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小噺④『テスト』



「よし、事前に言っていたように、今日はテストをするぞ」


 俺たちが霊斗の世界にお世話になってから、早9ヶ月が経過した。

 ここ最近は教わることもなくなって、別空間でひたすらに己の能力を高めるということを繰り返していた。ちなみに、それが許されたのは俺と快、絢斗の三人だけだ。


 というのも、快は元々の能力のおかげで肉体のリミッター解除の後の制御がうまかったのだ。絢斗も、持ち前の頭の良さで霊斗の教えたことを全て理解し、二番目に別空間での鍛錬を許された。


 俺は時々戻ってくる快の能力をコピーさせてもらって、リミッター解除の練習をし続けたわけだ。その結果、三番目に来ることができた。

 なんでも、一人で練習していると昔のことを思い出してなんだか惨めな気分になるんだそうだ。だから俺たちの方で修行をしに来てるんだとか。


 それはそうと、他のみんなはかなり苦戦しているようだった。


 さて、来てから半年〜昨日までの、この3ヶ月のおさらいが終わった所で今日の話をしよう。


「テスト?」

「あれ、磔は知らないんだっけ? 僕と絢斗はそれに向けて別空間でひたすら鍛錬してたんだけど」

「全く聞かされてないんだが……」


 快にそう言われ、俺はこの世界に来て何度目かの不服を感じる。とはいえ、テストだ。

 相手は誰だ……と思っていると、見知った顔ぶれが現れた。


「先ずは快VSコノハ! 双方前に!」

「押忍!」

「よろしく」

「それでは、始めっ」


 コノハは相変わらずの掴めなさで挨拶すると、霊斗の合図とともに猛スピードで動き出した。

 快もほぼ同時に動く。快の牽制の拳がコノハに対して真っ直ぐ向かっていくが、コノハはそれを腕を横に当てることで逸らす。


 快はそれを予見していたかのように、対応して蹴りを入れる。


「良くなった」

「ありがとう!」


 快の拳がコノハの腹部に命中するが、コノハはそのまま快の拳を掴んで回転し、快を地面に打ち付ける。


「はあ……はあ……」


 快はむくりと立ち上がると、コノハの回し蹴りに対して両腕でガードの姿勢をとる。

 そのまま快は後ろ回し蹴りをコノハに当てる。コノハはそのまま吹っ飛び、足を地面につけてブレーキをつく。


「気○斬」

「食らうか!」


 快はコノハの放った気○斬をコノハが前に防いだ時のように、タイミングを合わせて霊力を纏った腕で弾くと正拳突きのように拳を真っ直ぐ突き出した。

 それは空気の砲撃となって、真っ直ぐにコノハに向かっていった。

 コノハはそれを蹴り上げ、そのまま振り上げた足で地面をドスンと踏みつけた。


「見事。体術を完ぺきに使いこなしてる」

「よっし!」

「快、テスト合格だ。下がっていいぞ」


 どうやら、快は定期的にコノハと修行していたらしい。そのおかげで上がるのも一番早かったのか。元々古明地楽とも修行していたが、楽もかなり教え方が上手かった。


「さて、次は絢斗だな」

「お願いします」

「よろしくね妖緋ちゃん〜」


 絢斗と妖緋が前に出る。


「始めっ!」


 霊斗の通る声と共に、二人は一斉に動き出した。

 妖緋が真横に力強く振るうのを、絢斗は縦に刀を構えて受ける。


 刀と刀がぶつかる独特の金属音がして、即座に妖緋が攻撃の向きを変える。次の下から上への袈裟斬りも、絢斗は難なく受け止める。


 不意に妖緋が後ろ飛び回し蹴りを絢斗に仕掛けた。絢斗はそれに対応するように刀を下から持ち上げようとするが、それは妖緋の刀に防がれた。

 絢斗はそれを刀を捨てて回避すると、妖緋の着地をしてすぐに移った攻撃の裏をとる。


 着地し、振り返りざまでのその攻撃の向かった場所には既に絢斗はおらず、絢斗は妖緋の首を締め上げる。


「うっ……くっ……!」


 低身長の妖緋に対してだからこそできた攻撃だが、妖緋は不意に足を振り上げ、思いっきりかかとを絢斗の脛にぶつけた。


「な──!!」

「甘いんですよツメが!」


 悶絶する絢斗に対し、拘束から抜け出した妖緋は首元に刀を突きつけた。


「そこまで! 絢斗、妖緋の言う通り最後のツメが甘い。さらに言うと、妖緋のあの飛び後ろ回し蹴り。あの時も刀で抵抗しようとせず、即座に刀を捨てて後ろに数歩下がれば頬にそんな傷を遺すこともなかったはずだ」


