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第十一話『経過報告』


「……族長!! 朝霞族長!!」

「何ですか、葵」

「アレはいったい、どういうことですか!?」


 私の側近である、葵が私に責め立てるようにそう言った。

 分かる、分かっている。私だって、こんなことは不服だ。いくら実行犯を殺したって、彼らの命はもう亡き者であり、戻ってくることはない。


「クソ……!」


 そう言って、葵は即座に翔び立っていった。

 残された天狗の部族は、もはや数百名。絶滅もかなり近づいただろう。


 私は今回こちらの陣営についたことを後悔しながらも、戦況を見据える千里眼を使用した。


◇◆◇◆◇


「よくやったわ、妖緋!!」

「レミリアさん……ごめんなさい、ちょっと……休ませてくれますか」


 妖緋はそう言って、迎えに出たレミリアの傍を通り抜けていく。


「兄さん。夜の出陣は必要なさそうね?」

「ああ。探索がてらちょいと偵察もしたが、必要なさそうだ。まあ、攻め時ってことでもあるんだが……妖緋を休ませたいからな。なんなら、俺たちが出てもいいが……」


 ヴラドはそう言うと、レミリアは首を横に振る。


「いいえ、今日はいいわ。なるべく夜の出陣は控えるようにしましょう。兄さん達やみんなも、今日は休みなさい」


 レミリアはそう言って労いの言葉をかけると、彼らはコクリと頷いた。


「……朔」

「レミリア様」

「……戦争が始まった以上、この世界の私は貴方の主ではないわ。その……無理をさせてしまったわね」

「いえ。今回の私は……何の役にも立てませんでしたので」


 朔はそう言って、少し気だるげな体を自室へと引きづっていった。


「──妖緋」


 部屋に戻ろうとした妖緋に対し、ヘラクレスが声をかけた。


「……何でしょう、ヘラクレスさん?」

「──奴らは立派だった。泣くな」

「……すみません」


 ヘラクレスの言葉に対し、妖緋は一言謝ると、目尻を精一杯拭う。


「失礼します」


 そのまま妖緋は自分の部屋へと駆け込んでしまった。


「……まだ幼い彼女には、致し方なしか」


 ヘラクレスはそう呟き、妖緋に対してそれ以上追従はしなかった。


◇◆◇◆◇


「では、第二回進軍会議を始める。先ずは経過報告から。レミリア嬢、被害と現状の報告をお願いします」


 モニター越しに、レミリアが頷いたのが確認できた。ちなみに第一回はこの間の召喚の前の説明だ。


「ええ。こちらの被害はメソポタミア、フランス、キャメロット、月の軍総勢三十万人。ランスロット以外の全兵が敵の攻撃……おそらく、原子爆弾によって死んだわ。

 大きな生き残りは交代戦力のケットシー全八千匹と小悪魔総勢二千人。前線戦闘からはランスロット氏、幻真、朔」


 ……モニター越しで見るのと、実際に話を聞くのじゃあリアリティが段違いだ。やはり……多くの兵隊が、死んでしまったらしい。


「こちらの被害は以上よ。あげた戦果とすれば、天狗の残滅が完了したことくらいかしら」

「了解。では、刀哉さんからお願いします」

「ああ。現段階では、五十万の装備兵のうち、損害は二十五万ほど。戦果といえば、最初に出てきたゾンビのような集団を倒したことくらいだ。戦場は一時停戦状態にあるが、いつ再戦してもおかしく無い」

「了解。二人から何か相談やご質問はありますか?」


 僕はそう言って、二人に問いを投げかけた。それに対し、レミリアが手を挙げる。


「多くの兵が死んだけど、その分活路も見えてきたわ。もうすぐにでも動けるけど……こちらから仕掛けても大丈夫かしら?」

「ああ、それは問題無いよ」

「じゃあ、戦士たちのコンディションが整い次第一気にいくわね」


 レミリアはそう言うと、僕が制止する暇もなく電源をプツリと落とした。


「……では、俺もお暇する」


 刀哉さんもそれだけ言うと、モニターの電源を落とした。


◇◆◇◆◇


──時は遡り、開戦直後の博麗神社周辺──


 号令に併せて、多くの騎兵が近寄り這い出てきた存在に向かっていく。


「あれは……ゾンビか!?」


 死体を操る能力を持つ者でもいるのだろうか? そう思っていると、蒼が刀哉に提案した。


「刀哉さん、一度兵を引かせてください」

「策があるのか?」

「もちろん」


 蒼の交渉に対し、刀哉は質問で返すとその質問に自信満々で蒼が答えた。刀哉は白刃を呼ぶ。


「話は聞いたか白刃!」

「はい、殿! 兵を一気に引かせています!」


 白刃がそう言ってから時間がそこまで経たずに、鎧武者が引き返してくる。鎧武者は、白刃の能力だ。剣を鎧武者として顕現させることができる白刃の能力は、対多数戦に非常に有利に進む。

 あ、どうも、創刻恵生だぜ。

 兵が引いていったと思ったら、蒼がブツブツと詠唱をしていく。


「我、人より転生す神なり。我、顕現するは多いなる業火。全てを呑み、なおも燃え盛るその姿。まさしく炎龍なり。我が権限を持ってその炎を現へと変えん。滅炎『龍火垂翔』」


 蒼が詠唱を完了すると、ゾンビ共の足元から天へと垂直に、龍の形をした炎が燃え上がった。


「やっぱりゾンビはこれよね!」


 そう言って、蒼はパンパンと手を払うように叩いた。

 炎の燃え上がった箇所は、消し炭しか残っていない……が、一部のゾンビは範囲外に逃げていたのか、燃えずにゆっくりとこちらに歩み寄る。


「白刃! 俺たちも出るぞ!」

「御意!」


 二頭の駿馬を走らせる刀哉と白刃が、ゾンビ共を屠っていく。

 首を切り落とされたゾンビは、体のバランスを崩して前のめりに倒れるが、這いつくばって少しでもこちらに寄ろうとする。


「させるか!」


 そこを呼白が徹底的に火炎弾で燃やし尽くす。……なんだ、俺が仕事する必要ないじゃん。よっしゃ。


──なんて、そんなこと思ってない。


「呼白、分かってるよな?」

「ええ。とびきり強烈なのが……すぐ近くにいます」


 そう言った途端、大地を割って三体の餓者髑髏が現れた。

 餓者髑髏はすぐさますぐ近くにいた刀哉たちを標的に拳を振り下ろすが──刀哉の刀に攻撃を逸らされる。


 刀哉の持つ刀には悪霊を浄化する類の能力でもあるのだろうか。餓者髑髏には効いているようだが、その巨大な図体には一本の剣の攻撃など効果は薄い。


「オォ……! オオオオオオオ!!」


 他の餓者髑髏が刀哉を狙って横薙ぎに拳を振るうが、それは呼白によって防がれた。


「貴方達が倒されたら私たちが困るんです。一旦下がってください!」

「すまんな。恩にきる」


 刀哉は呼白にそう言うと、文句を言いたげな白刃を担いで、急いで馬で戦線離脱していく。


「さーて……貴方達はどれだけ耐えられますかね?」


 呼白は二体の餓者髑髏を相手にそれぞれに腕を向けて、そう問うた。


「……悪いけど、全力でやらせてもらうよ」


 蒼も、大鎌を一体の餓者髑髏に向け、そう言った。

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