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第三十三話『災難』


 9体の天童人形が使えなくなった瞬間、桜の手元に一体の人形が落ちてきた。あれが観測者の天童人形だろうか。


 磔はそちらに少しは気を向けながら、桜に向かって居合斬りの姿勢をとる。


「奥義『幻狼風雷破斬』」


 磔がそう宣言すると、磔の姿が消えた。否、そう見えただけだ。あまりにも早いスピードは、視認することを不可能にする。


 だが、桜の強さはそれ以上だった。知覚強化を最大限まで引き出した桜は、呼白の使った超技術……宵避を使い磔の一撃目を避けると、後ろ蹴りで磔の背面を蹴りつける。


「うわっ!」


 磔はそれによって転びそうになり、素早く体を丸めて受け身を取るとその勢いに対して手でブレーキをつけ、すぐに桜に対して向きなおるとスペルを発動した。霊斗より教えられた、博麗伝統の突撃系スペル。


「霊符『夢想杯翔』」

「なんどでも来なさい! 神羅『知を貪るもの』!」


 全身に霊力を纏い、背中から霊力の翼を生やした磔が、桜に向かって一直線に翔んだ。

 桜はそれに対して、ファイナルマスタースパークを撃ちだした。


「……やったわ」


 ニヤリと笑う桜。しかし、そのすぐあとその顔は驚愕の色で染まる。


 ファイナルマスタースパークの跡から、土煙を上げて磔が突っ込んでくるのだ。どうする、他のスペルで対応は……いや、間に合わない。

 超技術で回避を……いや、この攻撃を回避できそうな超技術は存在しない。……ならば!


 桜は焦りながらも、集中力を高める。そして。

 突っ込んできた磔を、上空に投げ飛ばした。


 決まった! 桜は喜びながら、スペルカードを発動する。


「陰陽『陰陽刀〜開花〜』」


 それは、濃い桜色の弾幕だった。磔に向かって、桜色に染まった剣を振るう桜の剣から、視界が桜色一色に染まるかのような濃度の弾幕。逃げ道は──ない!


