第十三話『妖怪の山の激戦』
──時間は戻り、紅魔館──
『レミリア。僕らの予測だと、もうすぐ次の攻撃が攻めてくる。そこを何とか撃破し、妖怪の山頂上へと進んでくれ』
「分かってるわよ。その準備はもう出来てるわ」
レミリアがそういった途端、朔が扉をノックする。
「……じゃあ、きるわ」
『ああ。健闘を祈るよ』
レミリアは魔晴のその言葉を聞き届け、モニターを消した。
「お嬢様、失礼します」
「入って頂戴」
レミリアの言葉に従い、朔が入ってくる。
「……敵対勢力がこちらに侵攻してきます」
「そう。全員出撃させなさい。何としても彼らを頂上に行かせるのよ」
「御意」
朔のその言葉が聞こえた時、すでにそこに朔はいなかった。
◇◆◇◆◇
「……志郎さん。出撃可能です」
「よし。みんな! この勝負、何としてでも勝つぞ!!」
「おおおお!!」
「ニャー!!」
俺の言葉に、八千匹の猫と数人の人間が頷く。
「全軍! 突撃ィ!!」
俺のその号令と共に、一斉に主力部隊が妖怪の山に向けて飛翔する。
この幻想郷で確立された『飛翔術』を、桜の能力でみんなが使用可能になっている。
「十二時の方向に三柱の龍神! 迎撃せよ!」
目の前、それもかなり遠くだがそこに三体の巨大な龍神が構えていた。
俺の言葉に従い、妖緋と黒狂が駆け抜ける。そのまま一体ずつ龍神の首を斬り落とした。黒狂がここまでの実力を急につけたのは、桜の妖術によって戦闘力が一気に強化されているからだ。
残りの一体を茜が心臓部分を貫いて倒す。このメンバーなら、龍神に対してでも圧倒的な蹂躙が可能だ。
「あれは……! 十時の方向にヒュドラ確認!」
「俺がやろう!」
俺の言葉に従い、ヘラクレスが地面から巨大な岩を抜き、ヒュドラに岩を投げつける。
それは寸分違わず命中し、中心の巨大な首がグシャリという音と共に潰れた。
「ガァァァァァァ!!!」
ヒュドラが吠えるが、その全ての首をヘラクレスが巨大な矢を用いて射落とすと、そこを綺美が魔術で焼きつくした。
普通の龍神では敵わないと悟ったのか、龍神達が共喰いを始めた。
「なっ!?」
そして、共喰いを制した龍神がみるみるうちに巨大化していく。
肉体統合とでも呼ぶべきか?
巨大化した龍神が巨大な炎弾を吐く。それを補佐するように、龍神の背後から超高速の水弾が飛んできた。
炎弾をヘラクレスが叩きおとすと、ヘラクレスに向けて飛んできた水弾をケットシーが防ぐ。
「あれは……河童か!!」
「志郎殿! 河童は拙者達にお任せを! 但し、あの龍神は拙者達には手に余りまつる! 龍神は倒してくだされ!」
「ヘラクレス! 頼む!」
水弾を叩き堕としたケットシーのアーサーはそう言うと、ヘラクレスが巨大な龍神を抑えている間に、ケットシー達が一斉に水弾の発生源である山の麓に駆けて行った。
「さて……あとはあのデカい龍神か」
俺の呟きに呼応するように、統合龍神は吠えた。ヘラクレスは龍神の鋭い爪の一撃に、体の大部分を抉られる。だが、関係ない。
ヘラクレスの体は、すぐさま周辺に飛び散った原子が結合して再構築される。再生ではなく、肉体の創造と言うべき回復能力。
先の餓者髑髏の性質を体に宿した人間、と言うべきか。
「フンッ!」
「ガァァァァァァァァアア!!」
ヘラクレスの正拳が龍神の胸に入った。龍神は悶えながらも、その長い尾をヘラクレスの体に巻きつけた。
龍神が口から破壊光線を放ち、ヘラクレスの頭が吹き飛ぶ……が、ヘラクレスの肉体はすぐさま再構築されていく。
ヘラクレスの最大の弱点は炎だ。燃焼による化学反応が起これば、如何に肉体の再構築といえども上手くいかなくなる。
が、先ほど龍神が放ったのは粒子加速を用いたレーザー光線だ。
その龍神の尾が桜によって断ち切られ、ヘラクレスは解放される。
「アンタは私が相手になろうじゃない!」
「主人! 私もお供しますぞ!」
花火の付喪神鍵野玉木とあらゆる術の支配者安倍桜、そして半神の大英雄ヘラクレスが龍神に立ち向かっていった。
◇◆◇◆◇
──妖怪の山中腹──
この妖力……!!
「妖緋! この先に進んでみんなを誘導しろ!」
「父様はどうするんですか!?」
「俺はいい、先に行け!」
俺は圧倒的な力を誇るそれに対抗するため、そう言って妖緋達を先に行かせる。
そんな俺の眼前に現れたのは、二体の浜姫だった。男と女か。
「お前が俺たちの敵か?」
男の方はそれだけ言うと、一本の剣を取り出す。刀の半分くらいの長さだな。
逆に女の方は、爪のようなものが伸びた右手を俺に向けた。
男が剣を俺に振るう。俺はそれを体を90度回転させ、バックステップでかわすと今度は後ろから右手による横薙ぎの一撃が飛んできた。
俺はそれをしゃがんでかわし、バク転で二人から距離をとる。
見事な連携技だ。が、まだまだ甘い。俺は弾幕を俺の背後から一斉に放つように準備し、発射する。
「消去『弾幕消去』」
男がそう唱えて俺の弾幕を消滅させると、女の方は右手と足技で俺に迫る。
俺はそれを弾きながら、右腕から妖力を解き放つ。
「迦楼羅『天狗礫』」
それは女の右手の力とぶつかり、互いに消滅しあった。
「天堕『厄災を纏う右手』」
女はすぐさま右手をさっきのような鋭い爪のある姿に戻すと、こちらに襲いかかってきた。
俺は弱い。それは最初から分かっていたが、強いやつがドンドン増えるこの幻想郷では、俺の弱さはより露わになる。
そういうわけで、俺は盾くらいにしかなれないが、その盾すらもこなせないとなったらもはや俺の存在価値はなくなるだろう。あぁ、あいつらの力が妬ましい。
ふと、俺の脳内をよぎったそんな考えが、俺の中で増幅していく。
妬ましい、妬ましい、妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい妬ましい。
気づけば俺は、二人の浜姫の装備を手に握りしめていた。
「七つの大罪、嫉妬か」
俺の呟きに応えるように、作られた二つの装備は黒い光を放った。
俺は右手で剣を振るう。女の方の胸が、それによって真っ二つに裂かれた。
「ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!
楽しい! 楽しい!」
楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい!
俺の心が、ドンドン感情に飲み込まれていくのが感じた。愉悦、転じて快楽。それ即ち色欲。
色欲と嫉妬の二つの感情が、俺を支配した。
「夜月!」
「あはははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
俺の高笑いは、男の方を身じろぎさせた。一瞬の迷い。それは、死に至るには十分だ。
一瞬のうちに、男の胸が俺の手によって貫かれる。
「あはははハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」
辺り一面には、俺の乾いた笑いと倒されたはずの二人が枯れ草を踏みしめる音だけが聞こえた。