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死神少女と大富豪

作者: ちまだり

「じゃあ、僕らはそろそろ……」

「またお見舞いに参りますわ、お義父さま。くれぐれも、お体お大事になさってくださいね」

「うむ。おまえたちも元気でな」


 息子夫婦が帰りの挨拶を済ませ、分厚い樫の扉が閉まると、老人はベッドの上から天井を見上げ、忌々しげに舌打ちした。


「何が『くれぐれもお大事に』じゃ……あの雌狐がっ」


 老人の名は権堂曽太郎。

 小さな商店の跡取りから身を起こし、世界に名だたるコングロマリット「権堂グループ」会長にまで上り詰めた立志伝中の人物。加えて日本有数の資産所有者でもある。


 そんな彼も今年で80歳。

 数年前から体調を崩し、グループ企業の実質的な経営権を長男の曽一郎に譲った後、現在は自宅の豪邸で隠居生活を送っている。

 功成り名を遂げ、悠々自適の余生――世間の人々から見れば実に羨ましい成功者の人生に思えるだろう。

 だが現実は甘くない。引退後からなぜか急速に体が衰え、今は寝室でほぼ寝たきりの生活となってしまったのだ。


 むろん屋敷の中にはお抱えの主治医をはじめ一流の医療チームが24時間体制で常駐し、なまじの大病院を凌ぐケアを受けてはいる。


(しかし‥‥ベッドからは起きられず、食事は鼻のチューブから流動食‥‥あれだけ金を掛けたというのに、これでは単なる寝たきり老人と変わらんではないか)


 唯一の暇つぶしといえば天井に据え付けられ、枕元から見やすい角度に調整された大画面TVくらいだが、それすらも「お体に障ります」という理由で主治医から視聴時間を制限され、夜になれば電源を落とされてしまう。


 いつしか時刻は深夜零時を過ぎていた。

 巡回の看護師はつい5分ほど前に寝室を出ていったから、曽太郎自身がナースコールを押さない限り当分人が来ることもない。

 毎晩適量の睡眠薬を投与されているはずが、その晩に限ってはなぜか寝つけず、老人はやることもないまま暗い天井をぼんやり見上げていた。


(若い頃から寝食も惜しんで働き続けて、ようやくのんびり余生が送れると思ったらこの様か……全くつまらん。果たして、わしは生きてる意味があるのか?)


「そうよねぇ。いっそ死んじゃうって手もアリじゃない?」


 曽太郎の疑問に答えるかのようなタイミングで声が響いた。

 驚いて僅かに頭を動かすと、寝室の窓際――窓から差し込む淡い月光を背景に、一人の少女が立っていた。

 歳は10歳くらいだろうか?

 喪服のような漆黒のドレスをまとい、スカートからのぞく細い足も黒タイツに黒革のフォーマルシューズと黒ずくめ。

 長い黒髪を大きな赤いリボンでまとめている。


「こんばんは♪ お月様がキレイないい夜ね」

(見舞客の子供か……?)


 最初はそう思ったが、どうも違う。

 体こそ満足に動かせないものの、曽太郎の頭脳はまだ明晰だ。親類縁者はいうまでもなく、仕事関係などで1度でも関わりのあった人間の顔と名前は決して忘れない。

 縁戚のひ孫の顔まではっきり覚えているほどだ。

 この人並み外れた記憶力こそ、彼が一代で巨万の富を築いた秘密のひとつともいえる。


 だがそれほどの記憶力を以てしても、この少女の顔には見覚えがない。

 つまり彼女は「初対面の子供」ということになるが――。


 そんなことはありえないのだ。

 

