不思議な土曜日
ぽかぽかとやわらかな日差しが部屋に射しこむ。その中でぬくぬくと布団に包まっているのは、本当に気持ちがいい。
ん? 毎朝聞こえる小鳥の鳴き声がない……あれ?
「っっっ! 寝坊した!!」
がばっとベッドから飛び起きながら、一人叫んでしまった。他に今の叫びを聞ける人はいない、はず。セーフ。時間を確認しようと時計に目をやると、十時ちょっと前を指している。なんということだ。
「……はあ。」
思わずため息がこぼれた。いつもならば、朝早くから仕事に出かける母親に、いってらっしゃいの一言ぐらいは言えるものなのに。
気をとりなおしてベッドから出て居間へ行くと、案の定、朝ごはんとメモが置いてあった。そのメモによると、どうやら仕事が今日から泊まりなので、今晩は帰れないそうだ。それと、夕ごはんは用意してあるから、お昼は何か買ってこいということだった。傍にある五百円玉はそのためか。ついでにその横の食事にも目がいく。
……あーあ、朝ごはんが完全に冷めてる。
作ってくれた母さんと、朝ごはんに申し訳なく思いながら、レンジでチンをして温まったごはんを、一人ゆっくりと食べた。
「さてと」
僕はイスに座ってプリント数枚の端をトントンと整えながら、大きく息を吸った。結局昨日は、理科の資料をプリントアウトしただけで、何ひとつ書き出せていなかったのだ。なぜ理科からなのかというと、言うまでもなく、理科が一番面倒くさいからである。僕は、ケーキの苺は最後までとっておくタイプなのだ。
それにしても、ほぼ確実に不可能と分かっているものに一生懸命になれるほど、僕は利口でも真面目でもない。とりあえず漢字テストは捨てるとしても、今日と明日みっちりやって、終わるかどうか。でもこれをやると、授業のある平日よりも勉強することになってしまう。……それはいやだ。休日は休日らしく、しっかり休ませてくれ。……まあ、なんだかんだ文句を言っても、僕はやるんだろうけど。
机の前に座って数時間、ふと目線をあげると、時計が一時ちょっと前をさしていた。もちろん、朝食を食べてから今までずっと勉強していたわけではない。むしろ集中できずにちょっと書いては休み、また少し書いては休みを繰り返していた。なので今は、数学の問題を解こうとし、案の定わからない問題にぶつかって、本日何度目かの休憩を……と思ったところである。
「んー。キリが良いし、お昼でも買ってくるかな。」
そう思うと、集中力の糸がぷっつりと切れてしまった。どうしようかな……近くのコンビニでいいか。
「五百円お預かりします。百十円のお返しです。ありがとうございました。またお越しくださいませー。」
結局僕は、近くのコンビニにて、おにぎり二つと菓子パンひとつをよく選んで購入した。さて帰ろうかというところで、ついでにトイレを借りようと思い、左へ九十度曲がって奥へ少し進んだところで、
昨日と同じことが起こった。
水を打ったような静けさと、突然止まった世界。時が止まったという現実を突きつけられる。不思議なことに、昨日止められたことを今のいままですっかり忘れていたのだが、それが起こる一瞬前に、僕は何かを感じ、体を硬くしていた。
ただ昨日と違うのは、いつまで経っても時が再び動き出す気配がしないのだ。
誘っている……?
汗がつうっと伝った。体感ではもう十分は過ぎたような気がしたが、こういう場合、実際は五分も過ぎていないことが多い。
さて、どうする?
散々迷った挙句、コンビニの外に出てみることにした。そして、一歩踏み出したのだが。
「ん? ……膜?!」
進もうとした方向から、何かで軽く押さえつけられているのかと思った。はっと周りを見渡したが、それらしいものはどこにもない。上手く言葉に出来ないが、得体の知れない圧が体全体を覆っているようだ。
これはいったい何なんだ?
ためしに後ろ歩きで元いた場所に戻ると、いくぶんかその圧は消えた。でも完全じゃない。なぜ? 右の手のひらを前にかざして、ゆっくり前に突き出してみると、またもや例の圧を感じた。もしこの行動を誰かに見られたりしたら、それこそバカにされそうだが、運のいいことに、そんな事はこの空間で起こらないだろう。
あれ? これって運がいいのか? おっと、こんなのん気な事を考えている場合ではなかった。
でもこのまま怯むわけにはいかない。この圧は気持ちのいいものではないが、我慢できないほどじゃないし。
怖いもの見たさで、またすこし歩いてみて、プールの中で歩いているみたいだな、と思えたので、だいぶ慣れてきたのだと気づく。まあ、これは冷たいわけじゃないし、顔まで抵抗を感じるところは違うけども。
そのまま入り口まで移動して取手をつかんで深呼吸。一瞬、ドア開くかな? と思ったけど、いつもどおりに押せば開いてくれた。
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