第十話 吐露
強い日差しが俺の瞼を突き抜けてくる。
――眩しいんだよ。もう少し寝かせろ。
そう思ったが、その考え自体がおかしいと気付き、俺は飛び起きた。
――あれ、生きてんのか。
上半身を起こして日差しが差す、窓際を見るとシャーリーが椅子に座っている。
俺が寝ていたベッドの周りには視線を遮るためのカーテンがある。
どうやらここは病院のようだ。
――病院ったって、あの傷が治るわけねえぞ。
俺は右手で左腕を触る。切り落とした左腕は存在していた。
俺はシャーリーに向かって口を開く。
「ハンスはどうなった?」
俺がそう尋ねると、抑揚の無いシャーリーの声が帰ってきた。
「目覚めて第一声がそれですか」
――あれ、なんかコイツ苛ついてる?
俺は改めて尋ねる。
「俺は生きているのか?」
言いながら愚問だと思った。実際に俺は声を発し、日差しを眩しがっているのだから生きてるに違いない。
しかし、シャーリーからの答えは予想を裏切っていた。
「残念ながら……。完璧主義の私からすれば恥ずべき事ですが、ブラッドさんは死にました」
「ふざけんなよ」
「ふざけてませんよ、別に。左腕もあるでしょう」
――???
訳が分からない。
「あのよ。俺の立場になって考えてくれよ。何がなんだが分からねえ。説明してくれ」
俺の言葉にシャーリーが少し俯く。
「すいません。第一声が期待したのと違ったので取り乱しました」
ちっとも取り乱した様子のないまま、シャーリーは小さく深呼吸をして息を整えた。
そして続ける。
「ブラッドさんの身体は損傷が激しすぎて、修復が不可能でした。なので、心を別の肉体に移したのです」
簡潔な答えだ。分かりやすい。信じられるかどうかは別として。
俺が黙っているとシャーリーは補足する。
「何故、私と私の配下がブラッドさんを助けられたのか疑問でしょう」
まあ、身体を死なせてしまった手前、助けたとは言いづらいですが、と前置きしてシャーリーは椅子から立ち上がった。
「ここからは私の取った行動とその理由、そして考察と私からの疑問を述べていきます」
強い日差しが窓から差し込む。
窓辺に立った彼女の明るいブラウンの長い髪を陽光が透かしている。
「ブラッドさんからハンスさんの依頼を受けた時、これはなにかあるな、と思い、私は密偵を張り付かせたのです」
「ああ、ハンスにだろ」
「いえ、ブラッドさんにです。正確には二人とも。ハンスさんは帰郷した時点で終了。ブラッドさんはそのまま随時ですね。なので魔族との戦闘後に駆けつけられたのです」
……。
「あの監視はアンタのかよ!」
「はい?」
まあいい。まだ何か話の続きがあるようだ。
俺は再び黙る。
シャーリーはまるで講義をする教師のように、ゆっくりと狭い範囲を歩きながら喋る。
「帰郷した際、ハンスさんは退職金も無しでパーティーを追い出された、と申しておりました。しかし、ブラッドさんはハンスさんにお金を渡すよう、私に依頼した。これは大きな矛盾です」
――あー、
コイツに頼んだのは失敗だったか。
こんな余計な詮索をする奴じゃないと思ったんだがなあ。
俺が黙っているのを良いことに、シャーリーは語り口調のギアを上げる。
「つまり、ブラッドさんは何らかの事情でパーティーを解散せざるをえず、憎まれ役を買って出たのです。それはその後のパーティーメンバーを罵倒したりする行為で分かります」
そこまで一気に喋るとシャーリーは俺に向き直り賞賛する。
「あの演技はなかなかのものでしたよ。ブラッドさん。私以外ならまず騙されるでしょう」
「アンタ……。見に来てたのかよ」
「当然です。ブラッドさんが仲間を罵倒している、なんて密偵の報告。信じられませんからね」
……。
――そこまでするのはなんか怖いぞ。
シャーリーは仕上げとばかりに、畳みかける。
「そこから悪徳商人との接触。潜入捜査。魔族との戦闘。この流れから鑑み、私はある結論に達したのです。ブラッドさんは表に出来ないパーティーの弱みを魔族に握られて、仕方なく解散。責任を取って自分一人でケリを付けた、違いますか?」
――違うぞ。
長い沈黙。
シャーリーは真っ直ぐに俺を見たまま動かない。
――コイツ、勝手に憶測を喋って勝手に答え合わせを望んでやがる。
シャーリーの早くしろと催促する視線に耐えかねて、俺は口を開いた。
「アンタは俺を高く評価し過ぎている」
そう言ってから、俺は全てをシャーリーに打ち明ける。
敵の死相が見える事。
それが仲間に現れた事。
ハンスの死相が一番、濃かった事。
俺個人が仲間の死を見るのが嫌で、勝手にパーティーを解散に追い込んだ事。
「仲間には言えねえ。仲間だからこそ言えねえ。あいつらは誰かが死んでもそれを糧にして、前に進める。だが、俺には無理だ」
シャーリーは部外者だからだろうか。抵抗無く、全部ぶちまけた。
「こんな事、あいつらには恥ずかしくて言えないんだよ。俺が、俺だけが冒険者として格落ちだ、なんてな。あいつらは平和の為なら命だって捨てられる覚悟がある。俺とは違うのさ」
俺の言葉をずっと黙って聞いていたシャーリーが割り込む。
「ブラッドさんだって仲間の為に死んだじゃないですか」
「あんなのは成り行きだ。ガキが居なきゃ逃げてたぜ」
どうだろうか。逃げる前にガウズの首くらいは跳ねたかもしれない。そうすると逃亡できたか、怪しいが。
「幻滅したか?」
「いえ、別に」
俺から見ればシャーリーはすっきりした顔である。
俺は、とある懸念を口にした。
「ハンスたちに余計な事を喋って無いだろうな」
この言葉にシャーリーは呆れたような、それでいてソワソワと浮ついたような表情をする。
「喋ってませんよ。でも今はハンスさんたちを集めて、ブラッドさんについてとことん語り合いたい気分です」
「いい加減にしろよ」
「冗談です」
――コイツ、冗談言うのかよ。
全て吐き出し俺もすっきりした。
結局、誰かに聞いてもらいたかったのかも知れない。
次で最後です。良ければお付き合いください。




