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第二話『戦況は既に最悪』



「霊斗さん!!」


 俺は誰かに呼ばれてそちらを向く。すると、そこにはいつぞやの剣士の少年がいた。


「リク、久しぶりだな! 元気にしてたか?」

「ええ! ……って、それより、ルカ見ませんでした?」

「ルカ……? 見てないな」


 俺はそう言ってリクの疑問に答える。まぁ……行き先は大体予想できるけど。おそらく……ディス様のところだろう。


「まあ、すぐに会えるさ。……そういや、お前って復活能力持ってたよな?」

「え? えぇ……それがどうかしました?」

「よし、採用。ちょっと敵情視察に行ってもらうぞ」


 俺はそう言って、リクを無理やり妖怪の山に転送した。


◇◆◇◆◇


──妖怪の山──


「うーん……敵情視察って言われてもなぁ……そもそも、敵も何か分からないし」


 僕はそうぼやきながら、妖怪の山を歩いていく。


「おっと、そこで止まってください!! 私は気のいい天狗なのであなたに教えて差し上げますが、この幻想郷では今人間は妖怪への干渉はできません。すぐに帰らないと……わかりますよね」


 何なんだろうか。人間の妖怪への干渉がダメ? 何でそんなことを……。

 僕がそう思っていると、突然僕の四肢が何かに押さえつけられる。


「おっとぉ……敵情視察といったところかな? 少年。そんな悪い子には、お仕置きしないとなァ」


 そう言ったのは、おそらく俺を押さえつけたであろう鬼だ。先ほどの天狗さんはどこかに逃げてしまった。

 ……さて、どうしようかな。


「覚悟ォ!!」


 その声と共に、振り上げられた拳は考える暇もなく僕の頭に振り下ろされた。

 グシャリという音と共に、僕の頭が弾け、赤い鮮血が鬼の拳に飛び散る。


「ケケッ。愉快愉快」

「残念だけど、それじゃあ僕は死なないんだよね」


 僕はそう言って、剣を構える。


「おお? ヤル気か?」


 鬼のその言葉と共に、僕は飛び出す。霊光の神剣で鬼を真っ二つにしようと、横薙ぎに一閃するが、鬼はそれを剣に合わせてバックステップでかわし、そのまま後ろ回し蹴りを僕の側頭部に当てた。


「うぐっ……!」

「おいおい……」


 鬼はつまらなさそうにため息を漏らしながら、僕に一歩、また一歩と歩いてくる。

 僕はそれを迎え撃つために霊光の神剣を構え直す。

 ──次は、上段!!


 僕は一瞬で攻撃を決め、全力で振り下ろす。鬼はそれをサイドステップでかわし、またもや後ろ回し蹴りを僕に当てる。


「くふっ!!」


 クソ……! いくらやっても、こいつは倒せない……!!