 権堂グループ会長の邸宅とあって、医療班はもちろんのことセキュリティに関しても万全の体制を整えている。

 大手警備会社と契約し、建物と敷地内の各所に設置された警備センサーと防犯カメラ。

 屋敷を囲む外壁には高圧電流を流した鉄条網が張り巡らされ、庭には訓練されたドーベルマン十数匹が放し飼いにされている。

 さらに人間の警備員も24時間常駐し、屋敷の各所を絶えず巡回していた。

 武装したテロリストならいざ知らず、並の窃盗犯や強盗が相手なら充分すぎる備えである。

 ましてや屋敷の主である自分にアポも取らず、見ず知らずの小さな子供が勝手にここまで入ってこられるはずがない。


「‥‥お嬢ちゃん、誰だい? そこで何をしてる?」


 とりあえず月並みな質問をしてみた。

 あるいは自分は既に眠り込んで夢を見ているのかもしれないが、それならそれで別に構わない。


「あたしの名前は魅夜(ミヤ)。お仕事は……そうねえ、『死神』っていえば分かりやすいかしら?」

「死神……じゃと?」


 あどけない少女には似つかわしくない言葉に、曽太郎は思わず吹き出しそうになって咳き込んだ。


「あら? 無理しちゃだめよ、権堂曽太郎さん」

「ゴホゴホッ……わしの名を知っとるのか?」

「そりゃあ死神だもの。クライアントのリサーチくらい常識でしょ?」


 死神、幼い少女、そしてクライアント。

 余りにも縁遠い3つの単語が一緒になって頭の中を巡り、曽太郎もさすがに当惑を隠せなかった。


 改めて魅夜と名乗る少女を観察する。

 その愛くるしい容姿を別にすれば、一見ごく普通の人間の女の子だ。

 だがよくよく見れば、彼女の肌は死人のごとく青ざめ、ルビーのような赤い瞳はどこの国の人間とも思えない。


(まさか……本物?)


 屋敷のセキュリティシステムを思えば、普通の人間がここまで忍び込めるはずない。

 残る可能性は2つ。

 自分は幻を見ているのか、あるいはこの少女の言葉が本当なのか。


「どうやら疑ってるようね?」


 少女はくすっと笑った。


「なら当ててあげる。権堂さん、あなたの病気は末期ガン。しかも全身に転移して、余命は保ってあと2ヶ月‥‥そうでしょ?」

「――なぜそれを!?」


 驚きの余り、曽太郎は再び激しく咳き込んだ。

 この件は家族や顧問弁護士など、本当にごく一部の者だけが知らされたトップシークレットのはずだ。


「死神の魔法のひとつよ。人間の余命と、死ぬ原因が手に取るように分かるの。ただし対象になるのは死期がだいたい1年以内に近づいた人だけ。ついでにあたしの姿が見えるのも、その人たちだけなのよ」

「ごほっ‥‥分かった、どうやらお嬢ちゃんの話に嘘はないようじゃの」

「『魅夜』って呼んで。こう見えても権堂さん、あなたよりずっと長く生きてるんだから」

「つまり『お迎え』が来たというわけか……」

「まあまあ、話は最後まで聞いて。今も言ったけどあなたの余命はあと2ヶ月。逆にいえば、まだ2ヶ月は生きられるってことでしょ?」

「それなら……いったい何の用で来たんじゃ?」

「死神っていっても、無闇に人間の魂を獲るわけじゃないのよ? 人にはそれぞれ決められた寿命があるから、勝手に死なせることは冥界でも禁じられてるの。でもこのルールには1つだけ例外があって、『本人の同意』さえあれば寿命より早く魂を回収できるってわけ。あ、もちろんこの例外が適用されるのは、さっき言ったように余命1年以内の人に限られるけど」

「同意じゃと? わざわざ早死にを望む物好きがいるのか?」

「結構いるわよ? もう人生に疲れたとか、病気が苦しくて早く楽になりたいとか……でまあ、そういう人間から早めに魂を回収できれば、あたしたち死神の業績も上がって早くランクアップできるのよ。そうでなくても近頃医学が発達して、早死にする人間が減ってるし」