 霊斗の言う通り、絢斗の頬には一筋の切り傷がついていた。


「ただ、教えたことはきちんと把握していたな。剣での戦闘だと霊力での防御は難しいが、なるべく小さな動きでの回避などは見事だった。全部併せて及第点、といった所だな」


 霊斗にそう言われ、絢斗は微妙そうな顔をした。まあ、及第点って言われてもそこまで嬉しくないよな。


「次は磔VS界斗! 別空間組のラストだ、しっかり飾れよ!」


 界斗は、どうやらこっちの世界の早苗の夫だということをこの間聞いた。接しやすかった人である上に俺の初恋の人の夫ということで、かなり複雑な心境だ。


 そう思いつつ、俺と界斗は前に出る。


「始めっ」

 

 霊斗のその言葉で、俺たちは動き出した。一瞬で、界斗が刀を捨てたことを把握する。俺がそれに驚いている、次の瞬間だった。


 短い短刀が俺の首に向かって振られる。俺はそれにギリギリで気づき、霊力の波動で界斗を突き飛ばした。


「うわ……」


 界斗は静かな眼光で俺を見つめる。その目は、恐怖すら感じるような冷たさだ。


「界斗は暗殺のプロだったからな、気をつけろよ」

「うわマジかよ!?」


 俺は若干引きながらも、向かってくる界斗に警戒する。短刀を俺に向かって突き立ててくるが、俺はそれを体を動かして回避する。


 顔を狙った攻撃に首を傾けて回避し、そのまま縦に振り下ろすのに対して体を横に回転させて回避する。

 不意に界斗の姿が消えた。俺はどこだと探す暇もなく、その場で足を上に持ち上げた。


 界斗のローキックが俺の足の下を通過する。俺が今がチャンスだと思ったら、今度は界斗はブレイクダンスの要領で俺の上半身に向けて蹴りを放ってきた。


 俺は体を仰け反らせて回避し、そのままバク転でその場から移動する。

 その隙に界斗も立ち上がると、クルクルと短刀を回した。


「さあ、続けようぜ」


 界斗は短刀を俺に投げてくる。

 俺はそれを人差し指と中指で受け止めると、それを地面に投げ捨てる。


 その瞬間、界斗が俺の腹にパンチを入れようとするが、俺はそれを回し蹴りで界斗の側頭部に蹴りを放って防ぐ。


 ザッザッと音を立てて、蹴りによって倒れ伏した界斗に近づく。界斗はそれに対し、うつ伏せのまま俺を鋭い眼光で睨みつけてくる。

 界斗はどこから出したのか、再び短刀を幾つも俺に投げつけてきた。

 俺はそれを霊力の波動で吹き飛ばし、界斗の目前で指先に霊力を溜めた。

 次の瞬間。


「うぐっ!!」


 界斗の海老反りキックが俺の腹に命中した。

 界斗はそのまま立ち上がり、蹌踉めく俺に躊躇なく裏拳をぶつけてきた。


「ガハッ!」

「そこまで! 磔、お前は前も言ったけど戦闘中に油断しすぎだ。リラックスしているのはいいが、しすぎは良くない」

「…………」


 俺はそれに対し、何も言うことができなかった。

 気を抜きすぎ、か。確かに、警戒していればあの蹴りも防げたかもしれない。というか十中八九防げたはずだ。


 力を入れていれば強靭な肉体も、力を入れなければ脆い、というのを何かのアニメで見たが、まさしくその通りだな。


 そのあとも、テストはつつがなく進んでいった。まあ、多くの仲間は絢斗や俺のように問題点が次々発覚していくのだが……。

 俺たちが霊斗が居ないことに気がつくのは、それから3ヶ月後のことである。

 とりあえず、小噺はこれで終わりだ。

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