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仗真綺美

 ──ここは、幻想郷の闘技場。その中心に、1人の少女が居た。


「あんた……居なくなったんじゃ?」

「いてて……ここ、どこだよ……」


 仗真綺美。原始の炎と呼ばれるその少女の目の前に、1人の少年が落ちて来た。

 少年の名は『博麗霊斗』。この世界で消えた男の名であり、少年の姿形はその男をやや幼くしたような見た目。それは優一や綺美などの知る、最初の頃の霊斗の姿にそっくりだ。


「懐かしいわね……と言っても、アンタは私のこと覚えてないんでしょうけど」


 綺美がそう言った瞬間、幼い霊斗の両目の瞳に力が宿る。


「いや、覚えてる。まあ、今は訳あって昔の俺に憑依しているが……やっぱり、お前んところと言ったら戦いだろ?」

「いいわ、やろうじゃない」


 霊斗はその答えを聞くと、コインを取り出して上に弾いた。

 それが地に落ちた瞬間。一瞬で地面が揺れ動き、両者の間に圧倒的な距離が生まれた。


「雷符『シューティングボルト』!!」


 綺美の手の甲に貼られたルーンによって制御される魔力により、綺美の銃のような形の手の指先から光速で飛んで行く雷光が放たれる。

 霊斗はそれを結界で防ぐと、綺美に対して向き直った。


「夢幻『霊時空』」

「光符『ルーメンキャリバー』!!」


 霊斗の持つ、自分を改造する程度の能力。その能力によって付与された全てを操る程度の能力により、霊斗が作っておいた無限の如き弾幕数を誇る空間を接続する。


 それは綺美によって作られ射出された、何本もの光の剣に切り裂かれながらも綺美に迫る。


「闇符『ハンド・オブ・エクリプス』」


 綺美の手に貼られたルーン。そこからでる、全てを呑み込む闇によって霊時空の弾幕は飲み込まれる。

 その一方で、霊斗は高く飛翔して迫るルーメンキャリバーから逃げていた。


 霊斗の圧倒的な飛行速度に光の剣も追いつけて居ないが、突如として霊斗の目の前に光の剣が現れた。

 それは、霊斗を切り裂かんとする綺美が持つ光の剣であった。


 霊斗はそれを当時の武器である王武で防ぐと、転移で攻撃を回避する。

 その直後。


「獄雷『ヘルインパルス』」


 閃光の速さで、猛る雷は霊斗へと襲い掛かる……が。それらは、霊斗の隣に逸れていく。


「なにを……!?」

「避雷針だ。物を出現させる程度の能力と現象を起こす程度の能力を併用して、能力を二段階使用で上書きした」


 地獄であろうがどこのモノであろうが、それが雷であるならば必ず避雷針に引き寄せられる。そんな現象を起こす能力を用いて、綺美の魔法制御すらも上書きしてその雷を防いだ。


