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第103話 サリナベル辺境伯領


 エスタリスやラミルターナの情勢がひとまず落ち着いたことで、オータムリヴァへ戻るクッコロとディアーヌ。

 帰還を聞きつけたミリーナとウェンティがやってきて開口一番言った。

「お帰りなさいませクッコロ様。早速ですがプリンを作りましょう」

 苦笑するクッコロ。

「よっぽど気に入ったんだね。いいけどさ、ターバル乳の在庫がないよ。仕入れてこなきゃ」

 ディアーヌがミリーナとウェンティを窘めた。

「はしたないですわよ二人とも。クッコロ様は寛容な方ですから、メイプル家はとてもおおらかな家風ですけれども。客観的にあなたたちはメイプル家の重臣なのです。今少し自覚なさいな」

「ディアーヌ様は食べたくないんですか、ロックバードプリン」

「……クッコロ様、申し訳ございません。ターバル乳の調達、ご足労おかけします」

「素直さは美徳だよ」

 領主館主要スタッフはすっかりロックバードプリンの魅力の虜らしい。布教を頑張った甲斐もあるというものだ。

「まぁ転移ですぐだし手間じゃないけどさ。ミルク屋のおばちゃんお店出してるかが問題だな」



 ラムラーザに転移して市場に赴く。一通り回ってみたがターバル乳の露店は見つからなかった。

(商業ギルドで訊いてみるか。露店商の商材いちいち把握してるか微妙だけど)

 地元民の知己でもいれば聴取するところだが。

(いや待てよ……リーザさんとこのパーティに地元出身って人いたな。アルノーさんだっけ。彼に訊いてみよ)

 結成して日の浅い(アルボー)級パーティなら、今の時間帯は野外活動中だろうか。リーザやラウルは上昇志向が強そうに見えたから、きっと精力的にギルドのクエストを受注していることだろう。

(なら冒険者ギルドで聞き込みかな)


 ギルド職員を捉まえて聞き込みしようと思案していたところ、エントランスロビーに屯する冒険者たちの注目を集めていることに気が付いた。

「あの覆面の娘っ子。先だって【血鎖】と揉めたっつう駆け出しじゃね?」

「マジか。聖銀(ミスリル)級に喧嘩売るとか命知らずなやっちゃな」

「粋がりたいお年頃なんだろ。冒険者なら誰もが通る道だ。生温かく見守ってやろうぜ」

(噂なんて適当だな……あたしは降りかかる火の粉払っただけなんだけど)

 誰かに肩を叩かれた。振り向くと槍を担いだ大柄な女戦士。

「やっぱりクッコロだ」

 以前ザファルトの顎でポーターとして雇われたパーティのリーダー、メリンズだった。

「ひょんな所で会うね。ミリーナも一緒かい」

(そういやミリーナちゃん連れてザファルティアの湯治場視察した時、この人たちと会ってたな)

「お久しぶりです。ミリーナ先輩とは別行動中でして。メリンズさんたちはオータムリヴァ島向かわなかったんですね」

 確かランタース宛の紹介状を渡してあったはずだ。

「それがさ、ノルトヴァール諸島目指すつもりでエスタリスまで行ったんだけど、折悪しく船便全部止まっちまってさ」

「ちょうど魔皇国軍とバルシャーク、ブレン・ポルト連合軍の戦争が始まった頃でね。時期が悪かったわ。お久しぶりクッコロちゃん」

 メリンズの肩越しに顔を出したエミリーが言った。(アウル)級のヒーラーで、メリンズパーティの副リーダー格だったか。

「お久しぶりですエミリーさん。それでカルネラ半島南下してラムラーザまで来たんですね」

「際どいタイミングだったわ。あのまま中原でちんたらしてたら確実に戦争に巻き込まれてたわね。パトリシアの嗅覚に感謝だわ」

 女狩人パトリシアが横で肩をすくめている。

「実際あたしらがエスタリス発った後、正体不明のゴーレムが大暴れしてエスタリスは壊滅状態だとさ。駐留してたサイクロプス軍も蹴散らされたって噂だし」

 身震いするロゼッタ。メリンズの実妹らしいが、大柄な姉と違って小柄な娘だ。

「あのおっかないサイクロプス軍団やっつけるとか、どんな化け物だよそのゴーレム。なんにせよとっとと逃げ出して正解だったな。あたしらの腕じゃそんな鉄火場命がいくつあっても足りゃしない」

