第三十話『悪鬼必衰②』
「くっそ……!!」
まだ、やれる!!!
俺と優一、磔は同時に立ち上がる。
「磔! 優一! これを使え!」
俺はそう言って、二人にスペルカードを渡す。二人はそれを見て、ニヤリと笑顔になった。
「「「友符『マスターソード〈友結界〉』!!!」」」
俺と磔、優一が同時に宣言する。
いわゆる、合体技ってやつだな。
三人の剣が大きく伸び、結界と霊力で出来た大剣となる。
俺が斜めに斬りつけ、次に優一は俺の切りつけた線と垂直になるように切る。
そして、磔はその交点に重なるように十字に居合斬りを放つ。
合計で4つの切り傷の交点がゼルクフリートの鎧に出来上がり、それは真っ白な光を放つ。
「「「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」」」
俺と優一、磔が叫ぶと同時にその交点は莫大なエネルギーを作り出す。
そのエネルギーは、ゼルクフリートに向かってロケットのように噴出していく。
「オオォ……オオオオオオオオオオ!!!」
ゼルクフリートが、吠える。
その怒声は地面にヒビを入れ、全てを吹き飛ばす音の衝撃波となる。
だが、ゼルクフリートを貫かんとするエネルギーは止まることなく、ゼルクフリートはジリジリとエネルギーに後ろに押されていく。
「もう一息だ! 磔!」
「おう!」
「「友符『夢想霊砲・ダブル』!!」」
俺の言葉に応え、磔と俺はなけなしの霊力を振り絞って両手を構えた。
そして、二人は同時に夢想霊砲を撃ち放つ。磔と俺のそれは融合し、一つの巨大なレーザーとなってゼルクフリートを飲み込んだ。
ゼルクフリートに元々迫っていたエネルギーがそれによってゼルクフリートの胸を貫いた。
それでも尚、立ち続けるゼルクフリートに、優一が剣を振るった。
「覚醒剣技『真・エターナルブレード』」
優一の黒剣、泉がエターナルブレードのように発色の結界を纏い、ゼルクフリートは肩から腰にかけて一刀両断された。
◇◆◇◆◇
霊斗はゼルクフリートを斬ったことで地面に倒れこむ優一を支える。
どうやら気を失うらしく、その顔はちょっとばかり残念な印象を受ける。
「とりあえず、寝かしとくか。……それより、龍牙たちは大丈夫なのか?」
霊斗は空間の狭間に優一を乱暴に投げ入れると、周りを見渡してそう疑問を問いかける。
磔は周りを見ながら、その言葉に応えた。
「……そういえば、見ないな。まあ、あの二人なら大丈夫だろ」
「……それもそうか」
霊斗は納得し、霊歌や零たちが戦う女神の方を見た。
◇◆◇◆◇
「……龍神の酋長ともあろう者が、何故人なんぞに加担する?」
「さあな。俺は聖なる龍神。それに対して、お前は悪龍神。対立する理由が欲しいなら、これで十分だろ」
「グル……嫌な奴を思い出した」
ヴリトラはそう言うと、その圧倒的な力で龍牙に前脚を振り下ろした。
龍牙は能力を操ることでヴリトラからの力を跳ね返すと、武器である模造品のエクスカリバーを構え、その霊力を解き放つ。
エクスカリバーの霊力がヴリトラにぶつかるが、ヴリトラの持つ黒く硬い鱗は霊力を弾いている。
「弾幕も効かない、攻撃も対して効果がない。さて……どうするかな」
龍牙はそう言いながら、エクスカリバーをヴリトラに投擲した。
ヴリトラの顔へと寸分狂わず向かうその剣を、ヴリトラは素早く体を動かして回避する。
その回避した先に、龍牙が居るとは知らずに。
音もなく接近した龍牙に、近づいたヴリトラの頭は蹴り上げられる。
「ガアッ!?」
「ほらよ!」
さらに、ヴリトラの肉体には今までにないほど強烈な重力がヴリトラに襲いかかった。
龍牙の持つ、力を動かす能力。それは大気圧や重力を動かし、ヴリトラを押しつぶそうとする。
満足に体を動かすこともできずに、ヴリトラはミシミシと音を立てて鱗が割れ始めると、やがて、ヴリトラは動くこともできずに咆哮を一つ上げる。
「グォォォォオオオ!!」
最後の抵抗も空しく、ヴリトラは圧力と重力によって圧縮されていった。
◇◆◇◆◇
巨大な黒い刀が振り下ろされる。
霊奈はそれを焦ることなく陰陽玉で防ぐと、その隙に霊美が多重結界とそれを応用した魂を流用する多重魔法陣を作り上げる。
立体的に何層にも重なった砲台のような魔法陣は、その照準を禍津日神に合わせた。
「いきます!」
霊美の宣言と共に、禍津日神の胸が貫かれる。が、禍津日神はその肉体を再生させるとその刀の剣先を今度は霊美に向けた。
霊美はそれを軽やかな身のこなしでかわすと、弾幕を展開する。
「霊符『夢想封印』」
夢想封印が禍津日神に襲いかかるが、禍津日神はそれを刀の一振りでかき消す。