 そこまで説明してから、魅夜は曽太郎の枕元に歩み寄り、照れくさそうにペロッと舌を出して拝むように両手を合わせた。


「実は今月のノルマがピンチで……今週中に少なくとも1人分の魂を回収しないと上司に叱られちゃうの~。お願いだから協力してくれない?」

「断る!」


 曽太郎はピシャリと答えた。


「たった2ヶ月といえどもわしの寿命じゃ。そんなくだらん理由で人にくれてやるものか!」

「あ、もちろんタダとはいわないわよ? 魂を譲ってくれるなら、あなたの願いを1つだけ叶えてあげる♪」

「願い……?」


「死神」からの思わぬ申し出に、曽太郎は目を瞬いた。


「それなら……見れば分かるじゃろ? わしを健康な体に戻してくれ!」

「あ、それはダメよ~。魂を対価にした取引なのよ? 病気を治しちゃったら意味ないじゃない」

「ぬう……ならばこうしよう」


 老人の目が、ギラリと異様な光を放つ。


「先にせがれの嫁を呪い殺してくれ」


 いきなりの物騒な願いに、小首をかしげる魅夜。


「嫁って、義理の娘さんでしょ? 何でまた」

「最初に嫁いできた時はできた嫁じゃと思ってた。じゃが7年前に妻が死んでから急に態度が大きくなって、すっかりせがれは尻に敷かれとる。今にして思えば最初からわしの遺産目当ての結婚だったんじゃろうな……わしが死んだ後、一生かけて築いてきた財産をあの女にかすめ取られるかと思うと、わしゃあ死んでも死にきれんわ!」

「ブーッ。それもダメでぇす」


 魅夜は両手で×印を作った。 


「さっき言ったでしょ? 死神は人の寿命を勝手に変えられないって。っていうか、全部の死神がそれやり始めたら、あっという間に世界が滅びちゃうわよ」

「……いったいどんな願いなら叶えてもらえるんじゃ?」

「そうねえ……たとえばこんなのはどう? 明日の夜明けから3日間、あなたに若くて健康な体を上げる。3日の間、思い切り人生をエンジョイできるっていうのは?」


 この提案に、曽太郎の心は揺れ動いた。

 ただ3日とはいえ、病の床から解放される。

 まだ健康だったころに味わった数々の美食。

 仕事に追われてできなかった様々な娯楽。

 そして久しく触れていない、若く美しい女の肌――。


 だが老人はすぐにそれらの妄執を振り払った。


「いかんいかん! そんなことしたら、却ってこの世の未練が蘇ってしまうではないか!」

「お気に召さないかしら?」

「いいかお嬢――いや魅夜か。わしだってまだ死にたくはない。主治医から余命の宣告を受けてからは随分悩んだし、怪しげな宗教に縋ったり、一時は自殺まで思い詰めた。最近になってようやく覚悟を決めて、自分の死を受け入れる心境になれたんじゃ。今更振り出しに戻されてたまるものか」

「うーん……さっき『この世の未練』っていったわよね? まだ何か未練が残ってないかしら」

「あえていうなら、わしが死んだ後の遺産相続じゃな。会社はもうせがれの曽一郎に譲ったからいいとして、まだ個人の資産が相当額残っておる。あれがせがれの嫁や、わしが老い先短いと知ってからハゲタカみたいに群がってきた連中の懐に転がり込むと思うと……そのうえ莫大な相続税まで国に搾り取られるかと思うと、何ともやりきれん」

