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第二十一話『開け黄金宮』


「ヤアッ!」


 呼白の拳が、グシャリという音と共に体を貫いた。

 その隙に、その背後に逃げたそいつはケイローンの盾となった蟹の背後から、毒矢を呼白に放つ。


 呼白はそれを予見していたかのように避けると手首を地面に叩きつけて蟹の体を砕き、そのままケイローンに下段蹴りを当てる。


 見事に転倒したケイローンは呼白の手元に現れた毒矢に刺され、その魂は消滅していった。


◇◆◇◆◇


 魔晴の魔法がアストライアーの魔法と撃ち消し合う。

 アストライアーはその膨大な魔力と天秤による魔力循環効率で、巨大な魔法を魔晴が呆れるくらいにたくさん落とそうとしてくる。


 魔晴はそれに対して、妨害(ジャミング)や落とされる魔術と同じ規模の魔術を使用して立ち向かうが、アストライアーの方が数段上の戦い方だ。


 どうにかしてアストライアーの弱点である近接戦に持ち込もうとする魔晴だが、相手から放たれる魔術によって中々近寄れない。

 武器の扱いも覚えておけばよかったな──そう思いつつも、その手に持つ杖と指に装着された十の指輪で操る人形を使って、魔術の弾幕を打ち消していく。


 十の人形は魔晴の持つ人形の中でも得意な物だ。破月を拘束した人形も、この十の人形だ。


 魔晴は人形の一体の紐を外し、結界を展開した後に上に投げる。


「天童人形『魔術師』」


 投げられた人形は最高到達点で滞空し、空から弾幕を発射する。

 アストライアーはそれを右手の結界で防ぐと、天秤の皿の中に魔力弾を作り始めた。


 その隙に、魔晴はもう一体の人形の紐を外してアストライアーの方向へ投げ込む。


「天童人形『暗殺者』」


 アストライアーが左手で生成していた魔力弾の一つをこちらに投げ込んだ。

 それに対して、魔晴も十の人形のうちの一つを投げつけた。


「天童人形『撃墜者』」


 その人形は魔力弾を抱え込むように持つと、そのまま地面に撃ち落とした。

 そう思ったら、もう一つの魔力弾が投げ込まれる。

 魔晴はそれに対しても人形を投げ込んで対抗する。


「天童人形『結界者』」


 投げられた人形はぶつかったその場で結界を展開し魔力弾を防いだ。その瞬間、大爆発が起こる。

 運がよかった、と言わざるをえないな。そう魔晴は実感していた。

 結界に守られているその隙に魔術師の天童人形が魔晴の手元に戻ってくる。


『魔晴さん』

「ん、武人くん。どうした?」

『相手のクセがわかりました』


 魔晴の肩に乗る式神から、泉水武人の声が響く。彼だけは援護役として、砦に残っていたのだ。


『相手の攻撃パターンは現段階では二つ。右手で防ぎ左手の天秤で攻撃の準備をするか、両手で大量の弾幕を生成するか』

「うん。それで?」

『相手から見て左に魔術師の天童人形を投げてみてください』


 魔晴は武人に言われた通りに、魔術師の天童人形をアストライアーの左側に投げ込む。

 アストライアーは天童人形の攻撃を左に体を向けて右手で防ぐ。


『やっぱりそうだ! 魔晴さん! アサシンを! 』

「なるほどね……!! 天童人形『閃』」


 魔晴は武人の言いたいことに気づいたかのように、暗殺者の人形の技を叫ぶ。

 暗殺者はすぐさまアストライアーに近寄り、糸でアストライアーの首を締め上げる。


 左にいる魔術師に気を取られたが故に、右にいる暗殺者に気がつかなかった。それがアストライアーの敗因だ。


「さよなら、正義の女神よ」

『安らかに眠れ』


 アストライアーは暗殺者の人形による糸で、首が断ち切られた。


◇◆◇◆◇


 ネメアーの獅子の爪が優一に迫る。

 優一はそれを間一髪で回避すると、迫り来る牙を黒剣『泉』で防ぐ。

 決して折れることも劣化することもない剣、泉。

