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今こそせいしゅん

同志諸君! 今こそ青春するときだ。」            



もしかすると、この物語はエンターテイメントの対極に位置するかもしれません。

ご了承ください。また、登場人物が愚痴ってばっかですが、ご容赦ください。

登場人物は理想と現実の狭間で戦っているので、愚痴が出るのも仕方ない仕方ない、

と流して頂けたら、幸いです。




高校ニ年、五月、今が青春‥って、んなわけねーだろォォォォ!

オレは、心の中で毎日叫んでいた。 



「同志諸君! 今こそ取り戻そうではないか、我らが世界を!」

 ‥この野郎、また演説スイッチ入りやがった。

「わかっているのか諸君、我らは今、高校生だ。高校生と言えば何だササマル?」

 ササマルとはオレのあだ名だ。

「‥うーんとなぁ、‥青春?」

「その通りだ! しかし我らは青春していない! これはおかしいではないかぁ!」

 ‥うん、おかしいよね。でもそういうもんだよ。リアルは‥

 オレは隣のモトと頷きあう。しかし、ホーマンは演説をやめない。

「このままではドンヨリとした高校生活の思い出しか残らない‥。わかるか諸君?」

 ‥うん、わかるよ。それが現実ってやつさ。

「このままではダメだと?」

 モトが呟くように言った。

「そうだ! だから我々はこれより、積極的に青春することにする」

 は? それができりゃとっくにやっとるわ!

「はあ、そっすか。がんばってください。僕は遠慮しますよ」

 モトはだるそうに言った。

「‥モト、お前はそれでいいのか。毎日毎日ギャルゲーして画面の中の女の子を攻略するばかり‥それで満足なのか?」

 ホーマンは冷ややかにモトを見下ろす。

「う、うるさいな! ホーマンには関係ないだろ!」

 モトは怒った。

「‥モト、お前今まで何人の女の子を攻略してきた?」

 いきなり、‥唐突だな。

「‥うーん、確か八十四人」

 は?

「この世界では?」

「‥‥‥‥」

 モトは黙秘権を行使している。

「現実では0人か‥」

 静かにホーマンは言い放つ。

「うっざ! つかホーマン、お前も0人だろ」

「‥‥‥‥」

 ホーマンはしばらく沈黙した後、

「それを言うならササマルだってそうだ」

「‥‥‥‥」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

   チ―ン ‥だるっ

 そう、ここにいる男達、オレを含む三人は、青春したくてもできない‥という空しい高校生活を送っていた。もうこんなシーンを何度繰り返したことか‥。

 三人揃ってムンクの叫びができそうだ‥。その自信がある。‥‥はあ。


 オレの名前は広中支志、ここではササマル。自分で言うのもなんだが毎日中身のない日々を送っている。‥慣れちまったぜ。

 隣で携帯ゲームを使ってギャルゲーっぽいものをやっているのは江戸元信、ここではモト。黒眼鏡が印象的な、‥‥学生ですね。そして、最後の一人、さっきから無意味に等しい演説をしていたのが川崎奉馬、ここではホーマン。いつも自信満々に色々と語るが、語るだけで実行力がない。‥ということをオレは知っている。

「ふう」

「はあ」

「やれやれ」

 三つの溜息が聞こえるこの作戦本部室。いや正確にはただの空き部屋。物置なのかどうかよくわからないが、校舎三階の端の端にある空き部屋をオレ達は勝手に拝借している。たまーに先生がここで何している? と訊いてくるが、勉強道具一式を机に並べて、勉強してます。ここはめっちゃ集中できます。とか言えば、それでスルーしてくれる。まあ実際何もしてないし‥。で、この空き部屋は我らが作戦本部室と勝手にホーマンが名づけている。

「ここは今日からリアルバスターズの部室とする」

 は? 

「おいホーマン、それってリ○ルバスがはっ」

 ホーマンのチョップが頭にヒット。

「黙ろう。‥我ら三人はこれよりリアルバスターズだァ!」

 ‥‥‥‥‥もう、この人はダメかもしれない。

「‥で、ホーマン、それってなんだ?」

 モトが訊く。

「俺はもう、フィクッションには飽きた」

 ほう、フィクションには飽きたと‥ で?

「俺はリアルを生きる」

 ほう、‥ で?

「そのためには」

 ホーマンは溜める。

「そのためには?」

「わたし、気になります」


「彼女をゲットしよう」

 ‥‥‥はあ。

「それができるのは、イケメン野郎か話術のうまい奴だ。それに何かに秀でてるってのもいいな‥。素直にやさしくできるとか‥  で、オレ達はそのどれにも該当しない」

 オレは現実を言い放った。

「寝言は寝て言お、ホーマン」

 モトの眼がどす黒い。

「愚か者! あきらめたらそこで試合」

「終了だろ」

「‥バスケが、バスケがしてえよ」

「もういいだろ、‥もう夢見んのは終わりにしようぜ」

「なッ、おいお前安○先生に謝れよ」

「‥‥ごめんなさい。‥‥‥はあ」

 オレはリアル、現実に萎えていた。もうずっとだ。一年前は高校生活全部が輝いて見えたのになあ。‥まあ、見えただけだが‥。結局青春なんて何ひとつしてねえ。アニメの見すぎだった。現実甘くねえよ。うん。

「ここで終わる気か? 冗談だろササマル」

 なんだよその真面目な顔は‥

「何が言いたいんだ」

「俺達の青春は、まだ始まってもいない!」

 ‥確かに。

「そうだよ、ササマル」

「‥‥‥‥わかってる、そんなのずっとまえからわかってる。でも、じゃあどうしろと? オレはオレなりに高校生活エンジョイしようとがんばった。で、何も掴めず果てた。また、同じようになるだけだ」

「今度は、そうならねえかもしれない。アゲインしようぜ」

 ったくホーマン、お前の自信はどこから出てくる。

「アイサ―、アゲインしよう。この三人で」

 おい。

 モトまで流されやがって。

「いいだろササマル。お前の言うとおり頑張ればなんとかなる保証は全くない。だけど、頑張らないと何も残らない高校生活になってしまう保証はできる」

 ‥‥‥‥。

「‥何かの引用か。つーかよく思い出してみろよ。一年の文化祭、オレ達は何した? 屋台の店してない、クラス行事なかた、バンド‥してるわけねえ、映画作ってねぇ、演劇してねえ、文集売ってねえ‥何もせず呆けてただけじゃねえか。リア充野郎どもを眺めながらな‥」

 沈黙の六秒‥

「もうあんなのは嫌だろ!」

「あたりまえじゃぁぁぁぁーーー」

「じゃあどうするってんだ?」

 

「何度も言わせるな。取り戻すんだよ、我らが青春を」

「これより死んだ青春戦線を展開する」

「おお! わっしょいわっしょい」

 ホーマン、モト、この二人を見ていると、なんだか少しだけ楽しい。‥気がしてくる。

 乗ってやるか。暇つぶしに。‥と思ってしまう。オレもいよいよやべえな。

「よし、いっちょやるか‥」


「よっしゃー、その意気だ。俺達は高一の時、後悔しかしてない。だからこの世界(高校生活)に、天使(リア充さん)に殴り込みだぁ!」

「うおおおおおおおおおーとなし」

「ダ、ダメだ、か○でが消えてしまうバスッ」

「現世にカムバック、オーケー?」

「オーケーですよ」


 モブキャラ達は立ち上がったのだった。


(注‥リア充)

  リアル(現実生活)が充実している人。

  毎日楽しく過ごしていて青春を極めている。

  コミュニケーション能力がすごいすごい。

  彼女(彼氏)がいることが多い。

  クラスの人気者、行事(文化祭、体育祭)などではドヤ顔で先頭に立っている。

  黄色い声援を爽やかな笑顔で返す。(つまり、モテまくり)

 まあ、挙げればまだまだありますが、きりがないのでこの辺で‥。

 もうあまり使われない言葉ですかね。まあ、一応の説明です。


 私も、リア充になりたかった。なりたかったんだ。

 せめて、ササマル達には‥。



『作戦会議だぜい』

「さて、そのためにはまず、ササマル、お前に斬り込んでもらう」

 は? ホワイ?

「何でオレが?」

 ホーマンは静かに笑みを浮かべながら言い放った。

「そういやお前、サハロフのことが好きだったな?」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ズドン。

 コイツ! 卑怯だ。いきなりオレのハートに直接アタックなんてひどい‥。

 ひどいじゃないかァァァ。

確かにオレはサハロフ(オレ達が勝手につけたあだ名で本名は佐原祥奈、少し天然なところがドキッとくる可愛い女の子、クッキングクラブ所属)のことが好きだ。いつも楽しそうにそして無邪気に過ごしている佐原さんを見ていると、とても癒される。ドキッとしてしまう。しかし、遠い。佐原さんの世界は遠い。同じ教室にいるのにとても遠くに咲くたんぽぽですね。

で、そういうことです。オレにとってテレビの中のアイドルと大差ない距離。

「っ‥‥‥‥‥。で、それがどうした?」

「お前の彼女にするんだ」

 無理だぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーー

 コイツやっぱ現実見てねぇ‥。オレなんかと佐原さんがつり合うわけねーだろが。大体オレの一方的な片思いで話したこともロクにねえんだ(泣)

「大丈夫さ、ササマルならきっとできる」

できるわけねーだろ、テメ―のギャルゲーとはわけが違うんだよ。現実世界の話だぞ。だいたいリアルじゃギャルゲーみたいな展開は来ない。少なくともオレ達には来なかった。

アゲイン。                 少なくともオレ達には来なかった。   

「むちゃ言うな」

「さあ、今週中に告白しようね」

 勘弁してくれや‥、こいつらにオレの繊細な恋心を話しちまったのは間違いだった。

「大丈夫だ、俺達も協力してやる」

「尚更、心配だよォォォォ!」←日常のノリで


「作戦内容はもう考えてある」

「はあ‥」

「まず、サハロフはクッキングクラブだ。クラブ活動後、サハロフはオスカル(西野緒鈴、佐原さんの親友、優しい彼氏持ちのリア充さん)といつも二人で帰っている。そこを何とかして俺達が、オスカルをサハロフから引き離す。その隙にお前がサハロフに近づき告白、以上だ」

 無理だぁぁぁぁぁぁーーーー

「ふざけやがって、お前らオスカルおびき寄せるだけかよ!」

 息を切らしながら言った。

「そりゃそうさ、なんたって主人公はお前だからな。それに、もしかしたらオーケーしてもらえるかもしれないだろ?」

「ないね、それは」

「0パーセントと言い切れるか?」

「‥‥‥‥‥」

「男は勇気、度胸、覚悟だ!」

 そう言うお前はどれもねえだろ。

「応援するよ、ササマル」

「マジかよ、モトまで」


「つったてやっぱ無理だよ」

「ササマル! お前このままでいいのかよ!」

「‥‥‥‥」

 確かにこのまま何もしなかったら、何もない。夢も希望も‥ない。

 ‥‥‥‥‥‥。

だったらいっちょマジでやるか。‥とか思ってしまった。

‥‥‥やるか! 

やるか、やるか、やるか?

‥‥‥‥ふん、仕方ねーな。

「やってやるよ」

 オレは完全に吹っ切れていた。‥わけではないが吹っ切れた顔をしていた。

 アレ、これやばくね。

「よくぞ言った、それでこそササマルだ」

 話が勝手に進みそうだね。やばいね。‥‥うん。

「僕の恋愛必勝法を教えるよ」

 ああ? モト、お前のはギャルゲー必勝法だろ。リアルじゃ燃えないゴミだぜ。

 まあ、聞くだけ聞いてやるよ。


『作戦会議だぜい2』

「まず、最初は冷たく接する。ヒロインが悲しい出来事に遭う。その後優しく接する。以上だよ。これで全てうまくいく」

 いくわけねーだろ。何のギャルゲーだよ?

「モト、黙ろうか、お前バカだよ、うん、将来はニートか、あ?」

「うるさいな、こう見えても僕はモテモテなんだぞ」

「でしょうね、あっち(画面の中の女の子)の世界では」

「‥‥‥‥‥‥おおおおおおおこの世界は不平等なんじゃぁぁぁぁ!」

 うわ、なんだいきなり!

「モト、落ち着け、オレが悪かった」

「現実なんかぁクソくらえなんじゃぁぁぁーーー」

「おお、そうだよな、うんわかってるよ」

「だよな、ササマルはわかってくれるよな」

「当り前だ、この世界は不平等さ、だからこそオレ達は戦うんだろ」

「うん、戦う、この憎たらしい世界で輝くために」

「リア充どもの度肝を抜いてやろう」

「うん」


 死んだ青春戦線が、開戦しようとしていた。

「我らの夜明けは近いぜよ!」

 ホーマンは名言を引用。



『現実世界に疑問を投げかけるぜい』

「一人ひとりに無限の可能性がある。ここ(学校)では一人ひとりが主人公。‥果たしてそうだろうか?」

「違います」

「オレ達のこのザマをみろよ」


「モテる奴はとことんモテるが、モテない奴はとことんモテない。‥これ事実だよ」

「同感だ」

「だな」

「そんなバナナ」


「校門まえで黄昏ていても、あなたはこの町が好きですか? と話しかけられることはない」

「いつか‥」

「とも○くん」

「この町は嫌いだ」


「不思議な鏡に吸い込まれて、異世界へ召喚されることはない」

「ですよねぇ」

「好きなタイプはシ○スタだ。いや、やっぱりル○○だ」

「オレが主人公だったらあぁんなことやこぉんなことを~」

 ボスッ


「自己紹介でただの人間には興味ありません」

「ああ、僕も巻き込まれたい」

「憂鬱だ」


「嫌々ながら古○部に入って謎解きに」

「ないわ」

「今日の古典は難しかった」


「俺と彼女と幼馴染が」

「僕、彼女も可愛い幼馴染もいない」

「ミーテュー」


「ハーレム系アニメの主人公はよく見るとイケメン」

「同感だ」

「気付いていたよ」

「やはり顔だったかァ、ハハハ(笑)‥‥‥(泣)」



「これが、リアルだ」

「絶望した!」

「はっはっは、眼から汗がでるよ、‥絶○先○に会いたい」


「しかし我々は最早、絶望することに絶望した!」



『すまし顔のリア充に疑問を投げかけるぜい』


「席替えや調理実習的な時間に、なあ、おれ彼女と同じ班になりたいから協力してくれよ、席換わってくれよとか言ってくる奴」

「あーうざいすよね」

「だるそうに返すとおれたちの愛を邪魔する気か? とかこっちが悪者扱い‥」

「あるあるー」


「あー生徒会活動忙しくて死ぬぅ、文化祭実行委員疲れるー、とか言いながら土壇場でドヤ顔のリア充」

「あー、好きでやってるくせに嫌々やってるオーラ出す奴な」

「しかも、みんなで成功させようよ! とかこういう時だけ友達面してくるし‥」

「いるいるー」


「ブログとかで、彼女持ちのリア充は、女絡み拒否、○○が最後の女、的な自己紹介にツーショット写真まで添えて、惚気記事連打」

「あー、まあ個人の自由だからね」

「おつかれさまさまだよ」


「最近の日本はこーだ、アメリカはあーだ、韓国はこーだ、中国はあーだ、とか自分のエセ知識理論を人に演説しまくって満足する奴」

「それはお前だ」

「それは君だね」


「アニメの見すぎで現実にその輝きを望んでしまう奴」

「それは僕だ」

「それはオレだ」

「希望を解き放とう!」

 ん?


