第四話『動き出す戦局・後』
──人里──
「慧音!! こりゃあいったいどういうことなんだ!?」
「お、妹紅か。人間と妖怪が戦うって話は聞いたか?」
「ああ……なんかよく分からないうちに始まったところまでな」
走りながら話しかける蓬莱人、妹紅に話しかけられた半妖の女性、慧音は妹紅の疑問に応えるため、疑問で返す。
その答えを聞いた慧音は「なら」と話を続ける。
「戦わない人間を別世界へ一時的に逃すんだそうだ。私と霊夢、魔理沙、樹はその人間を守る役目だ。妹紅、お前も来るか?」
「うーん……そのメンバーだと必要なさそうだし、霊斗に話を聞きに行ってくるよ」
妹紅がそう言って去ろうとするのを、慧音は「待て」と引き止める。
「霊斗は今はタイミングが悪い。魔晴のところに行くといい」
「おう、慧音、サンキュな」
妹紅は慧音のアドバイスを受け、人が続々と集まる居酒屋『雷電御礼』へと足を運んだ。
◇◆◇◆◇
──人里の端、雷電御礼──
「あら妹紅、あなたも来たのね」
「おう。ってーか、凄いメンツだな」
妹紅は僕の経営する居酒屋、雷電御礼の中にいた客を見て顔をしかめた。
「ここにいるのは全員、人間の力になって戦うメンバーってことでいいのか?」
「ああ。妹紅、君も座ってくれ。みんなに話がある」
そう言って畏まった僕の方を、全員が一斉に向く。
「まず……君たちが一番頼りにしているであろう、霊斗のことについて。霊斗は……今、行方不明だ」
僕のその言葉に、ザワザワと少し騒がしくなる。レミリアは魔晴の言葉を受け、僕に疑問を投げかけた。
「魔晴、一体どういうことなの? 経緯を説明なさい」
「ああ。……と言っても、レミリアは分かってるんだろ? まあ、他のみんなのために説明するけど、霊斗がいる限り向こうは勝ち目がないのは分かるよね」
「ええ。とはいえ、簡単に拘束できるような……いいえ、拘束するなんて不可能よ」
僕の言葉に、永琳はピシャリと言い放った。そう、普通なら不可能だ、ら
「だが、博麗神社に今回の事情を聴きに行っても、霊斗どころか、霊夢以外の博麗一家が誰もいないんだ」
僕はそう言って、魔理沙の持っていた一冊の本を取り出す。
「──だから、僕は霊斗以外でも、頼りになりそうな人を召喚します。皆さんには、召喚した後の彼らを匿ってほしい。──正直言って、今回の戦いでは皆さんの中の大半は足手まといになるだろう」
俺がそう言った途端、ざわめきが大きくなる。……だが、それはどうしようもない事実であり、変えようのないことだ。
僕はざわめきを収めるため、机を力強くバンと叩いた。
「聞いてくれ。──確かに、みんな不平不満はあると思う。けど、これはどうしようもない、変えようもない」
「……そうね。魔晴、私たちは私たちで、月に連絡を取り合ってみるわ。私がいる以上、例え罪人でも月の人間たちは無下には扱わない」
「ええ、永琳はその路線で人員をかき集めてください。これはあなた達にしかできない。そして、永遠亭以外の皆さんにも、まずはそれぞれの役割を決めます。その上で、僕は彼らを召喚する」
僕はそう言って、とりあえず今いる勢力を見つめ直す。
紅魔館、白玉楼、永遠亭、月の都がこちらの戦力。
対して、向こうは……
地底、龍神界、天界、天狗の里、河童の一団、それに……「正体不明の何か」おそらく、この何かに霊斗さん達は殺られたんだろう。
まずは、こいつらの正体を突き止める必要があるか。それに、霊斗さん達を解放することも必要だな。最前線である妖怪の山と紅魔館の間で戦う人たちも欲しい所だ。河童の科学力、天狗の集団兵法も厄介だ。
地底から逆方面を守れるよう、そちらに人員も割きたい。地底組は一癖も二癖もあるが、総じて強力な兵が揃っている。中心となる人里には、守りに秀でた永遠亭の人に居てもらおう。
太陽の畑の人々はどうなんだろうか。……いや、彼女達ならおそらく無用な手出しはしないだらうな。自然の摂理を大事にする人々だ。
僕は勢力図に関して思案しながら、レミリアさんを指差して発言する。
「……決めました。レミリアさん達、紅魔館の人々は紅魔館で妖怪の山との最前線での戦闘を頑張ってください。後に、月の兵力も加わります。それまで耐えてください」
「……月との共闘ね。いいわ、請け負ってあげる。こっちは対集団戦に秀でたメンバーが多いから、かしら」
「ええ。天狗の集団兵法は非常に厄介です。広範囲への破壊力を持つあなた方に、是非最前線を耐えていただきたい」
次に、永遠亭の人を指差す。
「あなた方は、人里で物資の運搬や月との通信、こちらの戦力のケアをしていただきたい」
「ええ、任せなさい。物資補給、私たちの得意分野よ」
遠距離から戦ったり、罠師としての威力を発揮するメンバーが多いのも、人里に起用した理由の1つだ。唯一回復ができるというのも大きい。
次に僕は、妖緋さんたちを指差す。
「妖緋さんは、僕が召喚した人間を中心とした小隊を率いて、自由に動き回ってください。志郎さんの周りを見る能力と、妖緋さんの単騎戦力に期待してます」
「はい!」
