第三十二話『祝宴』
「あ、じゃあ僕は宴会の荷物を持ってきます」
「じゃあ俺も持ってくるとするかね。なーに、すぐ帰るさ」
「いや別にお前が来ないとは思ってないけどな?」
ハイドと比べて、いくばくか辛辣な言葉で終作を追い返すと、霊斗は準備をするべく能力でブルーシート、長机や座布団、さらには取り皿などを乱雑に地面に置いた。
霊歌はそれらを一つ一つキレイに拭いながら、宴会の席の状態に並べた。
その机の上に、あっという間に出来上がった料理が並べられる。
「……復活『輪廻剥奪』」
霊斗のそのスペルにより、今回の戦死者たちが蘇る。
「茜! 海斗!」
「活躍!」
復活した茜、活躍、ファウル、和樹、夜月、綺美、玉木、藍烙、太刀が周りを見渡す。
そんな彼らを気づかうことなく、それぞれの関係者がとびついた。
「うわっ! わわっ!? ちょっ、泉水くん!?」
綺美が武人がとびついたことに驚き、声を上げた。
「玉木! 太刀! 帰ってきたのね!」
「主!」「桜!」
桜の変わらぬ様子……否、少し綻んだ頬を玉木と太刀は当然のように受け入れた。
「……んで、これはどういう状況で?」
「そうだなぁ……敵味方関係なく、宴だ!!」
霊斗の二度目の宣言に、その場にいた人々は湧き立った。
◇◆◇◆◇
「みんな! 今回の一件は、本っ当にありがとう! 特に魔晴、磔、桜、綺美、茜、蒼、呼白! お前らは最初から最後までずっと戦ってくれた!」
俺の言葉に、名前を呼ばれた面々は満足そうな顔で頷いた。
「この戦いで、英霊の座には大きな被害が出た! だが! 俺たちはその犠牲の上に今を生きている! そのことに感謝し、また犠牲に対して感謝をして、今を生きよう!」
俺がそう言って盃を持ち上げると、それに合わせてこの場にいるみんなが盃を手に持った。
「乾杯っ!!」
『かんぱ〜い!!』
宴の火蓋は、切って落とされた。
◇◆◇◆◇
橋の方で俺が霊夢と飲んでいると、磔が俺の方に近寄ってきた。
その後ろには、終夜やシルクなど、何ともアホな面子が揃っている。
「ん? どうした磔?」
「いや、闘技場を使わせてもらえないかと思ってさ」
「ふーん……んで、何をするんだ?」「いや……」
俺の問いに対して、磔は答えを濁した。まあ、いいか。
「使っていいけど、闘技場の壁に直接攻撃をするのはダメだからな」
「おう。みんな! いいってよ!」
磔の言葉に、会場が沸きたった。
それから数分後。
俺が転移で闘技場に入ると、闘技場の中心では磔と桜が向き合っていた。
◇◆◇◆◇
「そういや、そういう約束してたんだっけか」
「今回は負けないわよ、磔!」
「望むところだ桜!」
二人がお互いの剣を持ち出し、お互いに向けて構える。
その周囲、観客席では全員が一番下に近い席に座り、その手には食事や酒など、様々な物がある。
「ルールは戦闘不能になったらその時点で負け、スペルカードの制限は無し、同じスペルカードの使用はokだ」
「おう」「ええ」
レフェリーをする龍牙の言葉に、磔と桜は剣に集中力を向けながら頷いた。
「それでは……始めっ!」
龍牙の言葉に反応して、磔と桜が一斉に動き出す。
相手との距離を一気に詰める磔だが、それに対して桜は自分にとって有利な遠距離戦に持ち込もうとその場から下がっていく。
「想符『フレアスパーク』!」
「神羅『知を貪るもの』」
磔の手から放たれたオレンジ色のマスタースパークのような光線と、桜の複製スペルによる夢想霊砲がぶつかり合って消滅した。
磔は爆煙が上がる中を突っ切って桜へと駆け寄る。桜はそれを読んでいたのか、横に動いて回避するとその瞬間磔の足元が突然盛り上がった。
『知を貪るもの』は既存のスペルを複製として強化した状態でいくつかまとめて使う技だ。
夢想霊砲だけでなく、魔晴の地潜龍も使っていたのだろう。
磔はあっという間に大きく開いたその口に飲み込まれるが、地潜龍はその瞬間内側から体が弾け飛ぶ。
「やっぱり一筋縄じゃいかないわね……!!」
「あったりまえだろ!」
