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第十八話『前進』


 私が龍神界……まあ、雲の上のような場所を、遠くに見える王宮のような場所に向けて歩いていると、突然殺気が広がってくる。


「なにが起こってる……!?」

「さぁねー」

「あんた、少しは気を引き締めなさいよ!」


 私の言葉に、藍烙はムッとした顔でこちらを見た。

 その次の瞬間。藍烙に向けていくつもの短剣が投げつけられる。


「危ない!」

「ホイッと」


 藍烙は後ろを見ず、反射的に投擲された短剣を回避すると、そのままバク転で見事に着地し、後ろを振り返る。


「黒いローブ……?」


 短剣を投擲してきた黒いローブで目だけが露出している集団……黒服集団は、私たちを囲むようにこちらに走り、陣形を作る。


「これは厄介なことになったわね」

「そうだねぇ」


 総数は7人。だが、遠くから薄っすらこちらに走ってくる他の黒服集団も見つかる。


「……藍烙、熱いかもしれないけどちょっと我慢しててね」

「はあ!? 何言って……っておいおい! 今それを使うのかよ!?」

「仕方ないでしょ。これしか方法がないんだから。覚醒綺美【燃え盛る虹(アンリミテッドフレア)】」


 私は予め泉水君に渡されていた『魔皇丸』を飲み込む。おそらく、黒服たちは私の方を見て驚いていることだらう。


「土符『グラウンドアッパー』」


 私はルーンを地面に貼り付け、藍烙を空高くに隆起した地面で持ち上げる。


「おい! テメェ一人で犠牲になる気か!?」

「それ以外に何か思いつくなら、実行してるわよ!!」


 私の怒号に藍烙は狼狽える。その間にも、藍烙と私の距離はどんどんと離れていく。


「さぁ……始めようじゃない、グズども」


 私のその言葉とともに、一斉に黒服は襲いかかってくる。


「獄雷『ヘルインパルス』」


 その瞬間。黒服たちは、一気に雷に撃たれる。間違いなく、致死量の熱と電圧を持った雷だ。

 覚醒する必要がなかったかなと思ったのも束の間、黒服たちは私に刃を向けてきた。


「何を!」


 私はそれに対し、側頭部への回し蹴りで黒服を吹き飛ばす。

 黒服は少し怯むが、臆せずに私に突撃してきた。


「褒めたげるわ、その無謀さ」


 私はそう言いながら、固有結界……即ち、魔術を追求した奥義を使用する。


「『我が原始の煉獄(プロミネンスフレア)』」


 それは、圧倒的な煉獄。全てを焼き尽くす。そして、私の能力を否応なしに無理やり引き上げる禁呪。


「火符『フレイムワークス』」


 私の周囲を火炎が取り囲み、私はそれを黒服に一人に向けて撃ち放つ。

 覚醒に、固有結界。この二つであれば、私の持つ魔術の中でも弱い部類の魔術ですら人の肉を簡単に焼き尽くす。


 灰すら残すものか。全て──焼き尽くせ!!

 だが、その炎は雷同様、黒服には効かなかった。


「な……!?」


 黒服に何らかの術がかけられているのか? それとも、魔術が一切効かない体か?


 ……やばい。時間がもうない。

 私は覚醒を解除し、その場に倒れこんだ。


「はぅ……くっ……くそッ!!」

「…………」


 黒服の一人が、私の首を掴んで持ち上げた。私は体をジタバタと動かして振りほどこうとするが、そいつの力には敵わなかった。

 首が絞めつけられる。い、息が……。


「──!!」


 何とかして息を吸おうと、声にならない声を上げる。が、黒服の握力は強くなっていく一方だ。


 目の前が、暗く──。


◇◆◇◆◇


「クッソ……!」


 私は盛り上がった土の上で、悪態をついていた。

 下を見ると、薄っすらとだけれど綺美が首を持ち上げられているのがわかった。その瞬間。この土を、垂直に黒服が登ってくるのも見えた。


「うーん……どうするかなァ。全く、あいつのせいで逃げ道が奪われてるじゃあないか」

「こっちだ!」


 私が悩んでいると唐突に何かに引っ張られ、空間の狭間に落とされる。

 そこからは、柱を垂直に登ってきた黒服が見えた。


「あの……ここは?」

「空間の狭間だ。俺の名は大丈 優一、訳あってあいつらと対立している」

「右に同じく、俺は室井宏大だ。よろしくな」


 優一はそう言うと、煙草を咥えて手の先に灯した火で煙草に火をつけた。

 私が顔を少し顰めているのを見たのか、煙草を口から外すとその場で煙草は消滅した。霊斗みたいな能力だろうか?


「とりあえず、霊斗たちを救出するための相手のアジトに行く方法は突き止めてる。黒服達が居なくなったら向かうぞ」


 優一がそう言っている間にも、黒服の集団はキョロキョロと周りを見て柱の上に私がいないことを確認したのか、その場から飛び降りた。


「な!?」

「無理するなー」


 私が驚いているのに対し、優一はさして気にしていない様子でそう言うと、空間の狭間の上を通った三人の黒服に対し、何らかの方法で気絶させると、空間の狭間の中に引きずり込む。


「あの……何を?」

「なに、簡単なことさ。宏大」

「おう、サンキュ」


 優一さんは黒服からローブを剥ぎ取り、宏大さんと私に投げ渡す。ああ、黒服の女性があられもない姿に……。


 私がそんなことを思っていることもつゆ知らず、優一さんは三人分の服を剥いで自分の分を持った。ていうかこの服……重!?


「とりあえず、妖緋ちゃん達を連れてこなきゃな」


 優一さんがそういった途端、空間の狭間が開き、妖緋と黒狂、幻真に朔が落ちてきた。さらには桜とボロボロの茜も一緒だ。


「いたた……」

「お前らが探しているのは、これだろ?」


 優一さんがそう言って取り出し、私たちに見せたのは、黄金に輝く鍵だった。妖緋の肩に乗っていた式神から発せられる声の主……泉水くんが、式神越しにそれを見て解説を始める。


「その黄金の鍵は『黄道十二宮の鍵』といって、あらゆる場所に行くことができる鍵です。それだけなら皆さんの能力でも代用できますが、僕らの目的はその中にある行き先です」


 なるほど、これを使ってこれに登録されている場所に行けば、その中に霊斗とやらが封印されている場所を見つけることができる、ということね!


 私が納得していると、突然私たちは砦に転移していた。


「そのまま行くんじゃないの?」

「いや、このままだと行き先が分からない。この鍵は、扉と合わさってワンセットだ」


 私の疑問に、優一さんがそうやって答えてくれる。


「ふーん……で、扉ってのはどこにあるの?」


 私の問いに、再び優一さんが答えた。


「地下……旧地獄だ」

「お久しぶりです、優一さん」

「お、魔晴じゃないか! 元気だったか?」

「ええ。まあ、精神的には疲れっぱなしですが……」

「精神的に疲れられる余裕があるだけマシだ、今を楽しめよ。さて……そろそろ、本題に入ろう」


 優一さんの言葉に、魔晴は頷いた。……この二人、妙に馴れ馴れしいけど、どういう関係?


「黄金宮への道は?」

「今、呼白ちゃんと恵生くんが開いているはずだよ。僕らもすぐにそちらに向かおう」

「呼白ちゃんも来てるのか、ということは零も?」

「零さんは……捕まってるみたいだ」

「そうか……とりあえず、向かうとしよう」


 そう言って、置き去りの私たちを巻き込むような形で魔晴は魔法陣を展開した。……すこしは前進した、のかな?

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