第二十九話『悪鬼必衰①』
「我ガ名ハ災禍王ゼルクフリート!」
災禍王ゼルクフリートはそう言うと、再び大剣を振るう。
霊斗がそれを受け止めると、ゼルクフリートの背後から磔がゼルクフリートに斬りつける。
ゼルクフリートと磔の間に巨大な黒壁……否、黒い肉壁が姿を現した。
「これは……」
「デケぇ……」
その姿に、磔と優一は呆気に取られた。それは、最強の暗黒魔竜にしてインドラにうち倒されし者。
災禍の一端を担う者、ヴリトラである。ヴリトラはその巨大な前脚を磔に叩きつけようとするが、それは磔の前に出た男によって防がれた。
「龍牙!」
「こいつは俺が引き受けた!」
優一がその隙に磔の反対側からゼルクフリートに突っ込もうとすると、それは禍々しく巨大な神に阻害された。
「フン……」
その神の名は、禍津日神。日本神話の禍の象徴である存在。
それがその手に持つ巨大な刀を優一に振り下ろそうとした時、刀は別の二つの人影に防がれた。
「禍の神! アンタは聖なる神々の代行者として、私が殺るわ!」
「姉さん、私もいるわよ!」
「……今代の博麗の巫女か! 二人とは聞いていたが面白い、その力我に見せてみよ!」
霊夢と霊斗の娘。博麗霊奈と博麗霊美の二人だ。
「「恩にきる!」」
磔と優一はそれぞれに立ち塞がった敵の傍を通り抜けると、ゼルクフリートへと向かっていく。
「合成『ソウルドライブモード2』
霊斬『マスターソード』!!」
磔が身体強化のスペルと修行によって得た霊斗のスペルであるマスターソードを使うが、ゼルクフリートはそれを2メートルほど跳躍して回避する。
「一式奥義『流星群』」
高く跳躍したゼルクフリートに対して、優一が1点に爆発するサイコロ状の結界弾を撃ち放つ。
ゼルクフリートはそれを斬り裂き、爆風の中から下にいる霊斗たちに向けて再び波動を放った。
霊斗たちが横に吹き飛ばされるとゼルクフリートは地面に足を着け、剣を構えた。
霊斗がゼルクフリートに向けて駆け出し、それに追従するように優一と磔が走る。
霊斗の剣が振り下ろされたゼルクフリートの剣を防ぐ間に、時間差で磔が後ろ回し蹴りをゼルクフリートの頭部に放つ。
ゼルクフリートはそれを受けて少し後ろに仰け反るが、優一はゼルクフリートの腰を磔の方向へと蹴りつける。
ゼルクフリートが二方向から攻撃を受けているうちに、霊斗はゼルクフリートの胸に回し蹴りを放った。
「グッ……!」
「効いてる! この調子で行くぞ!」
優一と磔、霊斗がすぐにその場から距離をとると、霊斗はスペルを唱える。
「希望『幻想の勇者』」
霊斗がスペルを唱えて自身を強化している間に、優一と磔がゼルクフリートに向かって駆ける。
「五式『氷結界』」
優一が氷属性の結界でゼルクフリートの足元を凍らせると、磔は跳躍して上段から力強く斬りつける。
ゼルクフリートは足元がおぼつかないまま磔の剣を受けるが、優一がローキックでゼルクフリートの足元をすくう。
「これ……意外と余裕じゃね?」
「いや、注意しろ。磔、お前の悪い癖がまた出てるぞ」
霊斗がそう言っている間に、ゼルクフリートは立ち上がった。既に凍った地面は溶け、蒸発している。
「こいつ……どんだけタフなんだ……!?」
優一が驚いている間に、ゼルクフリートは剣を地面に刺した。
その瞬間、三人の足元の地面が赤く光る。
「これは……!!」
霊斗は地面に手を当てて赤い光を沈めていくが、その間にゼルクフリートが霊斗の方に走っていた。
優一と磔がそれを止めようとするが、3メートルほどあるその巨大な肉体のタックルで吹き飛ばされてしまった。
霊斗はゼルクフリートが振り下ろす拳に対して拳を打ち返す。
