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第十一話 帰郷

 今度は俺が尋ねる番だ。


「んで、この身体は誰のものなんだ」


 まず肉体を入れ替えられるものなのか、どんな手段を使えば可能なのか、などの疑問はあるが、すでに入れ替わっているのだから省略した。

 割と手順を飛ばした質問にもシャーリーは、引っかかることなく答える。


「私の旧知の伯爵の息子さんです」

「俺が使っていて大丈夫なのか」

「はい、承諾済みです。元々、事故に遭ってから、かなりの年月の間、意識不明だったのです。魔法で生命を維持してきましたが、説得して譲っていただきました」

 聞けば、生命を維持するのに莫大な費用が掛かるらしい。

 肉体を生かすためなら、心を入れて普通に暮らせば、その費用も必要が無くなる。

 そう説き伏せたとか。


「その理屈だと、後々、身体を返さなくちゃいけねえんじゃねえの?」

「いえ、もう伯爵夫妻は意識が戻るのを諦めております」

 維持に掛かる費用。終わりの見えない介護生活。心が折れるのも仕方がない。


 ――せめて身体だけでも、ってことか。


「条件があります」

「なんだ」

「定期的に伯爵夫妻に会ってください。その際、父さん、母さん、と呼んで頂ければ」

「いいぜ、それくらいはするさ」


 その後、シャーリーは長い間、黙り込む。


「遠慮しないで言えよ。アンタの頼みなら大概聞くぜ」

 そう促すとシャーリーは眉根を引き絞る。

「完璧主義の私がブラッドさんの肉体を死なせておいて言うのはおこがましいのですが」

「ああ」

「頼みを聞いてもらえると言うことは、ブラッドさんは私に借りがあるということで宜しいか」

 

 ――なんだこの前置き、面倒くせえな。


「借りがあるという事でいい」

「そうですか」


 そう言うとシャーリーは再び黙る。そしてしばらくしてから、意を決したように喋りだした。

「先日、父が亡くなりまして」

「そうか、それはご愁傷さまだな」


 ――葬式にでも出ろってか。まあ、知らねえ顔じゃねえしな。


 シャーリーは俺のお悔やみに頭を下げると再び口を開く。

「それでですね。父が亡くなってから判明したのですが、父は死ぬ前に私の婚約者を勝手に決めていたらしいのです」

「へえ」 

「私は嫌なのです」

「相手は嫌な奴なのか」

「それは分かりません。直接、会ってませんから。しかし、噂から察するに、父が決めた相手は父と同じような人物なのです」


 俺は考え込んだ。

「ああ、脳筋って事か」

 脳筋とは脳味噌まで筋肉で出来ている、の略だ。要するに肉体派という事である。

「私は裏から領地経営に尽力してきました」

「知ってる」


 辺境伯は俺とはウマが合ったが、数字には弱かった。大っぴらにはなっていないが、土地や金の管理はシャーリーが取り仕切っていたはずだ。


「これからは表だってやっていけると思った矢先、別の脳筋にやってこられても困るのです」

「文武両道の可能性もあるだろ」

「ありえませんね。調べはついてます。一番厄介な、無能な働き者タイプです」


 酷い評価だな。

「それで俺にどうして欲しいんだ。そいつを殺してくれ、とかは無しだぜ」

 ――そりゃ、俺は指名手配犯だけどよ。


「そんな事は言いませんよ。私と結婚して欲しいんです」

「あ?」

「正確には、偽装結婚ですね」

「おいおい、何言ってんだ。俺とアンタじゃ身分が……」


 ――あれ、そうか。


 俺が何かに気づいたのを見透かしてシャーリーが言う。

「今のブラッドさんは伯爵家の次男坊です。一応、釣り合いますよ」

 今度は俺が一瞬、黙り込む。

 そして答えた。


「いいぜ」

「嫌そうですね。間が空きましたよ」

「そうじゃねえよ」

 

 ――なんか、コイツの掌の上で踊らされてる感があるんだよな。


「その、なんだ。計画的じゃないよな?」

「はあ? そんなわけ無いでしょう。誰がどうやったってブラッドさんが死ぬのを計画に入れられるわけがありません」

 

 ――だよな。

 俺が勝手に死んだんだし。


「でもよ。偽装ったってどれくらいの期間なんだ? アンタだって跡継ぎが必要になるだろ」

「ニ、三年くらいですかね。その間に父の決めた婚約者が私を諦めて、他の誰かと結婚してくれれば良いのですが」


 ――ふむ。筋は通ってるな。


「俺は貴族の作法とか知らねえぞ」

「構いません。病弱設定ですから、身体が弱くて屋敷に引っ込んでいると吹聴しておけばいいのです。あ、当然、何もしなくていいですよ。良かったですね。あこがれのヒモ生活です」

「別にあこがれて無えよ」


 どのみち、帰るところは無いのだ。

 真っ当な選択なら息子だった伯爵夫妻のところだろうが、知らない人間と四六時中、親子関係を続けるのも、気まずい。


 俺はシャーリーに手を差し出す、彼女も無表情のまま握り返してきた。

 契約成立の握手だ。


「まあ、よろしく頼むぜ」




 その後、俺とシャーリーは故郷の領地で暮らすことになった。


 その二ヶ月後、

 ハンスたちは魔王討伐に成功した。


 おしまい。

最後までお読みいただき感謝でいっぱいです。メンタルが豆腐ゆえ感想欄を閉じていますので、良いも悪いも思うところがあれば評価を押していただければ嬉しいです。

では、また何かの物語で会いましょう。

2021/03/22後日譚として「ブラッド、論破される」を投稿しました。

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