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川添沙希の嘆き

多くのご感想ありがとうございます。


※川添沙希視点

どう、して?

何。何なの?

こんなの、私の知ってる世界シナリオじゃない。




私と貴一君の絆を深める最高のイベント。

学園中から祝福を受けるそれなのに…。


どうして笑ってるのよ。

どうして璃玖君と一緒に居るの。

どうして、どうして…。

早く怒りなさいよ。

早く私を襲いにきなさいよ。


あぁ、もしかして、主人公わたしのことを傷つけるなんてって躊躇っているの。

なら大丈夫よ。それが貴女が世界シナリオから与えられている役目だもん。

だから遠慮なんかいらないから。

早く私を傷つけて、さっさと消えていってよ。


慰謝料?

なぁんだ。清花お祖母様が言ってた通りなんだ。

義父様はあの卑しい家に騙されたんだって。

夫も娘も、その馬鹿馬鹿しい約束の犠牲に成らずにすんだのに。どうして今更、可愛い孫が犠牲とならなくてはいけないのか、って可哀想に肩を震わせて泣いていたんだから。

本当、見た目通りの人。

そんなんだから、主人公ヒロインになれないのよ。


私は確かに、主人公ヒロインとして生まれてきたけど、ちゃんとそうある為の努力をしてきたんだもん。


宮成貴一君の目に留まるように。

彼の好意を得る為に。

彼の愛を貰う為に。

彼のお嫁さんになる為に。


彼の設定を全て思い出して、読み漁った公式設定のほんの小さな一文だって頑張って思い出して、彼が愛してくれる自分を作って、磨き上げてきたんだもの。

馬鹿は嫌いだってよく言っていたから、小さな頃から勉強を頑張った。

前世の復習みたいなものだから、簡単だったけど手を抜かなかったし、慢心もしなかった。

醜さは嫌いだって台詞も思い出して、自分を磨き続けた。

日焼けをしないようにとか、しっかりと夜更かしもせずに寝るとか、栄養バランスの整った食事を心掛けたり、貴一君に好かれる見た目を維持する為にどんな努力もした。


でも、これって、貴一君に好かれる為だと思って頑張ったけど、自分の幸せを掴む為の基本的なことよね。

誰だって馬鹿よりは頭の良い人の方が話しやすくて好きだろうし、誰だって清潔感のある、ある程度整った顔や姿形の方がいいに決まっている。

そんな基本的なことも怠って、外見も中身も貴一君が嫌いな醜さを蓄えた"春乃透子"なんて、貴一君に嫌われて当然だし、皆が私を選んで祝福してくれるのも当然じゃない。


それなのに、こんな悪あがきをするなんて。

逆恨みもいいとこだわ。


「安心しろ、沙希。あいつが何を言い出そうと、俺が護る。慰謝料を請求されたとしても、俺が全て請け負うさ。」


ほら、貴一君は私を守ってくれる。

そんな浅知恵で私を傷つけることなんて出来ないのよ。分かったら早く、醜い雄叫びでもあげながら、襲い掛かってきなさいよ。


ふふふ

不気味な笑い声が耳に響く。


まだ、何かをするつもりなの?


春乃透子が笑う。

その後ろで、璃玖君まで笑ってる。

なんで、貴一君も、友達になった攻略対象者達も、今では全員が私の味方になってくれた生徒達の視線を受けている中で、どうしてそんな風に笑えるの?


「親父と…お袋が?」


なんだ。

潔く負けを認めているのね。わざわざ、必要な人達を集めた上で、宮成のお家に連れていってくれるなんて。

それにしても、貴一君のお父様とお母様か。

実は、清花お祖母様には私達の仲は喜んでもらったけど、まだ御両親にはあってないのよね。

宮成の娘であるお母様は、当主であるお父様を支える一方で、自分の会社も創り上げていらっしゃる、優秀な人。仕事が趣味というような人らしくて、貴一君もお祖母様に育てられたようなものだって。そのせいで、母性っていうものに弱いんだって、公式の設定に書いてあった。