(ルディート将軍が冒険者の刺客に討たれたって聞いたけど。その事件のことだろな。ふむ、ゴーレムか……)


「ところでクッコロのランク何? もう(キュープラム)級くらいには昇格したの?」

「相変わらず(アルボー)級ですよ」

「お前クエスト受注サボってんだろ。確かに低ランクのお使いクエストかったりーけどさ。ランク上げていかねえと割のいいクエストにありつけねーぞ」

 ロゼッタにつっこまれて苦笑い。

(忙し過ぎるんですよ。学生に領主に育児に冒険者……そのうちタスク管理見直さなきゃ)


「皆さんこの街に腰据えるんですか?」

「いや、さしあたり南の港町行って、船でダルシャール諸国の方目指してみるよ。戦争のほとぼり冷めたらミリーナお勧めのオータムリヴァ島行くつもり」

 再会を祝してメシでも食わないかと誘われたが、現在参加中のパーティに所用があると辞退した。お互い旅暮らしの冒険者同士。縁があればそのうちまた巡り合うだろう。

 別れ際メリンズが教えてくれた。

「そういや伝言掲示板にあんたの名前あったよ。所属パーティからの連絡じゃないのかい」

「そうですか。見てみます」

「クッコロって珍しい名前だし、たぶんあんただろうと踏んでロビー張ってたのさ。案の定あんただった」

 冒険者ギルドの掲示板は二種類ある。クエスト依頼票を張り出す依頼掲示板と、パーティメンバー募集や冒険者間の私的な通信に使われる伝言掲示板だ。


 メリンズの指摘通り伝言掲示板にはクッコロ宛の手紙が貼られていた。


 『クッコロの安否を心配している。この手紙が目に留まったら、ギルド受付嬢にこの手紙を渡してほしい。リーザより』


(リーザさんからか。いい子だなあの子)

 この手紙の手配からも用意周到ぶりが窺える。かつ人望にも厚い。クッコロよりよほどリーダーの資質を具えている。生き残りさえすれば将来冒険者として大成するのではないだろうか。

 リーザの手紙を剥ぎ取り、受付カウンターに提出した。

「承りました。リーザさんに何か伝言はございますか」

「いえ。ロビーの喫茶店でお茶でも飲んでます。合流するならギルドで待つのが確実そうですし」

 (アルボー)級パーティなら受注しても日帰りクエストの可能性が高い。納品や報告のためラムラーザ帰還後にはギルドに立ち寄るはず――そう見越して待ってみることにした。

「リーザたちなら今日遠出したみたいだぜ」

 クッコロの後ろに並んでいた初々しいパーティの少年剣士が声をかけてきた。リーザの知人だろうか。

「リーザさんから何か聞いてます?」

「東の森のベイル沼地に行ったっぽい。行方不明のパーティメンバーの目撃情報あったから確認に行くとか言ってたな」

 途端に眉を顰める受付嬢。

「心配ですね。低ランクはベイル沼地一帯に近寄らないようギルドでも周知しているんですが」

「危険な場所なんですか?」

「あの辺の狩場の適正ランクは白金(プラチナ)級以上ですよ。(アルボー)級パーティがうろつくなんて自殺行為です。未確認ですがヒュドラの目撃情報も寄せられていますし」



(ミスったな。リーザさんたち結界玉で追尾しとけばよかった。うんにゃ、プライバシー侵害は慎むべきか)

 そもそも価値観が違う上、結界玉の性能を看破しうる者もほぼほぼ皆無であろうから、クッコロの行動を糾弾する者などいないのだが。

 カルネラ半島上空を遊弋中の結界玉を集結させ、リーザパーティ探索に充てた。

(ラムラーザの東の森とか言ってたな)

 豊穣神大神殿が手頃なランドマークだったので、ラムラーザの位置はすぐに把握できた。

(ベイル沼地……ベイル沼地っと。どこだろ。あれかな)

 ラムラーザ東方に広がる森林地帯を俯瞰すると、樹木の切れ目に夕日を反射する場所が見える。

(日没後は視覚探索やりづらそう。赤外線で熱源探知するか……でも、森の中だと遮蔽物多いから見落としそうだよね。魔力波走査かけてみよ)

 リーザパーティのエルフ娘セレスは、クッコロの目に留まるほどの魔力量だった。彼女が丁度いい目印になるだろう。


(見つけた……けど、どういう状況なのコレ)

 二十人ほどの屈強な男たちがリーザパーティ五人を包囲して睨み合っている。双方抜剣していた。

(よそのパーティと狩場トラブルかな? でも剣抜くのは穏やかじゃないな。もしかして盗賊?)

