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前橋彰子の贈り物

ちょっと、他の退場シリーズのネタが入ります。

ですが、こちらだけでも分かるようになっている…筈です。

「あぁでも、これで僕も安心出来たよ。」


璃玖が壇上に居る二人に笑顔を向ける。

私を馬鹿にするようにしていた先程とは打って変わって、とても柔らかで、そして華やかな声。


「姉さんみたいに何も出来ない人が、宮成先輩にどれだけ負担をかけていたのかを考えると、心配で心配で。でも、これで姉さんが宮成先輩を煩わせることも無いしね。」


良かった良かった、と笑う璃玖。

鼻で笑い肩を竦めて、自分と、宮成様と川添様の間に居る私を嘲笑ってみせる。

それが演技だと知っていても、少しだけ辛く感じてしまいます。


「本当に姉さんの事は僕も頭を悩ましていたんだよ?宮成先輩や沙希さんみたいに頭も良くないんだから、家にさっさと帰ってきて勉強一つもすればいいのに。宮成の家から中々帰ってこないし、休日ともなれば帰ってこないこともあって。宮成の家での手伝いや、同じ嫁の立場である刀自の事細かな御教授を受けていたって言うけど、宮成先輩に聞いたら全然駄目過ぎて、言われた事を一日で終わらせることも出来なかったっていうし。まさか、母さんの命日にまで帰ってこないとは思わなかったよ。」


「それは…」


"それを終わらせられたら呼びなさい。ちゃんと出来ていたら帰ることを許します。

まったく何時も何時も、中途半端にしか出来ないのだから、それくらいなら貴女でもやり遂げることが出来るでしょう?"

そう清花刀自に蔵の清掃を言いつけられたのは、母の命日の前日でした。

後日行うから願い出ても、絶対に許しては貰えませんでした。ならば絶対に終わらせようと手を尽くしましたが、太陽が空高くに上がり、父が迎えを寄越してくれるまでに終えることは出来なかった。

"あら、今日が命日だったのね。ちゃんと言ってくれないと。年寄りが覚えているわけがないでしょう?"

あの時はどうして、私が悪かったのだと言ってしまったのか。

"すまない"と父に泣かれました。

父が宮成家との差を狭めようと必死になってくれているのも知っていました。

だから父に泣いて欲しくはなかった。


"馬っ鹿じゃないの"と璃玖に怒られました。

お墓に供える花を一緒に用意しよう、と約束していたのに破ってしまったのですから、それも当然でした。


彰子姉様がまるで目の前に見ている映像を字に書き起こしているような速さで、スラスラと書き出してくれた流れ(シナリオ)と、絶対に言うべき言葉。

今から璃玖が言う言葉を書き出された時、璃玖は泣きそうな顔で私に"ゴメン"と言いました。

酷いことを言うから、先に謝っておく、と。

でも、私がそれをしてしまったのは事実なのだから。璃玖が本当にそう言っても可笑しくない事なのだから、謝らなくていいの、と私からも謝りました。


もっと私が強かったら。

いえ、強くなくてはいけなかった。

だから、これからは父を支えられるように、璃玖を守れるように、私の為にお忙しいのに力を貸してくれた彰子姉様に失望されない為にも、強くなると私は誓います。



「本当に母さんが草葉の陰で泣いてるよ。素晴らしい教育を受けてきた人達が多く在籍しているこの学園に通っているんだから、少しは自分を見つめ直して、もっとしっかりと、宮成先輩の婚約者と堂々と言えるように成長するかと思ってたけど。そんな様子は一切ないし。それどころか、自分よりも優れているからこそ皆に認められた沙希先輩に嫌がらせとか、暴力を振るってさ。」


本当に恥ずかしい。


溜息をついて、首を下に傾けた璃玖。

目の前に居る私だけは、そんな璃玖が眉間に皺を寄せて辛そうな顔になっていることに気づけた。

ごめんなさい。そんなことを言わせてしまって。

ちゃんと演技だって分かっているから、そんな辛そうな顔をしないで欲しい。私が不甲斐なかったのは本当のことなのだから、璃玖がそんな風に傷つく必要はないの。



ねぇ、貴女出来る?

