第三話 勇者は爆発した
ある日を境に俺が異世界へ7分間の転移するようになってから、1年の月日が経過していた。
いつも決まって勇者、つまり俺を呼ぶ声が聞こえ、直後突然異世界へ転移してしまう。
異世界に滞在できる時間はいつもなぜか必ず7分間。
異世界に呼ばれる頻度は週1ぐらいだが、この1年間で数々の修羅場?をくぐり抜けてきた俺は勇者としてのスキルはかなりのレベルに達していた。
倒して来た魔王は数知れず。
異世界でしか能力は発揮できないが、その場で覚えた魔法を速攻で使えるというチート級スキルによって全戦全勝。
そして今日もいつものように突然俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「勇者召喚!!」
若い女性の声でその言葉が聞こえてきた。
まるで魔物召喚のような呼び方。あまり良い気分はしない。
出会い頭に、俺様はお前の使い魔ではないぞと小一時間説教しよう。7分しか時間ないけどな。
高校から徒歩で帰宅途中だったが、呼ばれたのでいつものように俺の体が光を放ち始め、異世界へと転移した。
召喚される場所は様々だが、大体いつもラストダンジョンのラスボスの目の前とかそういう『修羅場』だったり『正念場』だったりがお決まりのパターン。
7分間しかないから異世界人も使い所を考えているようだ。
異世界人の中で勇者を呼べる人は複数存在する。
ただし、同じ人間に呼ばれた例は今のところ無い。
つまり、俺の召喚は異世界召喚士にとっての『とっておきの一回』ということになる。
やはり今回も召喚場所はお決まりのパターンだった。
転移後、一番最初に目に入ったのはローブを着た桃色の長い髪の若い女性。
俺を召喚した人だろうか。
即座に周囲に目を向けると、西洋風の城内に漆黒の竜と、鎧と槍を装備した若い男性が一人。
先程の桃色髪の女性を入れると人間は二人だけ。
いや、正確にいうと他にも数人が床に倒れている。
想像するにラスボスである漆黒の竜に仲間が次々と倒され、残るは二人で絶対絶命のピンチな状況。
この状況を乗り切るために奥の手である『勇者7分召喚』を実行したのだろう。
「勇者さん!暗黒竜は人々に災いをもたらす存在です!滅殺してください!」
桃色髪の女性が前振りもなく俺に言って来た。
こういうのは慣れている。まあ、無理もない。いちいち状況説明などしていたらすぐに7分間が過ぎてしまう。
そこは『察してください』という暗黙の了解がある。
その女性は名前を名乗らないので、俺は勝手にこの女性の名前を桃子と名付けることにする。
出会い頭に小一時間説教しようと思っていたが可愛いから許す。
「来たか勇者。しかし残念だったな。お前が得意な魔法は俺には効かぬ」
暗黒竜が俺に話しかけてきた。
竜でも一応、人語は話せるらしい。
これまでの全戦全勝はチートスキルである速攻で魔法を使いこなす能力だったが、本当に魔法が完全に効かないとすると、苦戦必至だ。
早くも俺の中で7分間どうやって生き延びようか考えていた。
「え?魔法効かないの?じゃあ、俺呼んだ意味無くないっすか?」
俺は鎧の青年と桃子に向かって言った。
「大丈夫。心配いらないよ。究極の魔法で暗黒竜は必ず滅殺できる。それが出来るのは君。勇者だけなんだ!」
鎧の青年が俺に言って来た。
その青年は名前を名乗らないので、俺は勝手にこの青年の名前を槍男と名付けることにする。
ああ、なるほど。魔法が効かないラスボスでもちゃんと倒す方法は用意されていると。
これはなんとかなりそうだと俺は思った。
魔法であればおそらくこのチート勇者スキルで速攻修得できるだろう。出来なかったらすまん。
「そうです!究極魔法ババババーンがあれば暗黒竜を必ず滅殺できます!」
桃子が槍男に続いて俺に言ってきた。
究極魔法ババババーン……。名前がダサい。
それとさっきからちょいちょい出てくる『滅殺』という単語。この世界で流行っているのだろうか。
「あー、はいはい。究極魔法ね。じゃあ時間がないからパパッとやっちゃうよ。やり方教えて」
俺は桃子に言った。
時間も限られているので、余計な会話はせずにさっさと本題に入る。
そこへ暗黒竜が横槍を入れてきた。
「ちょっと待て勇者!!正気か。お前は騙されているぞ。その究極魔法は自爆魔法だ。悪い事は言わんからやめておけ」
「勇者さん!暗黒竜の言葉に騙されてはいけません!!あれは罠です。勇者さんに唯一の弱点である究極魔法を使わせないための嘘です!」
暗黒竜の横槍に桃子が対抗した。
本当に自爆魔法だったらシャレにならん。どっちが本当なのだろうか。
「そうだ!あれは暗黒竜の策略だ!暗黒竜の言葉に耳を傾けてはいけない!」
槍男も後押しする。
「勇者よ。よく考えるのだ。このような輩に肩入れする義理がどこにある?わざわざ自分の身を危険にさらす必要などない。大人しく元の世界に帰るのが賢明だと思わんか?」
暗黒竜が諭すように俺に言う。
これもよくあるパターンだ。魔王や悪のボスはたいてい嘘で惑わしてくる。今までいくつも経験してきた。