霊斗の拳とゼルクフリートの拳がぶつかって空間が悲鳴をあげる。
「くっ……!!」
霊斗は歯を食いしばりながらその拳を防ぎきる。
磔と優一が二人の持つ剣でゼルクフリートの足を切断しようと試みるが、ゼルクフリートの足は鋼鉄のように硬く、そこで剣が止まってしまう。
「なんだこいつの皮膚!?」
磔が驚いている間に、ゼルクフリートは闘気を放って三人を再び吹き飛ばした。
「うぐぉっ……!」
「クッ……!!」
「くっそ!」
磔、優一、霊斗は刀を地面に刺してブレーキをかけると、三人で同時にゼルクフリートへと走っていく。
ゼルクフリートはエネルギーの漲る体を震わせ、優一へと狙いを定めた。
ゼルクフリートの拳と優一の無限結界が衝突する。
無限結界同士の衝突により、優一の無限結界は割れ、ゼルクフリートの拳に殴り飛ばされる。
「ガッハッ!」
その直後。目に見えぬスピードで磔がゼルクフリートの掌底打ちによって地に倒れ伏す。
「磔! 優一!」
「他人ノ心配ヲシテイル場合カ?」
そうゼルクフリートが言うと同時に、ゼルクフリートの背後から伸びる触手のようなものが霊斗に襲いかかった。
霊斗は突然現れたそれに腹を殴られると、そのまま体を締め付けられた。
「ガフッ……!」
回避することもできず、正面から掌底打ちが霊斗の顔面に命中した。
ゼルクフリートが触手を離すと、霊斗はその場に重力に逆らうことなく崩れ落ちる。
──強い。強すぎる。
磔や優一、霊斗までもが消えそうな意識でそう諦めかけたその時。
大量の霧が発生し、そこから二人の人影が現れる。
「──なるほど、あなたは確かに強いようですね」
「ええ……。霊斗さんが簡単に落ちるくらい強いなんて」
「……けど。世界の崩壊を見過ごすほど僕らも甘ったれてないんですよ」
そう言って、その二人は姿を現した。
ハイド・天御中主・ミラ。
カスミ・ハデス。
ハイドの剣戟の一撃が、霊斗たちの攻撃の通用しなかったゼルクフリートを斬り裂いた。ゼルクフリートはすぐに回復するが、その目は憤怒に満ちていた。
カスミの連続して放たれる魔法が、ゼルクフリートの体力を削っていく。
「────!!!」
ゼルクフリートは声にならない雄叫びをあげると、カスミとハイドは一時的に戦線を離脱した。
「……カスミさん。あの三人は?」
「回復したと思います。肉体的にも、精神的にも。なんせ、あの三人ですし。一応『諦め』の心を持つ感情力も消しときましたけど」
「じゃあ……あっちを殺りましょうか」
そう言った二人の視線の先には、零、神姫、呼白、魔晴と戦う巨大な女神が居た。
女神の魔法が零と神姫の二人に向かう。だが、二人が何をせずともその攻撃は真っ二つになった。
「お手伝いします」
「あ、霊歌さん。よろしくお願いしますね」
霊歌は呼白の言葉にコクリと頷くと、女神に向き直った。
「さて。追放された女神レイフン。貴方はカオスの名の下にカオスの部下である私たちが倒します」
◇◆◇◆◇
「カオスと来たか。大きく来たなぁ」
「恵生さんは戦わないんですか?」
泉水武人の問いに、創刻恵生は頷くと、急に深刻そうな面持ちになった。
「……泉水。お前、これから見ることは内緒だからな」
「え?」
「なあ。全ての元凶さん?」
恵生の言葉に、唐突に現れたその男は気味の悪い笑みを浮かべた。
「フフ……気配や姿は消したはずなんだがなぁ」
「ほざけ。俺は神の天敵だぞ?」
「それもそうかァ……!」
元凶は楽しそうにそう言うと、武人と武人の護衛をしているランスロットを転移させた。
「この状況なら俺とお前以外誰も居ないわけだ」
「そうだな。んじゃ、やりますか」
楽しそうに言う終作と、それに対して冷淡に返す恵生。
相反する二人は、拳を交え始めた。