川添沙希の愛。
この話におきましては、これまで私がBL系も含めまして見てきた王道学園もので見た設定を元にしております。偏った知識による舞台です。
①生徒会長は俺様系。
②特待生で入学したヒロインは、実は名家の血を引いている。
③生徒達などの公衆の面前で、恋人や婚約者に別れを告げる。
④ヒロインを敵視した恋人、婚約者は駄目な奴。
⑤恋人、婚約者に味方して、ヒロインを遠巻きにするだけで、駄目な奴。
その点をご留意頂ければと思います。
偏見の塊のような話ですが、よろしくお願いします。
※ヒロイン枠、川添沙希視点。
「沙希、これからもずっと俺の隣で、俺のことを支えてくれ。」
「貴一君…嬉しい。嬉しいよ、貴一君。こちらこそ、不甲斐ない私だけど貴方の隣にずっと居させて。」
パチパチパチ
喝采が私達を祝福する。
「おめでとう。悔しいけど、君になら沙希ちゃんを任すことが出来るよ。」
攻略キャラ達の祝福の言葉を口にする。
ちょっと私が知ってるシナリオとは違ってきているけど、それは私が仕組んだことだから当たり前よね。
でも、この後起こることは変わりないと思う。
だってほら、喜一君の婚約者だった春乃透子が私たちのことを恐い顔で睨んでる。
その様子も、顔も、全部、私は知っているものと同じだもの。
これから何が起こるのか。
彼女がね、これから大暴れして、私に危害を加えるのよ。
これまでも、頬を叩かれたこともあった。
あぁ、階段から突き落とされかけたこともあった、ってことにもなっているわね。
そのせいで、学園中から嫌われ尽くしたのに…。彼女は懲りてはいなくて、私に今から危害を加えようと突進してくるの。
鬼みたいな形相で、奇声を発しながら。
そして、彼女は私の物語から退場していくの。愚かな狂人として、学園中から、婚約者から、家族から見捨てられ、ね。
まぁ、彼女、元からそんなに好かれてなかったから、可哀想なんて思う人はいないだろうけど。
でも、それは当たり前よ。
似つかわしくない癖に、曽祖父だか何だかの約束如きで貴一君を縛り付けて、それでいい気になって彼の隣に立つ為の努力を怠って、女を捨ててたんだから。しかも、貴一君の婚約者っていう肩書きに胡坐をかいて、生徒達の憧れの的である生徒会の皆や人気のある生徒達ににヘラヘラ近寄って、仲良し面してた。生徒達、特にお近づきになりたくてもなれなかった女生徒達に嫌われて当然よね。
顔はにきびが一杯で、可愛くもない眼鏡、ぽっちゃりした体型。
肌のお手入れを怠っているって丸分かりで、髪もちょっとパサパサした感じで、見た目も大事な良家の子女とは思えないその見た目だけで、女捨ててて気持ち悪い。
それに、成績もいまいち。
「俺と同じ視線でものを語れるくらいに賢い女が好きだな。」っていう貴一君の婚約者の癖に、せいぜい学年30位くらいにしかなれないの。貴一君も、他の皆も、絶対に10位以内に入ってるのに。そういう私も、貴一君に認めて貰える様に頑張って、15位以内には入るようにしているわ。本も読んで、新聞やニュースもちゃんとチェックして、貴一君にどんな話をされても答えて、自分の意見を言えるように。
それに将来の為にも、生徒同士の交流を深めないといけないのに、彼女ったら友達一人もいないのよ。有り得ない。授業が終わったら部活動もしないでさっさと帰っちゃうし、クラスメートが気を使って誘っても用事があるって断るし。
それに、女生徒達の間では有名だったんだから。
休日になると、ホテルとか料亭とかによく出入りしてるって。
一体何なのかしらって。
弟である璃玖君も「さぁね。」っていうんだもの、きっと何か大きな秘密でも抱えてるのよ。じゃなきゃ、同じ家に住んでいる弟が知らないなんて有り得ないもの。
本当、貴一君に婚約破棄されたって誰も同情するわけないわよね、あんな嫌な女。
ゲームとして楽しんでいる時から、本当に嫌いだったのよね。
だから、こうして現実になっても、彼女を追い落としても罪悪感なんて抱かずに済むんだから、ある意味では彼女のそんな所には感謝しなきゃ。
これで、現実として本当に関わってみたら実は良い人でした、なんて展開だったら罪悪感半端無かったんだろうなぁ。
まぁ、それでも私がヒロインなんだもの。貴一君の婚約者は私。幸せになるのも私。そう決まっているけど。
その為の努力も今まで積み重ねてきたんだものね。
ちゃんと貴一君に好かれる為に必要なスキルは磨いてきた。
此処が、前世からすればゲームの世界でも、この世界としては現実なんだってことも理解して、貴一君一筋できたんだもん。他の攻略キャラの好感度もある程度は稼いだけど、浮気者とかハーレム女とか言われないように、ある程度の所で止めておいて貴一君の好感度だけを上げるように頑張って、頑張って、ようやく此処まで来たんだもん。
ほら、私が頑張ってきたって知ってる皆が、私と貴一君を祝福してくれてる。
そりゃあ、皆が何に悩んでいるのか、何を好きなのか、本当は何が嫌なのか、設定をしってるのはちょっとズルかも知れないけど、その設定をここぞって言う時に生かしてきたのは、ちゃんとした努力でしょう?
