第七話『半神剣士の参上』
──紅魔館、戦開始まで残り3日──
「……できたわ、貴女たちのお陰よ」
「この戦いに貢献することができたなら、そりゃあなにより」
龍使いの少年、幻真はそう言ってパチュリーの言葉に応える。
「……で、何を作ったんだ?」
「精神エネルギー増幅装置……通称『マインド』よ」
「マインド?」
幻真の聞き返しに、パチュリーは頷く。
「そう。城戸の感情を利用した術を、能力を使用する時の電磁波をコピーし、弄ることで擬似的に城戸の術をより強力に、より巨大に作ることができるのよ。
喜の感情で全てのエネルギーを防ぐバリア。
哀の感情で全てのエネルギーを凝縮して取り込むブラックホール。
怒の感情で哀しみで取り込んだエネルギーを照射するエネルギー砲。
楽の感情で哀しみの取り込んだエネルギーを用いて、より強力にエネルギー砲を照射するエネルギー砲サポート装置の四つから成り立つわ。
城戸が制御することもできるけど、一応自動兵器としての機能は一通り揃えたから、このままでも戦えるわ」
こんな兵器を、いったいどこで作っていたんだろうか。そんな疑問に答えるように、パチュリーが口を開く。
「私が設計したものを、魔界で小悪魔たちが中心となって組み立てたのよ。私の魔法なら大抵の物資は創り出せるし」
幻真はこの時、初めてこの世界のパチュリーのことを見直した。
「……朔」
「何でしょう、パチュリー様」
ここ最近は、朔はレミリアではなくパチュリーの世話を中心とした仕事を行っている。というより、レミリアの周囲は咲夜一人で十分なのだ。
屋敷全体の仕事も、露黎が指揮を執っているため、朔はほとんどパチュリーにつきっきりだ。
「魔晴に準備が整ったと伝えに行って頂戴」
「御意」
パチュリーが命令を下した次の瞬間。もうすでにそこには朔は居なかった。
◇◆◇◆◇
──人里──
「待っていたよ、神器王」
「ふん。魔晴が我を呼びよせるとは何事かと思えば、そう言うことか。つまりは──里に集まった兵士分の武器を配給して欲しいと」
「話が早くて助かるよ」
神器王……即ち、英雄王ギルガメッシュは能力を解放した。ギルガメッシュの能力、それは宝物庫を取り出すことができるというもの。
ギルガメッシュの宝物庫とはそれ即ち、世界中の神器の溜まり場だ。
ゼウスやオーディンなんかはその立場のせいでここには来れないけれど──その分、霊斗が今まで培ってきた英雄との人間関係で、補うことができるはずだ。
「そうだ、魔晴。妖緋とかいう娘を連れてこい」
「OK。ちょっと待っててね」
僕はそう言って召喚魔法を展開しようとすると、突然磔君に呼び止められた。
「魔晴! あれは!?」
「うん……? ああ、ギルガメッシュのことね。分かるでしょ?」
「いや、そりゃあ分かるが……ってどんな関係だよ!!」
磔がつっこむけど……いやいや、わかるでしょうに。
「霊斗の友達だよ。ギルガメッシュ以外にも、本物の円卓を引き連れたアーサー王に、蛮勇の半神勇者ヘラクレス……あとは救国の聖女、ジャンヌダルクも来てくれるはずさ」
僕の言葉に、磔は驚愕を顔に貼り付けたような顔をする。
「ほら、早く連れてこないと。ギルガメッシュに怒られる」
僕はそう言って、召喚魔法を展開する。青白い光とともに、妖緋ちゃんが姿を現した。──ちょうどシャワーを浴びていたらしく、体に水滴がついたまま、裸で召喚された。
「ぶべがっ」
次の瞬間、妖緋ちゃんの拳が炸裂し、僕の意識は遠のいていった。
◇◆◇◆◇
「……あなたは?」
「我が名はギルガメッシュ。世に名高き神器王よ。此度の戦い、助太刀に参った。……が、いくら武器があれども、武器を扱えるものが居らんのは万事に死す。よって──汝の力を鍛えてやろうとな」
ギルガメッシュは私にそう言うと、何かの薬剤の入った瓶を私に渡してきた。
「……これは?」
