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第二話 七分間で姫救出

俺は今放課後の学校帰りに友人とファーストフード店に来ている。

昨日はトイレの中から異世界に飛ぶという奇妙な体験をしたが、未だに信じられない。

ちょっと面白かったがもう勘弁して欲しい。

あんな短い時間に色々言われるこっちの身にもなって欲しい。

「いでよ、勇者様――――――――っ!」

言ってるそばから昨日のデジャヴ。また女性の声がした。

しかし、昨日とは違う女性の声だ。

すごく嫌な予感がする。

「今、勇者様っていう女性の声が聞こえなかった?」

俺はテーブル越しの正面の友人の正人に聞く。

「勇者様?いや、聞こえないけど」

正人には聞こえていないらしい。

そして案の定俺の体が光を放ち始めた。

「なんか俺の体、光ってね?」

俺は正人に再度聞く。

「いや、別に」

正人のその言葉を最後に目の前の風景がガラッと変わった。

もちろん、ファーストフード店の店内などではない。

ここはレトロ調な西洋風の建物の中だ。

「あなたが勇者様ですか!」

出会い頭早々に目の前の女性が話しかけてきた。

その女性は長い髪で鎧とマントをまとい、まさに女性騎士といった感じだ。

歳は二十代後半くらいで俺より大分年上だろう。

「いえ、田中です」

俺は正直に答えた。そもそも勇者になった覚えはない。

「勇者の田中様ですね!お待ちしておりました!早速ですが姫をお助け下さい!」

勇者じゃないという意味で言ったつもりだったのだが通じなかったらしい。

「とりあえずこのハンバーガー食い終ってからで良い?」

食いかけのハンバーガーを片手に俺は言った。

「勇者様、事態は一刻を争います!その様な事をしている場合ではありません!」

食事中に急に呼ばれてこの言葉である。

「いや、そもそも俺勇者じゃないし。人違いじゃないですかね」

俺は目の前の女性に人違い説をプッシュした。

「そんなはずはありません!あなたは勇者様です!」

何の根拠があってここまで言い切れるのか不思議だが、目の前の女性は一歩も譲る気がないらしい。

「説明している時間がありませんので手短にお話しさせて頂きます!ここは魔王城の中です。他の騎士達は既に姫の救出に向かっています。城の右翼にはさらわれた第一王女リース様が、城の左翼にはさらわれた第二王女ジーナ様が捕らえられております!勇者様!早く二人の王女をお助け下さい!」

俺が助けなければいけない姫は二人いるらしい。時間制限があったら無理だろう。

「やっぱり時間制限とかあるの?」

「はい!勇者様がこちらに降臨出来るのは七分間までです!その間に姫をお救い下さい!」

やっぱり七分か。多分もうこの女性との会話で二分くらい経ってるな。

勇者なら何でも出来ると思っているのだろうか。

とりあえずどっちか一人に絞るしかなさそうだ。

「その二人の姫って、どっちが可愛いの?」

時間も無いので俺はオブラートに包まずにストレートに聞いた。

「両方可愛いです。勇者様お願いします!」

「いや、どんな風に可愛いとか。特徴とか教えて」

「第一王女リース様はしっかり者のお姉さまタイプです!どちらかというと綺麗な顔立ちをされています。第二王女ジーナ様は甘えん坊の妹タイプです!綺麗というより可愛い系の顔立ちをされています」

女性騎士は二人の王女の特徴を力説した。

どちらも捨てがたい。お姉さまタイプも好きだが、妹タイプも捨てがたい。

「う~ん、迷うなあ」

「勇者様、こうしている間にも他の騎士達は次々と魔物に倒されています!早いご決断を!」

女性騎士が必死に俺に訴える。

「わかったわかった!じゃあ妹タイプにする!」

そう言い部屋の向かって左の扉にダッシュする。

「勇者様そちらは右翼です!妹タイプのジーナ様は右の扉です!」

逆だったか。ややこしいな。

俺を案内するように先に女性騎士が右の扉を開き、階段を駆け上がる。

俺はその女性騎士の後ろを付いてゆく。

行く先々には魔物の死体や負傷した騎士たちがいた。

ついに大きな扉の前まで来た。扉は既に少し空いている。

「ここがジーナ様が捕らえられている部屋です!」

女性騎士の案内で中に入ると、縛られた女性の周りに人型で醜い顔をした巨漢の魔獣が数体いた。

先にこの部屋に入った騎士たちは全て地面に倒れている。

俺は早速昨日早口少女に教わった『フレイム』の魔法を魔獣目がけて唱えた。

「フレイム!」

炎の渦が魔獣を襲い、魔獣たちは一体残らず消し炭になった。

「ジーナ様、助けに参りました!勇者様が来たのでもう安心です!」

女性騎士がジーナ姫に駆け寄り、ジーナ姫に縛られていた縄を解いた。

「サマンサ!勇者様!来てくれると信じていました!」

ジーナ姫が俺と女性騎士に向かって言った。

先程は遠目からだったのでよくわからなかったが、この姫、なかなかどうして可愛い。

サマンサと呼ばれる女性騎士が言っていたように確かに妹系の雰囲気と顔立ちだ。

白のドレスを来て栗色の巻き髪に金の髪飾りを付けている。

「勇者様!ありがとうございます!城の右翼にはリースお姉様が捉えられています!早く助けてあげていただけませんか?」

「わかった!俺に任せろ!」

俺がその言葉を放った瞬間、俺の体が光を放ち始めた。

「勇者様!もしや!?」

女性騎士サマンサが真っ青な顔をしながら俺の方を見て言った。

「あ、多分これ時間切れだ!ごめん!もう一人の姫は自力でなんとかして下さい!」

俺はゴメンのポーズをしながらサマンサとジーナ姫に言った。

「勇者様――――――――っ!そんな事言わないで下さい。もう少しいて下さい!」

ジーナ姫が泣きながら訴える姿を最後に周りの風景は急にファーストフード店に切り替わる。

姫救出。失敗!!

「ジーナちゃ――――――――ん!」

俺は店内で思いっきり叫んでいた。

「びっくりした!おいおい雄一急にどうしたんだ!」

正面の正人が驚きと心配の表情で俺に言った。

店内の他の客、店員の視線が俺に集まる。

「俺は……、もう一人の姫を助けられなかったんだ」

「雄一……、疲れているのか?」

正人は更に心配そうな顔で言った。

昨日の早口少女もそうだが七分間で倒せとか無茶を言う。

皆勇者を買いかぶりすぎなのだ。

最後までお読み頂きありがとうございました。また、多くの小説の中から本作品をご覧頂き大変ありがとうございました。

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