「幻符『イマジネーションブレード』、切断『マスターソード』!」


 磔の手に持つ真剣に霊力が纏われ、さらにそれを包むように緑色のオーラが剣の周囲に発生している。


 磔がその、長い光の剣を弾幕に衝突させると、弾幕はみるみるうちに消滅していく。

 磔はその隙に、自由落下のスピードも合わせて高速で地面へと落ちていく。


 その目は、瞑られていた。その瞳に、少年は何を想うのか。

 その世界に、少年は何を感じるのか。


「王符……『キング・オブ・イフ』」


 それは、綺美のスペルであるプロミネンスフレアとも似たスペル、似た現象。即ち……『固有結界』の展開。

 桜と磔が、別空間に隔離された。


◇◆◇◆◇


 桜と磔の顕現。それは、磔の固有結界の終了を表す。

 固有結界が消滅した途端、桜は力なくその肉体が崩れ落ちた。


 磔も相当の疲労が残るのか、剣を杖代わりにして立っている。


「お前ら、強くなったなー」


 霊斗が下に降り、気楽に声をかけた。


「お前らに凶報と朗報がある」

「……凶報から頼む」

「あいよ。誰かが零の酒を龍神力入りと取り替えた」

「朗報は?」

「零と戦わせてやる」

「「朗報なんかじゃない!!」」


 倒れた桜も、磔とまったく同時に口を揃えて言った。それより、零の酒を取り替えたのは誰なのか──というか、まだ残っていたのか。

 終作の準備とは、コレのことだったのだろう。そして、酒を飲まれて涙目になっているカスミが零の背後に居る。何をする気だ。


 それとは関係なしにカメラを見てはニヤニヤしている男たちも居るが。

 こっそりカメラを覗き見たリクに関しては、顔を真っ赤にして俯いているほどだ。


「大丈夫だ、今回はあいつも一緒に戦ってくれるってさ」

「ああ、俺もお前たちと一緒にあのバカを倒す」


 そう言って名乗りを上げたのは、刀哉であった。ここまで一切良いところ無しの彼である。

 本来は主人公らしさが止まることを知らない刀哉だが、今回は少しばかり控えめなようである。


「ん〜? やるろか〜?? 姫ちゃん、ちょっとどいててら」


 呂律が回っていない。あと臭い。

 あまりの酒臭さに、磔、桜、刀哉の三人は顔をしかめた。


「くっ……! あのアホ男! 殿に向かってあのようなご無礼を……!」

「白刃はちょ〜っと黙ってようね」

「むぐ!?」


 白刃の背後から手を伸ばし、白刃の唇に一本の指を当てて「静かに」のジェスチャーを作るシルク。

 一歩間違えれば人攫いとして通報されてもおかしくないレベルである。


 白刃の体に、シルクのワサワサといやらしく動く手が動きそうになり……刀哉の鋭い眼光に止められた。


「悪かったよ、続けて」


 シルクが両手を上げて降参のジェスチャーをすると同時に、零は動き始めた。その手に持つ黒き刀。その名は紅夜。


 刀哉の刀と、零の刀が交差する……が、零のなんちゃって剣術は剣術の達人である刀哉の攻撃に耐えられず、早速一本腕を落とされた。


「つ……強え!!」


 磔が驚きのあまり声を上げる。そんなことをしている間にも、零の刀が地面に落ちた。すぐに零の両腕は再生するが、その前に桜による跳び蹴りが零の顔面に放たれた。それと同時に、シャッター音がなった。


 零が勢いよく地面に倒れると、そこには紅夜が落ちていた。零は紅夜を龍の姿に戻す……が、その龍の突撃を読んでいたかのように、刀哉は体を少しだけ傾けてかわすと龍を腹から真っ二つにした。


 龍が紅夜に戻ると同時に、零の再生した両腕が刀哉へと襲いかかる。……が、その間合いはすでに刀哉の攻撃範囲であった。


 再び零の腕が切り落とされる。

 さらに、刀哉の刀はより苛烈に、激しくなっていく。それはまるで、再び白刃に手を出そうとしたシルクを黙らせるかの如く。


 シルクは命の危険を感じたのか、白刃にこれ以降手を出すことはなくなった。

 やがて、零が首だけになると、首は白目を向いて倒れた。


「兄さん、やりすぎですよ、まったくもう」


 そう言った神姫の顔は、零がやられているにも関わらずほんのりと紅潮していた。酒の入った神姫にとって何がヒットゾーンに入ったのか、分かるものは誰もいない。


◇◆◇◆◇


 宴会場の端……そこでは、何人かの男たちが密談をしていた。


「戦果報告〜!!」

「「ワアァァァ!!」」


 終作の宣言に、シルクと絢斗が一気に盛り上がった。


「あの……なんですか、これ?」

「うん? ああ、リク君は初めてか。よしよし、H・S同盟名誉同盟主、終作がリクくんに説明しよう!」


 そう言うと、絢斗とシルクが一斉に「よっ、名誉同盟主男前!」と叫んだ。かなり酒が入っているようだ。


「この同盟……変態紳士同盟は! 全国の健全な男子中高生のみんなのために! 日夜女性をつけまわす同盟である! 普段は別世界にいる俺たち三人が、一堂に会した時! この会は秘密裏に行われ、それぞれの写真という名の戦果を共有するのだ!」


 H=変態。S=紳士である。変態どもめ、自覚症状ありとはこれまたいかがすればいいものか。


「同盟ナンバー01! 同盟主にして発足者! 終始 終作だ! 担当は『従者』属性! 従順な子犬みたいな可愛さもいいが、ちょっと反発的な感じも大歓迎でござる!!」


「同盟ナンバー02! 副同盟主! シルク! 担当は『ロリ』属性! ロリ巨乳は断じて許さん! 絶対だ!」


「同盟ナンバー03! 同盟主補佐! 相沢 絢斗! 担当は『巨乳』属性! けれど貧乳もいいよね! 全ての女性を愛する男!」


「絢斗ォ! 妖夢ちゃんの風呂画像は!?」

「持ってきました主さま!」


 会話がぐっちゃぐちゃである。龍神力入りの酒の結果と言うべきか。哀れなのは巻き込まれたリクである。


 絢斗がバン! と勢いよく机に置いた30枚は優に超える写真には、様々なアングルから様々な角度で撮った妖夢の写真。一応全て女性器には魔法の光がかかっていて見えなくなっている。この作品はR15なのだ。


「おおおおお!!!」

「次! 咲夜の写真! レミリアに言われて猫耳つけて恥ずかしがりながら『ニャン』って言った咲夜の写真だ! 動画にも残ってる! もちろんこの後めちゃくちゃピ───……


◇◆◇◆◇


 お見苦しい所をお見せしました。大変申し訳ございませんでした。


◇◆◇◆◇


 そして。四人の手にもつカメラには、一人の狐の姿が。悲しいかな、彼女は彼らの毒牙にかかったようである。

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