第十話『英雄の死』
「──なるほどな。だが、そんなことが……可能なのか?」
「或いは。しかし、時間停止をしている間に彼の空間を見つけ出さない限りは──」
「……とにかく、探すしかないだろう。もしかしたら、あいつがなんとかやってくれてるかもしれんからな」
志郎がそう言い、その場にいた他のメンバーも頷いた。
それからすぐ。彼らにより、目的の物の探索が始まった。
探すのは、マンホール大の小さな穴だ。見逃しがないように、よく探す。
だが、仮にもそこは原爆投下直後の地。放射能や在中する熱量は並大抵のものじゃない。
この場所を探せるのは桜、妖緋、ヴラド、綺美、ヘラクレスの五人くらいだ。
綺美や桜、妖緋にとっても放射能は猛毒だが、小型改良されたマインドによって心配ないという。
「……アレかしら」
「……多分、そうですね」
妖緋と桜が見つけたのは、空中に浮かぶ次元の穴だった。霊斗が頻繁に使用する次元の裂け目にそっくりである。その中から、身体中に大火傷を負い皮膚が焼け爛れた人間が一人、ぼとりと落ちた。
「あれは……! ギルガメッシュさん!」
「グフッ……あぁ……小娘か。我が宝物庫の使用権をお前に授ける。そうなれば我は消滅するが……」
「バカなことを言わないでください!」
妖緋の言葉に、ギルガメッシュはフッと笑みをこぼす。
「中々に……楽しかったぞ、小娘。我が国の兵がここまで死んだいま、王である我が残るわけにもいかぬ」
「ちょっと……! ギルガメッシュさん! まだ、私は貴方との思い出なんて何もできていないのに……!」
妖緋が涙をこぼしそうになると、それは桜によって拭われた。
「……自分の身を呈してまで、勝利への鍵を遺してたのね。……まさしく、天晴れだわ」
桜がそう、呟いた。滅多に人のことを認めたりなどはしない彼女だが……ギルガメッシュのその生き方には賞賛を送らざるを得ないものがあった。
「……中を覗いてみましょうか。おそらく、中の物はほとんどダメージを負っていないはずよ」
桜はそう言うと、開いたままの宝物庫の中に侵入する。
「……中はこんな風になっていたのね」
咲夜の能力のような、時間停止空間に様々な物が入っている。食物や武器、宝物が大半だが……。そんな中、人影が目に入った。
「……アンタ、生きてたの!?」
「……ああ。ギルガメッシュさんのお陰だ。今すぐにでも出たいところだが……」
そこに居たのは龍使いの少年、幻真だった。他にも、アーサー王とランスロット、さらには黒狂に朔までいる。
そこで、桜は円卓の騎士がアーサーとランスロット以外に見当たらないことに気がついた。
「……円卓はあんたら以外にはいないの?」
「ええ。私たちの付近にいた者だけがこの宝物庫に閉じ込められ、入り口をギルガメッシュが防ぎましたから。
……ガウェインは外で、爆風から私のことを守ってくれました。ギルガメッシュや、ガウェインにも私たちは助けられました」
アーサー王は、どこか悲しそうな顔でそう言った。アーサー王といえば、ブリテンの大英雄だ。
しかし、その容姿は可憐な一人の少女。彼女には、犠牲の上に生きるというのは辛すぎるのかもしれない。
桜はアーサー王の想いを感じながらも、とりあえずここから退散することにした。
「……今、外は時間停止空間よ。今のうちに、全員退散しなさい。ここの破壊は、妖緋がおそらく食い止めてくれるわ」
桜がそう言うと、アーサー王が首を横に振って応える。
「……いえ、私はここで結末を見届けます。生き残った者として、最低限それくらいのことはさせてください」
アーサー王が力強く言うと、他の四人も同じ気持ちだったのか、力強く頷いた。
「……仕方ないわね」
そう言って空間の穴を出た桜に続いて、5人は宝物庫の外に出る。
「……妖緋殿」
「……貴方は、アーサー?」
「ええ。みっともなく、生き残ってしまいましたが。貴方に、コレを渡そうと」
アーサー王はそう言うと、聖剣を妖緋に渡した。
「貴方の求める力が、その中には込められているハズです」
「──そうね。ありがとうございます、皆さん。……危ないので、少し下がっていてください」