「資産って、幾らくらいあるの?」

「銀行預金の他、不動産や株や債権や外貨、色んな形に分散させておるが……まあ少なく見ても1兆円は下らんじゃろうな」

「ふう~ん。でもおあいにく、お金はあの世に持っていけないわよねぇ」

「そんなこと分かっとる! じゃがなあ、ハゲタカどもに奪われるくらいなら……そう、いっそ自分が生きてる間に使い切ってしまいたいわ!」

「なら、いっそのこと慈善団体にでも寄付しちゃったら? ややこしい法律上の手続きやなんかは、あたしが魔法で何とかするから」

「ならん! 親類縁者にさえ渡したくない金じゃ。ましてやどこの馬の骨とも知れない連中のために使われてたまるか!」

「うっわ~、とんだ業突お爺ちゃんだ~」

「何とでもいえ。この権堂曽太郎は痩せても枯れても商売人。『出すモノは吐く息でも惜しむ』この信条で、今の財産を築いたんじゃから」


 久しぶりに長々喋ったためか、曽太郎は急に疲れを覚えて目をつむった。


「とにかく、言いたいことはこれくらいじゃ。この望みが叶えられないなら、もう話すことはない。2ヶ月後にまた出直してくるんじゃな」

「……」


 魅夜は唇に指を当てて僅かに考え込んでいたが。


「とりあえずまとめるわよ? 権堂さんの願いは、自分が生きてる間に、自分のためだけに資産を使い果たしたい……これでいいのよね?」

「できるかな? 総額1兆円じゃぞ。それと、わしゃギャンブルの類いは一切やらんからな」

「うふふ……了解よ♪」


 何か思いついたことがあるのか、魅夜の口許にいたずらっぽい笑みが浮かんだ。


「明日のこの時間にまた来るわ。そこであたしのプランを説明するから、納得できたら魂を譲る契約書にサインしてね?」

「ほう、提案営業か? よかろう。楽しみに待っていよう……どうせ暇じゃからな」




 それから数日後。


「こ、これは……」

「いったいどうなってるの!?」

 弁護士に呼び出され、権堂邸に集まった息子夫婦、そして親類縁者一同は、変わり果てた曽太郎の寝室を見て口々に声を上げていた。


 数日前までそこにあった介護用ベッドも、老人の姿もない。

 代わって広い部屋の中央には直径1m、高さ2mほどの金属製カプセルが鎮座し、壁際に並んだ用途不明の機械と数知れぬケーブルやパイプ類と繋がれていた。

 それはもはや寝室ではなく、あたかも何かの研究室のようだ。

 呆気に取られる親族たちには一瞥もくれず、白いツナギに身を包んだ外国人の技術者数名が黙々と機械の調整作業に当たっていた。


「どうぞお静かに。詳しい事情は、これから説明致しますので」


 弁護士は咳払いすると、曽太郎から託されたメッセージの朗読を始めた。


「つまり……権堂曽太郎様はご自分の意志に基づき米国のベンチャー企業『フェニックス延命サービス』と契約、ご自分の肉体の中で唯一ガン細胞に冒されていない大脳を摘出、この金属カプセルに収納されたのです」


 カプセル内は人工髄液に満たされ、摘出された大脳はその中に浮かんでいる。

 また周囲の機械から酸素と栄養を含む人工血液が絶えず送り込まれるため、脳自体は未来永劫「生き続ける」という。


「大脳を摘出って……それじゃ父は生きていけないじゃないですか!? これは殺人だ!」


 長男の曽一郎が真っ青になって叫んだ。


「いえ逆ですよ。たとえば交通事故で全身が動かなくなっても、脳死しない限りは『生きている』とみなされるでしょう? その証拠に、ほらご覧下さい」


 弁護士の指さす先に置かれているのは一台の脳波計。

 いわれて見れば、そのモニター画面は確かに活発な脳波活動を表示している。


「で、でもこのままじゃ……」

「ご安心ください。いずれは人間の体を機械で再現した全身義体……俗にいうサイボーグ・ボディに移植される予定ですから」

「サイボーグ? そんなもの、もう開発されてたんですか?」

「いいえ、まだ……でも世界各国で研究が進められてますから、あと2、30年もすればおそらくは……」

「もしいつまで経っても完成しなかったら?」

「契約では今後200年間に渡り曽太郎様の脳はこの施設で厳重に保管されます。仮に200年経って契約が切れたら……生命維持装置は撤去され、その時初めて『死亡』という扱いになるはずです」