我々は疑問を流さない。ずっと溜めこんでいるのだ。

つーか最後の方、関係なかった‥。




『ふわさん登場、だぜい』

ふわさん(平沢ゆう、軽音部、アニメに詳しい女子で唯一オレ達の理解者、ちなみに名前もさることながら平沢さんは、けい○ん! の大ファン。その髪型は主人公を意識しているとかいないとか)はたまにオレ達の作戦本部室(校舎の隅、ただの空き部屋)に入ってくる。

「おっす、来てやったよ」

「おう、ふわさん」

 この部屋に女子はふわさんしか入ったことがない。こんなところに自分から来るなんてふわさんは相当な変わり者だ。ありがたい話だ、部屋が和む。

「最近どうよ調子は、高校生活エンジョイ出来てる?」

 ふわさんの性格は、意外にも現実主義。

「いえ、特には‥」

「そっか」

「だが、我々はこれから動く!」

 ホーマンが強く言い放つ。

「ほほう、なんかおもしろそうじゃん」

「そ、そんなことはないかと」

 

「ササマルが好きな人に告白するのだァ!」

「何だってぇぇ! ササマルが‥なんで? 青春アニメの見すぎ?」

 驚きながらも、その瞳は「私、気になります」になっている。

「ちげえよ」

 つか、ふわさんに言われたくねえよ。

「ふー、さえない男子達を私は応援するよ。で、誰に告白するの?」

「おいおい、それはさすがにふわさんでも言えないよ」

 ふわさんはしばらく考え込んで

「もしかして佐原祥奈?」

 どどどどどどどどどどど! どゆこと! 

「何故ワカタ?」

「女の勘ってやつかな。ササマル、さりげなく祥奈のこと見てるよね、毎日」

 いやぁぁぁぁぁぁぁーー‥この人怖すぎ、平沢○に全く似てねぇ。

「‥‥それって、もうクラスの女子みんなにばれてんの?」

 おそーるおそる訊いた。

「いや、多分気付いてんのは私ぐらいかな‥。私はいつも人間観察してるからねえ」

 怖! この人怖! 

「まあ、私はただ見てるだけだから、安心して」

「安心できねえ‥」

「ふわさんはそういう人だ。実は全然ふわふわしてない」

 ふわさんは笑みを浮かべ

「そうよ私は全然ふわふわしてない。ただ、ふわふわしたものが好きなだけ、そういう意味ではあなた達もそうでしょ?」

「‥‥確かにそうかもな」

「私はゆるーく生きていきたい。でもそれって結構難しいんだよね。現実って難しいじゃん」

 少し切なげな表情。

「ふわさん‥」

「じゃ私は部活で青春してくるんで、またね」

「おう、またな」

 ‥ふわさん、何故オレ達に本音を語るんだ?


 


『あいさつ、それはかなり難しいんだぜい』

「まずは、あいさつからだな」

「は?」‥オレは言葉が出ない。

「まず、朝のあいさつでサハロフ(佐原祥奈)との距離を縮めるんだ」

「‥お前、あいさつがどれほど難しいか、わかってないだろ?」

「簡単さ、ただおはようって一言声をかけるだけさ」

 お前が女子にあいさつしてるところなんて見たことねえぞコラ。

 おまんが女子にあいさつしょうとこなんか見たことないけんのコラ。‥我ながら何弁?

「あのなぁ、話したことほとんどねえのに突然おはようなんて現実でしたら、この人どゆこと? ってなるよ」

「そうか?」

「そうだよ、実際、一年前、‥‥ガクガクブルブル」

 キャラ作ってテンションMAXでおはよー言いまくって果てた本人オレがここにいるんだからな。

「‥昔のことは、忘れよう」

「‥そうだな」

 気を付けることだ。あいさつは難しい。タイミングを間違えたら、変な人になるから。うん。‥よく本に書いてある、仲良くなるにはまずはあいさつ。それはただの理想だよ。

世の中そんなに甘くねえ。さまざまなトラップカードがセットされてるからな。

 ただ社交辞令としてあいさつは重要だ。



『さりげなく話しかけるんだぜい』

「というわけであいさつがダメなら、さりげなく話しかけろ」

「まあ、それしかないよな」

 そう、さりげなく、自然に話しかける、それが無難に仲良くなる方法だと思う。

 ただこれもテクニックがいる。タイミングが重要だ。

「今日はめちゃくちゃ暑いねー、とかどうかな?」

 いいわけねえだろモト、それのどこが自然なんだよ。熱いのはオレだけだよ。

「今度、一緒に帰りませんか、とかは」

 アホか‥、ここは現実だぞ。つーかそれギャルゲーでもある程度、好感度を上げといてのチョイスだろ。いきなりそんなこと言ったら殺される。(社会的に)

 妙な噂が流れて、学校行けないパターンは御免だ。

「次の授業何だったっけ? とかはどうだ?」

 状況が状況なら悪くない。‥しかしこれが使えるのは周りに男子がいない場合だ。

 普通身近な男子に聞くだろ。でも、‥確か使えそうだな。

 ‥うん。

「いいかもな、さりげない、確かに」

「お前、サハロフとロッカー近いんだし、さりげなく話しかけてみろよな」

「検討する」

  

 さりげない検討作戦候補。

 ‥次の授業何だっけ?

「自然でいいねえ」

 ‥今日のテスト出来た?

「だいじょぶだいじょぶ」

 

 論外、燃えないゴミ

 ‥今日はめちゃくちゃ暑いねー。こんな日はアイスだねぇ。一緒にどうだい?

「まずはその舌の根から、‥焼き尽くしてやろう」

 ‥今度、一緒に帰りませんか

「人違い乙」

 ‥ぼくだよ、ともだちだよ

「やばい、これはやばい」

 ‥あーそびましょー

「拒否」

 ‥危ない! 悪の帝王ゾーマが君にとり憑いている!

「取り憑かれているのはお前だ」



『ところで何でテンパらずに女子と話せるんだ? リア充さん? 

               というわけで、 さっきの続きだぜい 』

「ってもやっぱ話しかけるのって難しいよな、何でリア充さん達はふつーに女子と会話してるんだ?」

「アンサーA イケメンだから」

「アンサーB 驚異のコミュ力」


「‥‥コミュニケーション能力が、奴らと違いすぎる! ついでに顔も」

「ついでじゃないよ」

「遠すぎる! こんなにも遠い世界だというのかァァァァァ」


「‥‥お、つ か れ 」




『不良に絡まれた時はこうするぜい』

「恐ろしい方々に絡まれたとき、お前ならどうする?」

「すいません連打かな」

「甘いな‥」

「じゃあお前ならどうすんだよ」

「こう言ってやるよ」

「ほう?」

「あぁ! あんなところにグリズリーがぁ!」

「‥ボコられたな」

「集団リンチ確定」


候補

 すいません連打

「まあ、そうなるわな」

 謎の呪文連打で相手どん引き戦法

「ソワカロ、ソワカロ、ポポノタン」

 オカマの振りして以下同文

「その勇気があるのか」


論外

 格の差を知れ! 愚民共ォ!

「その後、彼の行方を知る者はいなかった」

 今こそ見せるぜ、バーニングファイティングショットォ!

「彼は息絶えた」

 蚊が沸いてやがる!

「蚊じゃなかった」

 ふっ、悪運の強い奴らよ。まとめてかかって来るがよい!

「その前に救急車を呼ぼう。残念だが一台で足りるだろう」



『バレンタインデーに疑問を投げかけるぜい』

「私は解せない、この日が」

「ボクモダヨ」

「オレもだ‥」


「俺達みたいな男子にとってこの日は、心がとても痛むのだ、空しくなるのだ」

「リア充の祭典を直接目撃しまくってしまう拷問!」

「くそ眼がぁ、眼が焼けるぅ―」


「学校を欠席する価値があるレベル」

「耐えられない‥」

「迫撃砲だァ もう‥勘弁してくれ」

「もういいだろ、気が済んだか‥と奴らに言いたいね」


「しかも、お前何個貰った? とか知ってるくせに聞いてくるリア充さん」

「絶対零度だよォォォォ」‥ようするに無、虚無、皆無。

「はやく、はやくおうちに帰らしてくれい! って毎年思ってたね」

 男の修行だね。



「僕はいいもん、僕にはメルたんがいるもん。あー、僕だけのメルたん‥愛してるよ」


「‥‥‥ぞわっ」 どん引き。モト‥もうやめてくれ。

「おいおいお前さん、所有格入ってますよ」

「泣ける‥」


「メルたんは俺の嫁ぇ」

「‥‥鏡見てこいよ」



 泣ける、妄想コーナー      パチパチパチ。‥‥。

誰にもチョコを貰えず、一人寂しく帰宅中に後ろから君を呼ぶ声がする。

振り返ると可憐な少女がそわそわしながら立っていた。

「あッ、あの! これ‥もしよかったら、貰ってくれませんか? そ、それとも、やっぱりダメかな?」

 ‥そんな日があったらよかった。

でも、もしそうなってたら一瞬で昇天しちまってたかもな。

ならなかたけどな‥。

まあ結論、この日は嫌いだ。


「‥‥帰っていちご百個食べるか」

 


『帰りたいのに帰れない、そんなときの一言だぜい』

「カラオケとかボーリング、ゲーセンに大人数(十数人程度)で行って、いまいち輪に入れないとき、ぶっちゃけ帰りたくなるときあるよな」

「たまにあるな」


「そういうとき、自然に帰れる一言って何だ? みんなのテンションを下げずに、後味悪くしない言葉は何だ?」

「‥‥オレ、そういや用事(本当は‥な、い)あったわ、悪い先帰るわ」

「‥せこいな」

「じゃあ‥、まじつまんねー、てめえなんかと友情ごっこは御免だよ、ヘイっ、とかは?」

「最早ネタとしてイケるな‥、つかお前怖いわ」

「オレ、あの感動シーンをもう一回見たくなったから帰宅するわ」

「それはない、友人としてどうよそれ?」

「思いだした、全部思いだした! 悪い、俺行かなきゃ、アイツが待ってる!」

「誰がお前なんか待ってんだよ! 誰も待ってねえよ」

「今、会いに行きます」

 わっつ?



候補

 疲れたけえ、そろそろ帰るわ。今日は楽しかった(っけ?)。ありがとう。じゃあ

「まあ、そうなりますかな」

意外と候補

 かくれんぼなんだろ! お前見つけなきゃ、終われねえだろ! と叫びながらカラオケボックス、ボーリング場、ゲーセンから飛び出す。

「オレも続いて飛び出すぜ!」



『カラオケでアニソン熱唱したいけど‥だぜい』

「きみを見てると♪ いつもにゃにゃにゃ♪」

「くーーーーぅ歌いたいのに歌えないときあるよなァ」

「確かに、趣味が同じならいいんだが、この良さが響かない人の前で‥」

「だいすき♪ にゃあ♪ だいすき♪ にゃにゃにゃ♪」

「うおおおおおおおーーーー」

「厳しいな‥」


「まあ結論、俺達だけで行くべきだ」

「いや、ふわさんもいるぞ」

「おー、いいですなぁ」

「いっちょふわふわしてくるか!」

「ラジャぁ」

 やっぱり思いっきり歌うべきだとオレは思う。



『趣味を隠すか、堂々とぶちかますか‥だぜい』

「これは悩みどころ‥、むやみに語ることなかれ」

「確かにそうだよな。周りに同じ趣味の人がいればいいんだけど」

「構わん、ぶちかませ。オレはこういうのが好きですって堂々と胸を張るんじゃぁ! 

さすれば八人に変な人扱いされても残りの二人と固い友情を育める」

「ほう、みんなと上辺だけ仲良くするより、多数に嫌われても、少数で深い絆を‥か。

見事なり」

「オレは表で生きていきたいんだ。これがオレだって言いたいんだ! これは結構難しいけど本当はみんな、そう思ってるはず」


 今日のササマルはテンション高いな‥。

 ‥‥‥‥

 上辺だけの仲良しごっこは、上辺だけの関係です。

 モトは、そう思う。



『久しぶりに偶然再会したら、他人面されたんだぜい』

「この前、中学の頃仲良かった奴と偶然会ったんだが、なんか久しぶりーって声かけても知らんぷりされたんだ」

「ドンマイン」

「オレもある。わかんねーよなあーゆーの」

「きっとリア充街道まっしぐらで僕らのことなんか忘れちまったんだよ」

「‥しょっくり!」

「しょっくり?」

「変わってしまった友達は、さようなら‥」

「せつねえな」

「でも変わらない友もいる。お前らとは十年後も腐れ縁で繋がってそうだ」

「はっは、かもな」

「でしょうなぁ」


 来るものは拒まず、去るものを追わず。



『行けたらいくわ‥という言葉に疑問を投げかけるぜい』

「よく、お前も俺ん家来いよ。と遊びに誘うと、行けたらいくわ、と返してくる方がいるが、これってどうよ?」

「プロの心理戦だ」

「この言葉は、マジックカードで、行っても行かなくても使用者に責任が問えないのだ」

「行けたら行く、つまり来るかもしれないし、来ないかもしれない。行くかどうかは当日の気分次第で自由選択できる、‥恐ろしい言葉!」

「はっきりしてほしいよぉヨォ」


「ところで明日、カラオケ行かないか?」

「うーん、行けたら行くわ」

 ん?



『金がねえから無理、とかいう人の不思議』

「俺、今日は金ないんで奢ってくれ頼むぅとか言ってくる人ってさ、金ねぇとか言いながら、ゲームとかDVDとかのブツをたくさん買ってたりするんだよな」

「あー、困るよ」

「現代社会学ぶか‥」

 

毅然とした態度で断わるよろし。



『他人の自慢話はうまく流すんだぜい』

「いろいろ自慢してくる奴いるよね、そういう時、どうする?」

「で、続きは? と返す」

「なんだ、それだけかよ。と返す」

「だめだ、それじゃ相手が怒っちまう。面倒事は損だ」

「じゃあどうするんだよ」

「はっはっは素晴らしすぎて笑けてきました、ぶはっはっは! と返す」

「それアウトじゃね」

「相手キレるよね」


(無難な返し方‥上級レベル)

 それは、すごいですね。(真顔)

「真顔は強いぜ」

 もしかして自慢ってやつですか。 (冗談口調)

「曲がらない変化球」

 それはすごいんでしょうか? (知らない素振り)

「アイドンノウ戦法」

 はっはっは(穏やかに、ただ笑う)

「わらっとけわらっとけ」


(論外)

 でででっで?