出来るわけないじゃない。

嘘。こんなの、嘘よね。

だ、大丈夫よ。この事が人に知られないようにすれば…。

そうよ。知られなければ、大丈夫。


ねぇ、貴女の婚約者って確か、貴一様の従弟…。

い、いや。絶対に嫌。出来るわけないわ、そんな事。宮成の家なんか絶対に行きたくない!お、お父様にお願いしないと…。



これが終わった後、私は璃玖に何をしてあげればいいだろう。

そんな事を考えながら耳を澄ませば、主に女生徒達が動揺を隠し切れない様子で囁き合っていました。


「あっ、そうだ。姉さんはやっぱり馬鹿だなぁ。」


そう言って璃玖が上げた顔には、私が見た辛そうな様子は一切なく、嘲笑うように目の前に居る私を見て、そして、それを優しげな慈愛に満ちた表情に変えて川添様に目を向けました。


「ねぇ、沙希先輩。安心してよ、姉さんが沙希先輩に慰謝料請求したとしたら、沙希先輩は逆に姉さんを訴えればいいんだよ。」

本当、姉さんは馬鹿だ。


私も璃玖から川添様へと視線を動かしました。

宮成様の隣に立つ彼女の、少しだけ青褪めて眉を顰めていた顔は、璃玖の言葉によって一瞬にして明るさを取り戻し、期待の目を璃玖に向けている。

その口が何かを言っているようでしたが、その音は私の耳にまで届きませんでした。

でも、何時も自信に溢れて輝いていた川添様の目がなんだか、少し暗い色を湛えて怖いほどのものに見えました。


「姉さんは沙希先輩に散々、嫌がらせをしたんだ。それだけじゃない、沙希先輩の頬を叩いたし、階段から突き落とそうとしたんだ。沙希先輩に慰謝料を請求するっていうのなら、姉さんだって払うべきだろ?」



-璃玖。

持ち上げる時はスカイツリーよりも高く。

突き落とす時は東尋坊の下に思いっきり、よ。


-彰子姉さん、意味は分かるけど、その言い方の意味が分からない。



そんな冗談を交えながら彰子姉様が璃玖に指示したのは、学園に在籍している私達も知らなかったものを利用したものでした。


「えっ、それは…」

「確か証拠が無いって困ってたんだよね。本当、そういう頭を勉強に回せば良かったのにね、姉さん。でも、僕は姉さんの罪を暴く方法を今、思いついたよ。」

階段から突き落とす。下手をすれば川添様に大怪我を、命を奪っていたかも知れないことを、私はしました。

いえ、私にその時の記憶はありません。

ですが、被害者である川添様がそう口にして、宮成様を初めとする御友人達がやっぱりと私を睨み、そうだったとしても可笑しくないと生徒達が思っていました。

それでも、怜泉学園としては証拠もなしに処罰する訳にはいかないと、私にお咎めを与えはしませんでした。

先生方も、私への態度を変えることはしないで下さいました。


でも、学園中が私を犯人だと言いました。

それは仕方ないことです、確かに私は川添様の頬を叩いたこともありましたし、怒りに身を任せて声を荒げたこともあったのですから。


怜泉学園は、生徒達の自主性を重んじています。

その為に、滅多なことでは教師達が生徒達に干渉することはありません。

高等部ともなると、行事だけでなく、日々の雑事の全ても、生徒達の中から選ばれた生徒会、各委員会の委員長達が主体とない、その殆どを担います。

これは、将来、人の上の立つことになる生徒達に経験と力を培わせようとする、学園の創立者の強い考えによるものなのだそうです。

生徒達の生活に関わる全ての、企画、資金調達の面から教師達は手を出すことなく、生徒達に行わせます。

だからこそ、こうして学園の高等部全体が参加するダンスパーティーが中断されている状況でも、先生方は壁際で何の口出しもせずに見ているだけです。


「先生方。学園に設置されている全てのカメラの映像、そうだな…沙希先輩が嫌がらせを受けてるって口にするようになったのは一年くらい前からだったから、13ヶ月分の映像の閲覧したいのですが?」