それが貴一君を攻略するヒント。貴一君を攻略するには、そういう面を鍛えて、選択肢を選んでいけばいいの。


「川添様の御両親は、お母様は御実家の方に行かなくてはいけないと、お父様だけがお見えになると仰っておりましたよ?」


「えっ、香月のおじさんの所に!?ど、どうしよう…伯父さんに迷惑をかける気なんて無かったのに。」


大丈夫、香月の家は私達の味方だもの。

宮成のような家に嫁ぐのは何かと大変だろうって、私の後見として名前を出してくれて、宮成の関係者達が私達のことを認めてくれるように後押ししてくれる。

本当はこのイベントが終わってから、貴一君とのお付き合いを中々認めてくれない宮成の人達に悩んだ私に、お母さんが香月家に頼りなさいって教えてくれるっていう話だったけど、早く貴一君と結ばれたかったから時期を早めて回収しておいたの。

自分の家族について話す時に、それとなく時々会っていた伯父さんの話を加える。確か…苗字は香月で…なんて言えば、私に興味津々だった皆が勝手に調べてくれる。

そして、「貴女のことは好ましく思うけれど、皆がどう言うか」って心配してくれた清花お祖母様に、貴一君と二人で報告してしまえば、後は宮成家が全部話を進めてくれた。

こっそりと顔合わせした時、伯父さんじゃなくて、初めて会う私のお祖父さんだった事には驚いたけど、香る月のお祖父さんも私に好意を示してくれて、貴一君との仲も認めてくれた。

春乃の家ならば、香月家からも抑えれば大丈夫だろう、って言ってくれたの。

「大丈夫だ、沙希。祖父である香月の御当主が、俺達の仲を認めて下さったんだ。」

そう、認めてくれたの。

春乃透子のせいで変な空気になり始めていた皆からも、まぁって驚いて、それならっていう声も聞こえてくる。

やっぱり、どんな些細な異変があったとしても、世界シナリオは私の為に動くものなのよね。




私は努力した。

そして、春乃透子とは違って、それがちゃんと結果として出せている。

勉強を頑張って、貴一君と肩を並べる順位にずっと居る。

見た目にもちゃんと気を使って、女子達からどんな化粧品を使ってるの、とか色々なアドバイスを求められている。


宮成っていう名家のお嫁さんになるんだから、これくらいは必要かなって思ったから、首を傾げるお母さんにお願いして、近所のお婆ちゃんの所で茶道と華道を習った。

古美術?

そんな事はお祖母様から聞いてなかったから驚いたけど、別に記憶力は悪くないもの。ちょっと数は多いかも知れないけど、時間をかければ簡単よね。

何より、飛鳥君が好きだって言ってたから、手伝って貰えばいいじゃない。

屋敷中を飾りつけるのだって、メイド達に協力してもらえばすぐじゃない。

私は、春乃透子みたいに一人ぼっちじゃないもの。皆が喜んで手伝ってくれるの。


清花お祖母様にも見て頂いたけど、何処に出しても恥ずかしくないって褒めてくれたわ。

前の人生である程度の成績を出せていた英語も頑張ったし、前世の知識がある分だけ余裕が出来たから、英語以外の言語にも挑戦して、学園に入学した時点でそれを第二外国語の授業に選んだから当然優秀だって褒められた。

これも記憶力には自信があるから、簡単な会話程度なら、ゆっくり一つずつ習っていけば出来ないこともないでしょう。


幼い頃から続けているピアノは、コンクールに出て賞を取ったことだってある。貴一君だって、私のピアノを好きな音色だって褒めてくれたもの。

フルートやヴァイオリンも、実はやってみたかったのよね。ふふふ。楽しみ。

趣味はお琴ですっていうのも、お嬢様らしくていいわね。


節折々の行事?

お正月とか、お盆とかのこと?

それなら大丈夫よ。お母さんがやっているの見ているし、今時ネットとかで調べれば分かるものでしょう?

えっ?月命日…山奥って怖いけど…貴一君と一緒なら大丈夫よ。きっと何があっても私のことを守ってくれるもの。


マナー?

料理?