「修羅場来る」



『侵略のリア充』

「‥‥終わりだ、もう。世界はリア充たちに支配されるんだ」

「諦めるなモト、‥‥オレが一人残らず駆逐してやる! リア充なんて実際大したことねぇ、俺達が本気を出せば余裕だ。怖くねえ、あの時の俺とはもう違うんだ。行くぞモト!」

「うおおおおおおおおおおおおお」


「なにやってんのお前ら?」



『リア充のうっざぁセリフ連打だぜい』

「一生お前だけを愛してる、お前が俺の最後の女」

「ぽりん」

「げろっと」


「モテるって辛いわ~」

「オエっ」

「はは‥は」


 夜空に咲く花火を見ながら、

「来年も‥、ここで見よう」

「ほわたぁ」

「すのーん」

「FFしたくなってきた」


「どちらか一人を選ぶだなんて、できるわけないだろ!」

「‥大概にせよ人間」

「選べよモテオ」


「悪いけど、お前とは付き合えねえよ、だってオレにはもう‥」

「がはっ」

「おびおび」


「笑えば‥いいと思うよ」

「かはッ」

「シンジられない」


「これ(リボン)、落としたよ。‥はい(結びなおす)、これで元通りだ」

「ここここ」

「たたたたつ」


「俺の省エネスタイルが著しく脅かされている」

「ホーマンたろう」

「ほうほう」





『女子にかけてほしい言葉‥だぜい』

「ここで愚痴ばっかだったけど、ひと息入れよう」

「了解だ」


「あの、これ(お弁当)、作ってきたんだけど、その、よかったら、食べてみて欲しい‥かも」

「いいな、夢の世界は」

「いいよね」


「二人だけの、秘密の場所だね」

「いいな」



「あ、あの、その、ずっと前からあなたのことが好きでした! も、もしよかったら私と付き合ってください!」

「幻聴だ」


「べ、別にアンタのことなんて、す、好きなんかじゃないん‥だから」

「くーーーッ、ツン」

「デレ」


「行かないで、お願い‥傍にいてよ」

「もちろんさ!」

「うん、いるよ」

 は?


「よかったら‥(白紙の入部届けを渡される)」

「焼失した」

「消失かな」

「いやいや渡されてないから」


「私、気になります」←ホーマン

「僕、気になります」←モト

「オレは知らん、お前ら勘弁してくれ」


「来ないで、ダメなんだってば! 優しくしないで‥ 私、馬鹿だからさ、優しくされると、勘違いしちゃう‥」   

「くぅーーーーー、主人公が憎い」


「あなたが信じてきたことを、私にも信じさせて‥。生きることは素晴らしいんだって」

「か○でぇぇぇぇぇーーー」


 ふう、

「さて帰宅してもう一度見るか」

「ミーツー、グレイト」

「おかしいな、眼から汗が‥」


 私は救われたのだ。アニメの感動シーンに。いやアニメ自体に‥

 私は純粋な心を取り戻すことができたようだ。




『これが、オレのリアルなんだぜい』

 キーンコーンカーンコーン

朝九時、教室。

 ‥今日もバラ色とは程遠い、一日が始まる。

 朝のホームルームが終わり、休み時間となる。周りではクラスの奴らが騒ぎ出す。

 当然ながらこの空間にはいろんなタイプの人間がいる。まあ、そりゃ学校のクラスだもんな。そーゆうもんだろ。

 ここでオレ(広中支志‥ササマル)の世界に関わってくるクラスの方々を紹介しよう。

 ホーマン(川崎奉馬)、モト(江戸元信)はもう紹介済みだな。

あとふわさん(平沢ゆう)、佐原祥奈も紹介済みだったかな。

 いや、佐原さんは‥忘れてくれ。うん。

 まず、壱ノ崎凌。何故かタイプがオレと全然違うのに奴とオレは結構仲がいい。演劇部副キャプテンのイケメン。もちろん彼女(西野緒鈴)持ちでリア充。オレにとって唯一リア充の友達? かもしれないな。普段はギャグ連発でお笑いキャラだが、たまにマジ顔のシリアスフェイスをするため、ギャップルールが発動し、かっこ良さ倍増って感じ。


 そして田森友太、まったり穏やか、和みます。ゴツイ体格なのにゆるい性格。何かと話を聞いてくれる。悩み事は、最近雨が多いこと。とか、ドラマの録画忘れたとかで、とっても気楽にスローライフを送っている。オレはたまに思う。この学校で本当の意味で一番幸せなのは、友太なのではと‥。こーいう生き方、目指そうかな‥。


 あと厄介なのは、桑原利貴。バスケ部所属、当然レギュラー背番号6番。彼女持ち。

バスケ部の練習はそれはそれは厳しいらしい。桑原は帰宅部のオレ達に冷ややかな言葉をかけてくる。

「お前って、何が楽しくて生きてるわけ?」

 奴から見れば、さえない帰宅部、オレなんて眼中にないモブキャラなんだろう。ふん、だが奴には奴の苦労があるようにオレにはオレの苦労がある。奴はバスケをする自分に誇りを持っている。県の優秀選手にも何度も選ばれているし。‥だが、それがどうした。


 自惚れて、他人を見下すことばかりしていると、数年後果てるぜ。



 そしてまたも厄介な、北宮まみ。クラスのでっかい女子グループのリーダー。

 無条件でさえない男子を変な人、キモい人呼ばわりしてくる。集団でな。しかもそれをはっきり言ってこない。ギリギリ聞こえるラインでぼそぼそと集まって話す。わざとやってるとしか思えねえレベル。だいたいオレがお前らに何をした。何もしてないぞ。マジ勘弁。

‥だがアンタらの天下も高校だけだ。その腐った性格じゃ後に果てる。今がアンタらの人生のピーク。せいぜい楽しめや。うん。


あと今川清元、天皇のオーラが出ている人。時代を感じるぜ?

それと柴原喜重郎、何故かいろいろなことを知ってる情報屋。



四時間目、現代国語の授業を聞き流しながら、オレは少し過去を振り返っていた。

オレは‥、

高校生活に大きな期待をしていた。それはそれは大きな期待だ。空虚だった中学生活を終えて、高校では何かが変わる、新しい世界が広がる! そう思ってた。本気でだ!

だが、それは幻想だった。何も変わらない。何も‥。ただ空虚な空。周りが楽しそうにリア充発動していても、オレはいつも蚊帳の外。さすがに泣けたね。

それで‥オレは今、どうしたい? 変えたいんだオレの世界を。だから、まだ、終われない。



『いつもの昼休憩だぜい』

昼はいつもの作戦本部室(死んだ青春戦線本部、‥実はただの空き部屋)で、

いつものメンバー+田森友太、この四人で食べている。

 まあ、いつものホーマン演説に友太のまったり感が出てきて、なんか不思議な空間に。

「リアルの教室の恐ろしさを教えてやろう」

「ほう?」

「教室、そう大勢の中に孤独はある。教室でポツーン。我らは狂った世界を知っている。周りは馬鹿騒ぎしてる、その空間の隅で一人で弁当を食べる。なんの拷問?」

「周りが知らない奴なら平気だが、クラスメイトだとなかなかキツイよね」

「オレはここでまったりと昼飯を食べるのが好きだ」

「教室は一度、掃除しないとダメだ。‥心のなぁ!」

「‥‥‥」

「心のなぁ!」

 ニ回言ったよこの人。

「そうかな、ぼくは別に教室でも和むけど」

「そりゃ友太は別だよ、お前自体が和んでるからな」

「そっかぁ」

 

 クラスのみんなと心を一つに。

 先生、綺麗ごとを言わないで、本当のことを言ってよ。



『休み時間のワンシーンだぜい』


「あ、広中君オレ、これ。落としてるよ」

 なッ、佐原さん! 佐原さんはオレのシャーペンを拾った。

「はい」 にっこり笑顔。

「あ、あありがとう」


 あぁ‥今日は‥、いい日だ。うん。


『十日に一度、ささやかなイベントがあるんだぜい』

「なあ、たまにないか? あ、今の俺、なんかの青春アニメの主人公っぽくね? みたいなとき」

「あー、そのシーンだけだったら青春してる奴みたいになる時あるよなァ」

 ‥つきましては、少し前のワンシーンをご覧ください。

「あー」

「あーーーーーーー」

「で?」

 以上終わり。


 ささやかなイベント候補

  ‥あれ、おかしいな、浮かんでこないぞ。



『もし誰かと人格が入れ替わってしまったらどうする?』

「どうするよ、どうするよォ?」

「オレと交代してみるか」

「はぁ? 誰がお前と入れ替わりたいんだよ」

「な! オレだってオメぇとは入れ替わりたくねえよ」

「この三人が入れ替わっても仕方ねえだろ」

「俺はお前らと入れ替わってみるのも楽しそうだがな」

「‥‥そうか、やっぱりテメ―は自己犠牲ヤローだ」

「は?」

「ココロ○○○ト」


「つーかさ、こんなことしてるオレ達の前にふうせん○ずらは来ないだろ。何が楽しくてオレ達入れ替えるんだ?」

「‥‥ですよねぇ」

「でも入れ替わるならやっぱりリア充男子か女子だよな、へっへ考えるだけでニヤけちまうぜ」

「はっはっはっは‥‥‥はあ←溜息」


 そこそこおもしろい人間達。



『年齢制限くらったんだぜい』

「年齢が証明できるもの提示願います」

「つまんねー事聞くなよ!」

「確かに、‥正直さぁ持ち合わせがなくて証明するもんなくても、オレの心はもうとっくに老けこんで三十歳なんだからいいじゃんって思うよ」

「そうじゃそうじゃ!」

「ん? というかさ、ぶっちゃけ僕ら、まだ十八歳来てないじゃん」

「あ‥」

お後がよろしいようで   ってよろしくねえよ!


「モト、てめえの持ってる、ギャルゲーの向こう側に行っちゃったブツはどう説明するんだ?」

「‥‥‥つまんねー事聞くなよ!」


 これは、さえない男の子達の会話、差しさわりの連発をお楽しみいただく、あれです。



『他人に期待するのはほどほどにだぜい』

「他人に期待するだけじゃだめだぜ。誰かがやってくれるだろう。甘いね甘すぎる。自分の道を歩くのだ。そうしないとだめさ。じゃなきゃ、バグが発生して、笑えないことになる」

「簡単に美味しい話には飛びついてはだめさ」

「ノ―リスクで美味しい話ほど怪しいものはないからねえ」

「一気に飛ぶな、着実に歩めってことだな」

「そーだ、徳川さん戦法だ。それが一番確実だろ」


「だよな。‥でもじゃあオレ達は今、着実に歩んでいるのか?」

「あたりまえだ」

「ふん、ここ(高校生活)は茨の道だな」

「俺達にとってはな‥。俺達の世界、口では説明しにくいトラップカードがいっぱいセットされてる。それを全て回避するのは不可能だ。傷つきながら俺達は進むんだ」


 景色は暗闇ではない。霧が深いだけだ。ここは本当は楽園なのかもしれない。

 ‥とは思わないよ。



『起きてもいないことで悩むのは、馬鹿なんだぜい』

「もしあんなことになってしまったら、もしあの事がアイツにばれたら、もしこんなことになってしまったら、もしかしたらアレがやばいことに、とかまだ起きてないことを悩む人いるじゃん。それがすぐに確認できないとき、心配症の人は無駄に悩み続ける」

「つまりアレか、親にエロ本ばれたらどうしよう的なやつか」

「そうだな、それは軽いレベルだがな」

「そうかあ? 結構きついと思うぜ」

「もし今、部屋に入られて勝手に掃除されて押入れから‥嫌ァァァ!」

「まあそんなことはいい、俺が言いたいのは取り越し苦労はやめろということだ。体に毒だ。事が起きた時に考えろ。臨機応変にな」

「だな、いつも心配してたらとても疲れる」

「人生楽しくいこう」




『人間は汚いんだぜい』

「人間は汚い。知ってるだろ。命を喰らい命を保ってる。その自覚がないものが多い。それを知らない奴は‥」

「お前の演説、そろそろ聞き流していいか」

「何ィ!」

「知ってるさ、伊達に現実生きてきてねえよ。人間、現代社会は思ったより汚い。なのにそれを誰も教えてはくれない。夢と希望、無限の可能性を大人は語るばかり」


 だからこそオレ達は、あの輝く世界に憧れる。

 近いようで、遠い、もうひとつの学園生活に憧れるのだ。




『守ってやりたくなるヒロインが増えてきてるぜい』

「あー、増えてますよね」

「なんかいつも平気な振りをしてるけど、強がってるの見え見えで、悲劇性がちらつくパターン多いっすよね」

「テレビの前で、何千人もの男達が俺が守ってやりてえ、と思っているでしょう」

「そう考えると、少し切ないな」

「いやいや、みんな同志さ」

「めでたい考え方だな」


 その例

 私なら‥、大丈夫だから(手が震えている。眼を合わしてくれない)

「大丈夫じゃないじゃん! とか言いたかった‥」

 どうして私なんかにかまうの? (いつもと口調が違う)

「お前のことが‥‥。とか言いたかった‥」

 平気だって、平気なんだってば! (何故か必死)

「嘘つくなよ! とか言いたかった‥」

 一緒に旅をしよう。

「あー、‥ロ○ンスになりたい」

 別に、何でもないよ。ただ‥ (俯いて口を閉じてしまう)

「ただ‥」


 反例‥別ルート

 もう、はじまってるかもしれない‥ (まさか、悲劇性がこちらにまで‥)

「かんべんしてください」



「俺も彼女を守ってやりてえなァ」

「はあ? お前彼女いないじゃん。誰もお前の手なんて求めてねーよ」

「渇ぅぅ!」

「僕は僕を守ってる」

「‥‥はあ←溜息」


 誰かオレを守ってくれ、叫びたくても叫べない。そんなときがある。

 本当は誰かに守ってほしかった。



『本当は‥ただ、クラスのみんなといっぱい話したいだけなんだぜい』

「俺さ、よく思うんだ。クラスにまだ一回も言葉を交わしたことがない人がたくさんいる」

「普通クラスメイトなら一回ぐらい会話してみたいよな、でもなあ、知ってるだろ。クラス替えまで一言も話さなかった、なんて今まで何度も経験してきたじゃん」

「う‥」

「なんかさ、話しかけづらいオーラがあるよな。まあ男子は一部リア充だけど、女子はもう全員に話しかけにくいな。まあ、オレがヘタレで人見知りってのもあるけどな」

「‥同じクラスなのに一年通じて交流が一度もなかった人がいるなんて、切ないな‥」

 

集団になるほど、心が離れていくような感覚。


「そういうのってさ、卒業後どこかで顔を合わせても、素通りになっちゃうんだよね」

「まあ、限りなく他人に近いし、‥というか他人だからね」

「俺はな、分け隔てなくクラスのみんなと話したいんだ」

「オレもさ。そこまではいかなくていい。オレはささやかな高レベルの青春を期待してたんだ。アレだよ、みな○けみたいなゆるくて和む感じの‥」

「ワープするか?」

「うん」

「とりあえず帰宅しようか」

「‥はあ」


 ここは見飽きた。次のステージに行こう。

 ‥じゃあ、どうやって次のステージにいくの?