璃玖はそんな壁の花と化している先生方に話しかけました。

「カメラ、映像?何、それ…?」

川添様が不思議そうな顔で首を傾げています。

「あれ、知らないんですか?可笑しいなぁ、校舎の色々なところにカメラが設置されていて、生徒や保護者などが理由を明らかにして要望した場合は、その記録されている映像を閲覧出来るって、校則にも書いてあるのに。」


本当に小さく書かれているそれは、私も璃玖も、彰子姉様に指摘されるまで知りませんでした。


「沙希先輩がされたのって、さっき言った奴の他は確か、机に悪戯されたとか、靴を隠されたとか、あっ階段の上から水をかけられたんですよね。なら、大丈夫ですよ。教室にも、玄関にも、廊下の所々にも、カメラは設置されていますから、防犯の為に。それを見たら、姉さんが犯人だったって証明になりますよ。どんな暴力も、馬鹿げた行為も、暴言も、全てが白日の下に晒されるんですよ。」


頬を叩いた記憶と声を荒げた記憶はありますが、それらは覚えはありません。


ヒッ、と息を飲む音があちらこちらから聞こえてきましたが、それはつまり、そういうことなのでしょうか。


「全てが、白日の下に…。」

何処かで誰かが、璃玖の言葉を復唱していました。


「なんでも、数年前にも沙希先輩のように酷い被害にあった生徒が居たんだそうですよ。本当に些細な切っ掛けであらゆる嫌がらせを受けることになった、そのいたいけな女生徒は四面楚歌の状態に置かれて、教師に頼ることも出来ずに孤軍奮闘したそうです。」



ーあれは私が学園に通っていた時の、本当に痛ましい話よ。

今回の彼女のような影響力を持っていた生徒を切っ掛けに、一人の女生徒が学園中からイジメを受けるようになったの。一部の教師までその女生徒を目の仇にして、そのせいで女生徒は誰にも頼ることも出来ずに、恥ずかしくて親にも言えずに、たった一人でイジメの中、学園に通い続けたの。

味方の居ない、孤独な日々に彼女は…。


そこまで言うと、彰子姉様は口元を覆われて、顔を伏せてしまいました。その肩はフルフルと震えていて…。

私には、こうして助けてくれる璃玖が居て、彰子姉様が居てくれる。

幸せだと私は、彰子姉様が仰られた方のことも考えずに、思ってしまいました。


-その件を切っ掛けにね、学園内で何が起こっても救いの手が差し伸べられるように、と監視カメラが設置されるようになったの。もちろん、学園の古き良き、生徒の力を信じて自治を行わせるっていう伝統を重んじることは止めずに、生徒側からの要請があった場合にのみ映像を公開して、複数の立場の人間が同席の上で審議するっていうことになったのよ。

まぁ、それはそうよね。思春期の子供なんて、どんなにくだらない理由だろうと大義名分にして、それに少しでも賛同する仲間が居たら、何処までも、それこそ世紀末をバイクで右往左往するくらいの暴走をしてしまうような年代だものね。それくらいしないと、下手しなくても人一人の人生が終わるわよ。学園で今までそんな事態が無かったのは、一応は育ちの良い方々だったからってことね。それでも、今までよく被害が無かった…まぁ、握り潰したっていうのはもあるかも知れないけど、学園の名前が傷つかずに済んだものよ。

生徒達の個人情報とかの問題もあるから、要請しても手続きだとか色々と大変で時間も掛かるけど、色々と役に立つのよ?