この学園の、この世界の中心であるゲームヒロインとして生まれたってことに胡坐をかかずに、私が頑張ってきたって証拠でしょう?
婚約者って立場に胡坐をかいて努力を怠った春乃透子と私は違うって事。
「沙希。これは宮成家当主の妻に受け継いできた指輪だ。お祖母様もお前にならいいと許してくれた。受け取って欲しい。」
「お義祖母様が!嬉しいっっ!!」
ちょっと古びたデザインの指輪を、貴一君が喜ぶ私の指に嵌めてくれた。
本当はこのダンスパーティーでは、春乃透子の嫉妬に狂った所業に呆れ果てた貴一君と宮成家が見切りをつけて婚約破棄するだけのイベントだった。
貴一君と親しくする私に嫌がらせや、嫌がらせではすまない危害を加える彼女に嫌気をさしていた生徒達全員も、それに賛同するってもの。
婚約を破棄された春乃透子が大暴れしてパーティーは駄目になってしまって、生徒達を帰宅させ、パーティーをどうするのかなどの話し合いをして、後始末を終えて一息ついた貴一君と私が、誰も居ない月明かりだけが差し込む会場でダンスを踊って、仲を深めるの。
そして、ここから半年、卒業式まで宮成家に私のことを認めてもらって、晴れて貴一君の婚約者になるっていうのが本来のシナリオだった。
だけど、折角知っているんだもの。
手っ取り早い方が、貴一君とのラブラブな時間が増えるでしょう?
だから、早く宮成家に認められるように、これから半年間に起こるはずだった話を全部回収してみたわ。
そうしたら、全部上手くいった。
お忙しいお母様の代わりに貴一君を育てた、先代当主夫人であるお祖母様が私を認めてくれて、元からあまり婚約者として相応しくないって思っていた春乃透子との婚約を破棄することを許してくれたの。
まぁ、最初は家柄も何もない、ただの会社員の娘とは…って渋い顔をされたけど、そこもゲーム通りに。
実は、ただの会社員の妻である私の母が、宮成家と同格にある香月家の駆け落ちして出て行った娘だって事を知らせたら、お祖母様は納得して了承してくれた。
お祖母様と同じ様に婚約に渋い顔としていた宮成家の親戚筋も皆が賛同してくれたっていうおまけ付き。皆、やっぱり春乃透子は嫌だったんですって。
だけど、先々代当主が決めたことだったからって逆らえなかったんだって、私のことをとても喜んでくれた。
彼女なんかが比較対象だなんて、ちょっとムカつくけど。
春乃透子が欲しがってた喜一君の妻の証が、私の左の薬指で誇らしげに輝いてる。
実はいうと、喜一君は今回のこれを、私を驚かすつもりでやったみたいだけど、私知ってたのよ。だって、お祖母様にそれとなく、ダンスパーティーで告白されるのが憧れなのって言っておいたもの。私たちは三年生。ダンスパーティーの機会はこれが最後だものね。
さぁ、春乃透子。
怒って。怒り狂って。そして、私を傷つけて。
そうしたら、私の物語が一つの区切りを迎えるから。
私の幸せの為に、退場してみせて?
パチパチパチ
祝福の拍手の中で、その音だけがやけに耳についた。
それは、私だけじゃなくて、私に祝福の喝采を浴びせてくれていた皆もそれに気づいて、そして驚いて拍手の音や、ありとあらゆる音を出すことを止めてしまった。
ねぇ、どうして?
パチパチパチ
「何のつもりだ、透子。」
喜一君も眉をしかめて、春乃透子を見てる。
皆も彼女に目を向けて、息を呑んでいる。
笑っているのは、春乃透子と、その後ろにいる璃玖君だけ。
「貴一様。いえ、今となっては名前でお呼びするわけにはいきませんね。宮成様。婚約の解消、謹んでお受けいたしますわ。これまで、宮成家に相応しからぬ、至らぬ私でしたが、お世話になりました。」
えっ?どういうこと?
そこは「どうして!」って絶叫するところでしょう?
そして、ヒロインに「お前が!」って走り寄るところでしょう?
「川添沙希様。婚約おめでとうございます。」
そんな風に笑顔で、おめでとうなんて言う筈ない。
どうして、どうして?こんなの、私のシナリオには無いのに。
違う。こんなの、違う。
「つきましては、」
いや。今度は何を言うつもり。
私の物語に何をするの?
転生ヒロインの傲慢さとお花畑感が出ていると嬉しいです。