霊奈はその間に禍津日神の懐に潜り込み、霊剣となるお祓い棒で禍津日神を一刀両断する。
「うぐ……」
すぐに禍津日神は傷口が再生するが、再生が終わる前に霊美が掌を禍津日神に向けた。
「霊符『夢想霊砲』」
その掌からマスパのような夢想封印、夢想霊砲が放たれ、禍津日神の再生しきっていない上半身を吹き飛ばした。
禍津日神は上半身のみで地面に手をつけてブレーキをかけると、下半身を生やした。
その隙に霊奈は駆け寄り、スペルを宣言する。
「十剣『天下二刀』」
霊奈の言葉に呼応して、天下五剣が霊奈の周囲に現れる。それを模した光の刀も同様に現れ、それらは禍津日神に向かって飛んでいった。
禍津日神はそれらに刺されながらも、再生した下半身で空高く跳躍する。
空中に滞空する禍津日神に対して、霊美が下から狙撃する。
その回避に禍津日神が専念している間に、霊奈が上空へと向かっていく。
やがて霊奈は、禍津日神に向かって背後からかかと落としで地面に叩き落とす。
「これで決める! 霊符『夢想杯翔』」
「私だって! 霊符『夢想結界剣』」
地面に着地した禍津日神に対して、背中に霊力の羽が生えた霊美は突進し、空高く突き上げる。
突き上げられた禍津日神は、霊奈の手にもつ結界によって巨大になったお祓い棒の霊剣によって切り裂かれた。
「くっ……この程度!」
「「霊符『封魔浄化陣』」」
霊美と霊奈が、同時に禍津日神の魔力を封印し、さらに悪神としての在り方を浄化した。
◇◆◇◆◇
恵生が終作の拳の攻撃を逸らすが、終作はさらに脚で連撃を加える。
恵生はそれを終作同様に脚でガードすると、しゃがんで終作が突然手元に出現させた短剣での攻撃を回避する。
終作の強化能力である『始強』だが、それはほとんど身体能力の強化だけの効果となっていた。
終作は始祖神であるが、恵生はそれら神々の敵対者、天敵として君臨する。
終作は妙な方向にアクティブで、行動的だ。それに対して、恵生は極度の面倒くさがりや。ほとんどのことには興味を示すこともない。
言わば、正反対の二人であるが、その戦闘能力は拮抗していた。
二人の能力は、似ても似つかぬような能力。
不意に、終作が不穏な気配を発する。外なる神としての力の行使。それ即ち、世界の枠を外れた存在となるということ。
「Itevkosetheconisocussneswnoweathere
Teherolnycomlpeetnthoingsnessitoccrakaronud
Iftoshetathinetrfeerncetehayerinhatttehresawnocahnegothetallnothngissen
Hovweertiislasolalotbceomeantihngensssicoemkcbatohtecnotardciiton
CmoewoNisehtimtetringyotertonrothetcintordocsainalleththinnotg
Allatenelalinbekargalltishwodlrofnitghsyuotoclamhetedeisrandetharmotlinsofsusahetofdoofetharkdotem」
終作は、詠唱を終える。
それと同時に、地面が砕けた。
「禁断『万象をも喰らう怪物』」
恵生も終作と同じように、能力を解放する。それと同時に、地面が砕けた。
この二人は、共に世界のシステムを大きく外れた存在。即ち、世界の枠組みを外れた存在。
この二人を害することがもしもできるとするなら──それは、龍人であるハイド達か、根源の支配者である零達のどちらかであろう。
そう、彼らは予想していた。
そこに飛来するのは、三人目のシステムを超える存在。
その存在に、恵生は驚きを隠せなかった。何故なら、霊歌曰くこの場所には決していてはいけない者なのだから。
人間が生まれる前、世界が作り直される前の神話の時代。
旧神の世界を、一夜にして滅ぼした最強にして最凶の戦士。
それが、多くの世界の枠を外れた人物の登場によって、幸か不幸か解放されてしまった。
「ガアッ!」
その存在に対して、終作は突撃する。拳は、その戦士に受け止められた。恵生は最強の剣unknownを用いてその戦士に斬りかかる。
剣は、その戦士に止められた。
「酷いですよ、お二人とも。醜い、醜悪です」
そう言うと、その麗しき戦士は魔杖によって、恵生と終作を『消去』した。絶望を与える根源。その名もレヴェル。決して歴史に語られず、神話に残ることもない。
「ロキさんとの約束、果たさなきゃですね」
旧神世界のラグナロクにおける、三人の生き残りのうちの一人である。