 僕はそう判断し、咄嗟に転がると、体の向きを反転させて鬼から全力で逃げるように走り出す。


「フン。逃げ出したか、軟弱者が」


 鬼はそう言うと、一瞬で僕の目の前に出現した。


「な……!!」

「残念だったな」


 僕は鬼に頭を持ち上げられ、そのままグシャリと握りつぶされた。


◇◆◇◆◇


──博麗神社──


「──下級の鬼で、あの戦闘力か」


 俺はそう呟き、リクにかけていた能力を解く。


「霊斗様、助けに行かないんですか?」


 そう言って霊姫がこちらに近づいてくる。霊夢は今は人里で人間たちの護衛をしているはずだ。


「ああ。することはしたからな」


 俺はそう言って、指をパチンと鳴らす。すると、地面から触手が生え、霊姫を締め付け始める。


「な……!! 何者……!!!」

「なんだよ、この間会ったのに、もう忘れたのか?」


 俺はそう言って、自分の顔にかけていた幻術を解除する。


「封輝!? 霊斗(お父)様をどこにやったの!?」

「知りたいか? 哀れなる生贄よ。貴様に教える義理はないが……『こちら』に来るなら話は別だ」


 そう言って、俺……博麗封輝は霊姫をこちらの陣営……つまりは『妖怪側(サイド)』に誘う。だが……断られるだろうけどな。


「誰が行くもんですか!!」

「そうか、なら仕方ないな」


 俺は自分の予想通りの回答に少し気を落としながら、能力で霊姫を『目的地』に転送した。


◇◆◇◆◇


──妖怪の山、山奥──


 封輝とルシファーが城を構えるのは、妖怪の山のさらに奥へと進み、天狗の里や河童の研究所を乗り越えたその先にある。

 徒歩の人が一年かけて辿り着けるかどうかの極地に、ただポツンと佇むその城の姿は、まさしく威風堂々という言葉が似つかわしい。


 そんな城の中には、二つの檻があっる。

 片方は、戦争をするにあたってどうしても抑えておかなければならない三人が収監されていた。


 霊斗、零、神姫の三人である。

 霊斗と零は、自身を縛る鎖を破壊しようと、鎖を床や壁に打ち付けたり、暴れまわっていた。


 普段の霊斗であれば、この鎖の一番弱い部分を探し、そこに力を加えることで破壊する。……のだが、今の霊斗にはそれができなかった──否、一番弱い部分などなかった。


 これがルシファーの能力の恐ろしい所である。ルシファーの能力で作られるのは「結果」ではなく欲しい結果を得るための「理由」だ。

 今回で言えば、例外的に霊斗を縛る鎖はすべての部分が均等に強い力を持っている。だから霊斗は破壊することができない……と言った所だろうか。


「それにしても……零や神姫さんまで捕まってたなんてな」

「ああ……それにしても、あいつの能力は何なんだ?」


 零はそう言って、机に突っ伏しながらゲームをしている少女を顎で示す。


「あいつ……ルシファーのことか。ルシファーの能力は『例外になる程度の能力』だ。例外的に技の効果の対象外になる、と言った使い方が主だが……」


 今回、零や神姫が敗北したのは、例外的に零や神姫にスペルによる干渉が通じてしまったからだ。

 その結果、2人は能力の使用権を剥奪され、(グレイプニル)で縛られてしまった。


「まあ……呼白が気づいてくれるのを待つしかないな」


 零は冷静にそう言うと、神姫も頷いた。霊斗は「この余裕はどこから来るのか」という疑問を口に出そうとして、自分もそこまで焦っていないことに気がついた。


 年の功はこれ故に恐ろしいな、と霊斗はつくづく実感した。

 霊斗ほどの年齢も越えていない青年……創世記の世界から霊斗が連れてきた龍神であり、隣の檻に入れられている竜崎 神斗は鎖に縛られてなお、静かに瞑想していた。


 神斗は、ルシファーに敗北したわけではない。配下の一人からの騙し討ちにあい、能力の使用権を剥奪されてしまったのだった。

 おそらく、霊奈ももうすぐ神斗と同様に配下の一人によって、縛られた状態で届けられるであろう。


 神斗のその予想は正しく、霊奈は妹の霊姫と、過去にこの世界に訪れた青年、リクと共に神斗達の檻に転送されてきた。それもご丁寧に、全員グレイプニルで縛られた状態で、だ。


「霊奈に霊姫まで捕まったか……。あと、この世界に来れるとするならあいつしかいないな」


 霊斗はそう言って、自らの産んだ子を想う。


「あいつが気づくかどうか……多分、気づかないな」


 霊斗はそう言うと、ため息を吐いた。今の霊斗の希望は、零達の娘である呼白だけである。

 いくら零の優秀な娘とはいえ、この状況で助けに来れるのか。


 霊斗はそんな、口に出せるわけもない不安感に駆られながら、零との会話を再開するのだった。


「まあ、安心してろ。まだこっちにも策はある」

「そりゃ頼もしいな」


◇◆◇◆◇


 人間の望みも絶たれかけている今、この戦で何が起こるのか。世界がどう変わるのか。変わるものはまだ誰もいない──。

 戦開始まで、残り7日。

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