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時関  作者: 空端 明
11/13

動き出した日曜日

「ちょうどいいや。見てな。」

 何を考えたのか、黒関はそう言うと、おもむろに笛芽の傍によってじっと見つめてから、指でぐるりと大きく円を描いた。

「これはちょっと上級者向けだからな。時葉くん、君にはまだできないよ。」

 それから奴は笛芽の腕をつかんで、手前に引いた。不自然な体勢のまま、スーッと滑るように動いていく。はっきり言って滑稽なのだが、残念ながら笑えない。というか、動けなかった。

 黒関はそのまま、車道にある自動車の前に笛芽を置いて、こっちに戻ってきた。

 なっ、それはマズイだろう。どう見てもその車は走っているぞ。

「…っ……さて、君の望みを叶えてやろう。ただし、このままだと君のお友達が大怪我しちゃうね。」

 どういうことだ?

 そういう彼は笑っていて、楽しんでいるようだった。気にくわない。それと気になることも言っていた。僕は彼に言ってはいないはずだ。

「……望みって、何だよ。」

 小さめの呟きも、他の音がなければ聞こえるものだ。

「ん? 時間を動かして欲しいんだろう? ……そんなこと、バカでも少し考えれば分かることだ。……違うか?」

「……いや、その通りだけど。」

 僕の浅はかな考えは、何でも見透かされている気がして、気持ちが悪かった。前に黒関が、俺の知らないことはない、と自分で言っていたのも、考えれば分かるということで、あながち嘘ではないのかも。

「……これが最後のチャンスだ。……石を渡したら、元の場所に戻してあげよう。」

 これは脅しだ。分かってはいるけど、どうすればいいのか分からない。僕はただ口をパクパクさせるだけだった。情けない。

「さあ……っ、……ハァ……早く」

 あれ? 黒関の様子がおかしくないか? そう思った途端、彼は前のめりに倒れこんだ。え?

 ドサッと、地味に痛そうな音をたてて、そのまま少し動かない。気を失っているみたいだけど、こういう場合どうなるんだ? 家にあったあの冊子には、主導権は止めたもの、的なことが書いてあった気がするけど……?


 その答えはすぐにやってきた。動かない彼の代わりに、世界が動き出したのだ。

「って、ちょっと待った待った!!」

 立ち位置の若干の誤差による時差酔いに目が眩みつつも、僕は冷静に状況を踏まえ、急いで笛芽の手首を掴み、無我夢中で歩道側にぐいと引いた。だが、ゴンッという重い衝撃が僕にまで伝わった。


 そのあとどうなったのか、僕にはよく分からない。



 気がつくと、ただ広いだけの空間にいた。いや、自分自身が本当にそこにいるのかは分からないけど、真っ白とも言い切れない曖昧な空間だけが見えた。


 あなたにちしきをさずけましょう。


 人どころか何の姿も見えないのに、声だけがはっきりと聞こえた。何者だ? 一瞬脳裏をかすめた仮定を無理やり押し込める。まさか、な。


 あなたのぎもんはとうぜんでしょう。

あなたがこの道を進みつづけるのなら、いずれお教えします。


 !

 やっぱり思ってることも分かるんだ。で、なんで僕はこんなところにいるんだ? ……ですか?


 ふふっ、それは、今がきんきゅうじたいなので、わたしがあなたを呼んだからです。

 いま、わたしたちとはむかんけいな子がまきこまれました。

 わたしがその子のそんざいをみとめる前に、じかんをとめろと命じたものの気がとぎれ、時間がふたたび流れだしたためです。なので、その子もひとしく、その差のだいしょうをえました。


 それって……、もしかして、僕たちが言っていた時差酔いのことかな?


 ええ、そのとおりです。そのほかにもふつうならありえない点がうまれたので、あなたにたいしょしていただきたい。


 なんで僕なんだ? 黒関は気を失っているからだめなのか?


 それもありますが、もともと彼とあなたでは、あなたのほうがふさわしい。

 彼は来る先を見るほうにぞくしますが、あなたは行く後にふれられます。


 どういうこと?


 男女のちがいのようなものです。あなたたちのことばでいうと、過去または未来に関れるということです。

 その力で、その子のきおくの過去をあいまいにしてください。やり方はかんたんです。たいしょうにふれて、きかんをしていし、そのなかで水やかぜのながれをさえぎるイメージをしてください。そのあとは、すくいあげてぜんたいをおおうだけです。ただし――


 そのあと、ちょっとした注意事項を教えてもらって、「では、わたしがついているのでうまくいきます。」と励ましの言葉をもらい、半分だけもとの現実に重なった状態(時間はたぶん止まったまま)で、言われた通りにやってみた。


 三分……いや、二分でいいか。すでに触れていたので、流れのイメージをする。んー……あってるのかな?

 でも、あの時の理に触れたときの疲労感が僕を襲ったから、たぶん成功、だと思いたい。

 何でそうなったのかを詳しく考える人には、その考える過程で思い出してしまうから、うまくいかないこともあるって言っていたけど、そう、こいつはバカだった。こいつのバカさに感謝するときが来るなんて……。

 そう思いながらも、慣れない疲労感からか、意識は遠く、目の前が見えなくなっていった。


 そのとき、僕は何かの絵を見た気がした。それは風景というにはあまりにも曖昧で、でも、昔、たしかに自分で見たものだと、そんな気がしたんだ。

中二ターン二度目です……。

あああ……もともと最後に出てきた人(?)を登場させる予定はありませんでした…。存在があるかも程度だったんだ…。

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