 そうだな、正確には、ここ(このステージ)を新しく創り変えるんだ。‥‥‥は?



『すばらしい青春の原点とは、ちび○○子ちゃんだぜい』

「俺さ日曜日の夕方、いつも思うんだよね。○○ちゃんってすごく見応えあるって‥」

「‥ほう」

「僕の好きなタイプは城○崎さんです」

「あー、ちょっと安易ですね」

「‥‥うるせえ」

「○○ちゃんのクラスは、いいクラスですよ。俺も行ってみたい」

「はあ」

「俺さ、あのクラスで本当にかっこいいのはイケメンサッカー二人組とか、おぼっちゃまくんじゃなくてさ、は○じだと思うよ」

「おいおい、おぼっちゃまも結構大変なんだぜ。家は広くても‥」

「確かにな‥。そしてや○だくん、ふじ○くんは多分高校辺りで天才ムードメーカーと優しい優等生になってると予想するね」

「ほう‥」

「‥願望だよね、それ」

「‥うん」


 原点はどこだ。 忘れるな、あの楽しかった日々を。

 


『またまたふわさん! だぜい』

「やっぱりわかるのってキミ達ぐらいしかいないかも‥」

「どうしたふわさん」

「別に‥何でもないよ」

「おい、ふわさん、守ってやりたいヒロインの顔になってるよ。それはだめだろ平沢さん。キャラ的に」

「‥そんな顔してた? まいったなぁ」

 ふわさん、何で照れた顔してんの?

「相談なら聞きますよ‥」

「‥ふう、いっちょ話してやるか」

「どうぞ」

 ふわさんは一息おいた。

「私は、この現実世界で心から感動したことってない気がするんだ」

「‥‥‥あ、オレもかも」

「ふっ、それで、まあ生きるって青春ってこんなもんかぁって思ってたとき、出逢った。

 青春アニメってやつにね にね」

「ほう‥」

「私はテレビの前に立ち尽くしたね。そこには、私の思い描いていた、忘れかけていた青春があった。これだよ! これなんだよって。もうあの時の私のハマり方は我ながらすごかった。もう毎日ふわふわしてた。それで私はこんな青春をしてみたいって強く思った」

「ビバ、ふわさん」

「それからは片っ端から次々と新しい青春アニメを見まくって見まくってふわふわしてた。‥けど、私の本当の世界、この現実は、自分自身の学校生活は、ふわふわしなかった」

「わかります! 自分達もだから」


「私は、泣いてみたいんだ。心から。‥ほらさ、部活の最後の大会とか甲子園とか、最後の体育祭とか、学園祭とか、卒業式とか‥。泣いちゃう人多いじゃん。ああいうのってすっごく幸せなことだと思うんだよね。私もさ、リアルで感極まって、泣いてみたい。

‥‥‥‥変かな」

「まさか、オレもそういうので泣きてえな。このままじゃ対極的なことで泣けるわ」


「やっぱりわかってくれる。ここの三人は」

「どもです」


 同志は近くにいるものだ。



『ふわさんと、もうちょい語るんだぜい』

「やっぱり一つのアニメを語るなら、最初から最終回まで番外編も逃さず全話みるべきだと私は思う」

「だよな、やっぱり、今まで見てきたからこそ感動、感極まるシーンがあるよな。そのアニメを知らない人が神回と呼ばれる話だけ見ても、やっぱ何も伝わらないと思うしな」

「そうそう、あの話のワンシーンがこの話に繋がってるみたいな。うわぁみんな成長したなぁ的な感じで」

「ファン的には神回だけ見たとか、最終回だけ見たとか、映画だけ見たとか、もったいねえよな」

「‥確かに、だがそれは個人の自由だしな」

「ふむ」


「僕は好きなアニメは何度も見直すね。最低四周は見るね。二度目からは新しい発見があるから」

「んーー、私は違うかな。やっぱりさ一度きりってのが私はいいんだよね。最初ってのは特別だよ。二度目は展開がわかっちゃうから、ちょっと‥。好きなアニメほど見なかったりするかな」

「オレもだよ。二周目いくなら次のアニメに飛ぶよ。オレは新鮮を第一にしてるからな」

「そうか」


「アニメと現実は違うってみんなは笑う‥‥‥けど、私はどうしても割り切れない。

 ねえ、三人ともアニメのような青春はある! って信じてる?」

「‥‥‥‥‥あたりまえだーーーーーー」

「いえす」

「ビリーブさ」


「ふわさんも信じてるんだろ?」

 ふわさんは少し息を溜めた。

「あったりまえじゃない! だってその方が断然おもしろいじゃないの!」

「‥ふわさん?」

「‥‥‥‥よ、ハル○」

「そのキャラは似合ってないかと」

「むっ‥‥」


「こんなことここでしかしないよ」

「ですかね」


 私はサンタクロースを信じてる。彼は意外な形でプレゼントをくれるだろう。

 ‥と思っていいですか。





『数学の勉強って‥』

「かーっ、全然わかんねえ。微分して、関数を求める。え? 関数って何、このXって何、何なんですか? 関数の値? 何これ、つーか微分って何を出してんの? 定数aの値‥、は?」

「うッ、この数列、漸化式からの階差数列、‥‥やべ意味不明な数字が出た、くそ」

「ったく、ササマルもホーマンもうるさいな。静かにやってくれよ」

「あぁ? 知るかよ。こっちはこのままじゃ余裕で赤点取っちまうんだよ」

「俺もだ」

「ふう、全く、あんなの簡単でしょ」

 ‥そう、モトは勉強ができる人なのだ。

「うわ、イラッときた。‥だいたい数学出来たからって何? 加法定理、Σ(シグマ)計算もろもろ明らかに将来使わねーだろ」

「そうだな、こんな数式に俺達は捕らわれない!」

「見苦しいな。二人共受験どうすんだよ?」

「‥‥‥」

「‥‥あう」


「あーゆうのは天才学者にでもなった気分でやりゃいんだよ。僕は現代のエジソン、アルキメデス、ガリレオって感じでね」

「痛いな、中ニか」

「それで成績が上がれば、問題ないよ」

「‥‥‥、なるほど」

「‥数式が頭に浮かんでくるぅ」

「ようガリレオ」


「やれやれ、」


 数学的思考法は将来必ず役に立ちます。



『英語の勉強って‥』

「僕らは日本人!」

「僕らはにっぽんじんだよ?」

「ったく、うるさいな、静かにしてよ」

「なんだよモト、少し勉強ができるからって調子に乗るなよ」

「‥Why?」

「うわ、またイラッとキタよ。‥大体英語なんてオレたち基本使わねーし、基礎英語なら中学でやってるし問題ないんですよ! ノープロブレムなんですよ!」

「そのとおりだ。英語が得意だからって海外で通訳の仕事なんてしてたら、ラ○ーン商会来ちゃうから、ホテルモ○○ワ来ちゃうから」

「‥‥いや、それはないよホーマン」

 

「‥‥‥‥ジャストアモーメントプリーズ!」

「おう! ム○ちゃんいえーい」


「‥‥さっさと勉強しろよ」


 中学英語は絶対にマスターしたほうがいい。 高校英語は‥知らね。



『化学の勉強って‥』

「ヨウ化カリウムデンプン紙を青色に変える。 は? で? それが何?」

「アルキンは三重結合、付加反応や重合反応もできる。 で? どうした。つかアルキンって実際にみたことある? ないでしょ」

「二人共、マジうるさいな」

「くっそお、オレは錬金術を学びたいんだ!」

「錬成陣の構築式が分かれば、俺も酸素の分解式を通じて、焔の錬金術師になれるのに」

「大佐ァ!」


「馬鹿だよ、二人共、馬鹿だよ」

「うるせえ! 俺は錬金術学べると思ったのに‥、なのに最近は謎の化学式を覚えるだけだよ」

「アセトアルデヒド万歳!」

「アンモニアソーダ飲むか?」


「ふざけたことばっかせずに勉強しろよ」

「‥‥とか言いながらギャルゲーしてんじゃねーよ」

「今、初デート中で重要な所なんだよ!」

 オレは軽く引いてしまった。

「‥化学の勉強やろ。うん」


 化学の理学実験は結構楽しいよね。



『古典の授業って‥』

「かくわづらはしき身にて侍れば、心得ず思し召されつらめども、‥‥わかりませんな」

「わかりませんね」


「大体古文って現代社会生きていくうえで必要か?」

「今は、平成ですよ。先生」

「また二人共愚痴ってんのかよ」


「モト、考えてみろ。現代でこんな奴いるか?

 助けよや! 幽霊? 不気味な声がぁ よやよや ‥‥‥こはいかに、ただの風音なり

 こんな喋り方誰もしてないだろ」

「かかる道はいかでかいまする。」「かれは何ぞ。」「あなや。」


「‥だからどうした? さっさと宿題終わらせてくれよ」


 センター古文は、登場人物の整理が大切らしいよ。

誰が誰に何を言っているのか? 要チェックだ!



「歳月不待人、歳月は人を待たず。ま、さ、に、その通り!」

「あー、もう学生時代も終わったなぁ。何もなかったなぁ。になりかねない僕らは、どうすれば?」

「今、足掻いてます、十代後半を」

「‥笑えねえ」


「己の欲せざるところ、人に施すことなかれ」

「くーぅ、現代社会に響かせたいお言葉!」


 漢文は、素晴らしい格言がたくさんあるよな。



『くそ真面目も休み休みにしてくれ‥だぜい』

「学校から帰宅後、家での勉強は毎日学年+三時間とか、‥ないよねこれは」

「今が一番がんばらないといけない時でしょ! (ほぼ毎日聞きます)」

「だらーっと過ごすな! 勉強しろ! (いつまったりする?)」

「学校は絶対休むな! 内申に響くぞ (で?)」

「赤点は死んでも取るな! (え?)」


「もっと自由に行こうぜ」

「ああ、楽しく過ごそう」

「でもやらなくちゃいけないこともあるよね‥‥というわけで」


『ここぞ! というとき、本気でがんばるんだぜい』

「まずね、人生ってのはね、ここぞという勝負どころだけ、本気になればいいんだ」

「ほう」

「いつも全力疾走じゃ、いずれ果てる。でも、たまにだけ全力疾走なら十分可能」

「ほうほう」

「‥というわけで自分が思うここぞというとき以外はまったりしていいよね」

「‥え?」

「俺は帰って、‥アニメ見る!」


 ここぞというがんばりどころを見逃すと、大変なので、お気を付けください。

(ここぞの例)

 テスト、試合、受験、面接、告白、自己紹介、文化祭、体育祭、なんか大きな行事。‥

などなど人によって無限にあるようです。ちなみに本番だけでなく、その下準備も大切なので、本番だけがんばる、は現代社会は通用しないようです。‥ぶっちゃけ大学受験とか部活の試合って毎日の積み重ねが結果に出ますよね。



『体育祭って‥どうよ?』

「あれはね、スポーツ万能の方々の発表会。僕らは観戦するだけ。がんばってぇ~、てね」

「でも、ああいう行事ってやる気みせて頑張った方がいいらしいよ。‥協調性は大事だね」

「うん、だよね。‥じゃあ、僕らはこういう体育祭、何を頑張るの? 去年は何を頑張った?」

「二人三脚しかしてないので、それをがんばりました」

「‥そんなもんだよね、体育祭って僕らにとって正直イベントに値しないよ」

「わくわくするか? 出る競技二人三脚だけって」


「‥愚痴るのは、そろそろやめようぜ」


 まあ、やるからには、全力でプレイしよう。

 ‥けッ、社会勉強万歳。



『文化祭って‥どうよ?』

「あー文化祭?」

「ふう、みんな楽しそうだったね」

「うん、そうだね」

「あぁ僕も、何か文化部(演劇部、文芸部、漫画研究部、合唱部、的な‥)に入るべきだった。そしたら青春ルートに入れた‥はず」

「‥‥痛恨なり」

「軽音部‥に」

「いや、よく考えろ、うちの軽音部男子は全員ビジュアル系だ。いわゆるイケメンやろー共だ。 お前が入ったらきついぞ。きっと二日でやめたくなる」

「楽しそうなみなさんを、ただ眺めるだけの文化祭って、どうよ? オレタチは蚊帳の外でオケー?」

「ノー」

「やることがなくて帰りたくなるって‥泣ける」

「僕達の青春が、灰に‥」


「‥愚痴るのは、そろそろやめようぜ」


 社会勉強に、なりますた。

 モブキャラのモブキャラを身を持って体感しました。



『生徒会ってどうよ‥』

「あー、アレな。かっこいい奴らが集まってる感じのアレな‥」

「俺は嫌いだ。リア充の印象が強い」

「‥と、言いますと」

「何が美少女ハーレムを作る! だ。ふざけ‥やがって(泣)」

「夢をありがとう」

「ったく下ネタ連発の美少女役員共? はっは、最高(泣)」

「希望をありがとう」

「何故か、和むよね。ああいうジャンル」

「うん」


「このままじゃ部活がなくなるから生徒会長選挙に立候補とか」

「何だって? 部活の美少女全員が応援してくれるから仕方なく立候補した? わっつ?」

「はッ、モテモテかよ!」

「‥‥チョコレート、食べとくか」


 勝負に参加しなければ、絶対に勝てない。

 だが、勝負に参加すれば、負けるかもしれない。

 見物人は、勝てない。けど負けない。

 勝負するかしないかを選ぶのは、君の自由。



『ホワイトクリスマスって何?』

「サンタさん、そろそろ来てよ」

「おかしいな。町はカップルばかりだ」(駆逐してやるぅ、一匹残らず)