「そ、その契約って……幾らかかったの?」


 曽一郎の嫁が、おそるおそる尋ねる。


「はあ。将来移植予定のサイボーグ・ボディの料金もコミで……日本円にしておよそ1兆円。これは曽太郎様の個人資産の総額とほぼ同額です」

「詐欺よ! そんなとんでもない額の契約、2日や3日で結べるはずないじゃない!?」

「こちら、先方の企業と交わした契約書の写しですが……」


 英文で書かれた分厚い契約書の束を、弁護士はドサっとテーブルの上に置いた。


「私どもの事務所で詳しく調べたところ、曽太郎様のサインは全て本物。契約内容も……完全に合法なものと判明致しました」

「あの、それじゃ、遺産の相続は……」

「相続? 何のことです? 曽太郎様はまだご存命ですが……おそらく200年先まで」

「…………!」


 嫁は白目を剥いたかと思うや、その場でばったりと卒倒した。



 弁護士も、息子夫婦や親類縁者、そして技術者たちもひきあげ無人となった部屋の中。

 暗い部屋の中では生命維持装置の各所でランプがチカチカ点滅し、静寂のなかに微かな作動音だけが響いている。


 いや。


 普通の人間には聞こえないだけで、中央の金属カプセルの内部では、人工髄液に浮かぶ曽太郎の脳が声にならぬ悲鳴を上げていた。


『こ、ここは何処じゃ!? 何も見えん! 聞こえん! 触れん! か、カラダ……わしの体は何処にいった!? 助けてくれっ! ここから出してくれぇーっ!!!』





「権堂さーん、生きてるぅ? 迎えにきたわよ♪」


 ハッと気付くと、そこは寝室の中。

 すぐ目の前に、あの死神の少女・魅夜がにっこり笑って立っていた。


「わ、わしは……?」


 曽一郎は慌てて自分の体を確かめた。

 五体無事に揃っている。

 ただしその体は半透明に透き通り、まるで体重が消えたようにフワフワと心許ないが。


「たった今、カプセルの脳からあなたの『魂』を取り出したわ。つまり今の権堂さんは、いわゆる『幽霊』ってことね」

「幽霊でも何でも……助かった。てっきり騙されて、無間地獄に堕とされたかと思ったわい」

「失礼しちゃうわー。あたしたち、人間みたいに嘘はつかないわよ。それより、どうかしら?『遺産』の使い途は」

「……」


 曽太郎の霊は、改めて金属カプセルと室内の生命維持装置を見やった。


「……まあ……こんなもんじゃろ。嫁の驚く顔が見られなかったのが残念じゃが、のう」


 そこで、ふと部屋の一角に置かれた脳波計に目を留める。


「おい、まだ脳波が動いておるぞ? わしは死んだはずなのに、どういうことじゃ?」

「そりゃあ動くわよ。権堂さんは死んだけど、この脳だけは今も酸素や血液を送り込まれて強制的に『生かされて』るんだから」

「しかし、わしの魂はここにいるのに……」

「どうなのかしらねえ? 恐竜が死んでも化石になるみたいに、この脳の中には権堂さんの記憶みたいなものが残ってるのかも……でもあたしにもよく分かんない。とにかく、あなたの魂を冥界まで送り届ければ『死神』としてのお仕事はおしまいだから」

「……記憶……か」

「今更悩んだって始まらないでしょ? さあ、逝きましょう」

「う、うむ……」


 魅夜に手を引かれ、フワリと宙に浮かんだ曽太郎の霊は、そのまま窓を擦り抜けて夜空へと舞い上がっていった。


 今度こそ、本当に誰もいなくなった部屋の中。

 にもかかわらず――金属カプセルの内部では、人でも幽霊でもない「何者か」が悲痛に叫び続けている。


『何も見えん! 聞こえん! 触れん! 助けてくれっ!! ここから出してくれぇーっ!!!』


<完>

最後までお読み頂きありがとうございました。本作は連作短編「死神少女」シリーズの第1話として執筆された作品の再投稿です。シリーズ全6話がマイナビ出版から電子書籍化されたことに伴い、現在第1話のみの公開となっております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] キャラクターがそれぞれ個性的で良かったですッ‼ 死神なのに女性営業みたいな魅夜ちゃんが憎めずに好感持てました! [一言] 初めまして‼ 「死神少女と大富豪」楽しませて頂きましたッ‼…
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