 魔晴はそれを持ってしても、ネメアーの獅子の攻撃を防ぐことで精一杯であった。


 ネメアーの獅子の堅い甲羅、力強い筋肉、鋭い爪と牙。

 高水準で纏められた攻撃力、防御力、素早さには、防戦一方となっても仕方ないようにも思える。


 が、優一は知っている。耐えることの意味を。この戦いの勝機を。

 不意に、ネメアーの獅子の背後を何かが動いた。


「来たか!」


 魔晴の叫びに呼応するように、ネメアーの獅子の堅く重い体が、嘘のように吹き飛んだ。

 その攻撃の犯人である磔は、霊斗との修行を思い出していた。


◇◆◇◆◇


「なあ、磔」

「ん? なんだ霊斗?」

「お前、『堅い化け物』と戦ったことないだろ」

「堅い化け物?」


 磔はその時は何の想像もできなかったが、霊斗の言っていたのがどういったものか分かる。というより、分からせられた。


「『ネメアーの獅子』って言ったら分かるか?」

「ああ、ヘラクレスの十二の試練のウチの一つか?」

「そう、そのネメアーの獅子だ。奴の特徴はなんといっても、その堅い体と巨大な体躯。そういう相手に、お前はどれだけ戦ったことがある?」


 霊斗の問いに磔は考え込んで答える。


「……そういえば、あんまりないな」

「だろう? だから、お前はそっちも倒せるようになってもらう」


 霊斗はそういうと、磔を連れて不思議な空間に飛んだ。


「ここは?」

「簡単に言えば……闘技場、だな」


 霊斗はそう言って、どこかを指差した。そちらの方を向くと、そこには……巨大なライオンが居た。


「あれは?」

「ネメアーの獅子の複製だ。やってみろ」


 磔はそう言われ、ネメアーの獅子の前に出て木刀を構えた。

 そのまま、のしのしとこちらに向かってくるネメアーの獅子に突撃していき、上段から木刀を思いっきり振り下ろす、が……。


 硬い音が響く。

 ネメアーの獅子は殴られたことはさして気にしていないようで、磔を口から出す光線で吹き飛ばした。


「ぎゃあっ!」

「まだまだだな……」


 霊斗はそう呟きながら、ネメアーの獅子の目の前に立つ。

 霊斗はネメアーの獅子の頭に触れると、掌底打ちをするようにその手を突き出した。


 その瞬間、ネメアーの獅子は吹き飛ばされる。


「霊斗、今のは?」

「防御貫通攻撃だ。堅い体を持った相手には特に効果を発揮する。衝撃波を相手に与えるイメージで、もう一回やってみろ」


 霊斗の使った技術は、衝撃波を当てることで相手の体の堅い部分の中でも防御が緩い部分を貫通し、相手の体内の柔らかい部分……つまり、内臓部分に対して攻撃していく技だ。


 その応用として、相手の持つ霊力や妖力をかき乱す技もあるのだが……。


◇◆◇◆◇


 磔はあの時の戦闘をイメージする。

 霊斗の作ったネメアーの獅子に比べれば、こいつはそこまで大きいわけでもない。


 磔はネメアーの獅子に霊斗がやっていたように、触れる。


「『衝撃玉砕(インパクト)』」


 その瞬間、今までの攻撃で一切の怯みを見せなかったネメアーの獅子が吹き飛ばされた。


「これなら……いける!」


 その後は、このパターンでネメアーの獅子の体力を削っていった。

 優一がネメアーの獅子を足止めし、磔が決定打となる貫通攻撃を加える。


 こうして、ネメアーの獅子はやがて力尽きたかのように倒れ込み、そのまま体が消滅していく。


「よし、これで黄金宮の試練は撃破か」

「鍵は?」

「ここにあります。……では、行きますよ」


 魔晴はそう言うと、そびえ立つ巨大な扉……黄金宮の扉の鍵穴に飛翔して黄金宮の鍵を差し込む。

 すると黄金宮は開いていき、紫のスキマのような空間が扉の先に広がっていった。


◇◆◇◆◇

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