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第二十話『感情VS感情』


「はぁ……もう何もやる気になんないわ」


 私たちの中でも能力による干渉が作動する蒼、桜、そして私の三人がその場に座り込んだ。だってしょうがないじゃない。座りたいんだから。


「危ねぇ!」


 私たちが一息ついていると、飛んできた火炎弾を優一さんが斬り伏せた。


「馬鹿かお前ら!!」

「うぅ〜ん……何か戦おうって気になれないんですよ〜。このまま寝ていたい……」


 そう言って夢の国に行こうとする私たちを、必死に起こそうと優一さんは体をブンブンと揺すって起こした。


 なんなのよ全く……うざったいったらありゃしないわ!


「……君の仕業だね?」

「ご名答、俺の名は桐月アルマ。俺の前では、あらゆる感情は弄られる」


 アルマはそういうと胸に手を刺し込み、そこから気味の悪い大鎌を取り出した。


「……それは?」

「こいつか? こいつは死をも奪う心の鎌(ソウルグリード)

「へぇ……さあ藍烙ちゃん、出番だよ」


 魔晴はそう言うと、私を前に押し出した。まあ、そんなこったろうと思ったわ。

 アルマの大鎌が、私に当たる寸前でバリアに防がれる。


「キャハッ! そんなんじゃ壊せないよ〜だ!」

「今のうちに、俺たちは次へ行くぞ」


 アルマが魔晴たちの方へ向かおうとしたが、それはバリアによって防がれる。バリアは今、アルマを包み込むように円柱状に展開されている。


「バイバーイ」


 魔晴の指示と共に、優一さんたちは先に行った。


「さて……そろそろ本気でやろうぜェ!」


 私が一気に怒りの感情を爆発させ、アルマに殴りかかる。

 アルマの背後から出現した何かはそれを受け止めると、腕が私を食べるかのように、私の拳は何かの手に出現した口に飲み込まれていく。


「クッ……!」


 私は口を閉じられる前に急いで腕を引き抜き、口の怪物……紫色の目をした、小さな少女から距離を置く。


 なんなのよ、こんなの絶対勝てないじゃない……。

 私が哀しみを出していると、アルマは少女を消し去り、両手をマスパのように構えた。


「感情『アルマーニイレイザー』」


 アルマの手から、青く光る巨大なレーザーが発射された。

 それは私には触れるが、私がダメージを受けることはない。


「ヘヘッ……おいしくいただかせて貰った!」


 私はそう言って、怒りの感情……否、それよりも強い感情、憤怒を発動させる。


 私の足が、一瞬で地をかける。

 すぐさま巻き起こる土煙は、私がそこを駆け抜けた証だ。


「先ずは一発ッ!」


 私の拳が、アルマの頬に命中した。


◇◆◇◆◇


「なぜだ。なぜこのタイミングで解放した!? まさか……この女がこの世界の正当な憤怒の覚醒者だということか!?」


 その戦闘の一部始終を見ていた女神は、声を荒げた。

 彼女は第二級神格を持つ女神。

 創造神、維持神、破壊神である第三級神格の女神、ディスの元で働く彼女は、自分の能力を超越した異世界人の存在に、酷く憤慨していた。


『救国の聖女』などと嘘をついた、虚飾の覚醒者ジャンヌ・ダルク。

『幕末のきっかけ』である、色欲の覚醒者徳川家斉。

 それらに次ぐ、三人目となる私の干渉なしでの大罪の覚醒者。


 ……私が許可してないのに、大罪の覚醒だと? そんなもの……許せるものかッ!!