磔の剣が桜に向かって振るわれるが、桜はそれを受け流すと横から磔のことを突き刺そうと剣を構える。
磔にその攻撃は見事に当たり……磔は変わり身によって消えた。
「うらぁっ!」
背後から、磔の剣が桜に当たりそうになる……が、桜は霊斗や呼白の使う超技術によって察知したのか、体を翻して回避すると手に持つ刀を桜に背を向けた磔に斬りつける。
磔はそれを背面で剣を受けて防ぐと、体を回転させて桜に向き合う。
「蹴符『ディフュージョンシェル』」
磔の全力の蹴りが桜に放たれるが、桜はその衝撃波を回避し、後ろ回し蹴りを磔にぶつけた。
「神羅『知を貪るもの』」
桜のそのスペルによって、先ほど磔の使ったディフュージョンシェルが後ろ回し蹴りに込められ、それが磔に放たれた。
磔は壁に激突するが、すぐに元どおりに立つと桜に向かって走る。
桜はそれに対し、片手をふって無数の桜のような弾幕を作り出して放つ。
「呪楼『黒楼』!」
「この程度!」
磔に向かって一直線に飛んでいく無数の花弁を、磔は超技術である縮地と空歩を組み合わせて物体が何もない空間を蹴って回避した。
磔は黒楼が通り抜けた地面に降り立つと、背中から勢いよく斜めに振るうように振るった剣から斬撃を飛ばした。
桜はそれをソードブレイカーで相殺し、スペルを唱える。
「神羅『知を貪るもの』」
桜がソードブレイカーを振るうと、その刃からは雷撃と突風が起こる。
「これは……俺のスペル、神技『迅雷風烈』か!!」
刀哉が叫んだその直後、磔の周囲をたくさんの人形がグルグルと回り始める。
それはどうやら磔の背後から出ているらしく、そこはスキマに繋がれていた。
「これは?」
「魔晴の空間魔法で作られた穴だな」
「準備するの大変だったわよ!」
桜が空間の穴から顔を出してそう叫ぶと、空間の穴は閉じていった。
バトルフィールドに残ったのは磔と魔晴の人形……天童人形、そして桜のみだ。
桜がクイと指を動かすと、その瞬間天童人形は恐るべきスピードで磔に迫る。
「魔晴の武器、使いやすいわね」
「くっ……! 合成『ソウルドライブモード2』」
磔が全力を解放すると、暗殺者の天童人形の攻撃範囲から上空へと逃げる。撃墜者、魔術師が磔を追うが、上空でブレーキをかけた磔は一気に撃墜者と魔術師の間をくぐり抜け、暗殺者の傍を素通りすると桜へと剣を突き立てた。
結界師がその攻撃を防ぐが、桜は暗殺者の人形を動かそうとして驚いた。
「ウソ……糸が!?」
「魔晴の使ってた糸より、全然弱かったからな。斬らせてもらった」
「くっ……!」
結界師の横から、結界を通り抜けてその体の大きさには見合わぬ剣を持つ人形と盾を持つ人形が磔に斬りかかった。
天童人形、聖剣士と大楯使である。
磔の物理攻撃を大楯使が防ぎ、その片手から飛んできたマスタースパーク大の光線は結界師に防がれる。
その間に聖剣士が人形とは思えない剣術で磔に斬りかかるので、磔は一歩引いて剣を構え直した。
不意に、磔の頬を魔法でブーストされた矢が掠める。
天童人形大弓使と、天童人形大賢者。
結界師、大賢者、大弓使、聖剣士、大楯使、暗殺者、撃墜者、魔術師。
ここまでで計八体の天童人形が出ている。天童人形は全部で10体。何せ天童人形の語源は英語のテンと日本語の10つから来ている。
磔が残り二体の出現に警戒していると、突然磔の足が地面に埋まった。
「これは……?」
「天童人形が一つ、観測者の能力、観測変化よ。ああ、観測者を探しても無駄だから。観測者はあくまで観測しかしないから観測者なのだから」
磔がマジかよと呟いた瞬間、聖剣士がこちらに突撃してくる。
磔はそれをマスパで糸を焼き切ることで倒すと、油断していた結界師の糸と大楯使の糸を剣で切った。
残り一体。磔はそう思っていた、
残りは、馬に乗った騎手のような人形。騎手王とでも呼ぶべきか。
騎手王は、磔に突撃してくる。磔は難なく騎手王を切り裂く。磔は能力で周囲を固め、ぬかるみから出ると桜に剣の切っ先を向けた。