第十五話『VS風間太刀、VS朝霞悠飛』
空高く。まだ、もっと、もっとだ。
光よりも速いほどのスピードでも、そいつはドンドン加速していく。
「ここら辺でいいかな」
そう言うと、そいつ……朝霞悠飛は、刀をこちらに向けた。
「私が本気出すと仲間を巻き込みかねないからね」
「興味ないわ。全力でやるだけよ」
「そりゃあ最高だね!」
悠飛は挑発するようにそう言うと、私の周囲を急に回転し始めた。
能力が上手く定まらないっ……!
「天飛翔『無限霊場』」
悠飛はそう言って静止すると、私から5メートルほど離れた場所に幾つも妖力の塊が設置されていた。
それらは私に対して弾幕を八方から放ってくる。
私は高く飛翔してそれを回避すると、悠飛に対して突撃する。
私の手に持つ刀と、悠飛の持つ刀がぶつかり合う。
甲高い金属音がしたと思ったら、私の刀が真っ二つに割れた。
「は!? え、ちょ、なにこれ!?」
私は狼狽えながら、後ろに飛んで悠飛の攻撃をかわす。
「クッ……!」
「ほらほら。油断してるとケガするよ?」
「うるっ……さいわね!!」
私は怒鳴りながら悠飛の追撃をかわす。剣で防げないなら……これでどうだ!!
私は『春夏秋冬-弐型-』の能力を用いて、空気の温度を変え、上から下への強力な上昇気流……即ち竜巻を出現させる。
「いいね、そうこなくっちゃ!
天飛翔『星之勾玉』!!」
悠飛は空高く飛んで竜巻を回避すると、上空から大量の妖力弾を放つ。
私はそれに対して向き直り、スペルを発動する。
「干渉『打ち消し合う荒波』」
全く同じ威力の弾幕が相殺し合い、妖力が大爆発を起こす。
私はそれによって起こる黒煙を吹き飛ばすためも兼ねて、スペルをさらに発動する。
「剣技『桜吹雪』!!」
春夏秋冬-弐型-から、斬撃と共に剣の能力によって冷気と熱を纏った桜の弾幕が悠飛に襲いかかる。
しかし、それは私の位置を知っているかのような単発の風弾がかき消し、そのまま私に迫る。
「クッ……!」
私はそれを回避すると、それを読まれたかのように私の背後に悠飛が迫っていた。
「なっ……!? あんたどうやって!?」
「久しぶりだよ、能力の多重使用は。見抜く程度の能力によって君の位置は筒抜け、さらに集中する程度の能力によって君がどう動くかを予測し、私の速度を操って風や光よりずっと速く君の背後をとった。それだけだよ」
悠飛はそう言うと、スペルを宣言する。
「界飛翔『ワールド』」
その瞬間。数千の攻撃が私の体を一斉に襲った。
「ァァァァァァァアア!!」
私は気づいたら叫んでいた。思わず叫ぶほどの痛みが、私を襲っていたというべきか。
骨が折れ、肉が裂け、血管が潰れ、内臓が破裂し、羽の一対を持って行かれた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
「君は私の一対一の相手をするには力不足だったようだね」
「ハァーー……」
敵を倒すのに集中する。そのために、痛みなどの余計な感情は全て捨てる。相手の言葉に惑わされるな。しっかりと相手の本体を、本質を見極めろ。
「怨むなら、君の力不足とこんな戦場に呼び出した魔晴を怨むことだ」
「……ラストスペル。神聖『夢想封印-カムイ-』」
私はラストスペルを宣言する。
その瞬間、7色に光る特大弾幕と24本のカムイが悠飛に襲いかかる。
「ふん……その程度かな?」
悠飛はそう言いながら、刀で弾幕を真っ二つに割り、さらにカムイを横に回転して切り裂く。
……けど。彼女は、もう術中にハマっている。ここまで上手くいくとは思わなかったけど。
カムイが真っ二つに折れ、弾幕が消え去った時。悠飛には大量の弾幕が襲いかかる。
「な……!? まさか!! ラストスペルは……囮!?」
「今更気づいたようね。……アンタの負けよ、朝霞悠飛。結界『内側に潜む脅威』」
私がそう言った瞬間。朝霞悠飛は、大量の弾幕を浴びて地面に落ちていった。
「はぁ……さすがに、キツ……」
私は意識もないままに、空高くから落ちていった。
◇◆◇◆◇
多数の鎌鼬が私を取り囲み、一斉に私に対して攻撃を仕掛ける。
私はそれらを怒の感情のエネルギーで吹き飛ばすと、鎌鼬の始祖の攻撃を楽しいの感情でかわす。
「よっそれっやっ」
「はあっ!」
うーん……中々決定的な攻撃が加えられない。ていうか、相手も回避タイプの戦闘スタイルだから倒せないんだよねー。
どうしようか……私がうんうん唸っていると、鎌鼬は突然攻撃を止めて口を開いた。
「お前……先ほどから回避してばかりで一向に攻撃してこないな。その程度なのか?」
「アァ?」
何だとこのクソ餓鬼!
そんな言うなら受けてみろこの一撃!
私が怒りの感情で強化された拳を当てると、鎌鼬は私の手の勢いを利用して私を転ばせてきた。
「な!? テメェふざけん……グハッ!」
「私の名前は風間太刀だよ、さっきいたよ?」
鎌鼬はそう言いながら、私を360度から攻撃してくる。腹、背中、腕、脚……身体中が殴られ、その度に怒りが溜まり、かすかな哀しみの感情によってダメージのエネルギーが吸収されていく。
「ウ……ガアッ!」
「私は風を司る程度の能力。それはもちろん、君の動きによって作られた風をも操る」
鎌鼬はそう言うと、止めとばかりにかかと落としをこちらに決めようと足を振り下ろす。
「まぁけるかぁぁぁ!!」
私は振り下ろされたかかとを両腕で防ぎ、呆気に取られる鎌鼬の腹に一撃を決めた。
「おお!? やるねぇ、いいよいいよ!!」
この捻くれ者の鎌鼬はそう言うと、少し後ずさったすぐ後に再び風の中に消えた。
「な!? 出てこい!」
「出てくる必要なんてないね。さあ、私に攻撃を当ててごらん!!」
私が周りを見渡した、その時だった。
「藍絡! チェンジ!」
「チッ……仕方ねぇなぁ」
私は悪態をつきながらも、綺美と背中合わせになって半回転し、新たな敵を睨みつけた。
その視線の先。
「お? 選手交代かい? いいよ、楽しもうじゃないか!」
私の瞳には、卑しく笑う水虎の姿が映った。
◇◆◇◆◇
──妖怪の山、麓──
「ふん。無様な殺られようだな。春夏秋冬活躍、ファウル・プルト」
そう言いながら、彼女は転がる首を踏みつぶした。
「朝霞悠飛ィ……覚悟は出来てるんだろうなァ……」
彼女はそう言いながら、その背後で猫と争う河童達を、猫ごと切り裂いた。
「ふんッ……裏切りは罪。敗北は重罪。罪は罰する。重罪は極刑。さあ、行くよお前ら」
「…………」
彼女のその言葉と同時に、ファウル・プルトと春夏秋冬活躍は起き上がる。いつの間にか、二人の首は生えそろっていた。
彼女の通った道には、何も残らない。例えそれが、蛮勇として恐れられた半神の勇者であったとしても。
一京歳を超える全世界、全次元の創造神であっても。
そして……外なる神を害する存在であったとしてもである。