「そんなことより、‥俺はサンタを信じる」

「オレもだ」


 ま、枕元にプレゼントがァ! あったらいいよね。

 ‥僕らは、そろそろ青年から、子供になる時間だ。大はしゃぎする子供に。



『お正月って何してる?』

「こたつ」

「みかん」

「箱根ですよね」


「初詣イベントはないのかぁ」

「来年、一緒に行こうぜ」

「‥‥‥そうだね、三人で行こう」

「はあ‥」


 お正月は、和みます。和みます。

 布団に包まって夏目○○帳‥、和みます。和みます。



『席が近いリア充を見ていると‥萎えるぅ』

「席の前で、微笑み合いながら彼女とCDとかDVDの貸し借り、ノート交換したり、‥はあ、勘弁してくれよ。頼むから離れてやってくれよ。目の前で羨ましすぎることしないでぇ!」

「切実な心の叫び」

「マシな方だろ。俺なんてよ、一人で本屋寄ってたら、知り合いのダブルデートに遭遇しちまって、気まずくて何か声かけようとしたら、

よう、何か用か? (どや顔)

いや、別に‥  ←俺

じゃあな (どや顔) 」

「よく、がんばったな」

「ああ」

 ホーマンが頷いたとき、モトが言い放った。

「甘いね!」

「どうした?」

「僕なんて化学の理学実習班、ぼ、ぼ、僕の右隣と左隣、カップルだっだんだぞぉォ!」

 ‥悲痛な鳴き声

「僕ずっと真ん中で固まってたよ。ときめきデレデレに挟まれて窒息死寸前だったよォ!」

 モト、お前。

「よく、がんばったな」

「ああ」


あの人達、眩しすぎて直視できません。



『萌え系アニメは早めに見ておくんだぜい』

「あの手のアニメに大人になってからドハマりするのはヤバそうだよな」

「ああ、今のうちに経験しとかないとだめだね」

「はい、ヘタしたらアニメにハマりすぎて現実に帰ってこれなくなることもあるからね」

「ま、オレ達は大丈夫だ。もうどっぷりだからな」

「そうだね‥」


「というわけで‥」


『趣味は我慢したらだめだぜい』

「内心見たいと思ってるけど、やっぱり萌えアニメには抵抗があるから見ないと決める。(以前のオレ) とか、こんな我慢はいずれ爆発し、よからぬ事態を巻き起こします」

「なるほどな、俺も同感だな」

「やりたいことを我慢したらだめだぜ」


 趣味の我慢が爆発すると、趣味解禁したとき、自分の趣味を相手に押しつけてしまうことがあるよ。

 冷静さがなくなり、極度のふわふわ状態になります。

 それはそれで幸せです。

 しかし、我慢が必要なものも多々あります。



『あの頃はよかった。なんて言っちゃだめだぜ』

「あの頃は‥よかったなぁ」

「‥おい、何言ってんだ、老けてんじゃねえよ。この状況でそんなこと言ってちゃ負け犬野郎じゃねえかよ」

「はあ」

「そういうのはな、天下獲った後、あの頃も大変じゃったが、思い返せばなかなかじゃった。みたいな感じで言うもんなんだよ」

「はあ」

「さえない毎日の中で、あの頃はぁ、とか言ってる時点でさえないんだよ」

「ふう」


 あの頃はあの頃、今は今だ。

 思い出補正してる場合じゃねえ。



『ファッション? おしゃれ? 昔はしてたんだぜい』

「おしゃれ‥か」

「一年前は、してたな。必死になって」

「流行の服一式揃えてみたり、ワックス付けたり、アイロンあてたり、香水スプレー使ったり、ネックレス付けたり‥青かったな」

「朝から洗顔に異常な時間をかけ、こだわりの化粧水使いまくったり。‥若かったな」

「僕らは、浮かれてたからね」

「今となっちゃパパッと洗顔、パパッとドライヤーで、はいオッケーだ」

 一年前、オレ達は盲目そのものに等しかった。

「うわ、なんかかっこつけちゃってるよあの人、とか言われ始め、おしゃれするほど痛い人に‥」

「‥‥やっぱり、素材が大事だよ、あーいうのは。僕らがキメて来ても浮くだけだった、でもイケメンさんがキメてくると、うわ、かっこいい! とかなる」

「いい、社会勉強でした」


 おしゃれ、それができるならとっくにしてる。迷わずイケてる人になってる。




『これは男のロマンだね』

「やっぱり水着だろ」

「いや、浴衣だね」

「やはり裸エプロ」 

 ゴフッ

「そういう路線はナシで」

「はい、すみませんでした」


「いやでもノーマルの制服が一番かもしれない」

「魔女は」

「は? いきなり現実離れ?」

「忍者とかもいいな」

「ほう、くのいち」

「巫女さん」

「あー、いいね!」

「‥‥‥‥はあ」


 儚い妄想は、終わった。


おまけのシーン

「んー、オレならナイトだな」

「僕はソルジャーかな」

「俺はサムライか」


「はッ、回復能力の使える奴(魔法使い)がいない!」



『シリアスなぶつかり合いは、グッとくるんだよ』

「アニメとかドラマでさ、感情のぶつかり合うシーンって、グッとこない?」

「きますよね。現実だと本音語る奴なんてほとんどいないもんな」

「特に予想外の角度から物語を突っ込んでくると、もうたまらないね」

「そうか、そうだったんだ、みたいな感じで物語に引き込まれるよな」


「‥」

「‥‥」

「‥‥‥」



「野球しますか、リアルバスターズで」

「三人じゃ、キャッチボールだね」

「‥‥」


「誰だ? こんなことしやがったのは!」

「‥‥私は気にしてないから」

「気にしてないって? ふざけるな! そんなわけないだろ!」


「惚れた」



『好きな季節を語ってみるぜい』

「好きな季節を聞かれて、真っ先に春、と答える人がいる。春は出会いと別れの季節だからなのか、新しいことが始まるからなのか‥それは本人に聞いてみないとわからない」

「春を甘くみるな。恐ろしい季節だ」

「その通りだ。春はとても危険なのだ。無駄にふわふわしすぎて五月辺りで果てることがよくあるのだ。五月病発動、高校デビューバレる、ああ恐ろしい」

「ガタガタ」

「そう、ササマルは去年の四月、無理にイケてるキャラを演じてしまい、五月に果てたのだ。クラスメイトからは男女問わず変な人扱いされるようになり、理想(輝くアニメの世界)と現実で苦しむ葛藤中に五月病が発動して致命傷を負った。(精神的にも社会的にも)」

 ‥現実(の高校生活)は甘くなかった。

「ガタガタ‥あれから、一年」

「よく、がんばったな」

 本当に地獄だった。あれは、やばかった。青春どころじゃなかった。うん。

 クラスに話せる友達がいない孤独は本当にきつかった。挙句周りの男子からは笑い物にされ、女子からは汚物を見る視線を注がれた。ひとりぼっちで半年以上過ごした高一。

 あのときを地獄と言わないのなら、いったい何を地獄というんだ?

 ‥‥まあ、もう済んだ事だ。


 さてと、皆さまも本当にお気を付けください。

 春は危険がいっぱいです。



「ふう、オレは夏がいいな、特に夏休み前はわくわくが頂点になる」

「で?」

「特に何も起こらない」

「ですよねえ」


「秋は感慨深くていいですな。思い出、楽しかった春夏を惜しむみたいな」

「楽しかった春夏って何?」

「さあ?」

「人違い?」


「冬こそ、人は一番冷静になれる。オレは冬が好きだ」


 最後にもう一度言わせてください、‥春には気を付けて。



『将来の夢について熱く語るぜい』

「なあ、二人共将来は何しようと考えてるんだ?」

「オレは先生になりたい。小学校のな」

「ササマルは教師か‥。最近の子供は大人びてるぞ。モンスターペアレントさんも出てくるだろうし」

「その時は‥、その時さ。オレは小学校に帰る。あの頃に帰るんだ!」

「‥そうですか」

「モトは?」

「僕はゲーム制作会社で働くことかな。いや待て、アニメーターもいいね。京○アニメーション、ビジュアル○―ツとかで働けたら‥」

「なかなか夢があるな」

「そういうお前はどうなんだ? ホーマン」

「俺は小説家になろうと思っている。自分の経験してきたことを書いて、人に何かを伝えたい」

「ほうほう、いいね」


「夢を叶えるには、二つ必要なものがある」

「何だ?」

「なりたいと思う強い気持ちと、そこへ向かうルートをはっきり見据えていることだ」

「ほう」

「気持ちは誰もが持っている。だが、気持ちだけではだめなんだ。我々はもう知ってるよな?」

 ‥当り前だ。気持ちだけで夢が叶うなら、オレの高校生活はもっともっと輝いているはずだ。

「そこに行くためのルートを把握する、夢を叶えるためには作戦がいるのだ」

「その上で努力を積み重ねる」

 その上でってのが重要だ。まず道筋を決めてから努力しないといけない。

「やることは、それだけだね」

「ああ、それだけだ」


「そろそろ説教臭くなってきましたよ‥ホーマン」

「あらま」


 ポ○○ンチャンピオンになるためには、まずジムリーダーを倒していかないと先へ進めない。いきなりポ○○ンリーグには行けない。もし行けたとしても、レベル的に果てるだろう。

 俺は思うのだ‥。

しっかりと先(未来)を見据えて、歩くことができたら‥。



『これでモテまくりだぜい?』

 ホーマンが何かのマニュアルブックらしきものを取り出した。

「ふっふっふ」

「それ、なんだ?」

「ジャジャン! 勝ち組決定モテモテ最強ガイド☆ これ一冊で君の未来はバラ色だ! を購入したァ!」       

「‥‥‥‥‥」

 要するにアレだ。恋の攻略法らしきものが記されているやつだ。

 こういうのは、あまり信じないんだけどな‥

「俺達はこれで大丈夫だ!」

「‥‥‥‥‥‥」

 ホーマン、そんなものでモテモテになれたら世話ないよ。

 ‥‥‥。

 モトはシカトしてギャルゲープレイ中。忙しそうだ。

「よし、一つ一つ読んでいくぞぉ。まず、これだ。

   女子が思う、男子の理想像!   パチパチパチ」

「‥‥‥‥‥‥」

「笑顔がすてきなこと」

「そっか、つまりイケメンだったらオケーってことだね」

「そうだ。これはしゃあない、諦めて次、爽やかで優しいこと」

「そっか、つまりイケメンだったらオケーってことだね」

「そうだ。これもしゃあない、諦めて次の項目へ、

 モテまくりになるための会話術。まず、会話に相手の名前を入れて話すことを心得よ」

「いやいや、会話術って、そもそも会話まで辿り着いてないからオレ達。それ普通に話せるようなフレンドリーになった後の話だからね」

「ねえねえ佐原さんって感じでいこうな」

「でしょうか」

「次、相手8割、自分2割で話すことを心得よ」

「オレ達は相手0割、自分0割、つまり、そもそも女子と会話してないんだよォ!」

「あらま」

「あらま、じゃねーよ」

「気を取り直して次の項目、相手に意識させる恋の技。まず、軽い頼みごとをしてみる」

「教科書見せてよ、とかそーいう類のやつなー」

「ナイスです」

「次、話しかけるとき、軽いボディタッチ」

「肩叩いて話しかけるやつなー。‥‥がんばろ」

「次、相手をきちんと女の子扱いすること。荷物を持ってあげるとか、何かと仕事(委員会てきな)を手伝うとか」

「そうですよね、それができればいいんですけどね」

「次、暗い所で話す。視界が暗いとお互い話しやすい」

「そんな機会はなかとです」

「たくさん電話する」

「そんな機会はなかとです」

「さりげなく、相手と動作を真似てみる」

「怪しまれるのがオチだ」

「えっと次は、」

「ホーマン」

「何だ?」

「このガイドはオレ達に向いてない。使える技はほとんど載ってない」

 ホーマンはページをパラパラとめくっていき、やがてガイドを閉じた。

「‥‥あらま」

「ジョブで言うとな、すっぴんのやつが魔法書読んでも、初級魔法も覚えられないじゃん。それと一緒だよ」

「非常に残念だが、その本はブック○フに持っていこう。オレ達が使える代物じゃねえ」

「アレ、この本、よくみるとイケメンしか出てないや‥」

 ポンっ‥

 オレはホーマンの肩を軽く叩いた。


「目が覚めたか」

 モトが呟いた。


 マニュアル通りには、いきそうにない。



『この世界、セーブもロードもできないみたいだぜい』

さてそろそろ、目の前の夢、ササマル大勝負、サハロフ特攻作戦(佐原祥奈に告白)について語ろうと思う。


「さて、これからササマルの突撃大作戦を考えるぞ」

「やっぱやめようかな告るの」

「何を言っとるんじゃ、やるしかないじゃろう」

 何故か爺さま口調のホーマン

「‥やろう、ササマル」

 モトもこう言ってくる。

 オレは‥、オレは!