俺の経験則が言う。可愛い子は嘘を付かない。
こんなに可愛い子が仲間を失いながらもモンスターを倒そうとしている。
そんな状況でどうして勇者に自爆魔法などという卑劣な魔法を使えと言えようか。
ありえない。
ファンタジー世界の物語で、勇者をいけにえにして魔王を倒すヒロインなんて聞いた事がない。
そんなアニメがあったら視聴者からの苦情が殺到して打ち切りだ。
これは暗黒竜が嘘を付いているに決まっているではないか。
「OK、OK。ノープロブレム。俺は君を信じるよ」
俺は桃子に言った。
「ありがとうございます!それでは究極魔法ババババーンの唱え方をお教えします。まず三回腕立て伏せをした後に立ち上がって後ろにターン。そして振り向きざまにウインクをしながら片手で銃を撃つように人差し指を敵に向けて『ババババーン』と唱えて下さい。腕立て伏せは必ず3回してください。回数が多くても少なくても失敗します」
桃子がいきなり支離滅裂な事を言ったので絶句。
俺は桃子に問いただす。
「え……そんな魔法の唱え方ってある?」
「あります!究極魔法なので通常の魔法と比べて唱え方が異色なのです!もう時間がありません!はやく暗黒竜を滅殺してください!」
桃子がマジ顔で言い返して来た。どうやら冗談を言っている雰囲気ではないらしい。
それはそうだ。仲間がたくさん倒れて絶体絶命の状況でこんな冗談を言うのは正気の沙汰ではない。
「よし。わかった。究極魔法、唱えてみよう!」
俺は究極魔法を唱えることに決めた。
「勇者マジか――――!!今からでも遅くない。やめておけ!」
再び暗黒竜の横槍が入ったが無視する。
俺は言われたとおりに三回腕立て伏せをした後に立ち上がって後ろにターンし、振り向きざまにウインクをしながら片手で銃を撃つように人差し指を暗黒竜に向けて究極魔法を唱えた。
「ババババーン!!」
直後俺の体が光を放ち始めた。
いや、でもいつもの転移の光とは明らかに違う。
っていうか俺の体、異常に熱くね?
強烈な閃光と異常な熱と強烈な爆音が発生し、俺は悲鳴をあげた。
「なんじゃこりゃ――――!!」
その言葉を最後に俺の意識は無くなった……。
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目が覚めると真っ白い何も無い空間に俺はいた。
さっきまで何をしていたか思い出す。
そういえばまた異世界に召喚されて暗黒竜と戦って……。
それで究極魔法唱えて、それでどうなったんだっけ……?
その後の記憶が無い。
「あ、目が覚めましたね」
後ろから若い女性の声。
後ろを振り向くと白い羽根が生えた天使のような女性がいた。
「あなたは誰?俺はどうしてここに?」
わからないことだらけなのでその女性に俺は聞いて見た。
「私は転生案内人。ここは死後の世界でーす。あなたは先程死んじゃいましたー!残念」
「え?死んだ?なぜ!?」
信じられない言葉が出てきたのでその女性に聞き返す。
「え?覚えてないんですか?爆死ですねー。自爆魔法使ったからですよ。あ、でもそのおかげで暗黒竜は倒されたみたいですよ。無駄死にじゃなくて良かったですね」
「はあー!?爆死!?ちょっとまってちょっとまって。ありえねーでしょ。だってあの娘が嘘ついてるとかありえねーでしょ。あの娘が嘘ついてて、暗黒竜が本当の事言ってたとかありえねーでしょ。あんな可愛い娘が、暗黒竜を倒すために勇者いけにえにするとかありえねーでしょ!」
「ご愁傷さまでーす」
俺が息を荒げて力説するが、目の前の天使な少女は満面の笑顔でそう答えた。
「……。ちなみに聞きたいんだけど。暗黒竜が倒されたあと、あの二人はどうなった?あの槍持ってた男と桃色髪の女」
「やっぱ気になります?二人はあの後結ばれて二人で幸せに暮らすことになったみたいですよ。良かったですね」
「ふざけっ!ちくしょー!こんな世界滅びてしまえ!!」
俺は心の底から叫んだ。
「そんなあなたに、お勧めな転生先がありますよー。今ちょうど魔王の息子が誕生するところなんですよー。あ、ちなみにあなたのいた世界はこことは違う次元なのでもう戻れませーん。こっちの世界で死んでしまったので、転生先はこっちの世界の住人になりまーす」
「げげ、元の世界に戻れない!?っていうかそれ以前に俺死んでるのか」
このままでは悔いが残る。せめてあの小娘に一矢報いたい。っていうかもうヤケだ。世界を滅ぼしてしまえ。
「赤信号、みんなで渡れば怖くない。みんなで一緒に地獄に落ちようZE!!ヒャッハー」
「いい感じにダークサイドに染まって来ましたね」
「わかった、魔王の息子に転生させてくれ」
「わかりましたー。ではいってらっしゃいませー」
こうして俺は魔王の息子として転生することになった。
転生後の話はまた別のお話しである。
-完-
最後までお読み頂きありがとうございました。
私が書いた小説の中で初めて完結した作品となりました。
拙い文章ですが感想など頂けると幸いです。