まぁ、出来なくはないわね。

お母さんのお手伝いをしながら料理は覚えたし、貴一君にお弁当だって毎日作ってあげているもの。

何を口に入れても美味しい、初めて食べたって感動してくれている。

お弁当の御礼だって、時々プレゼントまでくれる。

「何をやらせても不完全なお前の作ったものなど、口に出来るわけがないだろう。」

それはそうよね。春乃透子の作ったものなんて、怖くて食べれないわ。

「まぁ、沙希が毎日作ってきてくれるお弁当に比べたら、お前の料理だけでなく誰の作った料理であろうと、全ての味が色あせて感じるがな。」

「あ、あんなの、ただ本を読んでいれば簡単に出来ちゃうようなものばかりだよ。きっと、春乃さんが作ったものの方が手も込んで料理だったんでしょう?」

春乃透子と比べられるのも、今日が最後。

だって、彼女は此処で消えるから。


「何より一番、心苦しく、悔やむのは、一番大切なことだと言われた事が最後の最後まで完璧に覚えることが出来なかったことでしょうか。」


今更、自分の不徳を悔やんだって遅いんだから。

貴女も努力したかも知れないけど、全然足りなかったのは結果に出てる。私みたいに必死に努力したら良かったのよ。



「宮成家に連なる縁戚の方々、親しいお付き合いのある御家の方々、取引先関係の重要な立場にある方々。その方々の、名前や家族関係、誕生日、経歴、お好みになるもの、苦手でいらっしゃるもの、色々な情報を頭に入れて、夫が恥を掻かぬように支えることが、宮成の嫁として一番重要である、と何度も何度も言われましたのに、私ときたら未だに間違えてしまうことがありました。皆さん、お優しい方々ばかりで、笑って許して下さいましたが、お忙しい身の上で席を外す事の多い宮成様の要らぬ恥を掻かせてしまいました。本当に、情けなく、申し訳ないばかりでした。」


えっ?


「これで、学業の方が少しでもマシでしたら、此処まで情けない姿を晒す事も無かったのでしょうが…。駄目ですわね。結局は、宮成様や皆さん、川添様に遠く及ばない順位にしか上がれませんでした。」


何、それ?

そんなこと…。

まって、そんな事知らない。

清花お祖母様に会わせて頂いた親戚だって人だって相当いたのよ?その人達の家族のことまで覚えないといけないの。

お付き合いって、どれだけ居るの?

宮成って大きなグループ会社だよ?取り引き相手って…。


で、でも、皆に認められていない春乃透子だって笑って許してもらえたんだよね、失敗しても。

じゃあ、私だって大丈夫。

失敗したって、許してもらって、次に頑張ればいいんだもの。


「姉さん。」


璃玖君が、春乃透子の言葉を止めてくれた。

どうして春乃透子と一緒に居るのって思ったけど、そうか、春乃透子が変なことをしないように見張っててくれたんだね。

私の大切な友達の一人だもんね。

もしも、貴一君っていう運命の人がいなかったら、実は璃玖君が良かったと思ってたんだ。


「いい加減にしなよ、姉さん。見苦しい。沙希先輩は姉さんなんかと違って、宮成先輩や先代夫人がべた褒めするくらいに認められた人だよ。認められることも出来なかった姉さんなんかの、不出来だった話なんて聞かされても迷惑でしかないよ。沙希先輩は、宮成の嫁として、もうちゃんと認められているんだから。」


「璃玖…。」


あれ?

これって、私を助けてくれてるんだよね。

ほら、大嫌いな姉を貶してるもの。


なのに、どうして?

どうして、嫌な感じがするの。

どうして、周りで見ていた生徒もぶ達が、引き攣った顔で青褪めているの?


あれ?

「り、璃玖君?」


「ねぇ、宮成先輩?」

「あぁ、そうだな。沙希は、宮成家の奥向きを取り仕切っているお祖母様にも、宮成の主だった親戚達にも、もう認められている。れっきとした、俺の嫁だ。誰にも認められなかったお前なんかの後悔など、沙希にとっては、ただの耳汚しだ。」


璃玖君。

何、その笑顔。

そんなの、私、見た事ないよ?


どうして、皆、そんな目を私に向けてくるの?

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