 私はそう思い、アルマに憤怒を与える。これでこいつの大罪は三つだ。

 これだけ多くの大罪があれば、おそらくこの女くらいは余裕で殺せる。

 そうだ、そうに違いない。


 私は自分に都合の良い思考を押し付けて、ほくそ笑んでいた。


◇◆◇◆◇


「ガッアアアアア!!!」


 アルマが殴り飛ばされたかと思うと、突然地面に足を着けてブレーキをかけ、こっちに突撃してくる。


 私の足が、アルマがぶつかる前に回し蹴りで吹き飛ばした。


「ガアッ!」


 しかし、飛ばされた先からアルマは私の目の前に走ってくる。

 私はタイミングを合わせて蹴ろうとしたが、足が突撃してくるアルマの衝撃に耐えられず、嫌な音を上げた。


「ぐうっ……!!」


 私はその勢いによって、空高くふっ飛ばされた。

 私は3枚用意してもらったうちの一枚の魔法陣スクロールを使い、足を回復する。


 そのまま、憤怒の感情を纏った拳に哀しみで吸い取ったエネルギーを全て込めて、自由落下のスピード上昇も併せて先ほどとは様子が全く違うアルマに拳を打ち出す。


 おまけに、残り2枚のうち片方のスクロールによる肉体強化つきの一撃。


「ラァァァァァ!!!!」

「ガアッ!! ガアァッ!!」


 アルマの両手の拳を上下に構えた一撃が、私の拳と打ち付け合う。

 私の拳が砕けた。

 それと同時に、アルマが地面に物凄い勢いで打ち付けられる。


「ガッハァ!!」

「クソ食らえ!!」


 ダメ押しの一手。私の持つスクロールから多重魔法陣が展開され、地面に横たわるアルマへとその砲口を向けた。


 スクロールから発射される一撃。それが、閃光となってアルマを飲み込んでいった。


◇◆◇◆◇


「……着いたよ」

「ああ、そうだな。だがまあ……一筋縄じゃいかなそうだ」


 魔晴の言葉に、優一は頷いた。

 旧都の街を越えた彼らの目の前にいるのは黄金宮の門番。その数、12体。

 星座となりしその魔物たちが、彼らの目の前に現れていた。


 先陣を切るネメアの獅子。

 それを補佐するように、獅子の後ろにて弓を構えていたケンタウロス、ケイローンが矢を射った。


「魔晴! 矢を頼んだ!」

「承りました。魔転『リバース』」


 魔晴の魔法によって、矢の動きが反転する。そのうち、相手に飛来するいくつかは巨大な蟹がその強固な甲羅で受けると、蟹の背後から女神による魔法が降り注ぐ。天秤を持つ正義の女神アストライアーの魔法だ。

 魔晴は古代魔術の一つである魔術阻害を用い、アストライアーの魔法を消滅させていく。


 その間に、カストルとポルクスが、馬に乗ってネメアの獅子を追うようにこちらに追従してきた。


「しまった! くそっ! こいつ、なんて硬さだ!」


 優一がネメアの獅子を抑えている間に、二人はその横を通ってこちらに向かってきた。


「蒼! 行くわよ!」

「はい!」


 蒼と桜の二人が、カストルとポルクスを迎え討つ。

 ポルクスの剣が、蒼に襲い掛かる。蒼はそれを結界を使って防ぐと、桜と同時に一本の剣を抜いた。


「巨刀サリオス!」

「秘刀テイル!」


 二人の剣が、同時に煌めいた。

 この二本の剣は、元は一本の剣であった。それを二人は桜の能力で二本に作り変えたのだ。


 舞剣(ソードダンス)の発明者、サリオスの名を冠するその剣は巨刀にもかかわらず片手で扱える重さを持って、敵対する者を切断する。

 馬に乗って向かってきたカストルに対し、蒼は容赦なく巨刀の見た目には合わない下段切りを炸裂させた。

 足を切られた馬からカストルが落ちる前に、その剣速の圧倒的な速度でカストルを上下真っ二つにした。


 おとぎ話の意味を持つテイルの名を冠するその剣は、『見えない刀』として桜の手で猛威を振るう。

 ポルクスから振るわれた剣を見えない刀で桜は受けると、それを弾き飛ばしポルクスに後ろ回し蹴りを当てたと思えば、ポルクスは切り裂かれる。


「何よ、そこまで強くないのね」

「そうですね……ただ、あの四体は桁が違うようですが」


 そう言って蒼は顎をクイと動かし、桜にそちらの方向を指し示す。


 呼白ですら悪戦苦闘する矢の数と狩猟術で猛威を振るうケイローン。

 魔晴に魔法で真っ向からぶつかる正義の女神アストライアー。


 優一の持つ、生命力の剣ですら切ることも敵わないネメアーの獅子。

 磔のその圧倒的な身体能力でも微動だにしない力の化け蟹がいた。


 呼白はまだ他の敵を倒せているだけ優勢だが、他の三人は足を完全に止められてしまっていた。

 これが魔晴が危惧していた地底の最終兵器。『黄金宮の試練』と呼ばれる門の解放によって出現する、魔物たちだ。


 魔晴とて、これらの魔物に対抗する術を考えていなかったわけではない。

 が、明らかに今まで以上の強さを持っているというのが、魔晴の見解だ。


◇◆◇◆◇


 特に、山羊座の顕現であるアイギパーンとアルゴー船の目的である羊、そして魚座の顕現である二匹の巨大な魚。そして正義の女神アストライアーが戦闘に加わっているのが今までなかったことであった。


 アストライアーの魔法戦闘力は言わずもがな、アイギパーンの攻撃力は予想外だ。呼白ちゃんには前もって、蠍と牛には細心の注意を払ってくれと頼んだから、そちらはもうすでに済んだようだけれど……。


 そう思っていると、アイギパーンと羊の首と体が桜ちゃんと蒼ちゃんの一振りで離れた。

 その隙に、呼白ちゃんは魚二匹を撃ち抜くと、ケイローンに対して縮地の技術を応用して肉薄した。

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