 踏み出したいんだ。前に‥。


「‥やるよ、やっぱりやるよ」


「おうよ、そうこなくっちゃな。じゃあまず、確認しとくぞ。

一つ、これは現実で行う作戦です。

二つ、当然ながらセーブ、ロードはできません。失敗したから電源切ってやり直すパターンはゲームじゃないので不可です。つまり、現実逃避はご法度です。

三つ、これはゲーム感覚ではだめです。高校人生を賭けてください。

四つ、さまざまな状況において柔軟に対応できるよう、最高の告白方法、もしフラれた場合の無難ルート、そしてその後の敗戦処理の徹底。これら全てを備えること。

    この事項を踏まえてこれから三人で作戦を考える。オーケーですか?」

「オーケーだ」

「オーライッ」


「まず具体的な作戦は後にして、まずは告白するセリフを決めよう」

「決め‥ますか」

「このワクワク感‥。これはリアルなのか?」


「ササマル、これは俺達が青春するための第一歩だ。まず最初はお前が斬り込むんだ。お前が青春するんだ」

 というわけで、まず、


『告白の言葉を決めるんだぜい』

「これが大事だな」

「どう伝えるか」

「そわそわ」


「好きです。付き合ってください」

「まあ、王道だよな」


「やっぱり、直接伝えるのは恥ずかしい、メールとか手紙で‥」

「たわけ! 直接伝える方が成功確率が上がるんだよ。それにメールや手紙だと、証拠が残ってしまう。もし万一クラスの皆さんにメールや手紙を見られてしまったら屋上ダイブしたくなるぞお前」

「‥うッ」

「心配すんな。ロマンチックな一対一の状況をなんとしても作ってやる。みんなの前で告白なんて地獄修羅なことにはならない」

「‥ホーマン」

「一対一が基本だ。俺とモトがそうなるように手引きするからお前はセリフを考えろ」

「おう!」


 そして、

「オレはお前じゃなきゃだめなんだ。だから! 付き合ってくれ!」

「却下」

「好感度アップの積み重ね&イケメンという条件が不足」


「もし、もしオレのこと好きだったら明日の全国大会、見に来てくれ!」

「全国大会ッて何?」

「僕らは帰宅部」


「君は僕と付き合う運命なんだ! うははははは」

「次の日、社会的死亡確定」

「ご愁傷様」


「やっと会えたな同志サハロフよ、‥さあ共に戦おう」

「人違い」

「現世に帰ってこい」


「ズンズンズンズン、ヘイ!」 薔薇の花束を渡す。

「現実をみてくれ」


「あの、サハラ砂漠ってどこですか」

「思考回路が止まってやがる」



 そしてついに、

「前から佐原さんのことが好きでした。よかったらオレと付き合ってください!」


 シンプルにストレートに、伝えることが大切なんじゃないだろうか。



『フラれた場合の無難ルート確保だぜい』

 ‥現状、フラれる可能性はとても高い。それでも、オレは、

「これは重要、もし散った場合いかに凛として対処するか。フラれて取り乱しすぎると、人は馬鹿なことをやってしまうからな」

「無難に次の日を迎えられるようにしよう」


「付き合ってくれ→絶対無理っす、となった場合の無難な返し言葉を考えるんだササマル!」


 あなたとは無理――――――。の返し言葉。

「そっかだめですか。‥‥はっはっはっは、‥はあ」

「笑えねえ」

「笑うべきではないでしょう」


「むりってイッタ? イタイよ、ココロがイタイヨ」

「正気を保て」

「落ち着け」


「‥‥なーんちゃって、実はこれドッキリ作戦だよ。どうだい? センスいいっしょ?」

「死刑宣告」

「カスだ」


「こんなにも愛を伝えているのに無理だって言うのかぁぁぁぁ!」

「これは無理だ」

「無理だね、どん引きだ」


「もしかして、アーユーハングリー?」

「なんぼのもんじゃーい」

「もずく食べる?」

「もやし食べる」


「こうなるのなんとなくわかってた。たけど、どうしても伝えたくて‥。だからこれだけは言わしてくれ‥。どうか、どうかオレのことを忘れないでくれ」

「重い‥」

「戦場に出兵するレベルの雰囲気‥」


 そして、決まった。


「そっか、‥なんかごめんな、いきなりこんなこと言っちゃって、迷惑だったよね?」

「かっけーよ!」

「潔い漢だ」


 男なら潔く、散れ。



『もし散った場合、その後の敗戦処理の徹底』

「これを怠れば、大変なことになる。告白する勇気がない奴はだいたい告白して散った後の危険、面倒事を恐れている」

(その例)

 次の日、クラスのみなさんに全てのことがばれている。

 話のネタにされまくり。

 相手とは、もう前みたいに友達のままですらいられなくなってしまった。

 周りから痛い視線が向けられて、耐えなければならない。

 こんなことなら告白しない方がよかったと後悔の念に襲われてしまう。

‥などなど。

「ガタガタ」

「こんなことを避けるため、対処法を考えるぞ」

「まず、周りにフラれたことがバレることを避けたいよね」

「これは俺とモトにまかせろ。サハロフ本人とオスカルにしかばれないようにする。オスカル(佐原さんの親友)にばれるのは仕方ない。まあオスカルは周りに話さないでしょう」

「まあこれでオーケーですね。周りにばれなかったら問題ないわけだし」

「そうだなモト、それに友達に戻れないとかの葛藤はない。だって友達にまでなってないわけで、ぶっちゃけだめもとアタックなんでこれ」

 えぼ?

「‥あれ、そうなの」

「そうなんです」


「‥ですよねえ」

「でも、挑む価値はあると思うよ」

「言ってくれるぜこのやろー」


 勝負することにします。


『具体的な当日の作戦を決めるぜい』

「前にも言ったと思うが、作戦内容はこうだ。放課後の部活終了後、サハロフはオスカルと二人で帰る。そこへ俺とモトが赴き、オスカルを引きとめる。で、一人になったサハロフのところにお前が走っていって告白」

「その状況はちゃんと作れるのか?」

「任せろ!」

「任せてよ」

 ‥不安だ。


「作戦中は状況を把握するため、お前には無線機を渡しておく。これでいきなり予想外の展開は防げるだろう」

「‥大丈夫かな」

「絶対大丈夫という保証はない。だが、俺達は変わるためにまず踏み出す。わかるよな?」

「いや、踏み出すというか、飛び出してんのオレだけじゃね?」

「じゃあ、やめるか。また毎日ドンヨリって嘆きながら過ごす日常に戻るのか?」

「‥‥‥」

「ササマル!」

「うおおおおおおおおおおおおお!」

「目覚めたかササマル」

「爆ぜろリアル、弾けろピーマン、コペルニックスワーールドォ!」

「ぶちかますのデェィス!」

「不可○境界線を越えろォ!」


 こんなオレでも恋がしたい!

その時、少年たちは、大はしゃぎする子供に戻った。




『ホーマンの葛藤』


 川崎奉馬は、風呂に浸かりながら考え込んでいた。

 俺は、やっぱりヘタレだ。我ながら強くそう思う。俺はササマルに自分の理論を押しつけてばかり。いつも言うだけで、行動しない奴。自分でもわかってる。

何で自分から青春する! とか言っといてササマルにばかり行動させてるんだ? 

もう一人の俺がそう問いかけてくる。

答えは簡単だ。俺が誰よりも臆病だからだ。自分はササマルを利用してるだけなのかもしれない。いや、きっとそうなのだろう。‥そう思うと俺は俺を許せない。

だけど、俺はササマルの恋を応援している。それは紛れもない事実だ。

もし、ササマルの告白が上手くいったら、俺自身の誇りにもなる。

許してくれ、ササマル。このヘタレな川崎奉馬という男を‥。

お前に期待する、期待しかできない。そんな自分が情けない。

偉そうに語れるのは、ササマル、モト、お前らの前だけなんだ。お前らがいねえと俺は‥。


チャポンッ‥。

さて、そろそろ出るか‥。




『モトの葛藤』


 夜空を見上げながら、江戸元信は色々と思い返していた。

 僕は、この世界をあまり信じることができない。僕だって、高校生活エンジョイしようって強く思ってた。けれど、この世界は狂っている。それが結論だった。ゲームやアニメとは違う、それは皮肉にも学校に通えば通うほど確信になっていった。

 女子達は僕のことを指差し、オタクってあーゆうのを言うんだね、あは。とあざ笑いする。それだけだ。もちろん、優しく話しかけてくるイベントなんてない。一つもない。

あっちの世界に行かないと、癒せない。とてもやっていけない毎日だった。

 でも、最近は、少し変わってきた。ホーマン、ササマルとは話が合う。僕の疑問を笑い飛ばしてくれる、共感してくれる。それは嬉しくて心強い。いつも同じ立場に立ってくれる二人は、僕の大切な友人だ。

 それにふわさん。女子だっていろんなタイプの人がいる。そんな当たり前のことを気付かしてくれた。

 

ササマル、僕は君にリア充になってほしい。僕と同じ不満を抱えた君が、優雅に空を飛ぶ姿を見てみたい。現実で羽ばたこうとする君は、眩しいな。僕が失くしたものを持ってるみたいだ‥。

 



『決戦前夜、ササマルの葛藤』


 その夜、広中支志は、決心を固めていた。


想いを伝えることにしよう。

今まで何十回も話しかけようと思った。けど、できなかった。その度に自己嫌悪してしまっていた。そういう自分を断ち切ろう。

‥‥‥‥‥‥‥。

でも、本当にこれでいいのだろうか。

勝手にオレが舞い上がっているだけなんじゃないだろうか?

 佐原さんに告白したせいで、今以上に高校生活の状況が悪くなる事態は、十分考えられる。一気にリア充狙うなら、逆に奈落に転落することも考慮に入れなくてはならない。そもそも佐原さんへの想いは完璧にオレの片思いだ。冷静に考えれば考えるほど、答えは出てしまっている。でも、もしかしたら付き合える可能性もあるかも、と思ってしまう自分がいる。だから確かめたい。

それに一番はやっぱり今のオレの気持ちを、佐原さんに伝えたいってことだ。

この想いを伝えることができたら、それだけで‥。


一つ、はっきりしていることがある。

それはもし、このまま作戦をやめても、何の得もない。今まで通りを続けて、

今まで通りのまま高校卒業まで迎えちまいそうだ。

変わる。今がそのとき。そう思いたいんだオレは。


 現実であの世界の真似事をする。それは決して間違ってなんかない。

 そうだろ? そう言ってくれよ。




『決戦当日、朝方』

「いよいよ今日だな」

「ガタガタブルブル」


「今日、我らは偉大な一歩を踏み出す」


 今日も佐原さんはいつもどおり無邪気な笑顔を振りまいている。

 こんなオレが告白なんかしていいのかな。

 あー、やっぱりやめるか。どーせオレなんか‥

 でもオレは変わりたいんだ。

 もし全力で拒否られたらどうしよう。(悲鳴をあげられる。苦い顔で泣かれる、など)


 そんな葛藤を続けていると、もう四時間目が終わる時間になっていた。



『決戦当日、昼休憩の作戦会議』

「食欲が出ない」

「食べとけ、腹がへってはなんとやら」

「‥ふう」

「そんな暗い顔すんな、斬り込み隊長さん」

「あー」

「トラウマは生きた証、何もない毎日より上等! 今日は歴史に残る日になるんだぞ」

「黒歴史にならないように、黒歴史にならないように、黒歴史にならないように」

「三回言ったよこの人」

「流れ星は見えたか?」

「‥‥」



『決戦当日、午後の授業』

 六時間目、数学Ⅱ、咲いたコスモス、コスモス咲いた。加法定理乙。

「ふう」

 放課後が、近づいてきている。手汗が‥。

 数学やってる場合じゃねえ。落ち着かねえ。

 ああ、サバイバルだぜィ。


 舞い上がるのは悪いことではない。ただ、お勧めはしない。



 キーンコーンカーンコーン、終礼が終わった。


 放課後だ!


『作戦決行だぜい!』

 いま、大決戦の幕が開く。とか大袈裟ですよね。

「いよいよだな」

「もう少しでクラブ活動も終わる時間だ。サハロフも調理室から出てくるだろう。俺たちはサハロフが校門から出たところで、ゆっくり尾行する。そして一つ目の交差点で俺とモトが作戦に入る。お前は先回りして、サハロフがオスカルと離れたところでズバッと出てきて告白だ。さあ、覚悟はできてるな!」

「‥‥‥‥、こわいよぉー」

「あぁ? 今更何言ってるんだ。やるしかないぜ」

「応援しておりますよ。旦那」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥

 マジかよ。時間は待ってくれないらしい。

 佐原祥奈と西野緒鈴が校舎から出てくる。

 佐原さんは西野さんと楽しそうに会話している。

 遠くて微笑ましい光景‥。

「行くぜィ!」

 ホーマンが駆けだそうとする。

「待て!」

 オレは思わず声をあげていた。

「なんだよ?」

「‥‥‥‥」

「ササマル?」

「まさか、ここまできて中止する気か?」

「‥‥‥怖えェ、体が震えてる」

「ササマル‥」

「告白するのって、こんなに怖いことなんだな、足がすくんじまってる」

「まさかやめる気か」

「か、考え直さないか」

「ササマルぅ! しっかりしろよ!」

「モト‥」

 モトは必死の顔をしていた。

「わかってるよね。僕らの実らなかった青春とか夢の思いをササマルが今、背負ってるんだよ。 ササマルは今、僕らの希望の星なんだ。ここで告白作戦をやめられたら僕は落ち込むよ‥。だってそれって僕らがやっぱりヘタレで何もできないモブキャラだって証明になっちゃうじゃないかァ!」 

「モト、お前‥」

「俺もだ、ショックであっちの世界へ行ったまま戻ってこないかもしれない。二次元に留学することになるかもしれない」

「ホーマン」

「俺はお前に期待してるんだ。ササマル」

「ぐッ‥‥。そんなの押し付けじゃんかよ。お前らが青春出来てねぇのは知ってるけどよ、

このオレも青春なんて全然出来てねえのは知ってるだろ!」

「もちろんだ。だがお前が俺達三人の中で一番勝率が高い。俺は、お前に輝いてほしいんだ。同じ意見を、同じ不満を持った同志じゃねえか。そんなお前が輝くところを見てみたい。それで、俺達も報われる。‥わかるか、まずお前が天下に近づいてくれってことだササマル!」

「‥‥‥‥」

「ここで逃げたら、本当にビックリするほど論外だと思う」

「ササマル! 今がんばらないで、いつがんばるんだよ。いい加減俺達も花咲かせようじゃねえかよ!」

「ぼんぼろう」


「‥‥‥ありがとな、二人共、‥戦ってくるよ自分と、世界と」

「俺達はモブキャラなんかじゃねえことを証明してきてくれ」

「‥おう」



 風が吹く。もう六月だというのに今日は少し肌寒い。


「じゃあ、向こうの交差点の角で待ってろ。俺達がうまくやる。無線機は離すなよ」

「了解」

「健闘を祈る」



 死んだ青春戦線、第一陣、 サハロフ特攻作戦(ササマルの佐原さんに告白大作戦)

  作戦開始17・00、此れをもって本作戦を遂行するナリ。


 世界が、いつもの景色が違って見える。

無線機から声が聞こえてくる。

俺のための作戦はもう始まっている!

「西野さーん、ちょっと用事があるんですよォ」

「‥用事? それって何?」

 西野さんの困惑した顔が浮かぶ。そして隣には佐原さんも‥。

「すごく大事な用事なんですよ! くわッ」

「‥ちょっとあんたたち、なんか怖いんですけど」

 おいィ、どん引きされてるじゃねえかァ!

「あの、お願いです。少し付いてきてもらえませんか?」

 モトの声だ。

「んー、なんで? すごく怪しいし」

「まあまあ鈴、なんかすごく来てほしそうだし行ってあげようよ」

「そう? まあ祥奈が言うならそうしようか」

 おい! 佐原さんもそっち行ったら意味ないじゃんかァ!

「おっと! だめなんですよ。佐原さんは来ちゃダメです」

「え、私はだめなの。‥‥‥‥なんで」

 佐原さんガチで傷ついた声出してるよ。

 全然奴らに任せられねえよ!

