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時関  作者: 空端 明
2/13

はじまりの金曜日

 その日は、掃除当番さんの、『じゃま。』の一言で、追い立てられるように教室を出た。

 いつもならば金曜というだけで、誰もがなんとなくうきうきした気持ちになるはずだが、今日は違った。理由は明確。話題もそのことばかりだった。

「いやー、あの宿題の量はないわー。」

 廊下で上着を着ながら、笛芽(てきが)が文句を言った。

「だよねー。ていうか、うちのクラスだけなんでしょ? 両方とも月曜提出なの。」

 瑠菜が同意。すると美汲が、

「それになんで六時間目に言うのよ。もっと前に言ってくれれば、数学ぐらい休み時間にやったのに」

 ……。

 うん。それができるのは美汲含む数名だけだと思う、よ。

「しかも、よりによって理科とか。絶対に終わる気がしない……。」

 僕も参戦。さすがに鬼だと思う。僕らに課された週末の課題は、もともと大変とされる理科の調べ学習と、数学のワーク提出だった。理科の先生は、授業はとても楽しいと評判だが、宿題とかテストの成績面においては厳しかった。調べ学習も後々必要だから、と出されているわけだが、これだけは中一である僕らにはまだ早いと思う。一方、数学の先生は……まあ、おじいちゃん先生で、特別好かれているわけではないが、今回の一件で一気に嫌われた事だろう。運悪く、たまたま六時間目に宿題を告知し、すでに理科のせいで暗くなっていたクラスの気持ちをどん底にまで突き落とした。

 いやいや、運が悪いのはこっちの方だろう。そのうえ次の月曜は、前々から告知されていた漢字の小テストもあるのだ。……おわった。

「さすがのぼくだって、ひどいと思うよ~。」

 和輝だ。振り向かなくても分かる。にしても珍しいな。こいつが宿題の告知を、それも二つとも聞いていたなんて。

「……おまえ、念のため聞くが宿題のこと、いつ知った?」

「え? いつって……今?」

 やっぱり。僕含む四人全員が、軽く、又は強く和輝の頭を叩いた。

「うっ、いたいよ、特に笛芽っ!」

「当然の報いだ。」

「ねえ、そろそろ帰って宿題やり始めないと。」

「ああ、そうだね。時間がもったいない。」

「おいてっちゃうよ~。」

「おいっ、こら、待てよー。」



 その帰り道。僕の家は他の四人と違う方向なので、一人で歩いていた。ちょうど横断歩道を渡ろうとしたとき、 


 喧騒が止んだ。


 一瞬で無音に包まれて、耳が少しへんな感じがした。冷や汗がどっと出る。何が起こったのか知っていたわけではないけど、理解はしていた。周囲の人が、不自然な体制のまま、静止している。


 時が、止まったのだ。


 周りの状況に、当然ながら驚きつつも、僕は動くことができなかった。やろうとすればできるのは分かっていたが、


 ――――トキハ。


 声が聞こえたので。


 ――――トキハ、どこだ?

 

 時葉というのは、僕の名字である。体の内側から響いてくるようなその声は、明らかに僕を呼んでいた。

 誰だろうか。ただひとつ分かることといえば、彼もまた普通でないことぐらいか。声からして男だろう。


――――あれ? 違ったか?


 誰なのか検討もつかないその声の持ち主は、いったいどこから僕を見ているのだろう。呟きのようなものもそのまま聞こえてきた。僕はできるだけ、その場にいた他の人と見分けがつかないよう、身じろぎさえしないようにしていた。

 視線を感じるような、感じないような……。でもやっぱり見られているんだよな、とか思いながら。

 考えることくらいしか、できること無いじゃないか!

 体感で、数分後……。


 ――――チッ、いないのかよ。


 諦めてくれたようだ。というか、ばれなかったようだ。よかった。


 すると突然、


 また、賑やかな人の話し声や車の音が聞こえた。再び動き出した時の中で、ただ立ち尽くしている僕のほうがおかしいことに気づく。ましてや青信号の目の前だ。僕はあわてて横断歩道を渡り始めた。何気なく後ろを振り返ってみたが、やはりそこには不自然なものは何もなかった。


「あ、」

 家まであとちょっとの距離で、

「宿題やらなきゃ……!」


 そこからは走って帰り、急いでパソコンの電源を入れた。とりあえず、今日中に理科の資料を探すとしよう。


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