第一話 追放
「ハンス、お前を黒き鷹から追放する!」
俺はパーティーメンバーの支援術士であるハンスにそう申し渡す。
黒き鷹は俺たちのパーティー名だ。
「ちょっと待ってよ、ブラッド! それ、本気で言ってるのかい?」
支援術士というのは、味方の攻撃力や防御力を上げる、もしくは敵の攻撃力や防御力を下げたりしてパーティーを支援する。
動揺したハンスの目を睨みながら、俺は続ける。
「当たり前だろ。お前の支援なんて鼻クソ程度じゃねえか。今までお情けでパーティーに置いてやっていたがもう限界だよ」
「そんな、僕だって必死にやってるよ。そりゃ一流の支援が出来てるか、と言われれば分からないけれど」
――そりゃそうだ。コイツは俺と一緒に田舎から出てきて他のパーティーなんて知らないからな。他の支援術士がどういうもんか分からないはずだ。
ハンスは食い下がる。
「でも、ブラッドの職は狂戦士だろ。僕の支援で防御力を上げないとまともに……」
ハンスはそこまで言うと急に口を噤んだ。
「あ?」
俺は凄む。
「まともに、何だ? 俺はお前の支援が無いとまともに戦えないってか?」
「そんな事は言ってないけど……」
――ほぼ言ってたじゃねえか。
正直、気弱なハンスがここまで口応えするとは思わなかった。最近はパーティーを抜けるように惨い仕打ちを仕掛けていたし、悪い噂も流しまくった。だから何となくクビ宣言も察していたはずだ。
ハンスは唇を噛みしめながら声を漏らす。
「僕たちは幼なじみでこれまでやってきたじゃないか……」
「だから何だ? 幼なじみだから寄生させろってか、そういうのを寄生虫っていうんだぜ」
この言葉は堪えたようだ。ハンスは今まで見たことが無い程、怒りの表情で俺を睨んでくる。
――いいぞ、その調子だ。
「寄生虫呼ばわりなんて、ひどいよ」
俺はいやらしい笑いを浮かべてハンスの肩に手を置く。
「お前にも分かってるだろ。王家お抱えの特級冒険者になってからの俺たちの戦いは厳しいものばかりだ。今後、お荷物のお前は要らないんだよ」
――まあ、俺も限界なんだけどな。
ハンスは思い当たる節があるようだ。がっくりと頭を垂れる。そしてその体勢のまま、呟く。
「僕の追放の事、他のメンバーは知ってるの?」
「いや、俺の独断だ。俺はリーダーだからな。今まで皆、俺が決めて、それに従ってきたろ? 人事だって俺が決めるさ」
黒き鷹は受ける依頼も戦術も全部、俺が決めてきた。これは事実だ。
ハンスも言い返せずに俯いたままだ。
俺は続ける。
「いいから出てけよ。あと、金も装備も置いていけ。今まで飯を食わせてやっただけでも感謝しろよ」
「そんな……僕の預金はパーティーの運営資金に組み込まれて」
「うるせえなあ、金が無いなら田舎にでも帰れよ。あの何もない田舎へな」
――いいか、田舎に帰るんだぞ。ハンス。一回でいいから。王都は宿代が高いぞ。素直に帰れよ。
厳しい物言いにハンスは何かを決断したのか、顔を上げる。
「退職金も無しに追い出すんだね。最低だ。そこまでブラッドが僕を嫌ってるなんて、思いもしなかったよ。分かったよ。田舎に帰るよ」
――よしよし、聞き分けが良いじゃねえか。
ハンスは恨みがましい視線で俺をもう一度睨むと、冒険者ギルドの個室から出ていった。
ハンスが出ていくと、誰もいなくなった部屋で俺は呟く。
「しょうがねえだろ」
――だってお前にメチャメチャ濃い死相が出てるんだから。
こうして俺のパーティー崩壊計画が始まる。
読んでくださりありがとうございます。メンタルがお豆腐なので感想欄は閉じています。ゴメンナサイ。良い悪いを評価していただければ喜びます。