「ちょ、祥奈。おいおい川崎ホーマン、なんで祥奈は来ちゃダメなんだよ」

「それは、その」

「もういい、ゴメンやっぱ帰るわ。‥祥奈、帰るよ、うわっ」

 そのときぼそぼそっと囁く音がした。

「ちょっと鈴、帰るんじゃないの? って川崎君、鈴に何してんの? ちょっと!」

「‥ふうッ」

 西野さんの溜息が聞こえる。

「そういうことかい」

「はい、そうです」


「祥奈、ごめんちょっと凌(彼氏)に呼ばれたから戻るね。五分ぐらいで帰って来るからさ。ちょっと待っててくれる?」

「ぶすー、また鈴の惚気。ここに親友がいるのにー」

 佐原さんのぷんぷんした声。これはレアだ。

「すぐ戻って来るからね」

「絶対だからね」


「じゃ、行きますか」

「ふんっ、まったくあんたたちは仕方ないね」

 

ザーーーーーーーーー、音が途切れる。

 そしてしばらくして、

 無線機からは再び声が聞こえ始める。


広中ササマルが、祥奈に告白か‥」

「このことは誰にも」

「話さないよ」

「ありがとう」


 西野さんは空気を読んでくれたらしい。


 さて、ここからが本番だ。


ザーーー

「ササマル、こっちの仕事は終わった。行ってこい!」

「ああ、行ってくる」


 交差点の角から出ると、その二十メートル先に、佐原祥奈がいた。もちろん一人で。

 やばい、この感覚やばい。何年ぶりこれ。体がぞわァってする。大事な試合前の感覚だ。

中学時代(陸上部)を思い出す。手汗が半端ない。今すぐ帰りたいと叫ぶヘタレの自分と熱く燃え上がる戦士の自分が衝突している。ヘタレは一瞬で燃えカスになった。

 さあヒステリアモードに移行だ! ってできたらいいんだけどね。

 心臓の鼓動が高まる。心音が耳に響き渡る。次元を超えている。そんな感覚。

 佐原さんがこっちを見た。


「あ、あの! 佐原さん!」 

 オレはそう叫んでいた。もう後戻りはできない。

「は、はい!」

 佐原さんが慌てた様子で大きく返事をした。

 オレは佐原さんの前に立つ。

 二人きり。最高レベルのシチュエーション


「その、広中君‥、何でしょうか?」

 佐原さんはこっちを見つめている。まっすぐな瞳で。

 オレは大きく息を吸って、全ての勇気を振り絞って、ついに言った。


「前からずっと思ってたんですが、佐原さんのことが好きです! よかったらオレと付き合ってください!」

 暫しの沈黙。

 そして、‥


「ごめんなさい」


 一瞬言葉が理解できなかった。

「あ、そうですか‥」

 

「私、広中君のこと、そういう恋愛対象として見たことなくて‥。その、本当にごめんなさい。あなたとは付き合えません」

 佐原さんは深々と頭を下げた。

 冷静に事実を受け止めるのに数秒かかってしまった。

 負けた。完敗。何が大勝負だよ、見ろよこのザマだよ。一瞬で塵だよ。夢見ちゃった自分が恥ずかしい。どうして、もしかしたら付き合えるかも、とか思っちゃったんだオレは。

 馬鹿だった。本当に。

 全部、全部無駄だった! くそッ

「でも‥、」

 え? 

 佐原さんが口を開く。

「でも、告白してくれてありがとう」

 彼女はそう言った。

 困った、そんなこと言われたら、ますます混乱するじゃないか‥。

 オレは沸騰中の頭のまま、上手なフラれ方ルートを思い出した。


「‥いや、そんな、その、いきなりこんなこと言ってごめん。迷惑だったよな」


「いえいえ、そんなことはないよ」

 佐原さんは申し訳なさそうな顔をしていた。

 オレはさっきから自分がどんな顔をしているのか見当がつかない。


 二人きり、‥でも、そんなの最早どうでもよかった。今すぐどっかにワープしたい。

「それじゃ、また」

 必死の笑顔を作った。

「うん」

 佐原さんは小さく頷いて、その直後、オレはそこから走り去った。


 オレの恋は、終わった。


 決して晴れた気分ではないが、不思議と最悪な気分でもなかった。

 よくわからない、初めての感覚。

 これがフラれるってことなんだ。




「ササマル!」

 ホーマンとモトの声が後ろから聞こえた。

 その声を聞いて張り詰めていた何かが弾けた。

 オレはその場に倒れ込んだ。

「おい! ササマル」

「よく、よくがんばったよ。ササマルはよくがんばったよ」

 

‥‥‥‥‥‥‥視界に少し茜色を帯びてきた夕空が‥。

「空が‥、きれいだな」

「ササマルぅ、何最期の言葉みてえなこと呟いてんだよォ!」


「せめて夕空じゃなくて、青く‥澄み渡ったあの空‥を、もう‥一度、‥拝みたかっ‥た」

 ガクッ

「ササマルーぅ! おい、おい!」

「大変だ! すぐに心の救急車を呼ぶんだァ!」

 バタバタバタ。そこでオレの意識は途絶えた。

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥




 ここは? 作戦本部室(校舎隅、ただの空き部屋)‥。

「目が覚めたか、ササマル」

 ホーマン、モトがそこにいた。

 もしかして、今までの全部夢だったとか。

 そんな気がしてきた。

 おお、そうか夢だったのか。そうかそうか。

「お前はよくやったよ‥」

 夢じゃなかったァァァ! 

「歴史に残るよ」

「‥‥何の歴史に残るんだよ」

「俺達の歴史に刻まれた」

「‥‥‥‥そうだな」

 ホーマンはひと息置いて言った。

「ササマル、すまなかったな。俺はササマルならもしかしたら行けるかもって思ったんだけどな‥。ほんとに悪かったな、ノリで告白させちまって」

「僕も、謝るよ。やっぱり現実はギャルゲーみたいにはいかないよね。ササマルに勝手に期待して、無理させちゃったよ」

 まったく、こいつらは。

「いいんだ。オレが自分で決めて告白したんだ。オレの玉砕にお前らは関係ねえよ」

「‥無理すんな。怒っていいんだぞ。こんなはずじゃなかったって怒鳴っていいんだぞ」

「その元気も、ねえよ。今日は帰るわ。疲れたし‥。また明日な」

 オレはそのまま作戦本部室(校舎隅、ただの空き部屋)を出た。


 夕空が何かをオレに語りかけているような気がした。

 はッ、何ふわふわしたこと考えてんだオレは。とっとと帰ろう。



 晩飯とか風呂とかいつもの日常を終え、自分の部屋に戻った。

机の前の椅子に深くもたれかかってオレはただ、ぼーっとしていた。

考えることを放棄している感じだ。


ずっと好きだった佐原祥奈に告白して、散った。

それだけだ。それだけ、それだけ。

はあ、溜息が出てくる。


果てしなく、空虚。

こういう何にもする気が起きない日は、たまにある。

ゲームもアニメ三昧もドラマ三昧も読書も音楽鑑賞も、なにもする気が起きない。

ただ、時間がゆっくりと流れていくだけ。

空しさが、どこからともなく込み上げてくる。


ブゥーーー、ブゥーーー 


携帯が鳴った。メールが届いたようだ。


壱ノ崎凌(オレの唯一のリア充さん友達)からだった。

直感した。彼女(西野緒鈴)からオレがコクったことを聞いたんだろう。

壱ノ崎に知られても大して問題ないな。アイツは周りに言いふらすようなことはしない。

慰めのメールか。やっぱ、いい奴だな。

だが‥メール内容は予想外だった。


 広中、鈴から聞いたぞ。今日はどんまいだったな。

 それで、一つ伝えておきたいんだが、

 クラスの女子何人かにお前がコクるところを目撃されてるらしい。

 鈴の話では、クラスの女子間ではすでにお前のことが噂になってるらしい。

 女子ってのは情報が恐ろしく速いからな。

 要するに、明日は気を付けろってことなんだ。

 もしもの時は、協力する。


 くそッ! 面倒なことになってしまった!

告白するところを見られてたなんて、しかも既に噂になってるって‥。

‥終わる。オレの高校生活が、死活問題、極限ラインに入る。

悪寒が全身に走る。

学校に行くのが怖い‥。

自分の部屋で、オレは何もしていないのに冷汗が出てくる。

はあ‥。どうするオレ。


ブゥーーー、ブゥーーー


また携帯がなった。‥今度は誰だ。


平沢ゆう、ふわさんからだった。

ふわさんにもオレのことが伝わってるなこりゃ‥。

嫌な予感。


 ササマル、聞いちゃったよ。ほんとにおつかれだったね。

 それでね、伝えといた方がいいと思うことがあって、

 明日、クラスでササマルのことがすごい噂になってそうだから

 マジ気を付けて! いつでも話とか聞くからね。 でわ。



現実を再確認。状況は非常によくないらしいな。気付けば暗闇‥。

明日は修羅場となるかもしれない。いや、十中八九そうなるだろう。

この二つのメッセージから判断して、明日学校に行けば、間違えなく嫌なこと萎えることが連発するだろうな。つーかふわさん、噂になってそうだから、じゃなくて既に噂になってるよね。これ。いやわかるよ、二人共オレのことを思ってメールをくれてるのは。

先が地獄だと知らないまま向かうのか、知っていて向かうのか、それだけの違い。

ここに希望はない。


もう‥、始まってるかもしれない。

六月の犠牲者はオレ?


どうやらオレはちっとも笑えない状況におかれてしまったらしいな。

シットォ、このままではオレ自身が消失してしまう。


寝れない。布団に潜ってニ時間余り、寝れない。

明日は修羅場ってやつだ。できればあっちの修羅場(彼女と幼馴染が)に行きたいです!





『ホーマンの思い』

 

 まさか、な。ふわさんから来たメールを見て俺は驚いた。

 ササマルがやべえ。‥‥俺のせいだ。告白玉砕、しかも周りにクラスの奴らがいたなんて‥。

 どうして、神様はこんな悪戯をするんだ? いや、神様なんて信じちゃいなかったな俺は。何のことはない。俺達だけで舞い上がり、そして作戦は失敗したんだ。大失敗だ。ササマルを舞い上がらせたのは、紛れもない‥この俺だ。くそッ、俺はまた、‥。

 ササマルにメールするか? いや、送る言葉がない。この俺がなんてメールを送れる。かける言葉が見つからない。嫌な奴だな、俺は‥。

 ‥‥明日は、ササマルに謝ろう。俺の軽率なエセ理論が、また人を苦しめた‥。

 俺は、馬鹿だ。



『モトの思い』


 ササマル、君はよくやったよ。僕にとってお前はすごい奴だ。久しぶりに僕自身も熱くなった。けど、散った。僕は君に輝いてほしかった。現実の素晴らしきを見せてほしかった。

 だけど、現実はササマルに応えてはくれなかった。‥やっぱりリアルはだめだな。萎えることが多い。ササマル、今お前はどんな思いなんだ? 落ち込んでいたとしても、僕のようにはなるな。君はもっと上に‥。

 おっと、メールが届いている。

 ふわさん? なんでふわさんから‥? 

 メールを開いた。

「なっ、ササマル‥‥」


 これだからリアルはきらいなんだ。どうして世界というのは僕達には応えてくれないんだ。

 こんなにも足掻いているのに。

 ササマル、どうか‥。







『その朝‥』


日差しが眩しい。‥朝だ。朝が来てしまった。

オレにとって今日の朝は、朝ではない。どちらかというと夜だ。とても暗い夜だ。


重い心を引きずり、学校へ向かった。

今日は覚悟せよ! と自分に言い聞かせた。



生徒はいつも通り、学校に近づくにつれて増えていく。‥まあ当然のことだ。

校門を越え、下駄箱を越え、階段を上がり、教室に入った。

そう、修羅場に入ったのだった。

教室に入ったとたん、クラスメイトのほぼ全員がこっちを見た。ざっと眺めるだけで既に教室には二十人以上いる。そのほとんどがこっちをガン見してきていた。

ああ‥、これはアウトだ。

オワタ‥。オレが佐原さんにコクったことはクラス全員に伝わってしまっているという確信。やらかしたな、これは。昨日までとは同じ場所でも景色が違って見える。

どうやらオレは間違った選択をしちまってたようだ。

しばらくして周りからは、こっちをちら見しながらひそひそ話。今すぐ帰りたいという強い衝動に駆られる。

「アイツさあ、祥奈にコクったらしいよォ」

「マジでちょーウケるんですけど」

「よくやるよねー」

 北宮まみ率いる女子グループが、わざとこっちに聞こえる声で喋る。

 全身に悪寒が走る。恐れていた事態。

「まさか本気でオーケーしてもらえると思ったのかなぁ」

「まさか、それはないっしょ。あははは」

 ‥‥‥‥将棋なら逆王手、詰んでいる。

 逆からは男子の声。

「馬鹿だよなあいつ。おーいお前さあ何夢見ちゃってんの?」

「ぶははははっ」

 桑原利貴とその連れが爆笑。

 全身から冷汗が吹き出る。体が小刻みに震える。

 逃げばナシ。四面楚歌? 死ねるぞこの状況。

 ‥‥‥‥‥‥。

「あいつは、広中は、馬鹿なんかじゃない」

 その声はホーマンだった。ホーマンは自分の拳を握りしめていた。

「あ?」

 桑原の連れがぼやく。

「ササマルは、すごい奴だ。すごい奴なんだ!」

 モトの声。

「はあ? 何なのオメぇらは、不愉快なんだけど」

「はっはッほんまそれ」

 男子の嘲笑

「友情ってやつぅ、ウケるんですけどぉ」

「つーかキモくない」

 女子の冷笑。

 オレ達は‥。


「お前ら、そろそろいい加減にしろよ。なあ」

 

教室が沈黙した。

 そこには壱ノ崎がいた。いつからいたんだろう‥。

「壱ノ崎‥」

 桑原が声を漏らす。

「見てるこっちからすりゃ、今のお前らの方がよっぽど不愉快だがな」

「なっ」

 壱ノ崎の言葉に桑原とその連れが怯む。


「まみ達さぁ、ちょっと言い過ぎじゃない?」

「ゆう‥」

 ふわさん‥。

「まみ達ってさ、失恋経験ないの?」

「はぁ? ゆう、アンタ何言ってんの」

「だってそういう辛い経験したことないから失恋した人のこと馬鹿に出来るんでしょ?」

「ゆう、私達にケンカ売ってる?」

「まさかぁ、でもだってそういうことじゃん、普通そこでウケないでしょ」

「うっさいなぁ、あんな奴かばって何の意味が」

「まみ‥やめてよ」

 北宮まみの言葉を制したのは、佐原祥奈だった。

「祥奈、あんた」

「祥奈が困ってる。やめて」

 西野緒鈴が続ける。

「まあ、祥奈が言うんならやめるわ。さすがに」

 北宮は後味が悪い様子。


「そういえば北宮さん、あなた今、彼氏と喧嘩中ですよね?」

「なっ なんで知ってる!」

 このずば抜けた質問を放ったのは、柴原喜重郎だった。

 学校トップクラスの情報通だ。これはまさかの助っ人!

