俺は同時に切りかかってくる二人の雑魚魔族を左右の剣で受け止めると、そのまま、身体を回転させて強引に切り捨てる。
――やべえ、視界が狭くなってきた。
だが、俺の心は折れなかった。
理由は明快。
何故なら残り二匹の敵に死相が浮かんでいたからである。
死相はずっとだ。ここに入った時から、全ての魔族に浮かんでいた。
――死相よ。
ここに来て突然、消えるとかは無しだぜ。
お前のせいでこんな事になってるんだからな。
ふざけた事をしたら殺すぞ。
顔の相を殺せるわけは無いのだが、随分と振り回されたのだから、愚痴くらい言わせて欲しい。
俺は余裕たっぷりに構える残りの二匹を見る。
――どっちも強そうだ。ガウズより強いんじゃねえの。
一匹はごついガタイをしている。もう一匹は細身だが筋肉質だ。
パワー型とスピード型。
そのうち、ごつい方が笑いながら言う。
「俺が行こう」
進み出たごつい魔族が両手を宙に翳すと、鋲が沢山付いたグローブが手に現れる。
セスタスか。
つまり格闘タイプだ。魔族は俺の太股くらいある太い腕を振りあげて、俺に殴り掛かってくる。
俺は二本の剣を交差させて受ける。
――くっそ重てえ攻撃だ。こりゃ守ると不利だぞ。
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