僕は妖緋さんの元気のいい返事を聞くと、最後にアリスを指差す。
「最後に、アリス。君たちは博麗神社前に障壁を張ってくれ。あとで霊夢も呼び戻すから、魔雪と、アリスと、霊夢と……あとはパチュリー。手伝いをお願いできるかな?」
「分かったわ」
僕はそう言って指差していた手を下す。そして……術式を書いた式神に魔力を流し込む。
「──では、続いて召喚を始めます」
僕はそう言うと、本の術式を組み込んだ式神を展開する。
式神から巨大な魔法陣が形成されたかと思うと、そこから14人と3匹の猫が姿を現した。
「ここはどこだ?」
「やあ、桜ちゃん。僕のことは覚えているかな?」
「霊斗の時の店員!」
僕はそれに対して、店員じゃないんだけどなぁ……と思いながらも、あの時はそういえばエプロンを来て食事をあの人たちに差し出したな、ということを思い出した。
「いや、今はこんなことをしてる場合じゃない。実は……大変なことになってるんだ」
僕はそう言って、磔君と桜ちゃん二人を中心とした召喚された人たちに、事の経緯を話した。
◇◆◇◆◇
「なるほど……霊斗が、か。それって……俺たちは勝てるのか?」
「……正直言って分からない。けど、勝機が少しでも残ってるなら……僕らは、いや僕一人だって、最後まで抗うさ」
「そうだよな。幻想郷の危機だもんな。覚悟を試すようなことをして悪かった」
「いや、こっちとしてもしっかり覚悟が固まったよ。……それでは、黙っている皆さんには、とりあえず自己紹介をして貰いましょう」
僕と磔君の会話を聞いていた12人は、そこでハッとなって名乗り始める。
「俺は幻真。龍使いだ」
「私は安倍桜よ。こっちは私の側近の鍵野玉木。」
「よろしくな、嬢ちゃんに坊ちゃん!!」
あ、なんか面倒くさそうな人が来た。
そう思っていると、今度は玉木の前に3匹の猫が出てきて、リーダー格と思わしき白猫が声を発した。あれは…….『長靴を履いた猫』か!!
「我が名はアーサー、桜様一の使い魔!! 右手に居る黒猫はランスロット、左手に居るミケ猫はガウェイン!!」
「へ〜。可愛い見た目してんなー」
気安く言いながら3匹の猫を撫でようとした幻真君は、ケットシーの持つメイスによって屋根ごと吹き飛ばされた。
「うわ……直すの大変なのに」
僕は日曜大工なんて一切できない。魔法使いのひ弱な体にとって、魔法関連以外の作業は大体が重労働だ。
僕は料理を使って魔法の練習をしてる部分もあるから、料理だけはあんまり苦にならないけど。
「ややっ! それは申し訳ありません、魔晴様!」
僕の呟きを聞いていたのか、ケットシーが謝ってきた。けど、それよりも重大な疑問が僕の胸を悶々と渦巻く。
「あれ? 名乗ったっけ?」
「先ほど桜様と会話をしていたのを聞いていましたので」
……中々に筋は良いみたいだ。
僕は感心しながら、その隣に佇む少年に顎で自己紹介を促す。
「お、次は俺か? 改めて自己紹介だが、俺は白谷 磔。よろしく。今はこちらの世界に滞在させてもらってる」
磔君達は今回、霊斗さんの作った修行空間でひたすら剣を振るという特訓をしていた。その結果、今回の博麗神社爆破事件には巻き込まれずに済んだ。
まあ、こちらから召喚しない限り連絡も一切取れない場所で修行してたから、魔法陣で強制連行だけど。
「俺は相沢 絢斗。みんな、仲良くしてくれよな。それにしても、桜ちゃん久しぶりだな〜! その美しさも変わらない!!」
桜ちゃんをおだてる絢斗君が、一撃で桜ちゃんに吹き飛ばされた。何だろうか、幻真くんに近いものを感じる。
「僕は佐藤 快。よろしくお願いします」
磔達からはこの3人が助っ人として来てくれたみたいだね。まあ、他の人たちは修行がまだ少し不十分だからしょうがないか。どの人物も……うん、かなりの力を感じる。
並大抵のことじゃ負けなさそうだ。
「黒素黒狂だ。よしなに頼む」
「新月朔です。お手柔らかにお願いします」
「次は私かな? 私は蒼です。よろしくお願いします」
この三人も中々の実力者みたいで、非常に心強いな。
「次は私ね。私は仗真、仗真綺美! 以後よろしく!」
「やっほー! みんな元気ぃ? 城戸沙織……じゃなかった、城戸参上!」
「今回、このチームの皆様のサポート役を霊斗さんより仰せつかりました、泉水 武人です。よろしくお願いします」
そう言って、三人の高校生らしき人たちは自己紹介をした。……あれ、仗真さんって名前、昔聞いたことがあるような……まあ、いいか。
あとは最後の二人かな。
「私は夕紅 茜よ。よろしく」
「僕はシルク。よろしくね」
この二人、特にシルクさん……実力を隠してるみたいだけど、漏れ出した力からとんでもない実力者だってわかる。
「じゃあ皆さん。先ほど説明した通りですので、色々な場所に分かれてもらいます。この世界の幻想郷住民はそれぞれの召喚された人たちに声をかけてくれ」
僕はそう言って、一時的にこの場を解散とした。
◇◆◇◆◇
人間達も、妖に負けまいと力を整えた。両軍動き始め、世界を変えるほどの戦いはもうじき幕は開かれんとしていた。
戦開始まで、残り6日。