璃玖は、まるで今から要請を行うように言っていますが、実はもう手続きは終わっています。


学園長に理事会、今回の件に関しての被害者である川添様、加害者である私。

そして、良識ある大人として、怜泉学園卒業生達が所属している同窓会から数人の方をお招きして、その映像がいかなるものなのかを確認してもらうだけの状態に、すでになっているのです。


私ではない私が、川添様の身の回りの物に何かをされている映像は、社会で高い地位に就いていらっしゃる方々はどう判断するのか。

それは、運任せだと彰子姉様は仰いました。

流石に握り潰すなんて悪手をとるものはいない。それでも、厳罰を処してくれるか、なぁなぁで収めようとするかは、その時に同窓会からやってこられる卒業生の方のお考え次第です。


ですが、どんな方がいらっしゃっても、私は頑張ります。

私はやっていないと、頑張って訴えようと思います。


階段の件を責められたのなら、潔く責めを負う覚悟もついています。

彰子姉様は「大丈夫よ」と笑ってくれましたが、あの頃の私を、私は信じることは出来ません。記憶に無いだけで、本当にしているかも知れない。その可能性が捨てきれないのですから、どんな罰だろうと受け止めます。



「えっ、あ、」

「あれ?どうしたんですか、沙希先輩?顔色が悪いですよ?」


璃玖の言葉通り、璃玖の話を聞いて輝きを取り戻しかけていた彼女の顔色が、一層悪くなっているようでした。


「あれ?どうしたんですか、先輩達も…顔色が悪い方が何人もいらっしゃるようですが?」


「璃玖、君…あの…」


「あぁ、あの突き落とされかけた時の事を思い出してしまったんですか、沙希先輩?それは、すみません。元凶である姉さんを沙希先輩の目の前から消えさせますね。」

ほら、姉さん。

璃玖が私の手を握りました。


「せっかくのダンスパーティーなのに、姉さんが居たんじゃ皆、楽しめないだろ。宮成先輩達がおめでたい発表で折角、場を盛り上げてくれたのに、空気を読めない姉さんが水を差しちゃって。」


彰子姉様も、私達が会場で出来るのは此処まで、だと仰っていました。

後は、彰子姉様が引き受ける、と。

でも、とも思いましたが、彰子姉様ほど良い案が浮かぶわけでもなく、お任せするのが一番だと璃玖にも言われたので、私は此処でこの場を退場させてもらうことにします。


「あっ。」


誰にも制止されることなく、むしろ私の腕を引く璃玖が進む先では自然と道が開くような状況でした。

このまま会場を後に出来る、そう思った時、突然前を行く璃玖が驚く声を上げました。

背中越しに僅かに見える璃玖の手元には、璃玖のスマホが。

迎えの車を呼んでくれたいたのでしょうが、どうして画面を覗いて、そんな声を上げるのか。

何か、不測の事態が?


「姉さん。」

璃玖が小さく、動揺を隠せない声を口にしました。

「彰子姉さんから。」


スッと後ろ手で見せられたのは、璃玖の見ていた画面。


『ちょっと予定変更。少し付き合って?』


璃玖の動揺が少し分かりました。

彰子姉様が立てて下さった計画は完璧だったと思います。

なのに、何を変更する必要があったのでしょうか。



「あら、璃玖君、透子ちゃん。もう、お帰り?」


「小母様?」


宮成の屋敷で、話し合いの最中である筈の小母様が、宮成花依様が、璃玖のスマホの画面を見ていた顔を上げた私の視線の先にいらっしゃいました。



今はもう、あまり見なくなったような気もしますが…。

お金持ちの子供達だからっという理由なのか、王道的な学校って生徒を自由にさせてますよね。生徒会が教師より力を持っていたり、ありえない金額を普通に生徒会が采配していたり…。

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