 状況を把握しようと結界玉を接近させ、聞き耳を立てた。


「エルフ娘にゃ絶対傷付けるんじゃねえぞ。売値が下がっちまう」

「他はバラしていいんですかい」

「行き掛けの駄賃だ。娘っ子二人は生かしとこう。野郎は殺っちまえ。斬り刻んでその辺に転がしときゃ魔物のエサになるだろ」

 下卑た笑みを浮かべて舌なめずりする男たち。

「つう訳で観念しなガキども。抵抗しなけりゃせめてもの情けだ。苦しまねえよう殺ってやるぜ」


 溜息をつくクッコロ。

(こんなんばっか……どうなってるのリュストガルトの治安は)

 腐れ外道退治といえどもそれなりに良心の呵責を覚えるというのに。

(彼等だって生まれた時はアーベルトやメルヴァントみたいな無垢な赤ん坊だったろうにな。どうしてこうなった)

 せめてならず者たちの来世での更生を祈念して転移魔法を発動。不愉快な仕事は粛々と片付けるに限る。


 ならず者たちの後方に転移しいざ制圧を始めようとした矢先、沼に突然の水柱が上がりたたらを踏む。水面から頭をもたげた首長ドラゴンが山なり軌道でならず者たちに襲い掛かった。耳を劈く絶叫。大質量の脅威を遺憾なく発揮する高仰角からの襲撃。食い散らかされる男たち。

(九匹の大蛇……じゃあないな。九頭の大蛇が一匹か。あの首伸縮自在か。厄介そうだな)

 冒険者ギルドの受付嬢が言及していたヒュドラだろうか。

(確か冒険者ギルドの魔物図鑑に猛毒注意とか書いてあったよね。野放しにしとくのも危険だし討伐しとくか……いや、あたしはともかく二次災害でリーザさんたちヤバそうだな)

 という訳でとんずらすることにした。急いでリーザたちに駆け寄る。

「クッコロ! あんた無事だったの」

「話は後で。今はこの場から離脱しましょう。あいつらがヒュドラの標的になってる隙に」

「ヒュドラ? あれが?」


 森の中をひた走る。後方からは木々のへし折れる音が迫ってくる。

「追ってきてますね」

 後衛のアルノーやテレーニャは息が上がって苦しそうだ。

「このままじゃ追いつかれる。戦おうぜ」

「バカ! ヒュドラの討伐難易度いくらだと思ってんの。うちらじゃ瞬殺されるわよ」

 ひそかに葛藤するクッコロ。

(さっきから試してるけど魔石核抜けないな。それなりの強敵ってことか。最悪この子たち連れて転移するしかないか)

 転移魔法を行使した場合、大人の事情で彼等との今後の関係は疎遠にならざるを得ないだろう。

(なんとなくそれは回避したいな……)

 クッコロが物思いに耽っていると、リーザたちが足を止めた。木々の奥からわらわらと兵士が出てくる。揃いのレザーアーマーを装備しているのでどこぞの正規軍と思われる。

(ちゅうか人間じゃないな、この兵隊)

「ここはアルヴァント魔皇国サリナベル辺境伯領である。貴様ら、国境を侵犯しておるぞ」

 隊長らしき者が言った。リーザが冒険者証を提示。

「あたしたちラムラーザを拠点にしている冒険者です。今、魔物に追われて逃げてる最中なんですけど」

「まさにそれが問題なのだ。平素であれば冒険者の越境など我らの関知するところではないが、危険な魔獣を我等が国境内に誘導したとなれば罪に問わざるを得ん」

「今はそれどころじゃ……」

(なるへそ。ネトゲのMPKみたいなもんか)

 隊長が号令を下した。

「この者どもを拘束せよ!」


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人格を共有する双子兄妹のお話→ パラレル・クエスト
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