 この一言で北宮は顔を真っ赤にし黙り込んでしまった。


 結果、オレは何とか修羅場を越えることができたらしい。


 全てが敵と思うなよ。ここは地獄じゃない。ここはいろんな人がいる、学校だ。

 絶望するにはまだまだ、はやかった。

 しかし期待するには程遠い。




『ふわさんと休み時間』 廊下にて

「ふわさん、さっきはありがとう。なんか守ってもらっちゃって面目ない」

「あーいいよいいよ。でもよかったじゃん。大ごとにならずに済んでさ」

「うん、なんとか。ふわさん達のおかげで‥。でも迷惑だったよな、あれじゃふわさんも北宮さん達に嫌われてしまったんじゃ‥」

「いや、ここだけの話、私ずっと前からまみ達のグループ苦手だったんだよね。いっつも自己中だし。だから一回黙らせてみたくてね。で、今回ササマルがいい口実を作ってくれた。迷惑どころか楽しかったよ」

「‥そうすか。さすがふわさん」

「ま、おつかれさま。ササマル」


 景色が澄んでいく。ここは美しい世界なのかもしれない。

 そう思ってしまった自分がいた。




『佐原さんと休み時間』 廊下にて

「あ、あの佐原さん」

 佐原さんはゆっくりと振り向いた。隣には西野さんもいる。

「‥広中君」

「さっきは迷惑かけてごめん。全部オレが原因で、その」

「広中君、」

「え、あ、はい」

「どうして広中君が謝るの?」

「え、えっとそれは、やっぱり」

「広中君は何も悪くないよ、私はいつも通り、全然平気。だから広中君も早く元気出して」

 穏やかで優しい微笑み。

「‥あ、うん、ありがとう」

「祥奈、フッた本人が言うセリフじゃないよそれ」

「もう、鈴は余計なこと言わない!」

「ゴメンゴメン」


「じゃあまた、広中君」

「うん」

 

 そしてオレは廊下を歩きだした。

「元気出せよぉー」

 後ろから西野さんの声が聞こえた。

 どうもありがたい。


 


ここには、あった。高校生活に過度な期待をしていた、あの頃のオレが求めていたもの。

 その、ほんの小さな破片が、ここにはあったんだ。

 惜しいな。惜しい高校生活になってしまいそうだ。







『帰ってきたぜ、作戦本部室』

「お、来たか」

「おつかれササマル」

「‥おうよ」


「作戦は‥、失敗だったな」

「ああ、そうだな」


「本当にすまなかった‥。俺のせいで」

「何度も言うなよ。オレは自分で決めてコクったんだ。それだけだ」

「‥お前」


「でもなホーマン、この失敗は次に繋げるぞ」

「‥ササマル」

「お、強気発言」

「フッ」

 ホーマンは一息おいた。


「同志諸君! 現刻より我々は死んだ青春戦線へと復帰する!」

「互いに敬礼!」

 ザッ‥。


「もちろんです、大尉殿」


 三人の男は、再び戦線に復帰した。


 我々は、青春するために、時にはアウトローになる‥。

 諦めたのは、もう昔のこと。これからは‥。




『さあ、語っていきますよ』

「さて、と、ササマル。今回のサハロフ作戦で得たこと教えてくれ」

「いいだろう。まず、現実は甘くなかったということが改めてわかった。アニメとかドラマはキュンキュンしながらリア充モードに移行するだけだが、現実は違う。少なくともオレ達はそうはなれない。残念ながら‥。あーゆうのはよく見るとかっこいい、実はヒロインと幼馴染だった、頑張るとかっこいいオーラが出る、とかそういう条件が必須だ。どれもないんだオレ達は‥」

「ですかねぇ」

「それに、美少女は大体イケメンさんが持っていっちゃいます。はい。でもみんながみんなそうじゃない。それは確かだ。だからオレ達にも希望がある。いろんな人がいる。それを忘れちゃだめだとオレは思う」

「深いなぁ」

「一番忘れちゃいけないのは、ここはアニメ(漫画・ラノベ)の世界でもドラマ(学園もの)の世界でもないということ。現実だということを知っとかないといけないんだ」

「ですよねぇ」

「でもだからといって、臆病になりすぎるのはナンセンス」

「まあ、そうだわな」

「現実は甘くない厳しいって言うだけで結局何もしない奴になるのはアウトだろう」

「むう、ササマル」

「何だ?」

「むうーーっ、なに失恋して大きく成長しちゃいましたオーラ出してんだおい!」

「あ?」

「おめえただフラれただけじゃねえか。哲学開いてんじゃねえぞおい」

「あ? 次はてめえが誰かにコクるか、あ? オレにコクらせたのは誰だよ、なあ」

「‥‥ご無礼をお許しください。ササマル殿」


 臆病者のセンター前ヒットはいつだ?

 そのバットを振らなきゃ、見逃し三振だね。



『現実とアニメを比較しちゃうぜい』

「あー、しちゃいますか」

「しちゃいますよぉ」


「女子とごく自然に会話している。本音で話したりするシーンが結構ある」

「実際は‥」

「僕はモブキャラポジションでした。男子生徒C役乙」

「どんまい‥で済む話じゃねーよォ!」


「卒業までモブキャラ役は嫌だ!」

「あの役、疲れるんですよね(精神的に)」


「まあまあ、一人ひとりが主人公さ」

「はッ? 頭沸いたか?」


「ふう、‥女子に泣きながら私どうすればいいの! とか言われる」

「そんなシーンはなかとです」

「頼られない、必要とされない」

「加えて、いないもの、にされる」

「これもう惨劇ですよね」


「青春アニメは一話ごとに深みがある。僕らはその一話に三年かけても全く追い付けない。少なくとも八〇〇〇〇光年はかかるでしょう」


 本当にそれくらい遠い気がしてならない。


「毎日空虚、リアル高校生活諦めて、アニメ三昧。それは少し哀しいかな」

「‥打開策を模索中」

「該当に一致するものがありませんでした」

「ワッツ?」

「席が近くても、それだけ。話すことなどない。いないもの、に等しい」

「女子話しかけるとテンパってしまい、笑われる。でもそれで満足する奴もいる、だが俺はその思考回路が理解できない。そこになんの意味があるのかわからない」

「笑ってもらえてよかったね。遊んでもらえてよかったね」

「違う! オレのユートピアはそんなのじゃない。そんなのじゃないんだ」


 ユートピア(理想郷)なんて、現実には‥。

 ‥ない、と言うにはまだはやい。


「何もしないまま数々のイベントが終わりゆく。何もしないまま毎日が過ぎていく。中身のない毎日を埋めるのはアニメだった」


 ここで汚れた心を、洗うにはあっちに行くしかなかったんだ。


「‥限界だ。叫べ! 高らかに吠えろ! 俺達は! この不平等で嘘だらけの世界に戦いを挑む!」

「‥‥‥おう!」


 この叫びが聞こえるか。せめてこの叫びを聞いていけ。忘れるな、ここに無数の犠牲者がいることを‥。



『告白シチュエーション』

「まあ、これは人それぞれだよな」

「てか、知らねえよ」

「アタックする場所は」

「学校なら屋上、廊下、教室、駐輪場、校舎裏、部室とか」

「一対一が絶対条件だと思うよ」

「だな、周りに人が居ちゃだめだな」


「‥‥‥はあ、で?」


 これは、終わってしまったストーリー



『あの頃(高校入学直前)の野望を語るんですか』

「‥切ない話になりそうだな」

「なりますね」


「オレは、現実で青春したかった。男子とも女子とも分け隔てなく話せるような爽やかな奴になりたかったんだ」

「よう、風○君」

「‥みんなと仲良くすることなんて無理だったよ。うん」

「そうだな。みんなって言葉は、俺もあまり好きじゃない」


「オレは、オレはな、高校生になったら毎日が本当に楽しいだろうなぁって本気で思ってた。クラスメイトとアットホームな関係を築き、文化祭、体育祭では大いに盛り上がりたかった。‥彼女が出来て、制服デートだって夢じゃないって思った。夏休みとかになったらめっちゃイベントあるだろうなって思ってた。

 でもな、イベントなんてどこにもなかった。行事では盛り上がるどころか蚊帳の外。何もない夏休み。制服デート? はッ笑えるね。彼女どころか、女子の友達すら‥」

「ふわさんがいる」

「‥ありがたい」


「‥‥どうしてだ? どうしてこうなったんだオレは」

「同志ササマル、そう思ってるのはお前だけではない。俺とモトも同じだ。それに全国には数えきれないほどの同志がいるはずだ」

「‥そうだな。‥‥でも、それでもオレは悔しい」



 青春しているはずだった。

 毎日楽しすぎて、彼女も出来て、エンジョイを極めているはずだった。

 楽しすぎて仕方がない場所にいるはずだった。

 

 でも、そうはならなかった。

 ならなかったんだよ。

 だから、この話は、ここで終わりなんだ。


現在地はどこだ。 ここはどこなんだ。

地図上では美しい泉らしいが、ここは私から見れば、泥だらけの沼地だ。

いっそラ○ーン商会に行きたい。


この地図は、もういらない。



『リア充視点はどんな世界』

「見当がつかねえ。きっと天国だよ毎日」

「俺達が考えても無駄なことかもな」

「奴らはオレ達のことなんか眼中にないんだ。いつもオレ達は、置いてけぼりをくらう。そして都合のいい時だけ、みんなで力を合わせて優勝しようぜ! とかフレンドリーになる。協力しないとオレ達が周りから嫌な奴扱い。疲れるわ、これは」

「最高のボランティアン」

「同感だ」


君等は、いいとこ取りをしていることを自覚してくれ。

縁の下で耐えているモブキャラがいることを、その身に刻め。

輝きたいって思ってるのはお前だけじゃないんだ。



『あの世界の美しさを知ろうぜい』

「好きだからだ! 文句あるかァ!」

「かっこいいねぇ」

「オレも堂々と言ってみてえな‥」


「俺のこと好き? 何も言わないと、本気チューしちゃうぞ」←ホーマン

「あなたのこと‥、考えると、心臓が痛くなる‥」←モト

「‥それはもう、好きってことなんじゃないですかね」←ホーマン


「これだからイケメンさんは困るんだァ」

「お前ら少女マンガの読みすぎかもな、お前らの顔じゃ爽やかの対極にいっちゃうぜ」

「はっはっは‥、ササマルもな」

「‥‥」

「こんな恋ができたら、とか思っちゃいます」



「め○○、みーつけたぁ!」

「テレビの前に立ち尽くしたぜ。毎回エンディングの入りかたが神がかりすぎて」

「あの日夢見た青春を僕達はまだ知らない」

「うまくねえんだよ」


「あ、おい、お前達には見えないのか、そこに‥」

「オレは現実を見つめました」

「現実しか見れないなんて、馬鹿だなお前は」

「‥いや、待て、オレにも見えるぞ、おい、あれって‥、め○○、め○○だァ!」

「ほんとに‥」



「ゴホン。やはり、ここですよね。最後ってのはこういうことなんですよね」


「それから来年の新歓かあ」

「夏になったら青春、次も青春、そしてまたまた青春、楽しみだねえ」

「その次は、えっとぉその次は、」

「って次はないない」

「来年の文化祭はもっと‥グスッ」

「やばい、泣けてきた。‥スッ」


「よかったよな! 本当によかったよな!」

「うん、とってもよかった」

 涙が止まらねえ。


「ところで、文化祭、オレ達なんかしたっけ? そもそもオレ達何か部活入ってたっけ?」

「あれおかしいな、泣けてきた。別の意味で‥」

「その口を閉じるんだ。いいな」

 涙が止まらねえ。


 なんて遠い世界。

 だからこそ僕らの琴線に響き渡る。


「ちょっと屋上走って来るか。わあーって叫びながら」

「‥‥多分鍵閉まってる」

 あらま。




『それでも我々は、この世界(現実)を信じるんだぜい』


 空は快晴。雲ひとつない青空が広がっている。


「‥‥まあ、諦める理由はないな。この高校生活、思い描いたものとは程遠いものになってしまっているが、‥だからどうした? って話だ」

「嘆いても仕方がねえよ。もう愚痴もこぼしまくったし」

「たくさんの同志達が、世界(現実)と戦ってるんだ。俺達よりも壮絶な戦いを繰り広げている者もいるだろう」

「オレ達も、こんなところでへこたれてる場合じゃねえな」

「ああ、足掻いて足掻いて、悔いのないハイスクールライフを送ろう」

「やっぱリアルはこんなもんでしょ。‥みたいな妥協はしない!」

「その心を、大切に‥」

「ぶッ‥」

「おい、なに吹いてんだてめえ」

「まあまあ」


 どうか忘れないでほしい。その純粋な今の気持ちを。



「死んだ青春戦線の作戦遂行中、笑われることや馬鹿にされることも少なからずあるだろう。だが、我々は初志貫徹。あくまで最後まで戦う」

「青春するために‥」

「ビバ、青春‥」

「毎日何のイベントもなく思い出も残せず、卒業までいっちゃうなんて御免だからな」

「隅の観覧席から飛び出すぜ! 俺達もステージに上がるはずだった。‥まだ、間に合うかもしれない」

「まあ、ぼーっとするだけの毎日はやめようってことだね。なんかいろいろ無茶でもやってみようってことですな」

「そうですな、身の程知らず万歳!」


「さあ、終わらない歌を歌おう」


 輝く世界を、見てるだけ眺めるだけの日々は、

 とっくの昔に飽きてますよね?


 もう一度、やってみようではないか。

 きっとうまくいくなんて、そんなことは言えない。

  妄想ではなく、現実を直視。

  期待ではなく確実をおさえて。

 もう一度、やってみようではないか。



「さて、とりあえず帰ってアニメ見るか!」

「おい!」

「どゆこと!」



 

 死んだ青春戦線作戦本部室(校舎隅にある、ただの空き部屋)からは、

 今日も三人の活き活きとした声が聞こえてくる。



 彼らは、既に青春しているのではないだろうか。

 なぜなら近くにいつもわかりあえる同志がいるから。

 そのことを、かけがえないのないものだと、思うか思わないかは、彼らの自由。

ただ私は思う。

もし、彼らがこの先、死んだ青春戦線を卒業(リア充になる)するときが来たならば、

それはそれで、少し悲しいことだと、そうも、思うのだ。


彼らは常に、こっちサイド(非リア充)であってもらいたい。

同志であってもらいたいのだ。




『最後に諸君、一つ、聞いてはくれないか』

 

 私は、ただのリア充には興味ありません。

 諸君らの中に彼ら(ササマル ホーマン モト)と同じ思いを

 しているものがいるのなら、

 今すぐにでも、同志と呼ばせて頂きたい。


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