妖緋はそう言うと、聖剣を力強く握りしめた。本来ならアーサー王の魔力にしか反応しないハズの聖剣が、新たな光を灯す。その光はやがて刃となり、風となり、力となる。
「咲夜さん、せーのでお願いします」
「ええ、いくわよ」
妖緋からの霊力によるテレパシーを、咲夜は感知して答える。
「「せーのっ!!」」
その言葉により、咲夜の能力が解かれる。妖緋は、力強く聖剣を振るう。
「──非常に残念だ。原爆符『核三原則』」
「全くだ、無意味な殺戮だもんな。爆発符『爆裂火焔球』」
ファウル・プルトによって作り出された核爆弾は、活躍による大爆発によって火力をより広げていく。
「──負けてたまるかァッ!! イフ『ヒノカグツチ』!!!」
妖緋は、その剣先から原爆にも負けず劣らずの力……擬似太陽を形成する。氷で包んだそれを、氷を操るスペルによって巨大な盾にする。
そのまま……原子爆弾と、妖緋の盾が衝突した。
両者の強さは、まさしく拮抗。
「オオオオオオオオオオ!!!」
「ハァァァァァァァァア!!!!」
妖緋とファウル・プルトが叫ぶ。ここで押し負けたらダメだ。お互いの霊力を、中空に浮かぶ巨大な爆弾にぶつける。
やがて。妖緋の作り出した太陽を囲む氷が溶け、それは姿を現した。
爆弾が、ぶつかる。
「ハァァァァァ!!!!」
「うおおおおおお!!!」
妖緋の爆弾が、少し押され始めた。
ダメだ、それ以上引いたら!!!
妖緋は焦りながらも、最大限の霊力を噴出した。
「やめなさい!! 妖緋! それ以上やったら貴方も戦えなくなるわ!!」
桜の言葉は、妖緋にはもう届かなかった。二つの原子爆弾の、中心部がぶつかり合う。
そして……爆弾は、強くなる。
この幻想郷そのものを滅ぼしかねないほどに、その火力を引き上げた。
「……楽しかったです、皆さん」
「は? アーサー王!? 貴方まで何を言ってるの!?」
桜の制止を振り切り、アーサー王はその爆弾に両手を伸ばす。
「キャメロットの兵は、私とランスロット以外は全滅です。……キャメロット代表として、戦い抜きなさい、ランスロット」
「……一緒に戦うことができ、幸いでした。この湖の騎士、貴方がそう仰るのなら一片の悔いはありません」
「ちょっと!? あんたも従者なら、王を止めに入りなさいよ!」
桜の言葉を無視して、アーサー王はその体をエネルギーに変換する。
「──もし、叶うなら。あの子とも一緒に戦い、心をかわしたかった──」
アーサー王は、エネルギーの塊であるその肉体をエネルギーに変換していく。
「──さよならです、皆さん」
その言葉を発した直後。
「我、騎士王にして、生贄なり。この聖剣を授けし湖の精霊よ──我に、この聖剣に、力を。『擬似創造魔法・身体変化』」
アーサーがそう言うと、アーサー王のその体は剣へと変化していく。
その剣、アーサー王のように美しく一切の汚れも見当たらなかった。
『ランスロット。この剣を、アレに投げ入れなさい』
剣から発せられるテレパシーに、ランスロットは静かに頷いた。
「──御意」
ランスロットは、思いっきりアーサー王の剣を原爆の中に投げ入れる。
その剣は爆発の中に入っていき──爆発は、光と共に消滅していく。
「──その身を呈して守るか。奇しくも、ギルガメッシュと全く同じ死に方とは」
遠くから見ていたヘラクレスはそう呟いた。
──こうして、爆弾は消滅した。
「──やった、のですか?」
妖緋が荒い呼吸を落ち着かせながらそう言うと朔は頷いた。
「ええ、あの太陽は、消滅しました」
だが。太陽を作り出す力が、無くなったわけではない。
「どうする? 活躍。あいつらにゃあ悪いが、もう一発ぶっこんどくか?」
「──そうだな。これであいつらを殺せるなら……」
そこまで言って、活躍は突然に押し黙った。
「どうした活躍……」
そう言った途端、活躍の体は山の中腹から前に崩れ落ちていく。
そして、ファウルの体も、動かなくなった。
「……ふん」
その犯人は、静かにその場を後にした。残ったのはファウルと活躍の、首を斬られた死体と、一枚の羽根だけだった。