「我が名はギルガメッシュ。我が宝物庫に入りしは何も宝だけじゃない。時空の流れにも抗いし薬も入る。最も、多くの者は飲むことを拒否するがな」
ギルガメッシュはそう言うと、私に瓶を無理やりもたせた。
「若返りの薬……ですか」
「左様。ただし、渡したいのはこれではない」
ギルガメッシュはそう言うと、丸薬を私の口に押し込んだ。
「むぐ……!?」
「時間に抗いし薬があるように、空間に抗いし薬も存在する。今渡したのはそれだ」
次の瞬間、私の脳に数々の情報が流れ込んできた。
「あ……アァ……アァァァァァァァァァァアア!!!」
流れ込んできたもの。それは異世界の私の記憶だった。体中が変化を起こし、痛みが、痒みが、辛みが、全て私に乗りかかってくる感覚。
「絶叫するな。──耐えろ」
「ぐっ……ぅう……ぐぅぅぅぅ」
私は胸を鷲掴みにして、乗りかかってくる全ての感覚に耐える。
「そうだ。それでいい」
ギルガメッシュは救いの手を差し伸べることはなかったが、逆に私に対して攻め立てることもなかった。
「ぐっ……ぅう……」
「治ったか」
「ぐっ……ええ……」
同意した私に対して頷くと、ギルガメッシュは私の頭にポンポンと手を置いた。
「よくやった。私やアーサーですら耐えられなかった極致だ」
その言葉に、全てを救われた気がした。
◇◆◇◆◇
「……ここは?」
「おや、お目覚めか」
「あ、あぁ……」
魔晴は頭を横にぶんぶんと振って、意識を覚醒させる。
「もう一度聞きますが、……ここは?」
「人里の俺が経営する道場だ。いったい何があった? 人里のど真ん中に倒れていたなんて……」
「あぁ……ごめんなさい。まず、今の状況がよく分からない」
魔晴の言葉に、少し幼さ残る侍のような格好をした少年は、首をひねる。
「……? 何かあったのか?」
「ええ。とても大きな事件が……」
疑問を抱く少年(刀哉というらしい)に事の顛末を話した。
……魔晴は少年の名を聞いて、おそらくコレが魔晴の知る刀哉の居た世界より、少し前の時代であることを把握した。
魔晴の知る刀哉の居た世界では……刀哉は、亡くなっていたから。
まあ、刀哉と魂の構成が全く同じ者は魔晴は知っていたが。
僅かな差が、刀哉と魔晴の知る少年からは感じ取れる。
それに、おそらく魔晴自信がこの世界のこの時間に送られてきた要因。それは、きっと自分の信頼する人物のおかげであると、そう予測していた。
魔晴はそれくらいなら直接送ってきてくれればいいのにと思いながらも、刀哉と自分の知る少年の差を感じていた。
「──ふむ、なるほど。人間と妖怪が戦争か」
刀哉はそう言うと、スッと立ち上がった。
「ならば。俺たちは、お前の仲間になろう」
「助けてもらった上に、そこまで!?」
「ああ。どうやら、その世界の魔の手が俺たちの世界に悪影響を及ぼさんとすることも分かったしな」
そこら辺は大体魔晴の方便であるのだが……嘘を見破る能力を持たない刀哉には、魔晴の魔法力の乗った巧妙な嘘は見破れなかったらしい。
魔晴は一抹の罪悪感を感じながら、起き上がり、刀哉に差し出された手を掴んだ。
「では、これより俺たちはお前に援軍を送ろう」
「ああ、こちらとしても助かるよ。是非ともよろしく頼む。こちらも、できる限りの見返りは払おう」
「白刃!」
「なんでしょうか、殿!!」
同盟の協定を結ぶと、刀哉は一人の少女を呼び寄せる。
雅で艶やかな黒髪を持つ、まさしく無垢という言葉の似合いそうな少女だ。
だが、この白刃と呼ばれた少女からは微かに刀哉と同じ臭いがした。
おそらくは結婚しているか、もしくはそれに準じる関係なのだろう。
そんな少女に、刀哉は静かに命じた。
「──戦だ。備えろ」
「御意」
刀哉は白刃の準備ができるのを、魔晴と計画を練りながら待った。
◇◆◇◆◇
戦開始まで、残り3日である。
両軍着々と準備を整え、正面衝突の時を待ちわびていた──。