三日目の日曜日
黒関という男に時を止められてから、すでに二日が過ぎた。無論、時間は止まっているので、僕が勝手に、一日を起きてごはんを三食食べて寝るまで、としている。まあ、二食で寝ちゃった日もあるんだけどね。
そして三日目となった今日は相当ヒマだった。あんなにたくさんあると思っていたはずの宿題も、漢字練習を含めて、すでに終わってしまっていたし、初日に散らかしたままのダンボールに入った資料も、先ほどマスク装備で片付け終わったところだ。
そして、もうひとつ問題があった。冷蔵庫の中が空になりつつあるのだ。当然ながらカレーはとっくに食べ終わり、これから米を炊こうにも、きっともの凄い労力を使いそうなので断念。ハムとか納豆とか、そのまま食べられるものも食べきってしまった。その後、我慢できなくなって、一度たくさんの食材を使って料理もしたし。そのあとは予想どおり、疲労で倒れていたけど……。少しばかり不安になる。
いったいいつまでこんな生活を続ければいいんだ? 確かに僕はこの状況に(宿題とかの面で)助けられもしたわけだけど、いつまでもこのままだと、さすがに落ち着かなくなる。
どうするべきかは、ずっと考えていた。わざわざ彼から逃げてきたわけだが、他に思いつかないのだから仕方がない。
黒関に会って、こんなことは止めさせよう。もちろん、家の場所がばれるのはマズイから、僕の家の近くではなくて。
僕は家の外に出て、彼を探すことにした。
それにしても、どこをどうやって探せばいいのだろう? 声に出して呼んでみたとしても、ただのむなしい残念な人になりそうだし。そういえば、彼はどこに住んでいるのだろうか。探しに来た、と言っていたから、ここの近くではないはずだし、だとしたら、どこかに泊まっているわけで、そうなったら、自分の地元で泊まれる場所なんてほとんど無縁だから、分かるはずもない、か。ううん……。人探しの能力とかがあればいいのに。
とりあえず、彼に初めて会ったコンビニ付近を目指して、ぶらぶらと歩き出した。
「あっ」
僕はその道すがら、ある人に気づいた。
「あっ!?」
その僕の声に反応して、別の声が上がった。予想外のことに跳びあがり、斜め前方を向くと黒関だった。運がいいのか、悪いのか。
「また会ったな。まさか君の方から僕を見つけてくるとは思わなかったよ。」
本当は、クラスメートの水野笛芽がいたことに対する『あ』だったのだが、勘違いしてくれたみたいだ。
こんな所で何をしていたんだろう。普通に買い物とかかもしれないけど。
彼も、周りと等しく、少し不自然な体勢で静止している。こういう一般の人を見ると、時が止まっているのが本当に異常なことなのだと実感させられる。家に籠もっていると感覚が鈍ってしまうからよくないね。
そういえば、ここは初めて黒関に時間を止められた場所でもあったな。
「で、何のようだ? 石を渡す気になって持ってきたとか?」
! 石のこと、すっかり忘れてた……!
持っているのはもはや習慣なので、今日もポケットに入れっぱなしだ。
「……まさか、何度も知らないっていっただろう?」
「信じられるかよ。あのあと俺も考えてみたが、やっぱりそんなことはありえないんだよ。長い間この血を正統に継いできた俺たちはまだしも、石を持って逃げたお前たちなら特にな。」
「? 石を持って逃げた?」
また知らないことが出てきた。
「はあ、本当に何も知らないのな。……まあ、そんなことはどうでもいい。とにかく石を渡せ。でないと力ずくで探すからな。」
「だから、ないって。持っていないものは、渡せない。」
「……じゃあ、何のためにここに来たんだ? ただの散歩とかじゃないだろう?」
そうだよ。僕は黒関に時間を止めているのを解除してもらうために来たんだ。でも……。
そう思っていま一度、心の中で承認を唱えておいた。ここ数日で、落ち着いてやれば、言霊の力を借りずとも、これくらいは出来るようになっていた。
でも、今、この黒関と話している状況で、もし時間を動かしたりしたら、確実に笛芽に気づかれてしまう。
人一倍好奇心の強い彼のことだ。笛芽は必ず、そいつは誰だと訊いてくる。そこで正直に血や能力のことを言うわけにはいかないし、ただの知り合いだなんてウソは、きっとばれる。黒関だって黙ってはいないだろう。
僕はちらりと笛芽の方を見た。
――見てしまった。
黒関はそれを見逃さなかった。
「…………ふうん。誰かいるんだ。……知り合い?」
一瞬だったはずだが、黒関は僕の目線を辿って、正確に笛芽を示した。いったい何をするつもりだ? 僕は体がすくむのを感じた。
奴はニヤリと笑った。
(^ω^)