 その反応速度、そして即座の魔法への対処のスピード、行動力はかの韋駄天すらも凌駕する。


「いいわ、本気でやる。覚醒綺美『燃え盛る虹(アンリミテッドフレア)』」


 綺美が丸薬を口に含んだ瞬間、綺美に虹色のオーラが纏われ目は赤に、髪は水色に変化した。

 そして、綺美は全力で霊斗と相対する。


「獄零『コキュートスアバランシュ』」


 そう綺美が宣言して、巻き起こるは異常なほどの巨大な雪崩。

 普段の綺美の雪崩ですら、現実の雪崩を大きく上回る規模である。それが、綺美の丸薬による強化によって膨れ上がっている。


 押し寄せる雪崩。普通の人間なら……いや、空を飛べる霊夢などであったとしても、これには諦めるを得ないだろう。

 そう、空を飛べる程度の人間なら。


 霊斗は、その段階を軽く凌駕している。そしてそれは、単なる雪崩では対処しようがない。

 霊斗は王武を細い刀へと変えると、どこからかもう一本の刀を取り出す。

 霊斗のもう一本の武器、形ないものを切る刀。その名は『3代目魂切』。


 その二本の刀を、何かの目的と共に霊斗は振り回す。そして、それを見る綺美の目は驚愕に見開かれる。

 雪崩は霊斗の背後に霧となって消えていったのだ。

 その雪崩は、どれだけ細かく斬り刻まれているというのか。そして、それにはどれほどの苦労と技術を積み重ねているというのか。


 これぞ、達人……否、達人すらも超えた極限の技。絶技と、そう呼ぶに相応しい。


「あんた、どんな積み重ねをすればそんなになるのよ……」

「なに、置いて行かれた小娘には負けないぜ」


 そう。霊斗の世界の時間の流れは不安定で、他の世界よりずっと早いのだ。それは一年も重ねれば他を追い抜くほどに進み続け、1日で一兆年近く経つこともある。

 その早すぎて長すぎる時間の中で、彼は努力を一切惜しまなかった。


「すげぇ……」


 その『時間』の結果に、霊斗という『人間』の実力に、自分との広すぎる差を感じて。霊斗の弟子である磔は言葉を漏らした。


「なら……これはどう? 獄旋『ソニックテンペスト』」


 それは、圧倒的な斬撃を誇る殺人竜巻。

 金属音を上げながら霊斗に向かうそれに対して、霊斗はただ手のひらを向けた。


 そこから放たれるのは、巨大な衝撃波。『気』によって竜巻には穴が空き、やがて崩れていく。


「……さすが! 次が最後よ!! 『我が原始の煉獄(プロミネンスフレア)』」


 それは、綺美の心象を表す……通称、固有結界。

 綺美が唯一もつ魔法は、灼熱地獄を具現化するものだ。

 だが。霊斗は、それを気にしないで綺美に歩み寄る。


「その程度か?」

「あんた……なんで!?」

「熱いのなんて、既に経験済みだからな。俺は一応人の身ではあるが、人と思わない方がいいぜ」


 霊斗はそう言うと、その手に一振りの刀を持った。

 王武だが、その刀身は銀色に輝いている。


「木符『バウムマインズ』雷符『シューティングボルト』」


 綺美の最後の抵抗である、地面から生える木々も、綺美の指から放たれる電撃も霊斗は銀色に輝く王武で知っていたかのように斬り伏せた。


「全てを操る程度の能力。その前身、自分を改造する程度の能力。舐めてもらっちゃあ、困るぜ」


 霊斗はそう言うと、綺美の使おうとした五つの魔法を阻害した。


 一つ目の魔法、神秘の体言。ないものをあるものに、有るものをないものへと変える魔法だが、霊斗は世界の『形』を存続させるという世界への奉仕行為として阻害させた。


 二つ目の魔法、並行世界の運営。これも、霊斗は世界の保護、存続させるという名目で防ぐ。


 三つ目の魔法……通称『ヘブンズフィール』に対して、霊斗はヘブンズフィールの行使するための礼装……聖杯を破壊することで防いだ。


 四つ目の魔法は、つながることが目的のため他の魔法が潰えれば強制的に効力を失う。


 そして、五つ目の魔法『青』では、時間の流れを保護するという名目で、五つの魔法全ての逃げ道を塞いだ。

 霊斗は魔法を発動する一秒間の間に、対策全てをこなしたのだ。いくら能力で時間停止が可能でも、不可能に近い。


「な……!?」

「悪いな。流石に、ちょっとやりすぎた」


 霊斗はそう言うと、拳を綺美の目の前で寸止めする。


「流石に、これじゃあつまんないだろう。磔!」


 霊斗は磔を呼び寄せると、その肩に手を置いて外へと帰っていった。


「……戦えってことか」

「いいわ。やるわよ」


 魔術で全回復した綺美はそう言うと、磔に対して一歩踏み出す。


「な……! 近距離戦!?」


 磔は驚きながらも、綺美の手に収まる光の剣を磔の刀である真楼剣で防ぐ。

 不意に背後から迫ってきた光の剣を体を横に逸らして剣で弾くことで防ぎ、横薙ぎの綺美の攻撃をしゃがんで回避する。


 そのまま横へ転がって移動すると、立ち上がって両手を綺美へと構えた。


「想符『フレアスパーク』!!」


 磔の放つ、炎を纏ったマスタースパークは綺美へと押し寄せる。が、綺美はそれを跳躍して回避すると片手の周りに炎の玉をいくつも創り出し、片手を磔に向けて振るうことで磔へと放つ。


「火符『フレイムワークス』」

「友符『フレイムワークス』」


 磔はそれに対して全く同じ炎の玉を創り出して相殺する。違う魔力を孕む炎同士の衝突に、魔力の衝突、爆発と共に炎は一気に広がる。

 その爆炎に磔も飲み込まれたが、その煙を振り払うように高く飛ぶと、磔はその場で回転し始めた。その回転に合わせて、たくさんの竜巻が起こる。


「疾風『断空斬』」


 さらに磔は、竜巻に無尽蔵である想力を送り込む。

 すると竜巻は一つに纏まり、さらに巨大な竜巻となって綺美へと向かって言った。


「獄旋『ソニックテンペスト』」


 綺美はそれに対し、金属すらも切り裂く斬撃の竜巻をぶつけて相殺すると、さらに太陽の如く巨大な炎球を体全体から魔力を放出して作り出した。


「真獄炎『プロミネンスバースト』」


 それは、太陽の如く強烈な炎。あらゆるものを焼き焦がす、獄炎の顕現が磔へと向かっていった。


「合成『ソウルドライブモード2』」


 磔はそれに対して自身への身体強化の魔法をかけると、手に持つ剣に全ての力を集める。


「切断『マスターソード』」


 それは霊斗より習った、純粋でシンプル、それ故にどこまでも強力な一撃。

 剣に磔の持っている無限の想力すらも底をつきそうなもほど、力を込める。

 そして。

 それを、綺美の放った擬似太陽へと解き放った。


 擬似太陽は真っ二つに割れる。が、その安堵感から磔は体の力を抜いてしまった。

 その瞬間──風を纏う綺美による、氷の剣の刺突が磔の体を突き穿った。


◇◆◇◆◇


 綺美は擬似太陽……プロミネンスバーストを作り出した後、その後の戦闘のために準備を整えていた。

 風の鎧を身に纏い、氷の剣を創り出して。

 それは奇襲という思わぬ形で活躍をしたが、綺美にとっては予想外もいいところだった。


「なんで最後、手を抜いたのよ」

「手を抜いた? そんなことしてないが?」

「いや……あの時、完全に油断してたわ」

「あぁ……あんだけデカい攻撃を防いだからな。それで終わりだと思っちまったんだよ」


 磔は綺美の追求に対してそう答えると、不満げに磔へと綺美の差し出した手を掴む。


「また、どこかで」

「ああ。いつか、必ず戦おう」


 それは、どこかで綺美と磔がお互いを認め合った証であった。

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